598 派手にやったのなら最後まで、派手をつらぬく
さぁって、戦艦トゥファリスを召喚してだいぶ注目は集まった。
流石に地球で空飛ぶ戦艦なんていうSF小説の世界の代物を見せつけられてしまえば動揺が広がるのはわかる。
日本、アメリカ、中国、ロシアと欧州にその他諸外国。
ひとまずここにいるだろう外交官たちが全力で本国と連絡を取っているのだろうなと言うのが予想できる最中。
「魔王様、流石に予定外のお誘いは遠慮していただきたいのですが」
「まぁまぁ、人王。そう言わず一考してくれたまえ。私も何も考え無しに提案したわけじゃないんだからさ」
俺はひとまず先ほどの出来事に苦言を呈すことにした。
本来の予定であれば、戦艦トゥファリスを自衛艦で先導し、目的の海域まで移動。
そこで社長に全艦に聞こえるように通信を接続、そこで演説してもらい俺が魔力を使ってそこに島を創造するという流れだった。
しかし、社長のさっきの一緒に来る?的な発言によって総理大臣だけではなく内閣から何人か、そして護衛に数十人。
その動きに合わせて、各国の外交官が日本政府経由で同乗を申請してきている。
ケイリィとムイルさんが今この場にいないのはその対応だ。
一考してくれと、言いつつもすでに決定事項になっている。
空間的には問題はないが、護衛の観点と機密の観点からして俺も樹王も反応は芳しくない。
「戦艦内部に結界を張り、移動できる範囲を制限します。あと樹王殿は万が一があったとしても魔王様から離れないようにお願いいたします。近衛兵はその周囲を警護」
「厳重だね」
「人王の判断は的確です、本来であればこの戦艦の装甲こそ最大の盾であったはずなのにも関わらず、魔王様の判断でそれが無くなってしまったのです」
「まぁ、私にとっては大差ないんだけどね」
「気休めでも必要だと言っているのですよ」
「気休めにしては過剰だけどね。機王自慢の戦艦だ。彼女の理屈なら、核攻撃すら耐えると言うじゃないか」
最強だからこそ、護衛に重きを置かない判断。
いや正確には理解もしていて必要性も納得しているが、それを踏まえても形式以上の意味を持たせないのだ。
だからこそ社長の言っていることは間違ってはいない。
拳銃や、毒程度でこの魔王が死ぬわけがないし、傷をつけるのも生半可な攻撃じゃできない。
この戦艦の強度も、社長にとっては壊せると判断できる代物。
しかし、逆にこの戦艦では社長は倒せない。
その不等式が成り立っている時点で、この戦艦は別の意味でしか社長に価値を見いだせさせない。
それは生活環境だ。
この戦艦内には多量の魔素が収容されている。
さっきまで乗っていた車の比ではない。
循環することによって、俺たちの活動時間は大幅に増えているのも当たり前だが、ここにある魔素を使えばごく短時間であるが社長が全力で戦うことができる。
時間は某三分ヒーローよりも短いが、その短時間でも全力を出せるのなら、社長であればこの戦艦内にいる乗組員と戦艦そのものを魔素範囲内に転移させることができる。
すでに護衛は不要な状態で何を警戒するのだと、社長は笑っている。
その意味を理解も納得もしてしまっている俺と樹王は苦笑を浮かべるしかない。
「そんな船に乗せた方が他の国の方々も安全だと私は思うのだけどね」
結論だけ言えば、社長は一番安全なのは自分の側にいること、何かあったとき魔王が人を守ると言う宣言。
「間違っていませんが」
「ええ、間違っていませんが」
現実的に実力を加味して、言っていること自体に間違いはない。
だけどそれでいいかと言われればダメだと断言できる。
けれども、そのダメだと言うにはあまりにも実力が離れすぎているのだ。
「とりあえず、船内での行動制限をするために準備をしてきます。魔王様はくれぐれも変な気を起こさないように」
「わかってるよ」
「人王、油断してはなりません。この方は理解したうえで我々の思惑から外れた行動をとるのです」
