607 無意味なことはしないと理解してても
新年あけましておめでとうございます!!
今年も完結目指しまして頑張っていきますのでよろしくお願いいたします!
改めて思う。
お袋と言う存在は、実の息子の俺でも理解の範疇を超えると。
始めてそう思ったのは、それは子供のころだったか?
小学校の頃に世間の母親と自身の母親は決定的に違うと思ったことがある。
うちの母親は、高校生の頃に棒一本で熊を殺したことがある。
俺はてっきり母親ならそれができると思い込んでいて、親父が教えてくれたことをクラスメイトに話して嘘つき呼ばわりされたことがあった。
その後で大きなことと言えば、中学生に上がったらちょくちょく家にいないことがあって、一人暮らしの訓練だと称されて自炊させられたことだろうか。
高校生になったら完全に実家に一人暮らしだった。
『ちょっとオーロラ見てくる』の一言で旅立つのは目的地を伝えるだけまだマシ、『何かいいものが見れそうな予感がする』と直感頼りの旅の時はマジで行方が分からなかった。
なので、世間では親に甘えるような経験を俺はあまりしていない。
かと言って愛されていないとは思っていない。
子供のころは一緒に外食したり、誕生日を祝ってくれたし、遊園地の代わりにジャングルの奥地でナマケモノを生で見せられたりと、世間一般では経験できないことも経験させられた。
運動会とか授業参観にもきっちりと参加してくれた。
そして成人するまでの間、この母親は世間的に共感できる位の愛情は注いでくれたという自覚はある。
だが、世間一般的な子育てだったかと聞かれれば、NOと断言できる。
冷静に考えろ、ゲームが欲しいと言ってみたら、じゃぁゲームのような体験をさせてやろうとガチの古代遺跡に連れていかれるんだぞ。
どうしてそうなると予想がつかないのが俺のお袋。
そんなお袋がなんの前触れもなく俺の行動に先回りして現れて、しかもかなりの歳の差がある弟か妹を妊娠しての出現。
「で、何があった」
「何かあったことが前提で話すんだな」
「お袋がただ顔を見に来たと笑って言ってくれるなら杞憂で済むんだが、生憎と俺の勘はそうじゃないと叫んでいるんでな」
状況証拠的に何かあったと考えるべきか。
なにせ、子供を身ごもった状態で俺を頼ってきたと言うのだから。
「はぁ、ずいぶんと可愛くない育ち方したね」
そしてその勘が外れていないと言うのは大きくため息を吐いたお袋の態度で分かった。
「お袋ならむしろ弟か妹が生まれてから、生まれたぞ!!って報告に来るだろうが」
「よくわかってるね。だったらここに私が来た理由も察せるだろうさ」
「……お袋を確保しようとしている勢力が多いのか?」
おまけに俺の質問に対して、頷いている段階でやはりかという気持ちになった。
「普段の体調なら問題ないんだけどねぇ。流石の私も身重の状態じゃ逃げ切るのには骨が折れる。万が一を考えたら素直にここに身を寄せるのが妥当って判断をしただけだよ。安心しな、きちんと私のことを匿えるように手土産は持ってきたよ」
「手土産?」
神出鬼没を地でいくほどのお袋が逃げ回れないと言わせるほどの追跡網。
普段のお袋だったら、鼻で笑って追いかけて来たエージェントたちの裏をかけるくらいには行動できるだろうが、お腹の中に赤子を抱えている状態じゃどうにもできない。
いや、正確には出来るんだろうけど、やった際に赤子に悪影響が出るのを避けたのだ。
そして、なおかつ俺のことまで考えて行動をするのだから。
ケイリィが手土産のことに関して首をかしげる。
お袋たちが持っていた手荷物は本当にサバイバルで生活するに必要な物と食料が数点、あとは薬とか消毒用の品物とか治療器具だったりとかだ。
「他国の行動、気にならないかい?」
そしてお袋が肌身離さず持っていたであろうどこぞの神社のお守りから取り出したのは一枚のマイクロチップ。
「私の持っている情報網で得られるだけの情報はここに入れておいたよ。まぁ、家賃と食費に出産費用くらいにはなるだろうさね」
そして何のためらいも無しに俺の方に放ってきたのを受け取る。
「助かるが、そんなことしなくても頼ってくれたら助けるぞ」
「馬鹿言うんじゃないよ。例え親が子を育て、子が親に恩を感じていようとも通さないといけない筋ってものはあるんだよ。それに私が考える親って言うのはね、子供に育ってほしいって思って育てるんだよ。そこに愛はあっても、恩はない。だったら何もなしに助けてもらおうっていう子供に寄生するような真似をしたらおしまいなんだよ」
