606 並大抵のことでは驚かないと思っているのは慢心だ
今年最後の更新となります!!
今年もたくさんの方々に見ていただき、本作を応援していただきありがとうございます!
来年もまた完結に向けて鋭意努力していきたいと思いますので引き続きご愛読の方よろしくお願いします。
また、並行して連載中のパンドラ・パンデミック・パニック パンドラの箱は再び開かれたけど秘密基地とかでいろいろやって対抗してます!!もよろしくお願いします
「は?」
「よっ!息子遅かったな」
なぜここにいる。
それが俺の第一の疑問だった。
今日は連日連夜のアポ地獄から解放され、島に建設資材を持ち込み工事が始まる日。
トゥファリスで重機やら、巨人族やら、資材やら運んできて、そんな俺を出迎えたのはいつの間にか上陸していたお袋の姿だった。
「いやぁ、二週間も母親を待たせるとはお前も偉くなったものだな」
戦艦から降りて、さて現場指揮を執るかと思って上陸したら、勝手に島に掘った穴からどっこらしょと姿を現したお袋は、相も変わらずわけのわからない行動力を見せつけていた。
「ちょっと待て、二週間?」
「正確には今日で十五日目だが、一日はサービスしてやろう」
そして仁王立ちして、いきなり何をサービスするのかわからないようなことを宣う。
「すぅ、はぁ、OK、落ち着いた。とりあえずその穴の中に親父もいるんだろ?工事の指示を出したら向かうから戦艦の中の待合室にでもいてくれ」
どうせこの後いろいろと訳の分からないことを言われるような気がするので、諦めて、先に仕事を済ませる方向にする。
「なんだい、もうちょっと驚くと思ったのにあっさりしてるね」
「日頃の行いを振り返ってくれ」
「刺激的な両親っていいと思わないかい?」
「限度はあるだろう限度は」
ウインクするお袋にツッコミを入れつつ、近くで戸惑っていた作業員を一人捕まえて、穴から必死に荷物を出そうとしている親父の手伝いをするように頼む。
そして案内人として。
「ケイリィ」
「はっ!はい!!」
お袋を見てガッチガチに緊張しているケイリィを付けることにした。
まぁ、いずれ挨拶する事になるとは思ってたけど、まさかこのタイミングでやることになるとは思っていなかった。
右足と右手を同時に歩き出すかのような緊張具合。
「悪いがお袋と親父を部屋に案内してくれ、艦長室でいい」
「わかりました!!」
そんな彼女の姿に苦笑しつつ、破天荒なお袋の相手をしてもらのを申し訳なく思いつつも頼むと、敬礼をもってして応えられてしまった。
「ふぅん」
そして俺とケイリィの距離感を見て。
「また増やしたのかい」
あっさりと俺とケイリィの関係を見破るお袋。
「説明は後でさせてくれ」
否定はしない。
隠す気もない。
だけどこっちのスケジュールを無視して来たのなら、こっちも都合を押し通すだけだ。
巨人族の作業員にへこへこと頭を下げて荷物を引っ張り出してもらっている親父の姿を見つつ、俺はもう一人、いや、もう一体連れて来た相棒を伴って戦艦の外に出る。
「はいはい、お茶くらいは出るんだろうね」
「彼女に頼めば茶菓子も出るよ」
後ろ手で手を振りながら、お袋の相手をケイリィに任せて。
「親父、お袋の手綱しっかりと握っておいてくれよ」
「ハハハ、努力はするよ」
すれ違いざまに親父にお袋が暴走しないように頼んでおく。
そして、親父とお袋と入れ替わる形で新しく島に降り立った俺は。
「どうだフェリ。ここが俺たちの拠点だ」
「わん!」
まだまだ何もない島を相棒に見せる。
何もない、本当に岩しかない島を見てもフェリは落胆するどころか、興奮するように走り出してしまう。
「おいおい、そんな慌てなくても島は逃げないって」
本来魔素を必要とする魔族たちは、この島に上陸すれば良くて貧血のような症状、悪ければ意識を失い死に至る。
だが、現状元気に巨人族もダークエルフ族も、悪魔族も、鬼族も作業に精をだしている。
