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595 いざ一歩踏み出す時は緊張と興奮の狭間で

新章突入です!!

 


 ケイリィとのつながりを深めたあの日の夜を、今では懐かしむことができる程度の時間が経過した。


「ついにかぁ」


 そして、俺は今感慨深い気持ちで満たされていた。

 エヴィアの妊娠、ケイリィとの婚約と慶事が続き、今度は何か続くかと思ったが。


「明日からダンジョン島の建設開始か」


 まさか本当に年内に建設が開始されるとは思っていなかった。


 明日、早朝に海上に社長を伴って海上自衛隊に護衛されながらその儀式が行われる。


 その最終チェックの押印を済ませ、書類を発送したのは一週間も前の事。

 ここまで来ると上司である俺の仕事は、後は野となれ山となれ結果を見届け報告を受けるだけの形になる。

 部下たちが懸命に下準備をチェックし、問題がないか奔走し、不安を塗りつぶすほど決意と自信をもってして大丈夫だと宣言した。


 なら俺はそれを信じるだけだ。


「まさか日本からいきなり大規模無償支援が来るとはなぁ」


 本来であれば年内と言ってもクリスマス前、十二月の中頃に設営開始予定であったが、今は秋に入りかけ、年を越すには三ヶ月という余裕持ってダンジョン設営が開始されようとしている。


 その理由はリターンを求めないと言う何とも怪しさ満点の資材に関しての支援があったからだ。


 霧江さんを通してでなければ怪しいので門前払いするレベルの大量支援。

 連名が、この前にやった婚活パーティーで色々とやらかした家の名前だったので怪しさは二乗倍。


 絶対に受けてはいけないと、直感どころか常識で判断できるレベルの怪しさだ。


 資材に資金、さらには人材を駆使しして工期を短くできるような良条件の支援を約束しておきながら見返りがほぼない。


 この支援の裏を疑わず、素直にありがとうと言えるほど能天気ではない。


 しかし、事情を聞けばその感想は一転した。


「恐るべしは神か」


 この工期短縮を成し遂げた裏の理由が、神の怒りだからというのだから正直笑うに笑えない。


 俺たちが計画した婚活パーティーで問題行為を起こした輩の処罰。

 本来であれば人の範疇で終わらせる予定だった。


 実際、魔王軍に関しては社長の許可こそ取ったが、基本的に俺の裁量で色々と問題は片付いた。

 だけど日本側はそれでは済まなかったらしい。


「どこの世界でも障らぬ神には祟りなしってことかね」


 誰もいなくなったオフィスで、パソコンの画面に表示されているダンジョン計画書の最終チェックをしている俺はこの計画書の問題がないことを確認し終えると電源を落として、ふぅっと一息を吐いてそんな言葉を漏らした。


