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614 付き合いが短くとも、信じてみたいと思える

 

 Another side


 僕の最初の仕事は見極めることだ。


 神に生み出され、神の大地で神官たちに育てられ、いずれはこの世界を守護することが僕の役目だ。


 その世界を守護するために、ダンジョンの核になることに僕は何も疑問を抱いてなかった。


 強い力を持つ僕たち神獣は、世界を守り安定させることが使命であるから。

 生まれた意味を最初から知っている僕にその使命に対しての疑問や不満はなかった。


 だけど、その使命を共に共有する仮初の主に関しては、疑問を抱く。


 僕の力は強い、同じフェンリルの中でも群を抜いて力も魔力も強い。


 神官たちには神童とまで言わしめたほどだ。


 そんなに力が強いなら、僕には仮初の主なんていらない。


 真の主である生みの親である神だけがいればいいと思ったのは当たり前ではないだろうか。


 僕の疑問に神は一言だけ言ってくれた。


 〝見極めよ〟


 いつもはもっと陽気でふざけて、小さい人間にしか興味のない神であるけど、僕の質問には真剣に答えてくれた。


 だったらその言葉に従って、僕は見極める。


 僕を使いこなすことができる器なのかどうか。


 そして僕はその仮初の主になる存在と会う日が来た。


 僕を世話をしている神官と一緒に初めてあの土地から外に出る。


 結界で守られ、外に出る必要のない、神の気配が強いあの大地から外に出た時に感じたのは脆い世界。


 僕の魔力であっさりと塗り替えられる空気、大地にいた神獣たちと比べて弱小とも言える小さな気配たち。


 大地の外はこんなにも脆かったのかと、驚いちゃった。


 落胆と納得、外に出た僕の感情はその二つ。


 僕よりも強い存在が簡単にいるわけがない。


 そう思っていたから、余計にその感情が強くなった。


 転移されて連れてこられた時に、目の前に立つ三つの存在は遠くに感じる弱小の気配と比べればまだ強いと言えるような気配だけど、それでも僕の方が強い、そう思えた。


 それに僕はまだ若い、まだまだ神も成長する見込みがあるって言ってた。


 そんな僕が、こんな小さなやつに従うと思うと、納得ができなかった。


 おまけに。


「幼生体?」


 僕のことを馬鹿にしてきた。

 なに?

 僕の力に不満があるの?


 そんなちっぽけな体なお前が、僕の力に不満?


 むかつく、僕の力は神も認めた至高だ。

 いずれはあの大地の頂点にすらなれる才能があるんだぞ。


 神官たちが何か言ってるけど、気にするものか、こいつは噛み殺す。


 無残に散って、僕を馬鹿にしたつけを払えばいい。


 そう思って、飛びかかったんだけど。


 なんだよこいつ。


「カハハハハハ!!」


 笑いながら僕と戦ってる。


 小さいのに強い。


 脆いのに折れない。


 切れないとわかっているはずなのに何で何度も挑める。


 何で倒れない、何で噛み殺せない?


 こんなの初めて、こんなの知らない。


 なんだこれ、なんだこれなんだこれ!!


 楽しい!!もっと、もっと!遊ぼう!!


 他の奴らは僕と戦うとすぐに諦める。

 僕よりも強い奴は僕と戦うことを面倒くさがる。


 そんな奴と戦っても面白くない、だから僕は戦うってことはつまらない作業だと思ってたけど。


 そうじゃないんだ!!


 こいつは僕と真っすぐぶつかって来てくれる。


 僕が全力で戦っても全然壊れない!!


 凄い!こいつ凄い!!真っすぐぶつかっても壊れない。


 僕の牙も当たらない、僕の爪も掠るけど、当たらない!


 攻撃は段々と僕の体に衝撃を伝えて来るくらいに芯を捉えている。


 まだ痛くない、だけど、いずれ痛くなるのがわかるくらいにどんどん攻撃の精度と強さが増している。


 ワクワクする。


 この小さい存在が、こんなに強いなんて知らなかった!!


 〝見極めよ〟


 神、そう言うことなんだね!!世界にはもっと僕の知らないことが多いんだね!!

 小さくて弱いのもいるけど、小さくても強いのもいるんだ!!


 こんな楽しいことを一緒にやってくれるモノもいるんだ!!


「ヴァルス!!」


 凄い!!今度はおっきいよ!!

 白くて長くて、魔力も多い!!