それはなぜか、その理由はフェリにある。
神獣と言うのは伊達ではなく、ダンジョンを維持するための魔力を生み出す原動力と言われている。
現状小さな体のままではあるが、その体を中心にもうすでに魔力が島全体に行きわたり、魔族が活動出来得るだけの魔素を散布しているのだ。
しかもこれはダンジョンコアになっていない状況で、本領を発揮していない。
ダンジョンコアになったら、もっとすさまじいことができてしまうのだから力の底が知れない。
しかもまだ幼獣、成長の余地が残っていると言うのだから恐ろしい。
島は高さがあるから海上の船からはこっちの状況は見ることはできないので、さっそくヘリを飛ばして俺たちの作業を監視しようとしているのが見える。
傍から見れば、島にトイプードルを放っているようにしか見えないが、フェリのこの行動がないと実質作業員たちは何もできないのだ。
ゴブリンたちが魔石で動くゴーレム型の重機を動かして、とりあえずトゥファリス発艦場の整備を始めている。
魔法でやれば一番早いんだけど、まだ魔法を使えるほどの濃度になっていないから、しばらくは重機でって感じだ。
一応今の状況でも魔法は使えなくはないけど、濃度不足とフェリがこの島にいないと魔素が補給できないから出来るだけ魔石で動かせるゴーレムで作業を進めるのが望ましいのだ。
午後にはある程度魔法が使えるほどの濃度に達すると思うから、そこからは濃度を考慮しながら魔法で工事が進むわけだ。
「わんわん!」
「そんなに嬉しいのか?」
「わん!」
あの日出会ってからちょくちょく屋敷で遊んでいると、ある程度の距離感は縮められるものだ。
サチエラとユキエラの側にいることが一番多いけど、屋敷の住人との触れ合いを拒絶しているわけではなく、むしろ積極的に触れ合っているフェリ。
スエラとヒミクと一緒にいることも多いし、時々メモリアやエヴィアと一緒にいることもある。
家主の俺とも行動を共にすることもあれば、セハスと一緒にいることもあった。
そんな相棒であるが、自分の縄張りとなる島に行くと教えてからだいぶテンションが高い。
島の大きさは高さを除いておおよそ予定通りに作れた。
街づくりと設備作りの設計図も出来上がっているからまずは地盤の作成と言うことで、作業員の魔素確保のためにフェリにも来てもらっている。
と言っても、フェリ自身に何かをしてもらうと言うことはない。
この子の役割は魔素を作り出してもらうこと。俺が一緒に来たのはこの子の護衛兼保護者と言う立場だ。
だから島から出なければフェリには自由気ままにこの島を走り回ってもらって一向にかまわない。
下手にフェリを連れ去ろうというものが居るなら、容赦なく撃退できるだけの力は持っている。
これからこの島に入り浸ることが多くなる。
だから出来るだけフェリの放つ魔素をこの島に馴染ませて、ダンジョンを作る時の下地を用意する必要があるのだ。
工事は平日は朝から晩まで、休日は工期次第になるが基本的に休みにしている。
俺の仕事はトゥファリスの中ですることになっているから問題はない。
フェリの魔素がこの島に染み込めば染み込むほどどんどんこの島で活動がしやすくなる。
予定では完全に下地ができるまでに一ヵ月はかかる。
その一ヵ月の間に、魔素をこの島にとどめられる設備を作れるかどうかが今後の工期の進展に繋がる。
だからこそ、ここで作業している人は皆真剣に取り組んでいるわけだ。
「わん!」
「ああ、ヘリのことか。あれは人が乗っているから下手に攻撃して撃ち落とすなよ」
その真剣に作業している作業人たちの癒しになっている、元気に走り回る姿を見せるフェリは、空を飛ぶヘリに興味を持ったようで、何度もジャンプして、体を温め始めている。
傍から見れば、空を飛ぶヘリに興奮しているトイプードルに見えるのだが。
この子が本気を出したら、目視できる距離程度なら空中を駆けて近づくことくらい造作もない。
流石に一度の跳躍では無理なはず、無理だよな?