 ミマモリ様が立案したと言うことは、そこに神の意志が介在したと言うこと。


 どうせ問題ないだろうと、高を括って問題行動を起こした輩は一家断絶の危機に陥るほどの怒りを買ってしまったらしい。


 霧江さん曰く、ガチで怒った神を鎮めるのに本当に苦労したらしい。

 どうにか妥協点を模索し、それを提示した結果がこれだと言うこと。


 神の怒りを鎮めるには捧げ物が必要。

 しかし、今回ばかりは並大抵の品じゃ神に捧げ物をしても怒りを沈めることはできない。


 では何をしたかというと、神の願いを叶えることで奉仕しそれで留飲を下げてもらおうと言うことらしい。


「神の権力が健在だと言うことを目の当たりにした気分だよ」


 ちらっと隣を見ると、オフィスに飾られている明らかに高そうな壺、そこに生けられている異世界の花々。


 それもこの謝罪の一環で、なんでも歴史の深い華道の家元らしく。

 異世界の花で祝わせてほしいと嘆願までしてきた。


 日本は無神論者が多いと思っていたが、本当に信じている人はいまだ神の恐ろしさを信じている。


 どんなことを言われたか、どんな怒られ方をしたかは知らないし聞く気もなかったが、少なくともだいぶ効果があったのはうかがえた。

 神妙な面持ちであのパーティーに参加した子息とその家の当主が連れだって俺に土下座したのだから。


 日本神呪術協会のお偉い方が、顔面蒼白にし平にご容赦をと声を揃えて謝ってきた。


 唯一立っていたのは霧江さんだけという異常な光景は時間が経過した今でも色褪せることなく思い出すことができる。


 俺の背後で秘書として控えていたケイリィはなんだかうれしそうな気配を醸し出していたけど、俺はそれどころではなかった。


 なにせ、その一同の格好が問題だった。

 白い装束が示すのは、死に装束。


 切腹をし、その命を持って償うことを示していたのだ。


 もし仮に、俺がこの支援を断われば、この家の者たちは本当に神の怒りによって大変な目に合う。

 理不尽とは言い切れない。


 先に神の怒りに触れたのはこの家の者たち。

 自業自得。


 しかし現代日本の常識に照らし合わせると死ぬことは流石にやりすぎなのではとは思わなくはない。


 けれど、それはあくまで日本の一般人の常識。

 裏のスピリチュアル的な常識では、これが最上級の謝罪の証になる。


 ここで日本人特有の同情で相手を許してしまうことは、異世界の将軍としてはできない。


 故に。


「これが責任ってやつかね」


 この支援を受け入れるにあたって、いくつかの契約を結び謝罪を受け入れた。

 ただただ無償で受け入れるだけでは、付け込まれる。


 であるなら、こっちも多少の無理難題を押し付けてこっちを有利にしておかなければいけない。


 無償支援を受けることによって、後々付け込まれないように出した条件の概要は三つ。


 一つ、この支援は慰謝料として支払うものであると明文化し、署名捺印及び血判状を互いの組織の長の立ち合いの元署名する。


 これはこの支援が無償であることを蒸し返されないことのための処置だ。

 無制限に搾り取らないために、支援の量はあらかじめ決めているが逆にその支援が完了するまでは払い続けなければならない。


 二つ、今後ダンジョン設営に当たって妨害行為を成さず、また勢力内及び勢力外に於いて魔王軍に害意のある存在が発覚した場合即座の報告。もし、その妨害行為を行う勢力に本件の関係者がいた場合追加の損害賠償を支払う。