「承知しました」
「ハハハハ!理解が深くて助かるよ」
楽し気な笑い声に騙されないように、深く頷き、そして俺はひとまずその場から外れる。
この艦内は全てゴーレムで動かせると言うワンオペ機能の塊。
操船、保守点検、整備、全てをゴーレムが賄ってくれる。
故に人が機密区画に入らないように指示するにはコントロールルームでゴーレムたちに指示を出す必要性がある。
恐らく道に迷ったと言う言い訳で、変なところに入り込もうとする人物が大勢いると思われる。
なので物理的に入り込めないように隔壁を下ろして回り、ルートの制限、そして機密の確保に走る。
「さてと、これでひとまずは」
そんな作業は十分とかからない。
シンプルに今回の式典を見るだけなら、いくつか入れる場所を制限すればいいだけだ。
食事をする予定も無し。
準備するのもそこまで急ぐことではなかったかと思ったが、外を監視しているゴーレムからの映像を見て。
「安心ではなかったか」
スーツ姿とは違う一団。
見るからに政府の組織人とはかけ離れた格好の集団と、見覚えのある和装集団が向き合っているのを見て大きく、それはもう大きくため息を吐きたくなる。
「樹王殿」
ひとまずは報連相と、念話で樹王に繋げる。
『何か問題が?』
「船外で怪しげな集団と、日本神呪術協会の面々が向かい合ってなにやら怪しい雰囲気が、これから政府要人も来るので早急に対処に向かうので警戒を」
『承知しました。ではこちらも目を光らせておきます』
「頼みます」
これからの行動を勝手に済ますわけにもいかない。
ひとまずは、二重の意味で船内は安心だろう。
侵入者はもちろん、船外の面々に興味を持った社長が動き出さないように監視の目はつけられた。
「ケイリィ、ムイルさん。今どこに」
次いで、部下に連絡を取って同道をさせる。
『私は政府からの要望を取りまとめている最中ね、乗船リストの作成するために通信室にいるわ』
『わしはおそらく婿殿が連絡しているだろう原因を見下ろしているところじゃの』
ケイリィはひとまずはそっち優先だな。
書類関連で確認しないといけないことは多い。
だが、ムイルさんが現場にいるのは助かる。
「ケイリィはそのまま書類作成を頼む、ムイルさんそっちに向かっている。現状報告を」
『少なくとも好意的とは言い難い雰囲気じゃの。神の意志がうんたらかんたらと説教臭くなってからは会話が成り立たぬ様子。相模のお嬢さんも困っているの』
ああ、やっぱりそっち系か。
「どこの国が連れてきたのやら」
『見た目では判断できん。国旗も持っておらん。じゃが、相模のお嬢さんからしたら知り合い以上友人未満と言った感じじゃ』
もしかしたら神秘方面で接触があると思ったが、まさかこんな早い段階で接触してくるとは思わなかったな。
「了解、これから接触に入る。ムイルさんは俺のサポートに、ケイリィはこのまま念話を繋げておいてくれ。場合によっては連れて来たお国にクレーム入れて持って帰ってもらう」
『わかったわ』
『あいわかった』
出来れば聞く耳を持つ組織であることを願うが、唯一神系の宗教団体だと面倒なんだよなぁ。
事前にある程度の海外神秘系の組織の情報は霧江さんからはもらっている。
その中で穏健派と過激派的な組織があって、さらにその中でも注意したほうがいいと忠告を受けている組織のどれかだったら嫌だなと思いつつ。
隔壁を下ろして、見通しが悪くなった通路を進むと。
「婿殿こっちじゃ」
「ああ」
入り口付近を警備していた護衛と一緒に待っていたムイルさんと合流する。
タラップの下、船への登り口から少し離れた場所で屯う集団を見て、思ったよりも空気がピリついているのに気づく。
護衛の方が警戒して警備してくれているおかげで、船内に入り込もうとする雰囲気はないが、少しでも油断すると相手の都合のいい解釈をされそうな雰囲気だ。
