603 白いキャンパスに入れる最初の筆は緊張しそう
さてさて、島を作るなんて壮大で馬鹿げたことをしでかした後に待っていたのは、意外と普通な記者会見だ。
と言ってもこれ自体は日本政府が完全に段取りをしてくれているのでこっちからは特にすることはない。
異世界との円滑な交流を題目にして、大手メディアを中心にしてマナーと教養を確保、あらぬすれ違いを引き起こさないために、変なことを書こうとするゴシップ記者は完全締め出す。
しかし、取材できなくとも、まぁ、こういう記者たちは得てして、事実ではなくて推測をあたかも真実のように書くのがお好きな人種。
「ねぇ、見てみて、日本の裏切者なんて題目であなたが出てるわよ」
「こっちは実は宇宙人だったと出ておるな」
記者会見自体は滞りなく終わり、お茶の間に異世界の住人が周知されて、SNSのトピックが異世界人で埋め尽くされるほどの話題性を提供して早一週間。
こっちは工事の段取りや、面会の対応なんてことを色々とやっている間に世間に出回っている雑誌は随分と好き勝手に書いてくれたようだ。
面白そうに雑誌の一面を見せてくるケイリィはの雑誌には、どこから入手したのか、この会社に入社する前の俺の顔写真に目線を隠すような黒線を入れた奴が写っていた。
「それに、元会社の上司って人がコメントしてるけど、これ知り合い?随分と仲良くしているように書かれてるけど」
そのゴシップ雑誌の右下に、元会社の上司のK・Kと言うイニシャルで書かれたコメントをざっと流し読みすると。
「んや、俺の記憶通りならこんな綺麗な言葉を使えるような気持のいい男ではないよ」
これもまた誰だそれと言う感じで美辞麗句を並びたてたコメントが書かれていた。
何が、指導を担当しているころから光るものがあり、自分が積極的に指導していたのにもかかわらず彼は恩を仇で返すように会社を去った…だ。
単純に面倒な仕事をこなせているから、色々と仕事を押し付けているだけだろ。
自分では何もしないからそんなことを言えるんだなと、多分アイツだろうなと喫煙所の別れを思い出しつつ。
「むしろ俺としては、俺の存在がチュパカブラみたいな扱いを受けている方が納得できん」
「この雑誌もオカルト雑誌じゃからの。異世界に、魔法、実在した未知の技術、こういった手合いの食いつきは良いじゃろう」
もう一方のムイルさんが持っている雑誌の方を非難する。
俺も半ば以上人間を辞めた自覚はあるが、俺は実は宇宙から来た生命体で人間の生き血をすすることによって人間の姿を保ち、日本社会に溶け込んでいた異世界の先駆者なんて。
「はぁ、記者会見を締め出したことがそんなに気に喰わなかったのかね」
島に運ぶ建築素材のスケジュール調整が終わったときの休憩の一コマ。
のんびりとお茶をすすりながら、海堂と南が持ってきた面白雑誌の内容を読もうと言い出したケイリィの提案で読んで見たはいいが、どの雑誌でも俺が人間ではないと言う文言か、俺は日本を捨てたなんて感じでアンチが書きそうな文言で書かれている。
「大手のメディアがあなたのことを肯定的に宣伝してるから、同じことを書いても面白くないって思ってるんじゃないかしら?ほら、今も特番でやってるわよ」
そこまでゴシップ雑誌に嫌われるようなことはしてないんだがと、思っていても、向こうはそう思っていないような書き方をされていて些か以上にショックを受けつつ、ケイリィがテーブルの上にあるどら焼きに手を伸ばしながら、ちょうど流れていたテレビの番組を見る。
俺もそれにならってそっちを見れば、記者会見の内容を吟味する評論家と呼ばれる人たちが色々と論議していた。
「賛成六割、穏健的な否定三割、残りが過激的な否定と言った感じかな」
「賛成派は概ね友好的な態度の魔王様の姿を見てって感じで様子見でいいのではって感じのコメントよね。穏健的な否定派は、様子見には同意するけど警戒は解かないって感じ」
