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621 安全策は幾重にも

 

「……社長の説明を聞く限りだと、混沌相手じゃ生半可な防御方法じゃ意味ないですよね。魔力で防御するには魔力を流動的に、それもホースから水を出して流れて来る泥を払いのけるような方法でしか対応ができない。それだと混沌の中に入る時には常に全身から魔力を放出し続けないといけないってことですよね」

「ああ、だから私は混沌の中は危険だと言ったのだ」


 理屈の話になるが、理論上は可能であってもそれが現実的に実行できるかどうかの話になれば無理だと断言できる。


 社長の話は正にそれだ。


 そんな話は流石に苦笑するしかない。

 これでやれと言われれば、首を振りヒミクの言う通り辞退するしかない。


 流石に、博打だとしても分の悪い賭けどころの話ではない。


「うん、それが普通に考えられる対処方法だね」


 しかし、うちの社長はそんな博打を平気な顔で命令するような暴君ではない。

 それがわかっているので、俺の本能も警鐘を鳴らすようなことはしていない。


 安心はできないけど、多少気楽には話を聞くことはできる。


 しかし、俺がそこにたどり着くことも織り込み済みで、社長は笑顔でホワイトボードの絵を消して、そして新たに絵を書き始める。


 何気に社長って絵がうまいんだなと、社長の絵心に感心していると、書き終わったミニキャラには聖剣らしい物が装備されている。


 普通に漫画とかのおまけ四コマみたいなんかにありそうなクオリティが十数秒で描かれた。

 本当にうちの社長は多才だ。


「君が説明してくれたそれは普通に魔力でやった場合だね。混沌に対処する方法は今のところ大まかに分けて二つ、一つはノーライフや歴代の魔王の何人かが使って見せた禁呪。混沌魔法だね。この魔法の特徴は自分の魔力の波長を混沌に染み込ませることによって、混沌で混沌をコントロールするという力技だ」

「混沌に自分の魔力を染み込ませても混沌のままでは?」

「それがそうでもないんだ。特殊な術を使うが、それを仲介させることによって自分に触れる範囲だけに限定すれば、混沌という性質を自分の魔力で制御することはそう難しいことではない。そして混沌の性質を持っている状況なら、他の混沌が自身に触れないように障壁の代わりになる」


 そしてその絵にさらに手が加えられ、聖剣を持ったミニキャラの隣に髑髏顔の魔法使いっぽいミニキャラが追加された。


 多分あれ、フシオ教官だよな。


 なんとなく特徴を捉えている感じで、わかりやすい。


 そのミニキャラが電波みたいな思念を伝える絵を描き、その電波っぽいなにかで黒いスライムのような物が動き回っているのをリアルタイムで余所見しながら書く社長の無駄にスペックの高い能力が度々披露されている。


 どこにツッコミを入れればいいのか迷いつつ、結局ツッコんだら負けだと思って、何も言わず眺める。


「ノーライフほどの術者になれば、魂をギリギリまで混沌に寄せて、魔力を直接混沌に繋げて広範囲の混沌を自在に操るなんて荒業もできる。だけどそれは、薄皮一枚で自分の魂の隣に混沌を寄せるという危険なことをしていると同義だね」


 混沌魔法の根幹は、混沌を操るという絶技。

 高度な魔力操作がなければできない。


「ジィロ勘違いするな。魔王は簡単そうに言っているが、魔法を触りたての術者が混沌に魔力を送ってもただ混沌に魔力を注ぐだけの行為になるだけだ。熟練、それこそイスアルなら宮廷魔導士と呼ばれるほど熟達した魔法使いでなければ混沌を操るなんてことはできない。その熟達した魔法使いでも変幻自在に操れるわけではない。あくまで魔王基準で言う簡単だ」

