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593 常識というのは常に塗り替えるためにある

 

 昨夜の事前に連絡してあるからこそ、あの婚活があったその翌日にこんな場が設けられた。


「本当どの面下げてこんなことを言うのか私自身も戸惑う所はあるのですが、彼に心底惚れ込んでいました。私に彼を慕うことを許してくれないでしょうか」


 屋敷の応接室。


 それもうちの屋敷の中では一番上等な部類に入る部屋で俺を含めた六人がいる。


 俺とスエラ、メモリア、ヒミク、エヴィア、ケイリィ。


 俺が上座に座り、俺から見て右手にスエラ、メモリア、ヒミク、エヴィアが、左手にはケイリィが一人で座っている。


 昨日のようなドレス姿ではなく、きっちりと決め込んだスーツ姿で俺の屋敷に足を運んだケイリィ。


 事前にアポを取っているため、俺の婚約者たちとケイリィの対談が成立した。


 真剣な面持ちでセハスに連れられ応接室に通されたケイリィは頭を下げ、親友であろうと礼儀を通そうとした。


「ケイリィ」


 そんな彼女のことを見守ることしかできない俺は、代表して話を始めるスエラの横顔を見る。

 いつもは微笑みを絶やさない彼女の顔もケイリィと一緒で真剣なものになっている。


「私は前回言いました。真剣に考えるのなら私は構わないと」


 声色も、普段よりも鋭さに磨きがかかり、今度はごまかしを許さないと言う意思を明確に示す。


「その時のあなたは、冗談だと言いました。一度目は許しました。しかし、二度目は許しません。例えあなたが親友だろうとも、いえ、親友だからこそ許しません」


 昨日の話し合いでは和気藹々と話していたが、今の彼女の雰囲気はその時と真逆。

 エヴィアがこの家族の要はスエラだと言っていた。


 それについてメモリアもヒミクも否定はしなかった。


 俺が柱で、スエラはその柱を立てるための地盤だと。

 自覚も理解もあったが、それはまだ不足していたと改めて思わせるほどの迫力。


「答えてくださいケイリィ。先ほどの言葉に嘘偽りはありませんね?」


 一人の女性としてではなく、この家庭を守る者として、親友と向き合う彼女に向けてケイリィは一度だけゆっくりと目を瞑った後。


 その目を開き。


「ないわ」


 そっと右手を心臓のある部分に置いて。


「神に誓い、私の誇りに誓って彼を愛している気持ちに嘘偽りはない」


 彼女の覚悟の籠った言葉を言い放った。


 その言葉の直後にシンと静まり返る応接室。


 合否の判定を知っている身ではあるが、それを伝えるのは俺の役目ではない。


 あくまで俺は見届ける立場。


「……ようやく素直になりましたねケイリィ」


 数秒の時間を長く感じたのは教官との真剣勝負以来じゃないだろうか。


 ふぅ、と大きく息を吐きだした後表情を崩したスエラの言葉によって、ようやく空気が弛緩し、時間の流れが元に戻った。


「いやぁ、ご迷惑をおかけしました」

「本当です」


 いつもの親友のやり取りに、俺もそうだが、メモリアたちの表情も緩まる。

 後ろ頭に手をやり、少し照れくさそうに笑うケイリィ。


 その彼女に向けて、スエラはほっと一安心したかのような顔を見せるが、すぐにその顔は困ったような顔に変わる。


「あなたが素直にならないからこんな面倒なことをする羽目になったんですよ。反省してください」

「いや…だったら、もう少し穏便な方法でもよかったんじゃ」

「私がやらなかったらエヴィア様に面談をまかせていましたよ」

「流石私の親友、私の気持ちをわかってるわ」

「ほう、その態度の変わりようそれはすなわち私の面談は受けたくないと言うことか?」


 心情的に察することはできると言っても、こんな詰問染みたことをするのは心が痛むのか、反省を促すような口ぶりでケイリィに言うスエラ。


 それに対して、もう少し手加減を求めた彼女であったが、これでもしっかりと手加減されていたことに気づき綺麗な手のひら返しを見せる。


 それを見て、ほうとどこか感心したかのようなニュアンスを含めたエヴィアの声が参戦する。


「いえ、決してそのようなことは」


 途端にピンと背筋を伸ばしまるで新卒の大学生のような感じで緊張の色を見せるケイリィ。

 それは悪手だぞと、心の中で俺は突っ込む。


 ケイリィも知っての通り、エヴィアは揶揄うことに関しては手を抜かない。


 少しでも遊びができればそこに綺麗に手を差し込み遊び始める。


 地位を使った言動であるものの、パワハラにはならないスレスレのラインを攻めてくるからいやらしい。


「冗談だ。今の私の機嫌がいいのが幸いしたなケイリィ。今日ばかりは目を瞑ってやろう。スエラ、私は仕事に戻る。歓迎会に関してはそこで見守ることしかできない男の財布から経費を出すように、良い果物を用意してくれ」

