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592 見られていると思うと結構恥ずかしく思うことはある

 


「来たか浮気者」

「言い訳のしようもない」

「ふむ、謝らないだけ及第点か」


 エヴィアのいる場所は会社の上層階。

 人事部も兼任しているが、基本的に社長の秘書のような立場の彼女は社長室からも距離の近い一室を与えられている。


 そんな部屋にアポなしで足を運んだと言うのに、すんなりと部屋に通された後の第一声がこれだ。


 もし仮に本気で怒っている彼女であるならこんなこと言わずに、斬りかかって来るか絶対零度の視線を俺に向けて来ただろう。


 それがなく書類片手に揶揄うような視線を向けている時点で遊んでいるのがわかる。


「謝ったら後ろめたいと言うことになるからな」


 半ば以上認められているとわかるが、だからといってここで完全に悪びれないと言うことはしない。


 しかし、だからといってここで謝罪すればケイリィとの件が悪いものだと認めてしまう。

 なのでこういう言い方になってしまう。


「開き直ったと?」

「近い感覚ではあるな」

「だろうな」


 本当にエヴィアの言う通り、堂々と真実を伝えに来た時点で半ば以上開き直っている。

 むしろ婚約をしている女性に新しい女性ができたと報告するのに開き直る以外のことができるのか。


「最初に私に報告に来たのはどういう意味だ?表向きの正妻は私だが、家庭内の正妻は間違いなくスエラだろう?」


 俺にはできない。

 そして、最初にエヴィアに話を通しに来た理由を問われれば。


「エヴィアのことだ、もうすでにここに全員集合させているんじゃないか?」


 彼女の動きを予想して、ここに足を運んだわけだ。


「クククク、そこまで理解されているのは悪い気はしないな」


 その予想は大当たり、ぱちんと目の前の彼女がフィンガースナップを鳴らせば、一瞬空間が歪み、そしてそれが二度三度と続き、空間が安定するとそこにはうちの婚約者たちが勢ぞろいしてた。