 続く二つ目の条件は、ダンジョン設営に当たってのスパイ活動に対する防衛処置。

 基本的にダンジョンを作るのは魔王軍の人員で構成するが、その人員に買収工作を仕掛けたりするのは想定されている。

 であるならそれを避ける処置が必要だ。


 これはある意味で日本に盾になれと言っているようなものだが、あくまで密告を基本としている。

 物理的な対策は求めておらず、情報的な対応だけを求めている。


 そして三つ目。

 ある意味でこれが一番重要なのだ。

 もし、こちらが異世界での戦争で勇者と対峙した場合、その身内を召喚。

 並び、政治的および権力が高い地位の者を同行させ勇者脱退を交渉させる。


 うん、戦場に一般人を呼び出すことは心が痛むのだが、逆を返せば話し合いで相手の戦力を削れるのならかなりの儲けものだと思う。


 神に洗脳されているから可能性は低いがゼロではないはず。


 相手も魔王軍憎しで襲い掛かってくるだろうし、常識なんてドブに捨て去ったという姿もさらすかもしれない。


 だったら、逆にその姿を見せつけて勇者召喚の危険性を世界中に認識させる目論見もあるのだ。


 世界に広げよう反イスアル思想作戦というわけだ。

 日本のメディアならもうこの話を大々的に公表してくれるだろうし、SNSとかでもトレンド入りを狙える。


 こっち情報社会において、伝達速度という点では異世界の比ではない。


 これを提示しようと社長に提案したら、大爆笑。

 エヴィアには感心された。


 追加効果で、こっちは勇者を可能なら救出しようと言うスタンスを取っておいて好感度も稼ぐと付け加えれば、社長から花丸をもらえるほど力強く認可がもらえたと言うわけだ。


 概要だけはこんな感じだが、詳細に関してはもっと法律に準じた形の明文化が行われ、その署名が行われた。


 そこから日本神呪術協会の名義で大量支援が開始された。


 協会名義なのは、あくまで神の好意という評判的な問題。

 お金を出すのは問題を起こした家たちという、協会の権威を高めるための流れだった。


「こんな日くらい、ゆっくりと休めばいいのに、あなたの心配症は最初から変わらないのね」


 そんな支援の流れを思い出していると、薄暗い空間から足音が聞こえその姿を現す。


「ケイリィ」

「スエラからまだ帰って来てないって連絡が有って、もしかしたらって思ったら…案の定ここにいたわね」

「流石に一世一代の舞台だからな。柄にもなく……いや、人生の中でもかなりの大勝負になってしまうからな。こんなことを経験してない、経験の浅さを補っていた」


 思ったよりも考え込んでいる時間が長かったらしく、ケイリィに言われて腕時計で時間を確認すれば、夕食の時間までもう時間がない。


 今日は明日の前祝ということで、ヒミクが腕を振るってくれると言うのに。


「大丈夫よ、あなたが集めた人材は優秀な人ばかり。何が何でも成功させて見せるわよ」


 不安が表立ってしまった俺に向けて、ケイリィはその不安を吹き飛ばすようにハツラツとした笑みを見せる。


 その笑みは、一緒に働いていた時にも見てきた笑みのはずなのに、あの日ともに夜を過ごしてから、さらに美しさに磨きがかかったように見える。


「?どうしたのよ、じっと私の顔を見て」

「いや、ケイリィが綺麗になったなって」

「……何よ、そんな冗談言えるなら思ったよりも緊張していないじゃない。」

「本心なんだがな。あと、ケイリィが大丈夫って言ってくれたから、不安が和らいだだけだよ」

「ああ、もう、調子狂うわね」

「嫌か?」


 それを正直に言えば、照れたような笑みに表情を変える。

 距離感が良い意味で縮まった。


 公私はしっかりと分けてはいるが、仕事中の態度でも彼女はプライベート特有の心の近さを利用して、前よりも俺の考えを旨く察してくれるようになった。


 おかげで仕事の能率がかなり上がったと言える。


 ただ代わりにムイルさんから。


『もう、二人か三人くらい曾孫が欲しいのぉ』


 という言葉をいただいてしまったが、それは鋭意努力する方針でということで。


「嫌なわけ、ないじゃない」

「そうか、それなら嬉しい」

「あなた、前よりも意地悪になったんじゃない?」

「そうか?素直に気持ちを伝えているだけだ」


 席から立ち上がり、帰り支度を始める。

 俺は人の気持ちを察することが得意ではない。


 ならばせめて、自分の気持ちだけは極力伝えるようにしている。

 羞恥心なんて言葉は、自分の恥を語る時だけ持っていればいい。


 好きだと言う言葉はしっかりと伝えないとな。


「そこがずるいのよ」

「嫌か?」

「聞かないで、わかってるでしょ」

「ああ、今わかった」


 なにせこの立場はいつ死んでもおかしくはないのだ。

 ここから先、ダンジョンの責任者にもなるのだ。


 俺の地位的価値は格段に上がる。


 立ち上がった俺の腕を嬉しそうに抱く、ケイリィという守るべき存在が増えた。


 エヴィアのお腹に、新たに守るべき命も宿った。


 死ぬわけにはいかない。

 だけど傷つくのは俺が最初だ。


 守るために前に出る。


 その結果死ぬかもしれない。


 だから、こうやってしっかりと伝えられる時に伝えておかないとな。


「行こうか、ケイリィ」

「そうね、ヒミクさんの料理楽しみだしね」

「ああ、早くいかないと冷めるしな」

「なら転移で帰る?」

「いや」


 後悔が残らないようにできるだけ言えることは言っておかないと。


「ケイリィと一緒にいれる貴重な時間だからな、ギリギリになるが歩いて帰ろう」

「そうね」


 明日から忙しくなるだけどこの幸せを嚙みしめて。



 今日の一言

 ついに来た日は、緊張と興奮が入り混じる。










毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。

面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。


現在、もう1作品

パンドラ・パンデミック・パニック パンドラの箱は再び開かれたけど秘密基地とかでいろいろやって対抗してます!!

を連載中です!!そちらの方も是非ともよろしくお願いいたします!!

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