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612 出来る手は出来るだけ打つ

 

 実際に魔法を使うことを体験できたみっちゃんチャンネルを皮切りに、その後、いくつものテレビ局や雑誌からの取材を受けた。


 今まで頑なにとまではいかなくても、暖簾に腕押し状態だったのが一転して一部とはいえ情報を公開したことに再び世間をにぎやかせた。


 人は選んだものの、日本だけではなくアメリカから飛んできた撮影スタッフまで招き入れたのだから話題性は抜群。


「おかげで、例のシージャック犯との関係性は見事に否定されたってわけね」

「代わりに俺は、見事に十一連勤目だ」


 その話題性の代償は、ただでさえ忙しい仕事をさらに多忙にさせると言う結果になった。


 強化された肉体じゃなければ間違いなくふらついているだろう労働内容。


 だけど、それすら感じさせない強靭的な肉体は、今もせっせと書類を精査している。


「それでも休憩時間とかでちゃっかり娘の顔とか見に行っちゃてる辺り本当に愛妻家よね」

「ケイリィとも触れ合う時間は確保しているつもりだが……」


 仕事の合間に、スエラとユキエラ、サチエラと会ったり。


 ヒミクに頼んで昼飯を運んで来てもらって二人で食べたり、メモリアと資材打ち合わせと称してちょっと長めの休憩を取ったり、仕事の確認と称してエヴィアに会いに行き、仕事の話半分体調のことや子供の成長具合のことを聞きに行ったりと、仕事の隙間時間を利用して彼女たちとの触れ合いは忘れない。


 もちろん、ケイリィともだ。


 スエラとエヴィア、それぞれ子供がいる組が夜のローテーションから抜けて、そこにケイリィが加わる形となった。


 そこでも触れあっているが、もちろんこうやって仕事の時間外にも時間を作って少し飲みに行ったりもしている。


 何事も息抜きっていうのは重要なもので、効率よく仕事をしたいなら休憩こそ質のいいものを取るべきだ。


「そこは、心配してないわよ。もう、私はその、あなたが私たちにかかりっきりでちゃんと休めてるか心配なだけよ」


 そんなことを思っている俺に向かってさっきケイリィが言った言葉は、不満ではなく心配だったよう。


 てっきり子供たちにばかり構っていると思われているかと思ったが、そうじゃなくて、シンプルに休んでいない俺を気遣ってくれていただけのようだ。


「そうか、ありがとう。いつも仕事を支えてくれて感謝している」

「っ!いいのよ!それが私の仕事だし、好きでやってることなんだから」

「照れてるケイリィも可愛いな」

「ああ!もう!ほら!仕事仕事、これさえ一段落すれば、久しぶりに休みがもらえるんだから!」


 その気遣いには感謝しかない。


 ツンツンしているように見えて、デレているだけなのだから可愛い奴だ。


 そっぽ向いていても、その褐色肌の耳がわずかに赤くなっているのを見逃さない。


 高速でのチラ見は動体視力が魔紋によって強化されているからこそできる特権。


「ああ、次の休みは家族総出で温泉にでも行くか」

「……申請しておくわ」

「ああ、頼む」


 ダンジョン建設は急ピッチで進められて、島の整地は終り、基礎工事も防衛施設を中心に作業が完了、次に政務箇所が七割近く終了している。


 防衛設備の建設は既に開始され、その初期段階として島の崖をぐるりと取り囲むように外壁が建設され、さらにそこに監視網も建設されている。


 アルカトラズ収容所の再来と言われるほどの絶海の孤島に作られている壁を見れば収容所と勘違いされてもおかしくはない。


「港の整備は後回しにして、とりあえず転移陣が設置できるくらいに魔素濃度をあげたいところだな」

「そうなると、フェリ様には早めにダンジョンコアになってもらった方が効率的なんだけど」

「生憎と、ダンジョンを設置できる下地がまだできてないからどっちにしろまだフェリには自由を満喫してもらうさ」


 ダンジョンと言うのは魔王軍にとっては最早常識レベルで重要な施設扱い。


 その施設を作るのにはまずは周囲の安全を確保し、下手に手を出せないほどの準備を入念にしてからでないと設置してはならない。


 ダンジョンを作ってからの方が、間違いなく島の整備は進むのだけど中途半端な防衛設備状態で重要施設に攻め込まれて陥落などしようものなら目も当てられないし、責任問題どころの話では済まない。