「承知しました」

「果物?お酒じゃなくて?」


 しかし、昨日知った内容により、エヴィアの機嫌はかなり良い。

 優しく微笑み、転移じゃなくて歩いて立ち去る姿にケイリィは違和感を感じたようで、何があったと俺とスエラに確認するように視線を向けるが。


「今は知らない方がいいですよ」

「そうだなぁ」

「え、何、あんなに機嫌のいいエヴィア様見るの初めてだから逆に怖いんだけど」

「悪いことではありませんよ。少なくともそれだけは断言できます」

「むしろ良いことなんだけど、ケイリィに伝えるのにはタイミングがなぁ」


 それを応えるわけにはいかない。

 ハーレムの性質なのか、こういった感じで慶事が重なることがある。


 優先順位というものが自然と発生するが、そこはしっかりと身内で話合わなければならない。


 でないと一つの慶事がもう一つの慶事を微妙なものに変えてしまう。


「ひとまずそのことについてはいいでしょう、ケイリィさん改めてよろしくお願いします。しかし、負けません」

「うむ、歓迎するぞケイリィよ!だが、負けん!」

「いや、その、歓迎してくれることは嬉しいんだけど、何でこの二人は私にライバル意識を持っているのかしら?もしかして私、歓迎されていない?」

「そんなことはありませんよ。正直に言えば、将軍になってからの次郎さんのタフさはかなりのモノになってしまっているので、正直夜の相手が増えてくれることは助かります」

「うむ、熾天使である私でさえ一人で相手をするのは厳しいものがある。いや、二人っきりの時の愛しさと幸せさは何事にも代えがたいものがあるのだがな」


 だからこそエヴィアの妊娠に関してはひとまず秘匿しておくわけだ。

 そのことに関して引っかかるものを感じるだろうが、今はそれで納得してくれ。


 メモリアとヒミクが、何か含みのある笑みでケイリィの後ろに回り込んでいるけど、それも深い意味はないんだ。


 そのプレッシャーはある意味で俺が感じるべきものなんだ。


「ええと、つまりどう言うことかしら?」


 スエラに続いたのはエヴィアだ。

 その後に続きたいと願われるのは男冥利に尽きるのだが、こればかりは授かりものでどうしようもない。


 いや、まぁ、ダークエルフのスエラに子供を産んでもらった実績を作っているから、ケイリィを警戒している気持ちもわからなくはない。


 しかし、それを理解できないケイリィには不可解に見えるだろうさ。

 グッと左右からメモリアとヒミクに両肩を握られて、不安に駆られているケイリィは俺たちに助けを求める視線を向けてくる。


「ひとまず、ケイリィの歓迎会に関しましてはヒミクが料理を作ってくれますので」

「え、スエラ?親友をこの状態にしたまま話を進めるのかしら?」

「メモリアたちの気持ちを察しての判断です。害意はありませんので」

「害意はなくても被害はあるわよ。主にプレッシャーを浴びる私の精神に」


 しかしスエラは取り合わず、そのまま今日の予定について話を進めようとする。

 その行動に愕然とするケイリィ。


「次郎君」

「メモリア、ヒミク、今度四人分の埋め合わせをするからそこら辺で勘弁してやってくれ」

「では一日デートと言うことで手を打ちましょう」

「ふむ、となるとジーロは四日の休日を確保する必要があるな」

「いえ、ケイリィの分を含めて五日ということですね」

「……来月中までには達成する」

「妥当ですね」


 そしてその次に助けを求められた俺は、休日を無理矢理作り出すと言う試練を課される。

 脳裏に浮かぶ自分の受け持っている仕事のスケジュール。


 それを高速そろばんで弾き出し、どうにか確保できる日取りに検討を付けて婚約者全員分のデートの日取りを確保した。


 捕らぬ狸の皮算用であるし、変なトラブルに見舞われたらご破算になる可能性が高いがそれでも彼女たちとの約束を守るために根性の見せ時だと判断。


 メモリアの了承をもらえたことによって、そっとケイリィの肩から手を放す両名。


 ケイリィはホッと安堵している。