「一人白熱しておるのは、ワシらを危険な存在だと言って政治家を非難しておるの。歴史の話題を持ち出して魔女裁判みたいなことが起きると言っておるが、心外じゃな」
俺たちが表舞台に出たことは少なくない波紋を世界に及ぼした。
連日こうやって特番が組まれて、そして朝も昼も夜も、とりあえずテレビを付ければこういった感じの番組が見ることができる。
「ま、イスアルのやつよりはマシじゃない?向こうなんて私たちを見た途端殺せ、奪え、捕まえろのどれかよ」
「そうじゃなぁ、そう言われればまだ対話ができている時点で、道は残っておるか」
「比較対象がとんでもないからマシって思えているだけで、今会社の入り口がとんでもないことになっているのはわかっているよな二人とも」
そしてこういったメディアが連日放送してくれているおかげで、俺たちの知名度はかなり上がった。
元からそういう目的があって日本政府と相談して、公表したわけだ。
こうなることも予想していて、対策もしっかりとしていた。
「大手メディアの次郎君の番組出演のオファーに、資産家や有名起業家から面会要請、面白いところだと有名動画配信者の事務所からのコラボ依頼、一番多いのは新聞雑誌社関連かしら?取材依頼が連日入って事務所の子たちが半泣きなってたわね」
「それもまだマシな方じゃな。しっかりとアポイント取ろうとして、段取りを踏もうとしておる」
「問題は、野次馬根性と報道の自由を傘に来て不法侵入をしようとしている輩たちだよなぁ」
それでも会社の前は連日人の山。
カメラや放送車が建物前の道路を占拠して、会社の出入り口から出てくる人を待ち構えている。
他にも放送を見て野次馬根性で会社まで見に来ている一般人が多数。
おかげで警察までもが出動して、会社の前のゲートは完全封鎖して人が出入りできないようになっている。
それでも抜け道を使って入ろうとする人がいるのだから、好奇心って言うのは恐ろしい。
まぁその好奇心も流石に魔法の前では無力のようで、基本的に結界で弾かれる。
玄関口なんて、結界が強化されて関係者以外が入ろうとするものなら物理的に入れないようになっている
「心配するのはこっちだけじゃないわよ。この一週間だけで島の方に侵入しようとした一般人が五人、島の周辺をうろついていた船の数は三十八隻」
そして会社の方に入れないなら無人の島の方に入ってしまえという頭が少々おかしい輩はいる。
お金を持って行動力を持っている人というものは恐ろしいもので、そこは国が認めた治外法権の土地ですでに異国と認定されているのにも関わらず、工事前、誰も人がいないのだから無人島で入ってもいいと思っているようだ。
たった七日と言う短い時間でケイリィの言った数が島へ侵入を果たそうとしている。
ただ、大半は船で接舷できない断崖絶壁を前にして諦めたようだが、ケイリィの言った五人はどうにかして侵入しようとロッククライムに挑戦しようとしたらしく、そこを巡視艇に発見され御用となった。
「ちなみに、一般じゃない方々も侵入して領土宣言しようとしてたけど聞く?」
「もう読んだ」
それだけならまだかわいい物だと言える。
それくらいに、他にこの島は厄介な輩たちが目を付けたようだ。
まずはどこかの国のお偉いさんが指示した特殊部隊が夜間に乗じて島に上陸して国旗を突き立てようとした事件。
頭おかしいと言えるし、普通に国際問題だと言えるような出来事は、霧江さんが念のためにと設置してくれた式神がその国旗もろとも侵入しようとした奴らを海の方に弾き飛ばしてくれたおかげで未然に防げた。
ただ、海に吹き飛ばされた人たちは重傷の上逮捕という結末になったが。
そしてこの特殊部隊すらまだかわいいと言えるのが始末に負えない。
「ワシらが表舞台に出てきたことを良いことに、表に戻ってきた裏の組織がこの島を狙っていると聞いたときはワシらと戦争がしたいのかと思ったわ」
「シャレになってねぇですよそれ、報告書見ました?あの島は太古の神々の時代に滅んだムー大陸の一部だって主張して、自分たちはムー大陸の生き残りだからその島を寄越せって」