「下手にこっちから話しかけたら問題になりそうだな」
「静観が最善じゃなこの場合は」
下手にこちらから話しかければ向こう側からしたら向こうに興味があると受け取られかねない。
騒ぎを鎮静化するにしても距離がありすぎる。
せめて船の入り口付近で警備と問題を起こしたのならまだ対応の余地があった。
しかし、距離が絶妙に離れている。
「服装から見て、どこの組織かな?」
「さての、こっち側の組織の情報は中々入りがたくての」
「少なくとも、キリスト系ではないと思うんだがな」
「その心は?」
「一番の大御所がいきなり来てほしくないと言う願望が半分」
「もう半分は?」
「そんな大御所が来てたら、霧江さんじゃ抑えきれないと思う」
服装が黒いローブで統一された集団。
魔法使いの集団だと言えばそれまでだけど、外套と言い張れなくなない。
しかし、霧江さんと面と向かって話していると言うことは、あの集団も裏側の組織なのだろう。
科学技術とは違う、神秘側の組織。
どこの組織かを示すかのようなエンブレムでも見えればいいのだけど、今のところそれらしいものはない。
「力関係は対等といった感じかね」
「そうじゃな、互いに譲らぬ様子だ」
「しかし、熱は向こうの方が上と」
「そうじゃな、ここまで演説の声が聞こえて来るわい」
そんな組織を見下ろせるような位置だと言うのに、さっきから霧江さんに突っかかっている男の声が響いている。
『我々は神に選び抜かれた精鋭!その精鋭であるのにもかかわらずなぜ彼らは我々を迎えに来ない!!』
「うーん、どこかで聞いたことのあるようなセリフ」
「イスアルの坊主共が同じことを言っていそうじゃな」
「それかぁ」
エリート意識高めなのはいいけど、それを言ってしまったら似非エリートみたいになってしまうから言わない方がいいぞと心の中でお勧めしつつ。
次元という距離を隔てた異世界でも似たような思考があるのだなと感心してしまう。
関わりたくない系統の人物が自分たちのテリトリー付近で騒いでいる。
「しかし婿殿、どうする?もうしばらくすれば政府の要人とのスケジュール調整も終わり、終わり次第こちらに向かってくるじゃろう」
「こっちとしては予定にないお客だ。どういう経緯でこの場に入り込めたかは知らんけど、アポのないお客人には帰ってもらうのが妥当だろうよ」
下手な対応をして式典にケチをつけられるのは勘弁願いたい。
このまま騒ぎを起こした状態で出迎えるのは、俺たちとしても霧江さんたち的にもよろしくはない。
社長が誘った手前、玄関口で騒がしくされるのは困る。
「では、そのように対応するかの」
「手紙……は時間がないか。警備に退去勧告を出さして、退去しないようなら所属国家を確認、正式にクレームを入れると警告、それでも対応しないようならマジでクレーム入れる。その流れでどうかな?」
「問題はないの、あとは日本政府の方にもクレームを入れておくかの、実際この岸壁はワシらのために貸し出された物じゃ。知らぬ相手があっさりと入り込めるのはおかしな話じゃて」
「霧江さんたちがいたから見逃された感があるから、あとで霧江さんたちが事後処理で面倒を抱えそうだな」
「さての、同盟の調印は裏では済んでおるが表向きはまだじゃ、下手にワシらが手を出せる案件ではないの」
こういう方面で「素直に正面切って殴りかかれればいいじゃねぇか」と言い出だしそうな教官を少し羨ましく思いつつ。
部下に指示を出してこの状況の鎮静化にかかるのであった。
今日の一言
派手にやれば、注目を集める。
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現在、もう1作品
パンドラ・パンデミック・パニック パンドラの箱は再び開かれたけど秘密基地とかでいろいろやって対抗してます!!
を連載中です!!そちらの方も是非ともよろしくお願いいたします!!