「後で説明してくれるんでしょうね」


 その奇怪ともとれる女性陣の行動を怪しむケイリィだったが。


「ええ、今夜の歓迎会が終わった後に、次郎さんが説明してくれますので」

「……わかったわ」


 スエラの一貫した態度に、これ以上の説明はしてくれないと言うことを察したので不承不承ではあるが納得して見せる。


「うむ、話はまとまったな。では私は料理の準備があるのでなここで失礼するぞ。ケイリィよ食事には期待しておいてくれ。腕によりをかけて準備させてもらう」

「私も行きましょう、食材の調達に関してはお手伝いできるかと。では後ほど、食事の席で」


 ご褒美があるから人は頑張れる。

 先ほどより純粋に歓迎の言葉を紡いで立ち去る二人を見送り、一気に半分まで減った応接室になった途端。


「はぁ、緊張したわ」


 ソファーの手すりに頭を乗せて脱力するケイリィ。


「ふふ、あなたでも緊張するんですね」

「するわよ。まぁ、嫌な緊張ではなかったけど」


 たった数回のやり取りであったのにも関わらず、全力で挑んだ故にその後にくる反動で脱力してしまったのだろう。


 せっかくのスーツがだらしなくなるくらいに力を抜いている。


「次郎君も全くフォローしてくれないし」

「いや、あの場で俺が色々というとダメだろ」

「そうですね。むしろ次郎さんの行動は中立性を保っててくれましたよ。ここで下手にあなたの側に立たなかったことで、全員平等に扱うと宣言しているようなものですから」

「わかってるけど、どうも釈然としない」


 親友と、恋人となった俺だけだからこそそういう姿を見せていると言うことか。


「愚痴は次郎さんと二人っきりになったときに言ってください」

「そうする」

「ええ、今晩にでもじっくりと話合えるでしょうから」

「え?今晩?」

「はい、流石に恋人になった最初の夜を私たちがもらうわけにはいきませんから」

「……」


 しかし、そんな態度を見せる間柄ということはスエラの方も容赦なく、今後の予定を伝えるということ。


「はぁ!?」


 今晩、何が起こるかを察したケイリィは顔をいっきに赤くして、鯉のように口をパクパクと開いたり閉じたりするが言葉が出ることはなかった。


「ちなみにですが、次郎さんがまともに時間が取れる日は貴重です。先ほど私たちとの時間を確保してくれるとの約束もありますので、今夜を逃したら当分ムードのある夜を過ごせるとは思わないでくださいね」

「……スエラ、実は怒っていない?」

「怒って〝は〟いませんよ」


 今夜ナニが行われるか。

 婚約しているとは言っても、それを恥ずかしげもなく言い放つスエラはそっと笑いながら。


「けれど、私もヒミクやメモリアと一緒で嫉妬はしていますよ」


 自分の時間が減ることを残念がる女性を見せるのであった。



 今日の一言

 最近、俺の常識はかなり変わったと自覚するようになった。



毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。

面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。


次回で今章は終了予定です。


現在、もう1作品

パンドラ・パンデミック・パニック パンドラの箱は再び開かれたけど秘密基地とかでいろいろやって対抗してます!!

を連載中です!!そちらの方も是非ともよろしくお願いいたします!!

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― 新着の感想 ―
[一言] いきなり初夜を設定されたケイリィの困惑も分かるが、スエラもそうだったかれねえ。 スエラが鬱陶しいと、エヴィアが、スエラと次郎を一緒にホテルの部屋に閉じ込めて交際を開始して初夜を迎えてから、…
[一言] そして、嫁が増えたことを察知しているジロウ母であった。 何故かは問うまい。 そういう存在なのだ。
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