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622 知ったことを聞いて、確認するのは当然だ

 

「社長、ヒミクに確認しろというのはそう言う意味ですか?」


 聖剣の担い手はもれなく天使になれる効果がつくらしい。


 青天の霹靂とはこのことか。

 そんな話は聞いていませんよと、笑顔で問いかけてみると、社長は明後日の方向に顔を向けて口笛を吹き始める。


「君も人を辞めたのだから、竜の次に天使くらいになっても」

「良くないですよ」


 その反応、ふざけているが知っていたのは明白。

 まったくこの社長は……油断も慢心もできない。


 大きく、本当に大きくため息を吐く。


「む、ジィロは天使になりたくないのか?」


 その反応に同じ天使のヒミクが悲しげな顔を見せる。

 俺は自分の行動で彼女を傷つけてしまったようだ。


「いや、そう言うわけじゃない。天使という種族に対して嫌悪感や忌避感があるわけじゃないんだ。単純に武器を持ったら種族が変わるという現象に対して問題があるのであって。けっしてヒミクと同じ天使になるのが嫌じゃないんだぞ?いや、人と竜のハイブリットの俺に天使が混ざったらどうなるかという一抹の不安はあるが」

「確かに、ジィロの場合は普通の人ではないな」

「まぁ、竜に関しては俺も覚悟を持って受け入れたから問題ない。ただ、そこに天使を付け加えたらどうなるんだ?」

「ふむ、少し訂正させてもらうが、聖剣の持ち主になったからと言ってすぐに天使になるわけではない。完全に天使化するのには長い時間がかかるし、場合によっては天使になれないケースもある」


 その言い訳を彼女に伝えてようやく安心させられ、そして納得もしてくれた。


 実際問題俺の体は、この魔王軍という個性集団であっても特異と言っていいほどレアケースの検体だ。


 元々高水準、魔力適正八という魔力に適応できる肉体があったがそれがあれこれあって二段階上がっている。

 それに加えて、古竜の骨を吸収した相棒の鉱樹から竜の血を与えられ人を逸脱した。


 そこにさらに天使要素を加えたら最早人でも、竜でも、天使でもない何かになる。

 それは流石に勘弁願いたい。


「そうなのか?」


 しかし、ヒミクの話を聞く限り聖剣を持ったからと言って必ず天使になるわけではないらしい。


 そこは何となく意外だという感想が思い浮かんだ。

 イスアルの世界の常識というやつでは、容赦なく信者のように都合のいい思想を植え込まれるという印象があった。


 だからこそ、天使になるというのならそっち方面でも強制的に肉体を作り替えて従わせるものだと思っていた。


「うむ、天使になるというのは魂を作り替えてからの話だからな。そちらに適性がないなら変化は起きない」

「それでも聖剣は使えるんだな」

「使うだけならな、天使になった方が聖剣や神剣の性能は引き出しやすい。代わりに魔力が使えなくなるなんてこともない。肉体が人ではなくなり、老いが遅くなり、限界が引き上げられ、強靭な魂を得ることができる」

「良いことだらけと言えそうな内容だが、欠点はないのか?」


 魂の適性、魔力適正のような物だろうか。

 天使になるために魂を作り替えるという危険ワードが含まれていることにツッコミを入れるべきか、いや、ヒミクがそこまで危険視していないし、社長も危険視していないならそこまで危ないことではないんだろう。


