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610 思惑を踏み潰さねば、理想は実現しない。

 

 お袋を保護してから二週間の時間が過ぎた。


「ユキエラ、お父さんだぞぉ」

「きゃきゃきゃ!」

「あのだらけ切った顔、伊知郎の昔を思い出すね」

「お義父様もあのような感じだったのですね」


 その間も着々とダンジョンの制作を進めて、ドンドン忙しくなってくる。


 異世界ブームの熱は未だ冷めず、連日情報が流れるたびに速報が出る始末。


 テレビでは歴史学者やオカルト分野の専門家が日夜討論を広げて、ネット界隈では噂が噂を呼び、話の内容には尻尾や尾びれでは気が済まず、手足まで生えて独り歩きし、根拠のないうわさ話で盛り上がっている。


 そんな最中、いかに忙しかろうと、根性と気合で子供との触れ合いの時間を確保せねば、しだいに心が病んでしまって何のために働くかわからなくなってしまうとの持論を展開している俺は。


 どうにかひねり出して、確保した時間を、こうやって家族との触れ合いに当てていた。


 ユキエラもサチエラも首が据わってから寝返りをよくするようになって、このままいけばすぐにハイハイもするようになるだろう。


 いずれは立って歩くようになるのかと思うと、高い高いで喜んでいる姿も一層愛おしくなる。


「ああ、あんな感じにだらしなく目じりを下げてね。覚えてるか次郎?そんなだらしない面をした父親の顔を」

「おぼえてるわけないだろ、俺が何歳のころの話だよ」

「一歳かそこらだな」


 広いリビングに俺とお袋、そしてスエラ。


 その三人に見守られる双子の子供のユキエラとサチエラ。


 アルビノの特徴の白に近い銀髪赤目のユキエラが満足したので次はスエラと同じ褐色肌に俺と同じ黒髪のサチエラを高い高いと言いながらあやしている。


 そんな子供たちのはしゃぐ声が聞こえる最中にお袋に子供のころを聞かれるが、普通に考えて一歳のころの記憶なんてあるはずもない。


「おぼえてたら逆にすげぇよ」


 呆れながらちょっと休憩…と、サチエラをゆっくりと俺の胡坐の中で待っているユキエラの隣に座らせる。


 姉妹が揃うと互いに似通っているが、決定的に色が違うためか、互いに手を伸ばして触れ合うと楽し気な声が響き始める。


「そりゃそうだね。あたしだって子供のころの記憶なんて全く覚えてないよ」


 仕事の合間の一時の休息、今日も実は一日休みじゃなくて、午前中は仕事をしていて、どうにか半休をもぎ取った形だ。


「どうだい、スエラさん。あんたは子供のころの記憶とかあるかい?それともあたしたちよりも長生きだからやっぱり覚えてなかったりするのかい?」

「そうですね。本当に小さなころのことは覚えていませんが、物心ついた後の記憶ならいくつかありますね」


 仕事を完全に忘れてと言うわけにはいかないけど、娘たちが起きている時間帯に家にいれる幸せを噛みしめている。


 そう実感できる。


 貴族の不穏な動きや、海外の政財界からのアポイントや、テスターたちの周囲に現れる不穏な影とか、マスコミたちからの連日の評価とか、ダンジョンの進捗とか。


 日々、胃にダメージを追わせてくる情報からの一時の開放。


 やると決めたから全力で実行しているけど、ストレスを感じてないわけではないので、無邪気に俺の膝の上で戯れる娘たちはマジで癒しだ。


 ちょっと指を伸ばすと俺の指が遊び道具になってる。


 ムニムニと握られると殊更癒しが増した気がする。

 生まれたての頃からと比べるとだいぶ握力も強くなったなユキエラ。

 サチエラの方がちょっと力が強いかね。


「スエラの小さい頃か、どんな子供だったんだ?」


 そんな娘たちを見ている所為か、子供のころのスエラという話題は非常に興味がわく。


「ええと、大人しい子でしたよ?」

「嘘だね」


 子供たちと戯れながらだったから、見えてないけど、声が上ずったってことは表情にも出たと言うこと。


 少しの躊躇いを見逃さなかったお袋は、すすっとスエラとの距離を詰めたのが気配でわかる。


「嘘だなんて」

「隠したいって気持ちもわかるけど、そういう言い方はかえって興味を引かせちゃうよ。ホレホレ、お母様に教えなさいな。教えてくれたら次郎の鼻たれ小僧時代を写真付きで解説してやるよ」