「他にも宇宙人があの島を作ったって主張している集団から、あそこは宇宙人との交流の場だって言って主権を主張している組織もあったわねぇ」
特殊部隊の方はまだ常識的な行動ではないにしろ、常識的に理解はできるのだ。
おかしいのはその後だ。
もう、裏の方にずっと引っ込んでろと言いたくなるような集団がゴキブリのように出てきて、変なカラーリングと旗を掲げた船が押し寄せて島に上陸しようとする始末。
おかげで海上保安庁と海上自衛隊はてんてこ舞い。
俺たちの方から戦艦トゥファリスを出してくれと要請を受けるまでに至った。
「なんで宇宙人との交流の場って発想になったんだろうなぁ」
「映画の見過ぎか、トゥファリスを見たからじゃないの?見るからに宇宙船じゃないあれ」
その要請には答えられなかったけど、社長の方からちょっと脅かしてきてと政府に許可をもらって三日ほど前に誰もいない大海原に武御雷をぶちかましたら一旦静かになった。
魔素のない空間での武御雷はなかなか疲れたけど、装備次第では行ける事がわかったのは収穫だった。
「とにもかくにも、今の俺たちは世界からの注目がヤバいってわけだ」
「ええ、あなたが島で見せた力も相まってね。おかげで人事部の方にも入社したいっていう電話がひっきりなしよ。私たちが求人出した時は無視決め込んでいたくせに」
「政府と言う国のトップが認めれば、存在そのものの信用度の差は大きいからのぉ。魔法と言う実例も見せてしもうた。そうなれば好奇心が勝ると言うわけじゃ」
けどその収穫もどこぞのあほが動画を撮影して、全世界にオンエアしてしまったのだから始末に負えない。
俺は社長の指示で、霧江さんと日本政府の段取りの元魔法をぶっ放したがゆえにおとがめなしでこうやってのんびりとしていられているが、それを企画した日本政府と、俺が所属する会社の人事部は二十四時間ひっきりなしに電話が鳴り響いている。
ちらっと人事部の前を通った海堂曰く、前の会社のデスマーチの状態よりもひどいらしい。
電話線を引っこ抜きたいと叫ぶ人がいたくらいだから相当なのだろうな。
「火に油を注ぐようなことをよく政府が許したなって今でも思うよ。結果的に言えば島には近づく輩は減った。けど、そのあおりが別のとこに収束したに過ぎないんだよなぁ」
「いざという時に物理的に自然現象を引き起こせる輩が1人でもいるってわかったからか、今度は安全なところからの問い合わせってところね」
「人間は自然現象に勝てないっていうのは常識だし、それを操れるとも思っていなかった。だけど俺たちは操れる。それを知れば」
「利用価値は大いにあるじゃろうな」
電話線を引っこ抜きたいと願うほど、今の俺たちの人的価値は計り知れない。
知りたいと言う欲求を突き動かす燃料なのだ。
「テスターたちは大丈夫なの?親類や、友人に、学校関係者とか色々と安全が脅かされるかもしれないけど」
「ああ、そっちは霧江さんたちが対応してくれる。南や北宮、アメリアと勝に関しても対応はしてある」
その知りたいと言う欲求は、常識をも無視する。
俺が知りたいのだから教えろと言う牙は、闇雲に振るったら凶器になるのだ。
それを防ぐ術をわかってて用意しないという選択肢を俺は取らないのだ。
今日の一言
未知と言うのは恐怖か、好奇心を煽る。
毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。
面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。
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パンドラ・パンデミック・パニック パンドラの箱は再び開かれたけど秘密基地とかでいろいろやって対抗してます!!
を連載中です!!そちらの方も是非ともよろしくお願いいたします!!