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597 さぁ。度肝を抜いてやろうじゃないか

 

 自衛隊の歓迎。

 そう言わしめるほどに、厳戒態勢の港内。


 辺りを見れば、海外の国旗を掲げた車両も何台か見える。


 先頭車両が徐行速度で港のゲートを抜けて数十メートル、正確には俺たちの車がすべてゲート内に入り込み、メディアのカメラから完全にシャットアウトするための距離を稼いだくらいでもう一度止められ、今度は先頭車両だけじゃなくて、こっちの車も検閲するようだ。


「人王、私も出た方がいいかな?」

「いえ、魔王さまはここに」

「そうかい?だいぶこちら側を気にしている視線を感じるのだけどね」


 その様子を楽しそうに窓から眺める社長は、興味を持たれていることを喜んでいるようだ。

 その気持ちは理解できる。


 向こう側は、俺たちのことを間接的にでも情報を得ている。

 情報の確度に関して言うのなら、米国が動いている段階で他国は俺たちの存在は確信している。


 問題はどの程度価値があるかという話だ。

 リスクとリターンのバランス。


 どれだけの利益をもたらすような存在なのか、それを考えて行動をとっているはずだから当然こちら側に興味を持つに決まっている。


 自衛隊の検閲によって、魔王軍のトップが見られるかもと情報収集している輩は多いだろう。


 ドローンは飛ばせないだろうが、隠しカメラくらいは潜ませているはず。


 その視線に姿を晒そうかと社長が言った瞬間、俺は止めた。

 そして樹王からの視線が良好ということは、この行動で間違っていない。


「魔王様、あまり人王を困らせないでください。御身に何かあれば国の一大事程度ではすみません。あなたの背には国だけではなく世界の未来もかかっているのです」

「わかっているさ、ただ、私の好奇心も理解してほしいね」

「重々承知しております」


 運転席と俺たちの座っている空間には一枚の壁が施され、ケイリィとムイルさんの座っている位置に運転席と連絡が取れる小窓がついている。


 現在、この車を運転している護衛が自衛隊と対応している最中だ。

 書類とのやり取り、合言葉のチェック、電子パスワード認証、声紋認証。


 四重のパスを通しているのを耳につけたイヤホンで音を拾いながら確認している。


「問題はなさそうですね、すぐに動きだすかと、中に入れば霧江さんと合流できるはずです」

「ふむ、順調か」

「何か問題でも?」

「いや、こういう時は大抵トラブルや横槍が入るのが定石でね、杞憂であっても考えてしまうのが癖なんだ。気にしないでくれ樹王。いつものことさ」

「いえ、その警戒心は正しいことかと」


 会話の態度、声色、気配、いくつもの物から察してこのままいけば問題ないと思っていたが、順調なのが不思議だと口にする社長。


 それは大陸での日常を基準にしているからだと、一瞬思ったが、何か勘のような物が囁いたのかと一瞬俺も気配に敏感になる。


 しかし、それらしいものを感じることなく車が動き出す。


 何事もなく平常に。


 肩透かし、杞憂、その二つの言葉を使うのにはまだ早い。


「そうだね、無事に帰って杞憂だったと笑えるくらいが私たちにとってはちょうどいい」

「はい」


 警戒して損したと、それを糧に手を抜いた者から死んでいく。

 それが魔王軍。


 ちょっとした違和感、ちょっとした虫の知らせ。


 そのちょっとしたものが命を救う。


