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599 順調に進ませるのには一苦労だ

 

「この度は、お手数おかけしました」

「いや、こっちも無関係ではないので」


 ゆっくりと頭を下げて、丁寧に謝意を示す霧江さん。

 それに対して俺は手で問題ないと言いつつ、これはこれであとで色々と話すことがあるんだろうなと思う。


 単純な貸し借りの話しであるが、主賓である俺たちに迷惑をかけたのはあまりよろしくはない。


「それであの人たち、神託同盟でしたか。資料の方は確認してましたがもっと穏健的な活動がメインだったと」

「そのはずなのですが、最近宗派のトップが変わったようで、そこで方針が変わったと聞いています」


 神託同盟という組織は多国籍であるも本拠地をギリシャに持つ中規模組織。

 国家に関わっているケースもあれば、関わることのない国も少なくない。


 日本との交流はあるものの、日本には支部はなく。

 様々な神にまつわる分野で活動しているため、宗教的な要素が多いのだが、資料で目を通した限り他の宗教を弾圧するようなことはせず、互いの教えを尊重することと神の教えに準ずると言う組織。


「それ、うちが関わっていたりしませんよね?打倒魔王とか掲げられてたりとか」

「その手の話は聞きませんし、選民思想はあの組織では致命的です。人種差別をなくそうと言う思想があの組織の根幹にあります。妖怪、妖精、悪魔問わず神の生み出した存在という教えが彼らに有ったので、そこまで教えていた内容を変えたとなれば人離れも顕著かと」


 どこかで聞いたことのある組織だなと頭の隅にとどめていた情報。

 イスアルの宗教組織と似ているなと考えてしまって仕方ない。


 大なり小なり神様が関わっているなら、そういう方面で似るのも仕方ない。

 だけど、妙に直感が囁くんだ。


「……とりあえず、問題を起こしたからにはこっちでも警戒はさせてもらう。そして乗船の方も拒否させてもらう」

「妥当な判断かと」


 あのまま放置してはいけないと、第六感が警鐘を鳴らしている。

 しかし、ここで下手に踏み込んで今回の仕事の本分をないがしろにするわけにもいかない。


 出来ることと言えば、警戒と。


『ムイルさん、神託同盟の情報収集を』

『あいわかった』


 情報収集に指示を出すことくらいだ。


 黒に近い灰色。

 俺はそう見た。

 川崎翠の件もある。


 この世界にもイスアルの手は伸びている。

 とある一件で地球イスアルの関係が、情報部の方で色々と調査されて壊滅させたり捕縛したりと攻防が繰り広げられていると報告は聞いている。


 これもその手の一種かと判断して。


 ふと感じた気配の方向を見ると。


「ひとまずこの話はここまでで、ご来賓の方々が来たようだ」


 対応をしている間に、時間がだいぶ経過したようだ。


 岸壁沿いを進んでくる黒い車の集団。

 その車の先端に掲げられる国旗。


 スーツの襟を確認し、対応せねばと予定にない行動に気合を入れるのであった。




 そして数十分後。




「……ふぅ」


 どうにか対応が終わり、乗せるべき人は全員乗船できた。


 リストの制作をやってくれたケイリィには後で感謝するとして、どうにか乗船作業は終了。

 こっそりと溜息を吐き、ネクタイを緩めたい気分を我慢して、社長の方を見ると、樹王を背後に控えさせ、隣に日本の総理大臣を立たせて、各国の要人に囲まれているのが見える。