「……はぁ、わかった」
お袋らしい言い分。
黙って受け取れと遠回しに言われた気分を味わいつつ、こうなってしまってはテコでも動かないし、下手に断れば身重のまま世界中を旅しそうな勢いだ。
昔から自分の筋を通すことに躊躇いを感じない人だとは思っていたが、ここまでとは思わなかった。
受け取ったデータはすぐに解析班に回すことになる。
なので、ケイリィに手渡して。
「すまんが、このデータを転移で送ってきてくれないか」
「わかったわ」
魔力濃度とこのトゥファリスに内包している魔力を使えばケイリィ一人を行き来させる程度の魔力は確保できる。
頷いた彼女は、そのまま部屋を出て行く。
「いい子じゃないか」
「ああ」
「おや、素直だね」
「ここで否定したらケイリィの価値を下げるってことを最近学んでな」
「日本人は謙遜しすぎるきらいがあるからね。良いことだよ」
どうやらケイリィとお袋との顔合わせはいい形で終わっていたようだ。
お袋は良くも悪くも、言いたいことはハッキリと言う。
もしケイリィが気に入らなかったら、はっきりと俺に言ってただろう。
だから開口一番でいい子と評されたのは嬉しかった。
「あの調子なら、もう一人孫が増えるのは来年ってところかね」
「ブフっ!?」
ホッとしてコーヒーでも飲もうかと口を付けたたタイミングでこんな発言を放り込んでくる、どうも一言二言多いのが玉に瑕なんだよな。
「汚いねぇ」
「変なこと言うからだろ」
「嫁を何人も囲んでいるあんたが悪いよ。まったく、どこで育て方を間違えたか」
「少なくとも放任主義な段階でこうなってもおかしくはなかっただろうよ」
「それもそうだね」
だが、それでも親子なんだろうなと思う。
クツクツと笑う姿とか、俺のざっくりと割り切れるところとか、一度決めたら意地でも通そうとする頑固さとか。
この人から受け継いでいるって部分をひしひしと感じる。
それを嫌だとは思わない。
「まだ弟か妹かはわからんが、将来的に心配になるね。何せ今は世界の変化の時だ。この子が生きやすい世界であってほしいと私は思うよ」
「……そうだな」
「どこかの息子のおかげでこの子も注目を浴びる事になるだろうね」
「生まれて来てからじゃないとわからないけど、そうだろうな」
そんな親との会話は、ついに起きた変革の時代に生まれてしまった田中家の末っ子の話になる。
もっと言えば、お袋のお腹にいる子供が生まれた時の時代がどうなっているのかって話だ。
「私の知り合いが、お前を紹介してくれと真剣に頼んできたよ。その理由は何だと思う?」
「あー、普通に考えれば組織とのコンタクトって予想をするが、その様子だと違うな。あれか、魔法を習いたいとかか?」
今回の魔王軍と言う存在の公表で、将来的に魔法が一般的なものになるだろうと誰もが考えている。
恐らく免許制とか資格制とかか敷かれることになるだろうが、政府は誰もが取れる技術として広めていく方針だろう。
だけどいきなりそれができると言う地盤はこの世界にない。
何十年であれば早い方、おそらく完全に一般市民に浸透するのは百年以上必要だろう。
そんな先駆者的な時代に立ち位置に生まれた田中家の末っ子の話に紛れ込む、お袋の知り合いの話。
何か関係があるのかと思いつつ、パッと考えてみた。
「正解はお前の精子を寄越せ。だ」
「ぶふっ!?」
が、どうやら俺の思考はまだまだ楽観的だったらしい。
そんなド直球な発言をお袋にするとは、中々命知らずな。
コーヒーを飲んでいないのにも関わらず吹いてしまった俺の姿をケタケタと笑いながら。
「安心しな、目の前に札束の山を作られたけど、思いっきり玉蹴り上げて断っておいたよ」
「そいつは安心でいいのか?っていうか何でそんなものを欲しがったんだ?」
「どうやら先天的に私の家系が特殊な世界に関わりやすいと予想したらしくてな、身柄を確保できないならせめて遺伝子を確保したいって話みたいだね」
「んな無茶な」
「これでもまだマシな部類さ」
「ええー、それがマシな部類なのか?」
「マシさ。頭がひどい奴からお前へのラブコールもあるが聞くかい?」
「結構だ。そういうのはもうすでにもらっていて腹いっぱいだ」
とんでもない話を聞いてしまったと、心を落ち着けようと改めてコーヒーを飲んで一安心。
一体全体田中家の末っ子とどういう関係があるのか?