無理だと思うが、あっちの世界の住人や生き物は物理法則が仕事をしないことが前提の身体能力を持っている。
だから、こっち側の常識で測るととんでもないことをしでかす。
よしよしと背中を撫でて、落ち着けと言うと少し不満そうにするフェリ。
「魔素濃度も順調に上がっているな」
その間も魔素を放出し続けるフェリ、段々と体が軽くなっているのがわかる。
フェリのすぐそばにいるから魔素の濃度が上がるのを体感できている、
「わん!」
「ん?ちょっと散歩に行ってくるのか?」
「わん!」
なんとなくニュアンスで何を言いたいかはわかる。
ジャンプできないならせめて全力で走りたいと言うフェリの意志を感じ取った。
「勢い余って島から落ちるなよ?」
「わん!」
この島の広さはそれなりにあるけど、フェリが満足できるような広さがあるだろうか。
俺の許可が出たことで、気分をあげたフェリは俺の目の前から全力で駆け出し、風となってあっという間に豆粒ほどの小ささに見える所まで行ってしまった。
追いかけなくても、魔力の気配を感じ取ることもできるし、走り回って貰ってより一層フェリの魔素を島に染み込ませられるから止めるようなこともしない。
フェリが散歩に行ってしまえば途端に俺も手持ち無沙汰になってしまう。
工事の進捗は、現場責任者が監督してくれているので下手に俺が口を出すと余計な手間を挟むことになってしまう。
あくまで俺は、フェリがこの島に来るための保護者的な立ち位置でしかなく、この島内ならフェリはどこにいてもわかる。
「艦に戻るか」
本来であればケイリィが隣にいて、現場の進捗具合を見ながら今後の予定を話し合う予定だったが、まさかお袋がこの島に乗り込んで来ているとは思わず、急遽予定を変更することになった。
今頃ケイリィがどうなっているかは想像もつかないが、出来れば犬猿の仲のような嫁姑戦争が勃発していませんようにと願いながら艦へ戻り、お袋と親父が待っているだろう艦長室に戻ると。
「お義母さま、妊娠されているんですか!?」
は?
なにかとんでもないことを聞いた気がするぞ。
「そうなんだよ、年甲斐もなくはしゃいじゃったらねぇ」
「いやはや、お恥ずかしい限りで」
「そんな、まだまだ若い証拠じゃないですか!」
「あんたはまだなの?あんたたちの距離感を見る限り、ヤルことはやっているんだろ?」
入室と同時にとんでもないことを聞いてしまって思わず足が止まり、思考がフリーズしてしまった。
並大抵のことでは驚かないと言う自負があったが、まさか三十歳年下の弟か妹ができるとはだれが想像できたか。
これが長寿のダークエルフとかだったら、三十歳なんて誤差と言ってのけるだろうが、お袋は普通の人間のはず。
脳裏に高齢出産という言葉がよぎる。
「いや、まぁ、スエラも産んでますし、私もいずれは」
「ほうほう、孫が増えることは良いことだ。まぁ、お腹の子と同じ年の孫って言うのも面白い話さね!!」
とにかく嫁姑戦争が勃発するような雰囲気がないことに安堵し、大きく深呼吸して心を落ち着けた後。
「遅くなった」
何事もなかったかのように入室する。
「遅いよ次郎、何入り口で固まってたのさ」
「お帰りなさい」
「やぁ、次郎」
気配に敏感なお袋は俺が入り口で固まっていたことなど当たり前かのように気づいている。
ケイリィも気づいていた様子。
親父は、女二人の会話に入り込めるはずもなく、気配を薄めてお茶を一人すすっていた。
「部屋に入った途端、歳の離れた弟か妹ができたって聞いたら驚くだろ」
「なんだい情けないね、私なんて嫁が増えても驚かなかったのに、あとあんた孫が新しくできたのに報告してこないだなんてどういうつもりだい」
そんな特殊な空間で仕事ができるはずもなく、俺はスケジュールを頭の中で組み替えて、ケイリィの隣に座るのであった。
今日の一言
まだまだ驚けることは世界に満ちている。
今年も残りわずか、皆さまどうかよいお年を!!
毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。
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