「どうだ?裁かれる気分は?」

「悪いとは口が裂けても言えんな」

「確かに、非があるのは貴様だな」


 これだけ見れば間違いなく浮気男の断罪の瞬間だろう。


 しかし。


「エヴィア様、戯れはそこまでで」


 エヴィアを含めここにいる女性陣にはその気は一切ない。

 非難するような感情は一切なく。


 むしろ。


「スエラ、私の楽しみを奪うと言うのか?」

「子供のことを考えますと、あまり長い時間離れるわけにはいけませんので」

「そう言われれば、仕方ないか」


 こうなった展開を楽しんでいる空気すらある。

 安定の悪魔ムーブのエヴィアを止めに入るために、苦笑一つこぼしてスエラが会話の主導権を握りエヴィアの揶揄い行為を止めに入る。


 彼女の腕の中には、普段いるはずの子供の姿が見えない。

 誰かに預けているのか、あるいは精霊に見守ってもらっているのか。


「さて、事情は概ねエヴィア様から聞いてます。ケイリィの意志についても」

「それなら話が早いか」


 なので身軽になったスエラがこの場をまとめるように司会進行役を名乗り出た。


「ええ、それと念のために確認しますが次郎さんの意志は」


 そしておおよその事情はエヴィアが包み隠さず全部話しているのだろう。

 あのバーでのやり取りを話しているのなら俺は何も隠すことはない。


 真剣な顔で問いを投げかけるスエラの言葉にうなずいたあと。


「ああ、彼女も俺の妻にする。そこは曲げない」


 こともなげに言い放つ。

 もうなんていうか、俺も異世界の風習に染まったと言える。


 さっきのバーでのやり取りと言い今と言い、どこの漫画の主人公だって言えるくらい恥ずかしげもなくそんな言葉が言えるようになってしまった。


 羞恥心がないと言うわけではないが、言うべき言葉がすんなりと出るようになったと言えばいいのだろうか。


 ここでスエラたちに対して照れながら言葉を紡ぐほど俺も初々しくないとも言えるが、堂々とするべき所はしておくかと覚悟が決まっているのも事実。


「あなたらしいですね。まっすぐです」

「うむ、ジーロらしい」

「ここまではっきりと言われれば、私からは何も言えませんね」


 ここまでの話になればあとはどういう流れになるかは予想は付く。


「さて、次郎さんの意志を確認し私たちとしては受け入れても問題はないと思いますが」

「奴の素行や性格は概ね把握している。間諜といった類ではないのは私が保証しよう」

「知らぬ間柄ではないですし、余計な波風は立たないかと」

「私も問題はないと思う」


 女性関係のコミュニティに関しては、男が口を出すとろくなことにはならない。


 受け入れ態勢というより、女性陣に受け入れる気持ちがあると聞けただけ男としては問題はないだろう。


「となると問題になるのは」

「夜の順番だな」

「流石に最初から一緒にというのはハードルが高いでしょう」

「む、結ばれたからには流石に初夜は優先的に回すべきか」


 しかし、反面、男の意志が介在しないといけない分野でもこういう時は発言権は皆無に等しい。

 異世界は戦争が多いため、慢性的に人手不足の傾向にある。

 なので男性女性問わず、子孫繁栄に関してはかなり積極的な傾向がある。


 そこに愛はないのかと聞かれれば、しっかりと愛はある。

 義務的な子孫繁栄は王族とか貴族といった血統を重視する階級の人たちだけで、一般庶民に関して言えば性の活動に関して寛容で大らかと言い換えればわかりやすい。


 俺の知らないスケジュールが次々に変更されていく最中。


 スッと手が上がる。


「どうかしましたかエヴィア様」


 普段なら迷うことなくタイミングよく話に入り込むエヴィアだったが、いきなり挙手し発言を求めるとは珍しい。


 何かあったかと、三者三様の視線が集まる中。


「私に関しては当分の間は無しでいい」

「「「!?」」」


 今まで積極的に夜の部には参戦していた彼女の突如の辞退発言に、スエラ、メモリア、ヒミクが目を見開き。


 俺はもしや仕事がかなり先まで忙しくなるのではと思いそうになった時。


「まさか」

「もしや」

「本当か?」


 俺とは別の方向で可能性を見出しているのが女性陣だった。


「うむ、実った」


 あれ、俺と違う反応と思ったのもつかの間。

 少し恥ずかし気に優しく微笑み、そっとお腹を撫でる仕草を見せるエヴィア。


「おめでとうございます!!」

「エヴィア様が先でしたか」

「めでたいな!!」


 それがどういう意味を指すかは明白。

 思考が追いつかないと言うことはない。


 俺は迷わず、女性陣の話し合いの場に踏み込む。


 スエラもメモリアも、ヒミクもそっと一歩下がってくれて、俺とエヴィアが向かい合うことができた。


「エヴィア」

「ああ」


 故にそっと彼女を抱きしめることができる。


「ありがとう」

「礼を言うのは私もだ」


 ケイリィには悪いが、こういうことがあってはこっちに関しても全力を出さねばならない。

 エヴィアの優しい抱擁は嬉しさを表しているかのように、慈愛に満ちていた。


「まさかこんな早く身籠ることができるとは思わなかった」

「タイミング的には」

「ああ、帰省していたときだろうな。タッテに土産は子供でいいと言われたが、まさかその通りになるとは思わなかった」

「だが、このタイミングは大丈夫なのか?」

「仕事の面で言うなら問題はない。戦闘には参加できなくなるが、今の状況で正面衝突することもあるまい。軍部の方も引き締め、相手の戦力もかなり削った。私の戦力が必要になるような事態になるようなことなど早々ない」


 しっかり数秒間抱きしめ合い。

 身籠ったタイミング的に心当たりがありすぎて、笑みが漏れるが、今は笑顔が似合う。


 しかし、多忙のエヴィアが抜けるのは会社的にも問題ではないのかと思うが。

 彼女はそれを見越して色々と手を打っているようだ。


「座りながらで大半の仕事はできる。魔王様も流石にこの状況でふざけるようなことはするまい。実務に関しては鬼王と樹王を頼る。任せられる仕事は全て部下に振るさ」


 頭の中でどれだけ段取りができているかはわからないが、彼女が問題ないなら多分大丈夫なのだろうが。


「何かあったら言ってくれ、出来る限り力になる」

「戯け、だったら貴様は日本との交渉を安定化させ、早々にダンジョン作成に取り掛かれ。予想よりも前倒しで仕事ができているようだが、それでも早いに越したことはない」


 それでも心配になり、力になると言ってみればツンと指先で額を押され、そして優しく微笑まれ自分の仕事に専念しろと言われる始末。


「だが、その心は嬉しく思うぞ。父上たちかタッテくらいしか私のことを心配する者はいなかったが、最近ではお前やスエラが何かと私のことを気にかけてくれている。そういう面でいつも助けられている」