「手厳しいね」

「ジィロを勘違いさせるような発言が見過ごせないだけだ」


 しかし、わかってはいたが、口で説明すると簡単そうにいう社長の技は本来であれば秘伝と言われるような高度な技術が必要なのだろう。


 ヒミクの忠告に驚くことなく、むしろやっぱりそうかと納得した自分がいる。


「まぁ、彼女の言う通り混沌魔法の欠点はその操作性だね。影響力という点で言えば、自然界で最も恐ろしい物質と言ってもいい混沌は強力無比の制圧性を持つ。だがその性質故にまず加減ができない。一部でも肉体に触れればその者の魂を侵食してしまう。相手を制圧するための術としては全くの不向きで、混沌に触れてしまった魂は最早異物の入ってしまった別存在となり果ててしまう。確実に相手を殺すためか滅ぼすために用いるための術。故に取り扱い厳禁の禁呪扱いの術だ。混沌そのものが魔力を吸収してしまう性質があるから操りにくく危険であると言う意味も含まれての禁呪だね」


 むしろ、簡単に混沌を操る術があるなら聖剣など用意せず、混沌魔法で助けに行けるのではと思うし、教官一人で自力脱出も可能だっただろう。

 けれど、それができない状況で、混沌の中で教官が孤立している。


「それに、混沌の中でその緻密な操作を延々と続けることは並の精神力ではできない。何処かしらで綻びができるだろうね。私としても人王に混沌魔法を習得してほしいというわけじゃないよ」


 そもそも習得するための訓練でも危険なのだ。


 それでも成功する可能性は低い。


 リスクがでかすぎる三拍子。


 教官でさえ難しいことを俺にやれというのは一朝一夕じゃ無理だ。


 ワンチャン、ヴァルスさんに協力してもらって次元室の時間を引き延ばす方法も考えたが、大容量の混沌を流し込めるようにできていないし、少量でも次元室の機能を損壊させるぐらいに危険な物質だ。


 普通の方法じゃまず練習ができない。

 しかし、特殊な方法じゃ時間が足りない。


「まぁ、荒業としてライドウのように全身で魔力を噴出して強制的に混沌の海を支配して泳ぐなんてこともできるけど、これなら操作する必要はないよ。面制圧するから、混沌に侵食される心配はない」


 妥協案を社長が提示してくれるが、そもそも危険な混沌の中で遊泳染みたことができる方がおかしい。


「それができるのは教官だけです」

「そうだね、私でもそれはできないよ」


 追加で言ってきた社長の方法も、俺は首を横に振り、無理だと断言する。

 脳裏に、上半身裸で高笑いをしながらコールタールのような黒い海を泳ぐ教官の姿を想像してしまった。


 思わず、らしいと思い口元に笑みを浮かべてしまったが逆に言えば教官くらいしかできる姿を想像できない。


 社長ですらできないというくらいだ。

 その想像は間違っていないだろう。


「まぁ、そんな彼でも三十分で限界らしいけどね」


 実際、出鱈目の権化である教官ですらリミットは三十分と短い。


「むしろそんな出鱈目な方法で三十分も持つ方がおかしい」


 しかし、社長の言葉を聞いた途端にヒミクの目がスンと色を失った。

 よほど混沌の中で出鱈目な方法で三十分も居続けることが受け入れられないのだろう。


 まぁ、気持ちは理解できるが。しかし、俺の場合は、


「そう言うなヒミク、教官は教官だからと思えばいい。そうすれば疲れない」

「う、うむ」


 その出鱈目っぷりは知っているがゆえに、逆にその出鱈目な存在であっても三十分で限界を迎える事実の方に驚いてしまっている。


 出鱈目な耐久値を持っている教官でも、一時間持たないのかと混沌のヤバさを改めて理解する。


 ヒミクもどことなく納得のいかないような顔をしているけど、キオ教官に関しては本当に教官だからとしか言いようがない。


「はは、ライドウの耐久度の高さは今度君自身が体験して納得してみると良い。ライドウもきっと熾天使の君と戦えるのなら喜んで相手をすると思うよ」


 社長もそれ以上は言うことなくただ苦笑するだけに留めている。


「さて、ライドウの出鱈目振りは後日ゆっくりと時間が取れたら話すとして、本題に移ろう」


 あくまで混沌魔法は前座、本命はヒミクが直してくれる聖剣だ。


「いかに恐ろしい混沌であっても弱点は存在する。それが聖なる剣こと聖剣や神剣だ。これらの武具は神の力が宿っているからこそ、混沌の影響を最小限に抑え込むことができる」