 嫌悪感を抜きにすればの話だ。


 さらに、ヒミクが続けて説明している話は、普通の人からしたら受け入れるか受け入れないかは分かれそうな内容だ。


 強さを求め永遠を求めるような輩からしたら欲しがるような内容。

 苦労を知り、苦労を長く続けたくないような輩からしたら遠慮するような内容。


 俺はどちらとも言えないな。


 寿命や力に関して言うなら、前者はヴァルスさん後者は竜の血で確保済み。

 苦労を避けたいというが、もうすでにヒミクやスエラ、そしてエヴィアにメモリア、ケイリィと長寿種族の彼女たちと一緒に生きていくと覚悟を決めているので今更な話。


 なので俺が気にするべきは、健康に関しての一点。


 これで天使化しようとして竜の血と反発しあって体に重度の疾患ができましたなんて言ったら笑えない。


 よってそこら辺の確認は重要、教官を助けるために体がヤバいことになるという悪循環はなってはならない。


「欠点は、そうだな翼の手入れが大変なことくらいか?慣れればそうでもないが」

「日常生活程度の問題ならいいと言えるかもしれないが、本当にそれだけなのか?」

「あとは、そうだな。闇系統の魔法が使いにくくなるな、私個人としては闇や混沌系統への耐性は強い部類だ。しかし、使うとなると他の属性と比べてだいぶ使いづらく感じるな」


 最初に天使化の欠点をあげたのが翼の手入れの大変さというのが天使あるあるなのだろう。

 その後に出てきた方が重要だと思うのは俺だけだろうか。


「肉体的変化の際の欠点は?」

「すまないがそこら辺はわからない。私は生まれてから天使であったからな。その手の話しならアイワ姉さまなら答えられると思う」

「アイワ?」

「うむ、私たち熾天使の長女だ。私もあったことはあるがそこまで親しいわけではないが、姉さまは人から天使になったと聞いた。その姉さまを見た限りは何か不便を感じているようには思えなかったな」

「……情報が最上位熾天使だけなのが些か不安だな」


 生活そして魔法適性に変化、決定的なデメリットらしいものは今のところ出ていない。

 しかしそれは完全な情報不足からくる話だから信用に欠ける。


「もし仮に天使になるとして、早いとどれくらいで変化が出るんだ?」

「詳しい情報は私にもわからない。だが、私の知っている情報でなら最短で三ヶ月もしかしたらそれよりも早く天使化した人物はいるかもしれない」

「……社長の方では?」

「我が軍の情報では、天使化には一年以上の時間がかかるという情報と魔族は天使になれないという情報しかないね」


 教官は助けたい、それは本心であるが、ある意味で混沌以上のデメリットを使うことに躊躇いがないわけではない。


 これでも地位や養う家族もいる身だ。

 フェリとの約束もある。


 立場というのは俺の自由選択を制限するものだとつくづく実感しつつ、また新しい情報が出たなと社長の言葉を確認する。


「そうなのか?」


 これはヒミクも初耳らしい。


「ああ、私たちが何年勇者と戦ってきたと思う?その度に聖剣に苦しめられてきたのだ。研究や対策は月日を重ねるたびに増えて行くんだよ。当然、聖剣の天使化も知っている。その過程を調べれば何か対抗策が出るのではという話は当然浮かぶ」


 天使というのはイスアルの勢力の中ではかなり重要な立場にある。

 その戦闘能力は常人をはるかに超えると言われている。


 俺はヒミクと、そのヒミクの姉のニシアと呼ばれる熾天使そして今じゃ海堂の所に住んでいる双子天使としか戦ったことがないからそう言う認識はない。


 いや、むしろ天使という存在が魔王軍に一方的にぶちのめされて壊滅しているという情報があるから強いのか?という認識が混ざっている所為だろう。


 しかし、長年戦争を続けている魔王軍にとっては天使は対策すべき勢力、そこは間違いない。


 だからこそどうやって天使が生まれるかというメカニズムを調べる機会もあるだろう。


 神が直接生み出しているというのが定説、しかし歴代の勇者が背中に翼を生やしていたら流石にそこら辺は勘づく。


 そこからなぜ人だった勇者が天使になっているかと疑問に思って原因を調べればおのずと答えは出てくるのだが。


「我が軍が何本の聖剣を回収したと思う?」

「百くらいですかね?」

「残念、総本数で六百と七本。そのうちで使用可能なのは百八十三本。完全な聖剣は二十五本、これだけあればさすがに研究くらいはできるね」


 何千年と戦っているのだからそれなりの数を所持していると思ったが、想像以上に多かった。


「その過程で死刑を宣告された罪人に聖剣を持たせて天使化の実験をしたが、その誰もがその種族の姿を保った。最初は人ではないからと研究者は思ったが、大陸に人もいる。それなりに魔力適正の高い人を使い実験を継続したが、その誰もが天使になることはなかった。接触時間、魔力の使用量、そして信仰その他思いつく限りすべてを現在進行形で検査している。だが、この大陸に根付いている種族では天使化に至っていない」

