表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
609/800

596 セレモニーは盛大に

 

「やぁ次郎君、今日は世話になるよ」

「魔王様、本日はご参加いただきありがとうございます」


 スエラたちと前祝で祝杯を掲げ、酒もほどほどに夜もほどほどにして休んだ昨夜。

 体調が万全な状態で挑んだ早朝。


 現在時刻は朝の六時。

 その時刻に盛大に護衛を引き連れた社長が、会社のロビーに姿を現した。


 出来るだけ早めに行動せねばならない故に、こっちは四時起きの、十分前待機。

 しかし、流石魔紋で強化された肉体。

 眠気一つ感じさせない。


 対外的に俺も将軍ということで普段の呼び方を変え、魔王様と呼ぶ。


「いやいや、エヴィアが妊娠してから盛大に仕事が増えてしまってね。今回のようなイベントはちょうどいい息抜きになるさ。それに私も外に出れるまたとない機会さ」


 愚痴っぽい本音は基本的に笑顔でスルーが基本。

 下手に触れて、俺の仕事が増えるのだけは避ける。


「そう思っていただければ幸いです。諸君らもご苦労」

「は!ありがとうございます人王様!」


 上司としての威厳を確保するために敬語を使い分けないといけないのが面倒だが、立場上仕方ないと割り切り、社長の背後に控える集団に話を振れば先頭の護衛が返事をする。


 彼らは近衛兵。

 普段は鎧姿であるが、今の格好は日本でも目立たぬようにと配慮されスーツを着ている。

 しかし結局SPのような恰好をしていればいやがおうにも目立つ。

 そのスーツ一着一着には多大な経費がかけられ、高級車ですら足下に及ばない額に依り防御能力が保証されている。


 布製なのにも関わらず金属鎧並みの強度、身体強化能率のアップ、魔力バッテリーの効果、ポケットにはマジックバッグ効果とそれ以外にもアクセサリーによってさまざまなバフがかけられている。


 なにせここから行くのは魔素のない世界。

 所謂、死の世界に近い社外にこの魔王軍のトップを赴かせるのだ。


 今回のセレモニーは一般公開はしないものの、政府要人、それも総理大臣が出席する。

 他にも海外の外交官に著名人、一番の有名どころで言えば星条旗を掲げる国の副大統領が出席する。


 すでに東京湾には海上自衛隊の船が集結。

 メディアも何かあると、ヘリを飛ばそうしているが、空路は全て閉鎖され、空港からの離着陸が許可されない。


 港にはメディアが押しかけているが、完全情報遮断体制で挑んでいるため警官隊が出動している。

 政府要人の護衛に、一般人の排除。


 メディアには後で正式に発表すると広報では周知されている。


 それを待てないジャーナリストたちがわれ先にと道でない道に出て、無理矢理船を出そうしているが、海上も海上で、海上保安庁が警護しているためろくに海域に出ることができない。