「質問です。それって所謂光属性だから混沌を跳ね除けられる的なゲーム的要素に近い感じですか?」

「んー、そこら辺は私よりもヒミク君に説明してもらった方がいいかもね。ニュアンス的には一緒だけど、正確には違うから。それに私は魔王だ。聖なる物の話なら天使の方がうってつけだしね」


 お約束的な話になれば、聖なる剣は闇を切り払う的な文言が出てくると思ったがそうではないらしく、社長は少し首をかしげて悩んだ後に説明をヒミクに放り投げた。


 その放り投げられたヒミクはというと呆れ半分、仕方ないと諦め半分といった表情を見せた後に、大きくため息を吐く。


「聖剣は魔王を倒すための武器という伝承があるのはジィロも知っているな?」

「ああ、色々と資料を見るたびによく見る文言だ」

「イスアルの民は、それは魔王が持つ特殊な魔力の壁を打ち払うための能力と曲解している。だが、元をたどれば魔王が混沌を使うようになり、その脅威を打ち払うためだけに聖剣は作られた。その能力が高性能故に様々な魔王軍の力に打ち勝っていった。それが時代を隔ててそう言う伝承になったのだろう」

「と言うことは、聖剣や神剣は元々対混沌用の武器ってことか?」

「原初の聖剣はそうだ。しかし、ずっと原初のままというわけではない。時代が進むにつれて様々な効果や使う用途によって性能や形が変わっていった。しかし根源は変わらない。聖剣の効力は大きく分けて三つ。この三つを併せ持つことによってその伝承のような力を発揮するように作られている」


 聖剣という言葉や実物という物を見て、そして資料にも目を通しているが冷静に考えれば、こうやって真面目に聖剣の能力を講義で聞くのは初めてだ。


 ヒミクが人差し指を立てて話し始めた。


「一つ、聖剣は魔力を神の力、神力しんりょくに変換するための媒体だ。聖剣と神剣の違いは、この変換率の差だと考えてくれればいい。より高濃度高純度の神力が生み出せる基準が高いのが神剣だ。他は聖剣と神剣の違いはほぼない。同じ鉄でも聖剣と神剣は作れる」

「マジか」

「ああ、素材が良いことに越したことはないが、なんなら聖剣なら石でもできる」

「石器時代の打製石器の聖剣……お手軽すぎだろ」

「まぁ、素材の質が悪くなればなるほど聖剣の質も下がるからおすすめはしない」


 一つ目が聖剣と神剣の違い。

 要は、魔力を神力と呼ばれるエネルギーに変換できる効率の差だ。


「二つ、スキルを持った存在の魂を宿すことができる。ただこれは必須ではない。性能は落ちるが聖剣や神剣としては成り立つ。だが、イスアルでは高級な素材をふんだんに使ったうえで聖剣を作るから性能を落としてまで人道に準ずることはない。いや、もしかしたら歴史の過程で必須ではないという伝承が失われてしまったのかもしれないな」


 二つ目は俺も知っている人造聖剣の非道な要素、俺はてっきり必要な要素だと思っていたが、ヒミク曰く、必須ではないとのこと。


 ヒミクは悲し気に溜息を吐き、三つと最後の指を立てる。


「三つ、これがある意味混沌に対してもっとも効果的な効果なのかもしれないな。聖剣の担い手の肉体を天使へと近づける効果がある」

「なに?」


 そして最後の三つ目は意外を通り越してマジかと問い直したくなるような内容だった。


 今日の一言

 安全策は何個あってもいい。


毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。

面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。


現在、もう1作品

パンドラ・パンデミック・パニック パンドラの箱は再び開かれたけど秘密基地とかでいろいろやって対抗してます!!

を連載中です!!そちらの方も是非ともよろしくお願いいたします!!

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[一言] もはや次郎君は最強のキメラになりつつあるな。 混ぜ物が竜だったり、天使だったりで、上位クラスすぎひん?
[一言] 次郎の人外度が上がって、肉体の性質が変わって、その影響もあってヒミクが身籠るのかな? ヒミクの方が先だと、順番が違うとメモリアが拗ねそうだが……
[一言] えっと、これは次郎君また人外度が上がるのかな?
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