 すごい!!大地でもこんなに強い子中々いないよ!!


 遊んでくれる?遊んでくれるよね!!


 魔法も使ってくるけど、僕には効かない!!

 すっごく美味しくて、体が元気になるからもっとちょうだい!!


 だけど、ちょっと大変になって来た。


 いっぱい戦うのは好きだけど、一方的に攻められるのはちょっと嫌い。


 だから距離を取って戦うよ。

 そうすれば全部見れて、戦いやすいもん。


 アハハハ!でもすごい!!こんなに長く戦ったのって初めて!


 なになに?今度何を見せてくるの!?


 すっごく楽しみ!もっともっと僕に見せてよ!!


 もっと戦いたい、もっともっと。


 気づいたら、僕はこの小さい存在、〝次郎〟に夢中になってた。


 戦いは結局、引き分け。


 僕の体に次郎の刃が突き立って、痛いって言うのを教えてくれた。


 そして僕は知った。


 僕は無敵じゃないって言うこと。


 小さくて脆そうに見えても、強いのはいるっていること。


 それと、彼なら、僕の仮初の主になっても良いって思ったこと。


 少なくとも僕と戦えて、僕に痛みを教えられるくらいの実力はあるんだ。


 ちょっとくらい力を貸してもいいよ。


 少し不満があるのは、また戦いたいなって思ったことくらい。

 どうせすぐにダンジョンの核になるから無理なんだろうなって思ったたけど、そうはならなかった。


 この次郎って人間はまだダンジョンを持っていない。


 だから、しばらくの間自分の家でのんびりと過ごしてくれと、言ってきた。


 大地と比べれば狭い空間だしちょっと他の神獣臭いけど魔力は十分にあるし、暖かいし、堕天使、ヒミクが作ってくれるご飯は美味しい。


 吸血鬼のメモリアが、僕の寝床用のクッションとか作ってくれるから仕方ないからここに住んでやろう。


 悪魔のエヴィアが時々様子を見て、遊んでくれるから暇ではないし。


 それに。


「あうぁ」

「きゃっきゃ!!」


 この小さくて、暖かい奴と一緒にいるのはなぜか気持ちいいんだ。


 もう、僕の毛皮をおもちゃにするなんて、他の奴には許さないんだぞ。

 お前は次郎の子供ってことだから特別なんだぞ。


 あ、こら、僕の毛を食べようとするな。

 え、お腹空いた?まったく、ほらダークエルフ!えっと、スエラ!!お腹が空いたって!!早く来いよ!!


 ちょっとうるさくて、気まぐれで、すぐ泣いて、何もできない小さなやつなんだけど、まぁ次郎によろしくって言われたから、面倒見てやるよ!


 それにこいつらと一緒にいれば、この屋敷以外の場所にも連れてってもらえるからな。


 別に、こいつらが心配だからってわけじゃないんだからな!!


「よ!フェリ、うちの娘たちの面倒を見てくれたみたいだな。ありがとよ」


 まったく、神獣である僕に子守をさせるなんてどういうつもりだよ全く。


「不満そうにしている割には、まんざらでもなさそうな顔だな」


 うるさい!!この子たちが僕の体を放さないから仕方なくだ!!こいつらは小さい見た目通り脆いんだから僕が動いたらケガするじゃないか!!


 僕は世界を守る神獣だぞ!!こういった小さな命を守ることが僕の使命なんだ!!

 そう!これは使命!決して僕がこいつらと一緒に寝たいわけじゃないんだぞ!!


 暖かいし、ご飯美味しいし、割と居心地がいいなんて思ってないんだからね!!


 だから頭を撫でるな!!撫でるなら背中にしろ!

 あとできればあごの下!!


 そうそう、それでいい。


 ふん、お前も僕の凄さがわかってきたようだな!!

 お礼は今度、あの広い場所での戦いでいいぞ!!


 流石の僕もこいつらと一緒に戯れるだけだと体が鈍る。

 お前も最近じゃあまり戦えてないようじゃないか!!


 別に、お前のことを気遣ってやっているわけじゃないぞ!

 僕が運動したいと言っているだけだ!!


 後お前、もっとメスを増やせ!

 お前みたいな強い奴の側にいるメスが、たった四人なんて少なすぎるぞ!


 僕の主になるんだったら、もっとすごい群れをつくるんだぞ!!


 良し!また一人群れを増やしたな!!