 護衛も側に控えているからひとまずは安心。


 腕時計を見て、時間はまもなく出港の時間。


 俺はあの中に入っていかなければならないのかと、テレビの中でしか見たことのない顔ぶれを前にして、少し気合を入れて歩き出す。


 俺の動きに合わせて、SPたちが警戒する。


 けれど、俺は彼らの動きに合わせて、隙間を縫うように警戒網を潜り抜けて、相手を動かせないような距離感で社長に近づく。


 近づく時はこちら側の護衛の間を抜ける。


 総理のSPがこっちを見ているし、近づく俺を見て総理の視線を浴びる。


「魔王様、出港の準備ができました。これより目的地に向かいますがよろしいでしょうか」

「ああ、構わないよ」


 会話に割って入るのだからと、会釈をして状況の報告だけ済ませてその場を離れる。

 あの場にいれば、色々と言われることになる。


 名前すら知っている総理大臣に話しかけられる機会は早々ないだろうが、今この場で話すことは出来るだけ避けるべきだ。


 何か言いたげな視線は社長にカットしてもらって、話しかけようとしてくる各国の要人に対しては急ぎの用事があるのでと言って断る。


「さてと、じゃぁ、出発するか」


 部屋を出て、そして廊下を進み、隔壁の向こう側に行き。

 ここから先は誰もいないのを確認してから、首を一鳴らし。


 クキッと言い音が鳴ったのを確認したら、さらに一歩進むと転移陣が展開されて、艦橋へと俺は転移する。


「戦艦トゥファリス出港する。ケイリィ、各艦に通達」

「了解」


 日本を含めてまだ見せることのできない魔導の技術。

 むき出しの窓などなく、球体の空間の壁に外が映し出され、それを操作するのは思念一つで済む。


 艦橋にはムイルさんとケイリィが待機している。

 この船はワンオペで動くけど、通信とかはさすがに人手がいる。


「出港の許可下りたわよ」

「了解、それじゃムイルさん目的地までの移動よろしくお願いします。俺は戻って色々と対応しないといけないので」

「あいわかった」

「大変そうね」

「代わってくれとは言わんよ。これは俺の仕事だからな」

「帰ったら、チューしてあげよっか?」

「そいつは楽しみだ、熱烈なやつを頼む」

「うっ、考えておく」

「カカカ!ケイリィ、婿殿は女慣れしておるぞ、照れるならそういうのは二人っきりの時にするものじゃ」


 緊張する空気とは無縁なこの空間にいつまでもいたいが、本命の仕事が控えている手前それはできない。

 気が重くなるのを察してか、少し流し目でこちらを見たケイリィが、帰ったらご褒美をくれると言うのだ。


 それを糧に頑張るとしよう。


 戻る時も同じように転移陣で元の位置に戻り、そして隔壁を通る。


 あの艦橋は転移魔法を通らないと通ることのできない特別な位置に作っている。


 船を操作するための空間なのだから、防犯はしっかりというわけだ。


「戻りました魔王様」

「やぁ、お帰り。客人は外の光景に夢中のようだよ」

「そのようで」


 そして戻った先には、周囲の壁が外の光景に変わり、天井まで空を写し、床は海中を見通すことのできる映像に変わっている。


「魔法で外の景色を写していると説明したら、ほら、ああやって壁際で話込み始めてしまったよ」

「物珍しい光景なのでしょう。技術力という面で劣っているとはさすがに思っていないでしょう」

「そうだね、こっちの世界でも我々は得難いものを得ているケースが多い」


 その技術力を目の当たりにして、社長の周りから人が離れている。

 といっても、全ての人が離れているわけではない。


「そこら辺をどう思うかな、鬼龍院きりゅういん総理?」

「我が国のことで学んでくれると言うのなら、大いに嬉しいとも。それはいずれ我が国との技術交流の礎となるのだからな」


 まず一人が日本の総理大臣こと鬼龍院権蔵きりゅういんごんぞう

 見た目からして鍛えていますと言う雰囲気を漂わせ、その厳つい見た目に反して声色は穏やか。


 しかし、総理大臣になってからは野党から横槍を入れさせないことでその手腕を発揮し、支持率もなかなか。


 ニュースとかでたまに過激だと言う内容を耳にすることがあるが、大体の国民はリーダーシップがあると受け止めている人物。


「現に今も、我が国の人間がそちらの国に貢献しているではないか、これは姿かたちは違えど、一つの国をまとめる者として希望と言っても差し支えないだろう」


 俺のことを引き合いに出して、技術を少しでも吸収できる機会を作ろうとする貪欲さに社長は嫌悪感を出さず、むしろ積極さに好感を抱いているようにも感じる。


「おっと、私をのけ者にしないでくれミスタ鬼龍院。我が国としても貴国には大いに期待している。我が合衆国の民もミスタ・ルナルオスの会社で働いていると聞いている。ここでパートナーシップを結ぶのになんら問題はないのではないかね?」