 まだ頼られるには力が足りないかと、将軍という地位になって日が浅い俺じゃ頼りにならないかと溜息を心の中で吐き出したのがわかったのか、微笑みが苦笑に変わり、違うと一度だけ首を横に振って彼女は気持ちだけで十分だと言う。


「その結果が私のここに宿った命だ。そこを勘違いしないでくれ」


 そしてついさっき額をつついた指はそっと頬に伸び、優しく撫でられる。


「私はお前を愛している。頼りないと思ったのは過去の話だ。でなければお前にここまで重要な仕事など振らんさ」


 何というか、敵わないなと正直に思う。

 自分の力のなさを悔やむよりも先に、自分が無理をして領分を超えそうになった思考の甘さを反省すべきだった。


 何が何でも無茶してでもやり遂げると言う社畜根性。


 それは我武者羅にやれると言うメリットもあるが、やらなくても良いことをやろうとしてしまうデメリットもある。


 頼られていないなんてことはない。

 俺はしっかりと頼られている。


 そこはしっかりと理解した。


「わかった」

「ああ、その一言で安心できる」


 本当にいい女たちに巡り会ったよ俺は。

 しっかりと頷いただけなのに、そう返してくれる。


 そして数秒見つめ合ったのち、クツクツとエヴィアが笑い始める。


「しかし、ケイリィには悪いことをしたな。彼女を出迎える算段を整えるための場で会ったのに、完全に空気を奪ってしまったな」

「仕方ありませんよ。むしろケイリィが来て事情を説明した後にいう方がダメかと」

「ええ、ここから愛を育むと言う流れを完全に持って行きますからね。初夜という雰囲気にはならないかと」

「うむ、しかし、なぜ悪魔のエヴィアは出来て天使の私は出来ないのだ?」


 本当だったらケイリィの件で色々と会話が広がるはずだったのに、たった一言の報告で話の流れは完全に変わってしまった。


 俺の知らない夜のスケジュールは後でスエラたちが調整するだろう。

 なのでエヴィアの話したタイミングはある意味でベストだった。


 ケイリィが自分でけじめをつけるときにこの話をしていたら、完全にケイリィが踏み込むのを躊躇った。

 それを避けると言う意味では、身内の中で先に話を通しておいて良かった。


 仮に話し終わった後でも、スエラとメモリアの言う通り子供ができたと言う話の後でじゃあ後は若いお二人でとはならない。


「子供は天からの授かりものだというが、よもや神が邪魔しているのでは?」

「む、それなら私も戦争に参加して神殺しを成し遂げねばな」

「エヴィア様。あまりヒミクを揶揄うようなことは止めてください。ヒミク、子供ができた私が保証しますよ。きっとあなたにも出来る日が来ます」

「あまり良くない保証の仕方ですが、吸血鬼の私を含めここにいる面々は妊娠しづらい種族ばかりです。ですが、その妊娠しづらい種族の女性を次々に妊娠させているのが次郎さんです。期待して待つべきでしょう」


 なので、これでいいのだ。

 と少し現実逃避気味にしているが、メモリアとヒミクの目がギラついたのは見て見ぬふりをしてはダメなんだろうな。


 今日の一言

 伝えるべきことは伝えないとダメだ。







毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。

面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。


現在、もう1作品

パンドラ・パンデミック・パニック パンドラの箱は再び開かれたけど秘密基地とかでいろいろやって対抗してます!!

を連載中です!!そちらの方も是非ともよろしくお願いいたします!!

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― 新着の感想 ―
[一言] めでたい!(゜∀゜)
[一言] おめでたの二人目はエヴィア様でしたか! おめでとうございます! 正直もう少し先かとおもっていたんですけどね。嫁になった順番的にも最後だったし。 さあこれで、ケイリィが参戦してメモリアとヒミク…
[一言] >「流石に最初から一緒にというのはハードルが高いでしょう」 やっぱり一緒なんですね(汗)
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