 ペースは遅いけど、それでいい。

 そうそれでいいんだ。


 そんな日々を過ごしていたら、時間間隔に疎い僕でもわかるくらい時間があっという間に過ぎてしまった。


 そんな時に僕は気づいた。

 もうすぐ、この時間も終わることを。


 お前、僕が気づいていないと思っているようだけど、僕は気づいているんだからな。


 お前がダンジョンを作り始めたこと、もうすぐ僕がダンジョンの核になる日が近づいていること。


 お前が僕を撫でたり、戦ったりし終わった後に、変な顔で僕を見る。

 僕をお前の群れと少しでも一緒にいれるように時間を割いてくれている。

 お前だって時間がないのに、僕と一緒にいれる時間を作ってくれている。


 お前はバカだ。


 お前は間抜けだ。


 お前は……優しすぎる。


 僕は、別に嫌々ダンジョンの核になるわけじゃない。

 世界を守る使命は僕にとっては神からもらった至高の使命だ。


 そこは変わらない。

 未来永劫変わらない。


 そんな僕にダンジョンの核になるからって、寂しいと言う感情とか生まれるわけないだろ。


 だけど、まぁ、僕がいなくなったらあいつら、ユキエラとサチエラが泣いてしまうからな。

 そこはお前が群れの長として、しっかりと泣き止ませるんだぞ。


 僕はもう面倒見ないからな!

 次に会う時は、泣き虫で小さくて脆いお前たちとは違うお前たちと会うことを楽しみにしてるからな!


 次郎、さっきは少し嘘を言った。


 世界を守る使命、それは変わらない。

 だけど、ちょっとだけその使命にくっついた使命を僕は神に内緒で作った。


 お前と、お前の群れが少しだけ幸せになれるようにしてやる。


 僕がダンジョンの核になったからには難攻不落のダンジョンになれるように頑張るって使命。


 メインは、世界の守護だけど、世界を守ればお前たちもちょっとは幸せになれるだろうさ。


 ふん、勘違いするなよ。


 これはこの僕、神獣フェンリルに名前をくれて、群れでこの僕のことを歓待したことに対する礼だ!!


 人間と竜の狭間の存在、次郎。

 ダークエルフのスエラ、ユキエラ、サチエラ、ケイリィ。

 堕天使のヒミク。

 悪魔のエヴィア。

 吸血鬼のメモリア。


 他にも色々、僕を歓待したやつら大儀である!!


 僕にとっては一瞬、刹那にも満たないような時間だけど、間違いなくお前たちは僕に幸せを感じさせた!!


 だから聞け、この島で、この小さくとも僕が気に入った島にいる存在たちよ!!


 この島の主は次郎だ。

 この島の神獣は僕だ!!


 僕らがいる限り、この島は繫栄する!!


 神の使命の中にお前たちは間違いなく存在する守るべき存在だ!!


 僕は神獣フェンリル!!

 名をフェリ!


 小さき存在が感じさせた、一瞬でも感じた幸せを、神獣である僕が何倍、何十倍、何百倍にしてお前たちに振り撒いてやる!!


 聞け!

 だからそんな寂しそうな顔をするな次郎!!


 僕は望んでお前のためにダンジョンの核になってやろうじゃないか!!


 なに、僕が核になっている時間なんて、ほんのちょっと長い昼寝のようなものさ。


 だけど、次郎言っておくけど、僕のお気に入りの場所が次起きた時に無くなっていたら承知しないよ。


 次に起きた時はこんなちっぽけな街じゃなくて、もっとすごい場所になってること。


 それをこの場所で見せてよね。


 それが僕が君に力を貸す、条件だ。


 まったく、これだから小さい存在は手がかかる。


 感謝してよね。

 僕みたいなやつが、君の神獣で。


 楽しみにしてるよ。


 僕が認めた。


 仮初の主よ。



 Another side End


 今日の一言

 短くとも結べる硬い絆はある。






毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。

面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。


現在、もう1作品

パンドラ・パンデミック・パニック パンドラの箱は再び開かれたけど秘密基地とかでいろいろやって対抗してます!!

を連載中です!!そちらの方も是非ともよろしくお願いいたします!!

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― 新着の感想 ―
[一言] 犬の十戒を思い出して……泣くわこんなん
[良い点] 感動した。次郎には相棒としてゴッドフェンリルライダーみたいな戦い方を編み出して欲しい笑笑
[一言] 泣いた
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