 こうやって順調に進んでいても、すぐに状況が悪化することもある。


 しみじみと、経験を活かして呟いている社長に樹王は頷く。


「おっと、ここからは徒歩のようだね」

「はい、先に私と部下が出ます。魔王様は安全が確保できた後に」

「うん、わかってるよ」


 その間に車は停留地に来ている。


 見れば、自衛艦だけではなく、海外の軍艦も沖に見える。


 であれば、本当にこれから出す物はきっと注目を集めるだろう。


「ケイリィ、ムイル」

「「はっ」」


 それを出すために、俺は護衛が外に展開し、安全を確保してから護衛が一旦ドアを開き俺とケイリィ、ムイルさんを外に出す。


「状況は」

「はっ、周囲に異常なし。安全は確保できております。後、日本政府から使者が来ております」

「協会の者か?」

「いえ、政府側の人間かと」


 俺も周囲を見回すと、自衛隊の警備の入った港の中が見れる。

 政府の要人は、停泊している船の中か、それともまだ来ていないのか。


 先に現地入りしている理由は俺たちにも準備が必要だからだ。


 そんな俺たちを待ち受けているのは霧江さんたちだと思ったのだが、そうではなく。


「わかった。例の物の展開もある。その確認がてら私が対応する」

「でしたら警護を」

「必要ない。私に万が一あっても魔王様さえ無事ならどうとでもなる。そっちを優先させろ。それに、ここで私を仕留めようとするほど、向こうも馬鹿ではあるまい」


 どうやら日本政府の人員がこっちに用向きがあるようだ。

 なれない口調、慣れない態度に肩を凝らせながら、どこにいると護衛に聞けば、案内しますと先導を始める。


「あなたが日本政府の使者殿か?」

「はい、外務省所属の猿渡です。失礼ですが、お名前を伺っても?」

「魔王軍所属、人王、田中次郎だ。元は日本人であるが、今は向こうの立場を優先している」

「……承知しました。話は聞いていましたが、いざ直面してみますと何とも複雑な心境ですな」


 そして待っていたのは七三わけの眼鏡の五十代の男性。

 背筋がピンと伸びて、スーツをしっかりと着こなしている。


 SPを護衛につけていると言うことは、それ相応の立場と言うことなのだろう。


 名刺を差し出してきたので、こちらも名刺を差し出す。


 日本人顔の、日本名、その名乗りと名刺の名前と役職に目を一瞬瞠目させるも感情に出さないのは経験のなせる技か。


「私の口からは何とも」

「そうですね、ここで色々といってしまえば外交問題に発展しかねない。今回は手を取り合うための式典。互いにいらぬ腹を探るのはよしておきましょう」


 そしてさりげなく釘を刺してくる。

 俺のことをとやかく言わないから、こっちのこともとやかく言うなと言っている。


「ええ、そうですな。よほどのことがない限りは」

「そうでしょうな。よほどのことはない限りは」


 その言葉には概ね賛成であるが、こっちにも限度はあるぞと言っておけば、向こうも了承してくれる。


「さて猿渡殿、こちらへの用向きを早速お聞きしたいのだが」

「ええ、事前連絡で船の方は自前で用意するとお伺いしていましたが、どこの港からも連絡がなく、海上にもそれらしき船舶の姿がありません。なのでこちらの方で船を用意しましたとご連絡にまいった次第」


 そして早速要件を聞こうと話を切り出せば、これから海上に向かうにも関わらず船の用意がないと言うことを懸念した日本政府側が気を利かせて船を用意してくれたと連絡してくれたのだ。