 そしてもう一人、いやむしろこの二人がいるからこそ社長の周囲に人が集まってもガードされてしまうのではという話だ。


 アメリカ合衆国副大統領、ジェーマス・カーン。


 こんな大物を送り込んでくる時点で、アメリカ側の本気具合がうかがえる。

 他の諸外国は、外交官を送り込んできているが、ここまでの地位の存在はいない。


 恐らく、日本政府とアメリカの協定で受け入れ態勢を調整したのと情報共有の差が出たのだろう。


 いくつかの国からは嫉妬の混じった視線を感じる。


「うん、あなたの国の人材は非常に優秀だ。積極的で、自由な発想がいい」


 そんなことを気にするような神経質な人材がここにいるわけがない。


 三人そろって視線をスルーし、話に花を咲かせましょうと言う雰囲気を醸し出している。


「ちょうど彼の部署に貴国の人員を配置している。彼なら私よりも細かい内容を知っているだろう」

「オウ!それは助かる。ミスタ・田中。どうかね我が国の人材は」

「ええ、私が知る限りでも努力を惜しまず、成果を出す貴重な人材となっています。返せと言われたら正直、自分は困ると言えるくらいに彼らは活躍していますよ」

「ハハハハハ!なるほどなるほど、それはいい話を聞いたよ」


 明るく、そして陽気。

 そんな印象を与えてくる副大統領。


 しかし、こんなフレンドリーな雰囲気を出していても、俺の直感にはビンビンと警戒しろと警鐘を鳴らす何かを含ませている。


 少しの失言で、アウトと叫んでヘッドスライディングしてでも割り込んでくる何かを感じる。

 これが国のトップを支える人材。


 営業でしのぎを削るとは違う、別種の迫力を感じる。


「しかし、ルナルオスさん。この船はどういう理屈で進んでいるのかな?移動している感覚はない。だが、外の映像はしっかりと動いている。実は映像だけを流していると言う落ちなのかな?」

「我が国の技術でほぼ慣性を打ち消しているだけさ。外の映像は正真正銘今の外の景色だよ」

「それが事実ならすさまじい技術だ。私は見えなかったが、この船は空から現れたと聞いたが、実はこの船は空も飛べるのであろう?」

「ああ、空を飛ぶことは可能さ。しかし、海上を航行したほうが燃費がいいので海を進んでいると言うわけだ」


 腹の探り合いと言うのか、ジャブの応酬でこれか。

 技術の説明を求めて会話をしているように聞こえて、その実どういう意図でこの会話をしているかを相手に悟らせようとしている。


 すなわち軍事的にも政治的にも、この船の利用価値は計り知れない。


 全体の視界を確保でき、空も飛べ、未知の攻撃を有している船。


 敵となれば脅威、味方となれば心強い。

 将来の軍事バランスを崩しかねない。


 それを悟った二国のトップは何としても、味方に引き入れようとしている。


 その雰囲気に晒されながら、時折俺の方にも話が振られるが、それは当たり障りない程度、トップ同士の会談に俺は添え物程度。


 本命は、そのトップが連れてきている外交官との交渉のような雑談。


 顔合わせが済んだら、そちらと名刺交換。


 良き話ができればいいですねと、こちらもジャブを交わして、そこから本当の交渉が始まる。


 そしてそれが呼び水となって、各国の外交官もわれ先にと話に加わり、気づけば俺の周りに人が集まるのであった。



 今日の一言

 トラブルがあっても、スケジュールは進む。






毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。

面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。


現在、もう1作品

パンドラ・パンデミック・パニック パンドラの箱は再び開かれたけど秘密基地とかでいろいろやって対抗してます!!

を連載中です!!そちらの方も是非ともよろしくお願いいたします!!

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― 新着の感想 ―
[一言] 今回の描写、国のトップを神格化し過ぎではないのでしょうか。金持ちも政治家も、最近の権力者は愚者がサウタンダードみたいですよ? まあ、物語としてはこう言う風にいかにもできそうな人物像のほうが…
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