「幸い、シージャックの影響で工期が遅れているわけでもなし。むしろ予定よりも早く工事が進み始めているな」


 フェリがこのトゥファリスで生活するようになってから、この島全体に魔法陣を組み込み、魔素が霧散しないようにしたらどんどん島に魔素が染み込み、魔王軍の作業員が体調を崩さない程度の魔素濃度まで上がって、今じゃ補助具無しで島で生活できるほどになっている。


 魔素濃度に余裕が出ると言うことは、魔法の解禁となって、そこからの作業速度が並じゃない。


「さすが、物づくりのエキスパート種族だな」


 ジャイアントは見た目からして筋骨隆々の大男が多いイメージだが、その実手先の器用さは折り紙付きな上に、魔法も建築分野に明るくて、そっちの方面での技術力も確か。


 工期に間に合わせるどころか、前倒しすら始めている。


「彼らも戦が近いことに気づいているからかしら?」

「……それもあるよな」


 そのやる気の高さの理由の一因となっているのがイスアルとの戦争が最早回避不能の状況まで来ている。


 情報部からの情報の精度が段々と下がってきているとエヴィアから聞いたが、その情報網のほころびを放置するような魔王軍ではない。


 即座に対応策を取り、少しでも情報を得ようと画策している。


 その第一陣として近代技術の導入。


 要は無線機といった魔力に頼らない方法での伝達手段を確立して、さらに暗号文を電子化して相手に解読させないように気を配り始めた。


 イスアルに電子機器なんて代物があるわけもなく、それを理解できるような人材もいない。


 魔力で判断しているようだったけど、そもそも魔力を使わない電子機器なら探知できない。


 正に現代無双の典型例を魔王軍から仕掛けてきたのだ。


 魔法による遠視もやめて、超長距離からの望遠レンズを利用した監視に盗聴器、隠し監視カメラ、ファンタジー映画に、ハリウッドスパイ映画が参戦してきたのだ。


 そのおかげで再び情報が入るようになって、相手側の戦争準備の様子がこちら側に伝わってきて、空気がよりピリつき始めている。


 余裕のあるように振舞ってはいる。


 魔王軍が戦争状態に突入することを地球側には悟らせないように、より神経質になっているとも言える。


「少しでも戦力の増強、将軍として俺は補充されたが、実質的な戦力としてはカウントできない状況だからな」


 神経質になってしまう理由は、いくつかあるが、メインは主力の欠如だろう。


 身内で争っているうちに、将軍位が二人も欠けている。


 その二人の軍そのものは残っているが、統率者を欠いている状態でまともな戦力になるかと聞かれればそうとは言えない。


「不死王様の奥様、シュリー様と連絡は密にとっているのよね?」

「ああ、個人的にと仕事面の両方で連絡は取り合っている。ちなみに社長も気にかけているな。あそこの戦力は魔王軍でも指折りの質と量だ。社長としても魔王派閥にとどめておきたいだろうし、いざという時は戦力として数えたいんだろうな」


 だからと言って、即座に今まで以上か、最低限同等の統率できる者が現れるかとご都合的な展開があるかと聞かれればそんなこと起きていれば今頃俺は将軍になれていないだろう。