「気遣いに感謝します、ですが問題はありません。こちらの方で船は準備はできていますので、もとより申請していた岸壁の方へ案内していただきたい」

「……かしこまりました。こちらの方で先導します」


 恐らくあの中途半端な位置での停車は、この連絡があったからこそ。

 これからやることは一応、霧江さん経由で政府には伝えてあるけど、猿渡外務官の様子から察して、半信半疑、いや四信六疑くらいなのだろう。


 予想としては、船の技術力も木造船レベル、良くて蒸気船レベルなのではと懸念されている様子。


 だからこそ〝事前〟に船が用意できている。

 政府要人が関わってくる式典だ。


 急に船を用意できるわけがない。


 俺たちのスケジュールを聞いて、船を用意しないと言う選択肢は政府にはないだろう。

 仮に用意できても、安全面でこちらの方が優れているとアピールでき、その通り社長がその船に乗れば色々と融通を利かせやすくなる。


 要は国交関係で円滑にことを進められる要素になると言うわけだ。


 その話に乗るのも悪くはないのだが、生憎とここは魔王軍の面々にとっては死地。

 それ専用の機材のない船に、社長をおいそれと乗せるわけにはいかない。


 猿渡が部下に電話させ、車を回してもらい。

 俺たちも再度乗車し、岸壁の方に車で移動する。


「こちらになりますが……」


 用意してもらった岸壁は、魔王軍が用意した船。

 正確にはちょっと違うが、その船を出すには十分なスペースを誇っている。


 本当にここに出るのかと言葉を濁す猿渡。


 車の中にいた社長からは、派手にやっていいと言われた。


 であるとしたら、いきなり海に出すよりも。


「ええ、これから出しますので少し下がってください」


 こっちに出した方が目立つよな。


 俺が空に向けて右手を上げる。

 何をするのかと猿渡含めて、護衛たちが俺に視線を集めたのを確認した瞬間。


「召喚」


 腕輪に組みこんでいた魔石の魔力を元に俺の手の先に魔法陣を展開。

 ただ、その魔法陣の大きさは尋常ではない。


 瞬間的に大きくなった魔法陣の大きさは直径三百メートル強。


 すなわちそのサイズの大きさの代物を呼び出すわけで。


「戦艦トゥファリス」


 魔法陣の上に、生えるように出現する巨大な船影。


 魔導戦艦トゥファリス。

 機王ことアミリさんから、もらった戦艦だ。


 俺の所有する代物で、今回の式典でも使える代物。


 どうせこっちの世界でも使うだろうと言うことで白羽の矢が立ったわけだ。


 黒く無骨、実用性を重視した重厚感のあるフォルムが魔法陣の上に出現したかと思えば、魔法陣が消えた後でも宙に浮く。


「……」


 いきなり空中に現れた物体に、周囲にいた自衛官たちは猿渡も含めて、目を見開き空を見上げている。


「いかがかな、我が軍の船は」


 そんな光景を作り出した俺が発した声ではない。


「魔王様、まだ外に出ては」

「なに、樹王にも許可はもらった。戦艦が上空を警戒しているのなら問題はあるまい」


 いつの間にか車外に出ている社長と、それに付き従う樹王。

 そして周囲を守る近衛。


「……いやはや、この歳になりここまで驚く経験をするとは思いませんでした」


 その登場に、ハッとなり意識を取り戻す猿渡。


「そうか、それは良かった。是非ともその驚きと感想を総理にも伝えてくれ」


 戦争するつもりなのかと思うくらい武骨な代物の登場であるが、こっちは事前に戦艦を一隻用意して海上に出ると通達して、書類をやり取りし、許可を取っている。

 なのでこれ自体はサプライズではないのだが、召喚という行程、そして空飛ぶことのできる戦艦。


 この二つの要素が交わったことにより、驚かすと言う成果が生み出されたわけだ。


「ああ、それとも一度我が軍の船に乗って見てからの感想を添えてからの方がいいかな?」


 ゆっくりと降下し、海面に着水するトゥファリス。

 その動きを見つつ、社長がさりげなく猿渡を船内に案内しようとするが。


「そうしたいのは山々ですが、こちらにもそうできない理由もあります。もし、可能でしたら式典後にお時間をいただければ」

「ふむ、それも悪くないが、そうだね。そちらも警備の関係もあるだろうさ。無理にとは言わない。ただ一つ伝言を頼もうかな」

「伝言ですか?」


 それはできないと辞退を申し出される。

 当然と言えば当然か、見も知らない船にいきなり案内される。

 何かされる心配はないだろうけど、不安が残る誘いにおいそれと乗るわけにはいかない。


 それを理解したやり取りに、社長はでは代わりにと一つの伝言を猿渡に頼むことにした。


 俺と樹王は何となくこの後の言葉が予想できる。


 多分ムイルさんあたりも予想しているだろう。


 しかし、予想しているからと言って止められるわけじゃない。


「ああ、もしよければ式典の道中我が軍の船に乗らないかというお誘いさ」


 その予想通りの言葉を聞いて、俺と樹王はきっと同時に心の中で溜息を吐いただろう。



 今日の一言

 ド派手に決めたのはいいが、あとのことはしっかりと考えよう。







毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。

面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。


現在、もう1作品

パンドラ・パンデミック・パニック パンドラの箱は再び開かれたけど秘密基地とかでいろいろやって対抗してます!!

を連載中です!!そちらの方も是非ともよろしくお願いいたします!!

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