「では、なぜ聖剣を持つと天使になると」

「うちの祖母が天使だったからね。祖母は元々はしがない人間の神官だったと語っていた。私は天使と魔王のハーフの息子ってわけで、私の四分の一の血は天使が混じっている。その私も実験に参加したが御覧の通り天使にはならなかった。それはなぜかと色々と研究しているが成果はない。ヒミク君、この答えは何かな?」


 その聖剣を実験に使うというのは理にかなっていた。

 倫理、道徳と言った面で言えば囚人であっても人権は保障している日本では非難の対象となるが、異世界であれば、死ぬ可能性は限りなく低い。


 しかし、この実験に関しては将軍位について日の浅い俺には深く関わっていない。

 いや、自分の仕事で手がかかりすぎてそっちの仕事に関わる余裕がないと言い換えた方が正確か。


 社長からしても、この研究は重要だがここで一つ進展を見せたいと思っているからついでにその情報を持っているヒミクを呼び寄せ俺をこの研究に絡ませたかったというのもあるのかもしれない


「先ほど言った魂の分野が関係する。魔王、お前の大陸にいる住人は全て月の神、ルナリアの系譜だ。天使化できるのはそれ以外の神の系譜だけだ」

「血筋の問題ではなく、魂の問題か。なるほど、太陽神らしい保険だね。それなら異世界召喚された勇者も天使になれることも納得できる。となると、彼はどうなる?」

「ジィロの場合はおそらく出来る。イスアルでの天使化は本来誰でも出来るように設定されている。どの階位に至るかは適性次第だが、基本的にできる。例外として挙げられるのはよほど才能がないか、あるいは月の神の系譜の魂を持っているものだけだ」

「ふむ、納得の理由だ。確かに私はルナリア様の系譜の者だ。できない理由に筋も通っている」

「天使化のプロセスの中に月の神の魂を弾くように術式が付与されている。魔族が天使となり攻め込まれるのは避けるべきことだからな」

「なるほど、理屈さえわかってしまえば単純な理由だったか、それを解除する方法は?」

「ない、聖剣という概念に組みこまれている。この概念を弾けば聖剣や神剣としての機能は失われ、残っているのはなまくらか名剣どまりの剣だろう」


 しかし、最初は聖剣を直す直さない、教官を助けるために必要だという話だったのに、気づけば天使化のプロセスまで完全に話しが脱線してしまっている。


 これは軌道修正をすべきか?


「なるほど、なるほど、これが事実なら聖剣研究の方に成果を出させることは出来そうだね」


 そもそも、混沌の中で生存するためになぜ聖剣が必要かって話しだったはずだ。

 教官の命もかかっている身として、時間は有限。


「であるなら話は変わってくる。ヒミク君、もし仮に完全に天使化できる人物に心当たりがあり、その実力もそれなりに保証できる。そんな人物を人王の補佐につけるとしたら混沌の中を進むことは可能であると思うかね?」

「……天使化は時間がかかるが、ジィロの力を使えばその時間は短縮できる。問題は適性だ。最低でも座天使の階位は必要だ」


 しかし、いきなり話に戻った。

 社長はこれを計算に入れたのか、ヒミクへの質問にニヤリと笑うと。


「それなら問題ないよ」


 そう答えるのであった。


 今日の一言

 知識は重要。






毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。

面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。


現在、もう1作品

パンドラ・パンデミック・パニック パンドラの箱は再び開かれたけど秘密基地とかでいろいろやって対抗してます!!

を連載中です!!そちらの方も是非ともよろしくお願いいたします!!

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[一言] もしかして…この流れはまた一人…人間を辞める様な・・・
[一言] 次郎じゃないのか・・・なんかヴァルスさん以外の力で寿命のびてそうな感じだったのに 娘への契約引継ぎは存在しない未来だったのか? 普通にアメリアかと思ったけど感想だと海堂説のほうが強いのかー…
[一言] 完全な聖剣があるなら端からそれ使えば?
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