「そう、そんなとんでもない奴らが目を付けるほどに今の私たちは注目を浴びている。霧江のとこじゃなくて私の家族にね。だからこそこの子が心配でね」
と考えるまでもなく、関係なんて明らかだ。
いまの俺はある意味で地球で最も有名な人物に上り詰めた。
地球人で唯一異世界の軍の幹部まで上り詰めた男。
そんな話題性に富んだ男の家系の血筋に注目が集まるのも自然なことか。
まだ力のない赤子が、どれほどにまで危険な立場か。
「ああ、だからって謝るんじゃないよ。あんたはあんたの道を進んだ結果でそこにいるんだ。私も望んでこの子を孕んだんだから」
それを理解して、口にしようとした言葉を払いのけるような手の仕草でお袋は拒絶した。
「ま、お兄ちゃんとしてこの子を守ることに手を貸してもらうからね」
「それなら問題ない。うちの屋敷は部屋が多い。衣食住は保証するよ」
「なんなら出産後はあんたの仕事を手伝ってやろうかい?確か、前にスエラさんから仕事のお誘いもあったし、世界がこうなってしまったらからには下手な仕事は受けられないしね」
「お袋が、俺の部下に?」
「何よ、何か問題はあるのかい?」
そしてまたもやとんでもない提案をしてきた。
「……お袋、今年でいくつだっけ?」
「あ?五十二だよ。安心しな、そこら辺の若い連中には負けない程度の体力は残ってるよ」
「いや、そういう問題じゃないんだが」
破格の魔力適正十を誇るお袋がダンジョンテスターになる。
すでに最盛期をとうの昔に終えたお袋だが、下手なテスターよりも無双する未来が見えるのは何故だ。
「あ、言っとくけど変な役職とかにつけるんじゃないよ。コネ入社だけど、身内だからって変な方法で出世するのは嫌だからね」
「いやそっちも心配していない」
だが、それでも自分の母親が部下になると言う俺の心境を察してくれないお袋にどう言えばいいのだろうか。
人手不足の我が陣営、ある意味でこれ以上にないほど信用の出来る人材。
断ることも一瞬脳裏によぎったが、やる気満々、そして子育てにはお金がかかると言う持論を持っているお袋を放り捨てるわけにもいかない。
「……はぁ、とりあえず産後の経過を見てからだ。それでいいな?」
「当然だね、あ、さっきのデータチップの代金はあくまで私とこの子の分だよ。伊知郎は適当に次郎に仕事をもらいな」
「そんな!?」
「当たり前じゃないか」
どっちにしろ受け入れるのなら利益になった方がいいかと影を薄めていた親父がようやく会話に参加した姿を見つつそう決断するのであった。
今日の一言
母は偉大
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パンドラ・パンデミック・パニック パンドラの箱は再び開かれたけど秘密基地とかでいろいろやって対抗してます!!
を連載中です!!そちらの方も是非ともよろしくお願いいたします!!