「最悪、俺がフシオ教官の軍を率いて戦場に立つ可能性もあるだろうな」


 だけど、結果的に俺は将軍になり、戦争への参加を決意している。


 このダンジョンは後方支援に特化するつもりであるが、戦場に絶対はない。


 何かあれば俺も前線に回ることになる。


「そのために連絡を取ってるの?」

「半分以上はお節介だな。教官には世話になっている。なら、留守の間の世話くらい焼くさ」

「留守の間ね。あなたも鬼王様も、不死王様が亡くなったと思っていないのよね?」

「根拠はない。だが、あの人がそう簡単に死ぬとも思えないって話なだけだよ」


 その前線に行くときの主力候補が俺の兵力ではなく、大戦力として宙に浮いているフシオ教官の戦力なんだから話は中々面倒なことになっている。


 現在不死の軍団は教官の奥さんであるシュリーさんが何とかまとめていると言う状況。


 フシオ教官に忠誠を誓っている配下が、不満を持っている部下を抑え込んでどうにか軍団としての体裁を保っているに過ぎないけど、軍としての機能は残っている。


 そんな非常にアンバランスな軍を貴族連中が放っておくわけもなく、どうにかして引き込めないかと暗躍している。


 イヤ、ほんと、足の引っ張り合いって嫌だね。

 自分の利益優先、その時に出る被害は自分が被らなければ問題なし。


 そして、拾った軍隊を使い潰して後顧の憂いを断つ。


 ここまでの筋書きがしっかりと見えるのはある意味で堂々としていると言える。


 しかし、捕らぬ狸の皮算用ってわけじゃないけど、戦う前から戦後のことを考えている貴族連中の頭の中を覗いてみたい、いや、単純にグロ映像が流れるだけだからやっぱいいわ。


 だから、そんな足の引っ張り合いの邪魔をするのも将軍のお仕事ってね。


 俺とキオ教官で、貴族連中に睨みを利かせてフシオ教官の軍の安定化をはかっている。


 俺の効果は一割くらいしかなくて残り九割はキオ教官の方なんだけどな。


 俺との関係を匂わすことで、間接的に機王であるアミリさんも巻き込むぞと言って牽制しているわけだ。


 俺だけだと、単体戦力で乗り込むことくらいしかできないからな。


「信じてるのね」

「俺からしたら、どうやったらあの人を殺せるのかって聞きたいくらいなんだけどな」

「ふぅーん、ちなみにもう半分は?」


 そんな感じで、フシオ教官の勢力とのつながりを保っていることを雑談で話しながら書類の確認が終わって、次の書類に手を伸ばした時に聞かれた質問に。


「何もしていなかったら、あとで教官にシバキ倒されそうな予感がするからな」


 俺は苦笑交じりにそう言うしかない。


「ふーん、そう」


 俺の言葉は嘘ではないが、真実でもないことを察してケイリィは興味なさげに答えて。


「流石に人妻はダメよ?」

「ケイリィは俺に死ねと申すか?」


 変なところに釘を刺してきて、流石の俺も恩師の妻に恋心を抱くなんてふしだらな行為をするわけもない。


「ハーレムを築いている俺が言うのもなんだが、これでもしっかりとそう言う対象の女性は選んでいるつもりだ」

「でも、夫に先立たれて悲しむ未亡人の元に若い男が世話をしに来るってドラマが前に会ったけど」

「フィクションと現実を混ぜないでくれ、それにシュリーさんは教官一筋だ」


 揶揄っているのがありありとわかるような笑顔で冗談を宣うケイリィの頭を書類で軽く叩くと、アウって可愛く呻いてくる。


「他人の女性に手を出してもろくなことはない。どこぞの少女漫画のシンデレラストーリーで、真実の愛に気づいたなんて台詞を見たことがあるが、傍から見ればそれは浮気で不誠実な行為なんだよ」

「次郎君って、妙なところでリアリストよね。熱いときは本当にテンション任せなのに。シージャックの件だって、開き直ってメディア関係以外も色々と手を打ってたわよね」

「線引きって大事なんだよ」


 そんな彼女と一緒に過ごす仕事の時間があるから、ある意味で疲れないのかもしれないな。



 今日の一言

 対処に手抜きは禁物




毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。

面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。


現在、もう1作品

パンドラ・パンデミック・パニック パンドラの箱は再び開かれたけど秘密基地とかでいろいろやって対抗してます!!

を連載中です!!そちらの方も是非ともよろしくお願いいたします!!

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[一言] もうね 島に温泉造っちまえばいいじゃない
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