 陸海空のすべてを抑えた今回のセレモニー。

 それを見せるため、魔王軍のトップである社長が赴かないと言う選択肢は出なかった。


 厳重警戒に加え、そこに将軍である俺も同行。

 さらに加え。


「お待たせしました」


 もう一人将軍として同行する人物がいる。

 待ち合わせ時間よりも先に来ていたのは確認済みで、事前に挨拶はしている。


「魔王様、車両の確認と魔素発生装置の方は正常に稼働しております」

「うん、確認ありがとう樹王。人王も準備の方大儀だ。今回のセレモニーは歴史的変化となる。気を引き締めるように」

「「はっ!」」


 その存在はダークエルフのトップである樹王だ。

 会社の奥からではなく、外から出てくるのは俺が用意した車両の最終チェック。

 ダークエルフの私兵を引き連れての登場は、俺の準備を疑っているのではなく、自分の目でも確認しないと気が済まない性分だとスエラとケイリィに聞いている。


「樹王殿確認ありがとうございます」

「よしなに人王。むしろ不快な気分をさせてしまったかもしれないことを謝罪します。なにせ魔王様を守るため必要なこと、容赦をしてください」

「必要なことだと理解も納得もしていますので謝罪は不要です。こちらとしては念入りに安全が確保できたと感謝したいくらいです」

「寛大な心に感謝を。今日の護衛は私が責任を持ちますので、あなたは作業に専念することを願います」

「わかりました」


 樹王ルナリアが今回のセレモニーでのエヴィアの代わりに社長の直近として同行してくれるのは事前から聞いている。

 将軍位になってからもそこまで関りはないが、互いに嫌悪感はない。


 先輩将軍故に、頭こそ下げないが敬語は忘れない。

 あまり交流がないので、こういう時は対応に困るが、仕事とプライベートは別、折り合いはしっかりとつける。


「では、時間ですので魔王様乗車をお願いします。護衛は周囲の安全を確保しそれぞれ分乗をしなさい」

「「「は!」」」


 護衛の指揮は樹王ルナリアがしてくれるから、基本的に俺は外交対応がメインになる。

 それにいざという時は魔素がなくても動ける俺は切り札とも言える。


 時間を確認し、準備ができたことが確認できれば俺たちは移動する。


「ケイリィ、ムイル、行くぞ」

「「はい」」


 俺の同行者はこの二人だけ、量より質を優先したと言えば聞こえはいいかもしれないが、正直言えば社長の近衛と樹王ルナリアの私兵だけで既に過剰戦力なのだ。


 加えて、海上移動をする際に準備しているものがあるので俺は最小限の人員で済ませている。


 社長の移動に合わせて、護衛も動き、玄関口から外に出るだけでもかなりの警備体制。


 この会社に関して情報が洩れているのは最早事実。


 監視も日夜感じているために様々な間諜対策を施している。


 メディアへは流石に漏れていないようなので、パパラッチがいることはないが、それも今日までだろう。


 ニコニコと余裕を感じさせる様に、護衛によってつくられた通路を俺が先頭を歩き、背後にケイリィとムイルさん、その後ろを社長が通り、背後に控える形で樹王。


 ハッキリ言って、この中で最強格の社長を護衛する意味ってあるのかというのはあるが、ここから先は社長にはかなりきつい環境になる。


 魔素がない空間というのは魔王軍にとっては酸素がないようなもの、多大な魔力を貯蓄できる魔王であっても、魔素を補給できないと言うのはかなり致命的である。


 事実エヴィアも外との交渉をするときは、かなり危険な状態で交渉に赴いていた。


 そんな環境に社長を連れて行くのは反対されるような事案であるのだが、弱みを他国に見せないためという理由もあって、今回のセレモニー参加があるのだ。


 車に乗り込めば、外に出た時の息苦しさというのは緩和される。


「なるほど、魔素のない環境か、思ったよりも負担が多いみたいだ。こっちの世界だとおいそれと私も全力を出すことは難しそうだね」


 僅か玄関からでて十数メートル。


 その短い距離、しかも会社の直近で薄くなりつつも魔素はある空間で違和感を感じる社長は余裕を崩さずに素直な感想を車に乗り込んで話し始めた。


「樹王どうだい?外の世界の感想は」

「エヴィアより詳細を聞いていましたが、やはり違和感が強いと感じます。精霊の気配も、魔素の気配も感じぬ虚無の世界。今回の外出の必要性は理解し納得はしておりますが、正直に言って、危険極まりないと言う感想が第一に来ます」


 護衛が続々と別の車両に乗車。

 社長の乗ったリムジンを中心に護衛隊列が組まれて発車する。


 動き出した外の景色を見て、機嫌よさげに社長は樹王に話を振るが、感情を抑制した声で樹王は返答。


 その内容は危険を知らせ、警戒心を解かない心構えを感じさせる。


「ハハハハ!確かにその通りだ。ある意味でこの世界はイスアルよりも侵攻が難しい。何せ根本からしてこちらで生活するにはこういった車のような道具が必須だ。加えそれも魔素の供給が常時可能ということが前提。なんとも窮屈な世界だよこの世界は」