「止めろ、前にもやっただろそれ!!」

「私には、次郎が知らない秘密の写真があと百八枚ある」

「何決め顔でヤバいこと言ってるんだよ」


 俺と一緒で、スエラの過去に興味のあるお袋がニヤニヤと笑っているのだろう。

 スエラが気になるような情報と言う名の俺の黒歴史で取引しようとしているお袋に待ったをかけようとするが、足元には愛娘が、大声を出すとビックリしてしまうから小声で叫ぶと言う器用な技を披露して止めようとするがそれで止まるならお袋は世界から逃亡できないだろう。


「百八枚」

「スエラさん、何生唾を飲んでいるんですか?ちょっと目が怖くなってますよ!!」


 そして、スエラがちょっと本気で見たがっていることに焦る。

 つい昔のような口調で話しかけてしまった。


「コホン、いえ、そんな理由で釣られたわけじゃありませんよ?あくまで、霧香さんとは今後とも仲良くしていきたいと言うだけで……」

「そう言うなら、せめて俺の目を見て話してくれよ」


 言い訳が苦しい。

 彼女自身それがわかっているのか、ちょっと苦笑気味に笑ってしまっている。


 まぁ、知られて困るような過去があるわけでもなく、お袋もわざわざ変なことを暴露するとは思えん。


「ちなみにこれが、三歳の時の次郎が世界地図を描いたときの」

「それ大丈夫なやつだよな!?」


 そう安心して子守に専念しようとしたが、流石に見せたらマズイ奴なのではと思わせる発言に思わずツッコミを入れてしまった。


「安心しな。流石の私もそこまで鬼じゃないよ。伊知郎の写真をみて落書きのような地図を描いたときの写真だよ」

「心臓に悪いぞ」


 そしてスマホ画面をこっちに見せてくれると、覚えていないが、画用紙にクレヨンでへたくそな世界地図を描いて見せている小さいころの俺がいた。


 生憎とその時の記憶がないから何とも言えないが、なんとなくそんなこともあったかも程度の記憶。


 嫌な意味で冷や汗をかかせることに関して、お袋の右に出る者はいないのではないだろうか。


「可愛いですね」

「あの時の次郎はお袋なんてあたしのこと呼んでなかったよ。お母さんってね。あんときの次郎は可愛げがあったね」

「今でも、可愛いところはありますよ?」

「そいつは良かったよ。可愛げのないままじゃ愛想をつかされちゃうってね」


 そんな心臓に悪い思いをしていたのをどこ吹く風と、気にせず会話を続けるお袋とスエラ。


 女性同士の会話ってこんなに肝を冷やすモノだったかと思いつつ、スエラの子供のころの話は聞けなかったなと少し残念な気持ちになっていると。


 ぶるぶるとポケットの中のスマホが着信を知らせる。


 家族の時間を邪魔されたくないからこそ、マナーモードにしていたと言うのに、しかも部下には休暇に入ると伝えてあるから電話が来たと言うことそれすなわち。


「はい」

『お休み中申し訳ありません。人王様』


 トラブルってわけだ。


 スッと表情が変わって、声色にも真剣なものに変わる。


 プライベートの中に仕事を持ってくるのは正直嫌だ。


 俺の雰囲気が変わったことで、子供たちも何事かと俺を見上げている。


「何かあったか?」

『海外の方で確保していた資材を乗せた船がシージャックされたと報告がありまして』

「……」


 しかも、ここにいるメンツは普通に身体能力が高い面々ばかり。


 何が起きたか聞こえたスエラはそっと立ち上がって、子供たちを抱き上げて俺の自由を確保。


 お袋は大変そうだなと同情するような目線を俺に向けてくる。


「こっちの反応を見るための陽動だ。対応プランCで対応。資材を確保している会社に問い合わせをして対応してくれ。こっちから動くようなことだけはしないように、俺もこの後向かう」

『了解しました』


 しかもシージャックされたと言う船はダンジョンを作る島で使う必要機材も乗ってる船だった。

 日本で確保しようとしたが、たまたま品切れで、海外メーカーの物を取り寄せている物だった。


 こちらが何かしらアクションを取れば、問題が起これば海外でも行動をとると思われる。


 むしろどういう行動をとるかどうか把握したいがために意図的にシージャックをしたのではと匂わせる行動に俺の休暇は潰されたと言うわけだ。


「と言うわけで、ちょっと仕事行ってくる」

「手伝うかい?」

「いいよ、お袋はゆっくりしててくれ。夕飯までには終わらせてくるから」


 せっかくの家族団らんの時間を潰されて、ちょっとイラっとした俺は、この際だ。


 触れてはいけないところに触れたらどうなるか知らしめることにしよう。


 お袋のコネを使えば、穏便に済ませられるかもしれないが、それだとこの邪魔された空気に対しての鬱憤は晴れない。


 傍から見れば八つ当たりに見えるかもしれないが、ここまで順調に進めているように見えて実は水面下では色々と妨害を受けているのだ。


 この際だから、少しでも相手側に落ち着かせるように釘をさしておくいい機会ではないだろうか。


「お館様」

「セハスさん、ちょっと出かけてくるけど、一つ頼みがある」

「はい、何なりと」


 屋敷の離れに設置した転移陣に乗り込む前にセハスさんに一つ頼みごとをしておく。


 恐らくシージャックした犯人を見つけ出すための手掛かりはないだろう。

 二重にも三重にも隠蔽してしまったら、流石に魔法でも追い詰めるのに苦労する。


 であるならせめて牽制する意味合いを持たせて打てる手は打っておくべき。


「と、言うことでそっちの方に伝言頼むね」

「かしこまりました」


 味方の方に情報を伝達と、自分の行動プランを概要だけでも伝わるようにセハスさんに頼むと彼はしっかりと頷いてくれた。


「いやぁ、それにしても見えない敵って言うのが一番面倒だよなぁ」

「それほどまでにお館様が出世されたと言う証拠でございます」

「だな」


 利益に目がくらんだ輩なのか、それとも俺たちを脅威に思った輩なのか、あるいはと可能性がどんどん出てくるのは問題だけど、セハスの言う通り出世すればするほど知らないところで恨みを買うこともある。


 おかげで、心当たりが多すぎると言う状況を体験できている。


「とにもかくにも、まずはこの問題をさっさと解決しないと夕食に間に合わないな」


 恨みつらみはあまり買ってないと思うが、妬み僻みはかなり買っていると思う。


 逆恨みが大半を占めると思うが、それに付き合っていかないととは思いつつ、全部付き合ってたら時間がいくらあっても足りない。


 何よりもせっかくの貴重な有休を潰してくれたお礼をしなくては。


「お館様、少々お顔が怖くなっております」

「おっと」


 教官譲りの笑みが出てしまったかと、口元を覆って表情を抑え、これからやることが次から次へと思考を走らせつつ。


 やられたら倍返し、それは絶対だと心に誓って。


「それじゃ、行ってくる」

「はい、行ってらっしゃいませ」


 セハスさんに見送られて転移陣に乗ると。


「来たわね」


 転移陣の先でケイリィが出迎えてくれた。


「状況は?」

「色々と面倒な匂いがプンプン、犯行声明があるけど……見る?」

「その言い草的にまともな声明っぽくはないな」


 早速情報を収集してくれていたみたいで、簡単な説明だけで面倒くささが感じ取れること間違いなし。


 今日も今日とて、トラブルかよと思いつつ。

 これも氷山の一角…まだ見えぬトラブルがあるとは予想はできても、全容は把握できていなかったのであった。


 今日の一言

 トラブルに振り回されぬよう気を付けよう。







毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。

面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。


現在、もう1作品

パンドラ・パンデミック・パニック パンドラの箱は再び開かれたけど秘密基地とかでいろいろやって対抗してます!!

を連載中です!!そちらの方も是非ともよろしくお願いいたします!!

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