 その返答を是として、社長はニコニコと笑みを絶やさず、この地球を窮屈な世界と例える。

 魔素を感じ取れるようになった俺も、その感想には頷ける。


 車を触り、そしてそっと指にはめた魔石のついた指輪を見る社長。

 そのどれもがさっき社長が言った、外で生きるために必須な魔素を生成する魔道具だ。


 正確には無から魔素を作り出しているのではなく、エアタンクのように高濃度に圧縮した魔素を溜め込んだ魔石を介して、車内という限定空間を密閉空間にして魔素を循環させると言うシステムだ。


 俺たちのような魔紋持ちは、行動するだけで体内の魔素を吐き出したり吸収したりを繰り返す、そのサイクルで魔王軍という種族で魔素消費を抑えるための道具だ。


「しかし、裏を返せばその楔さえなくなればだいぶ居心地の良い世界にもなるかもしれないね」

「私としては空気が汚染されすぎて、あまり好ましい世界ではありません」


 その道具に縛られている魔王というのは窮屈だと言っても過言ではない。

 楔と称しているのもそのためだろう。


 それがなければ世界旅行でもしかねない勢いで話す魔王の言葉に、都会のコンクリートジャングルは好ましくないと言い放つ樹王。


「ここはあくまで人が生活する環境ですから、少し足を延ばせば自然豊かな環境もあります。樹王殿はそちらの方が好ましいでしょうね」

「そのような場所はいんたーねっと?である程度は承知しています、様々な絵を見てそこに足を運べるようになるのは夢が広がりますが、眼前の障害を排除してからの話になりますから、しばらく夢はお預けになりそうですね」


 かと言って、この世界全てが好ましくないと言うわけではなく、おっかなびっくりにスマホをいじると噂の樹王が調べた土地は自然豊かな画像が多数存在し、そちらには好感を抱いているらしい。


「ええ、そのためにも今回のセレモニーは是が非にでも成功させねばなりません」

「はい、あなたの計画は魔王軍に新たな風を呼び起こすでしょう。期待していますよ人王」


 貴族達との関係は微妙であるが、将軍との関係は意外と良好だ。

 基本的に実力主義だからというものもある。


 一番関係が微妙なのは竜王ぐらいじゃないだろうか?

 俺の体には竜の血が流れているんだが……


「ええ、その期待応えさせてもらいますよ」


 同族ではないと認識されているのかもと考えつつも、車内の雰囲気に合わせて会話を繰り広げる。

 ケイリィとムイルさんも車内にいるけど、無言を貫いている。


 なので基本的に俺と樹王と社長の三人が会話の中心となる。


 といっても仕事中のため、会話の内容は基本的に仕事の内容かそれに関わる話ばかり。


 業務内容であれば色々と話すことがあるので話題が尽きることはない。


 そして戦闘系列の話で盛り上がっている間に、目的地に着く。


「ふむ、報道陣がだいぶ集まっているようですね」

「想像している五倍はいるな」

「ハハハ!ここまで注目を浴びていると言うのは中々気分がいいね」


 早朝だと言うのに、カメラを構えた人間が大勢いる。


 この車はスモーク張りになっていて、外からは黒くて見えず、中からは外が見えるようになっている。


 その車内からカメラがこの車の集団に注目するのが見え、シャッターを切りフラッシュがたかれるのが見えるが、中は見えることはない。


 先頭を走っている車が入り口の警察官に書類と身分証を見せ、中に入れるよう手続きする。


 姿かたちは偽装しているから、傍から見ればどこかの国の外交官が来たかと思われるが、国旗を掲げていないからどこの国かはわからない。


 そのまま封鎖されていたゲートを抜けて、港に入る。


「ふふ、中々の歓迎ぶりじゃないか」


 その港内に並ぶ自衛隊の様相に社長は笑みを浮かべるのであった。


 今日の一言

 やるなら盛大にやりたい。




毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。

面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。


現在、もう1作品

パンドラ・パンデミック・パニック パンドラの箱は再び開かれたけど秘密基地とかでいろいろやって対抗してます!!

を連載中です!!そちらの方も是非ともよろしくお願いいたします!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