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6 仕事をするにあたって可能なら事前準備はしたいなぁ

六話目投稿

田中次郎 二十八歳 独身 彼女無し 職業 ダンジョンテスター(正社員)

魔力適性八(将軍クラス)

役職 戦士



「施設増えすぎだろおい」


入社式が終わり、あとは各自の判断で動いていいと言われたが、今は勤務時間であるのは間違いない。

それでも事前準備という名の情報収集で自室に戻ってきたわけだが、そこでポストに入っていた妙に分厚い冊子に気づいた。

そういえばと、入社式の時に施設を開放するとかなんとか言っていたが、それのことかと思い軽く目を通してみた結果がさっきの言葉だ。

飲食店に始まり、医療機関、武器屋、防具屋、道具屋、訓練所、娯楽施設他etcと種類だけ挙げるだけでもキリがない。

店の名前なんて挙げて言ったら、それこそ一日が終わってしまう。

単純にダンジョンを攻略するために会社側が用意した施設だとすると、もはや外に出る必要性が感じられないくらいの充実した内容だ。

最後の方のページには居酒屋などの酒類の店に夜のお店、要は未成年お断りな店もチラリと見えた。

ここで鼻息の一つでも荒らげれば男としての反応は正しいのかもしれないが、あいにくとこれでも公私は分ける方だ。

そういったのはプライベートで楽しむとして、しっかりと折り目をつけてから切り替える。


「今は、こっちだな」



「現代に生まれたファンタジー、時代劇村なんて目じゃないなこれ」


店に立ち並ぶものが全てファンタジー一色、サンプルで映る展示品の料理なんて見たこともないものばかり、服に至ってもコスプレと普段着の狭間にあるような服装が多い。

止めに、コスプレの小道具なんて言い訳がきかないほどの銃刀法に真っ向から喧嘩を売っている刀剣の数々。

価格はピンキリであるが、種類は様々だ。

買い物は日本円で問題ない時点でファンタジー?と疑問符を浮かばせてしまうが、それで構わないのならこちらとしては問題ない。

理解して、納得できれば、あとは会社の地下に広がる駅地下のような商業施設群に向けて歩き出す。

店の数に対して、客は俺たちテスターと社員だけなのか、店の中の客はまばらだ。

これが次第に増えてくると考えての投資なのだろうだが、閑古鳥が鳴きすぎだろと感想を抱きながら人生初のファンタジーウィンドウショッピングを開始する。


「……意外と高いな」


俺がいま手に持っているのはしっかりと作りこまれた鉄製の両刃の剣、これ一本で14万だ。

相場として高いのか安いのかいまいちわからないが、貯金をしている身でも少々値が張るものであるのは間違いない。

チラリとショウウインドウに並んでいる品物を見れば一番安いものでもこの剣よりも桁が一つ違う。

もちろん上にだ。


「はぁ、覚悟を決めるか」


貯金を崩す覚悟をして、改善点を思い返す。

研修で痛感したのは攻撃力のなさだ。

今では笑い話にできるが、コモドオオトカゲモドキをメッタ打ちにしてようやく一体倒して、そしたら複数で襲いかかられてもうどうしろって感じで逃げ回った記憶は教訓として刻まれている。

単純にステータスが足りないからああいった結果になったかもしれない、実際キオ教官はチャンバラブレードで笑いながら金属製の防具を消し飛ばしていたし。

しかし、ステータスは一朝一夕じゃ上がらない。

なので、改善するとしたら装備だ。

たとえ鉄芯入の木刀といえ、鈍器としては優秀かもしれないが、生物を殺めるものとしては些か心もとなかった。

体の頑丈さは、教官たちのおかげで自信がついているから防具より先に武器であるからとも言える。

なのでダメもとでこうやっていくつかの武器屋を見て回っているのだが、なかなかしっくりくるものがない。


「店員さん、こういうのって試し切りとかってできないの?」

「刃が欠けたりとかしたら買取ってくれるならいいよ?」

「鬼か」

「残念、わしは巨人族だよ」

「どうりで大柄だと思ったよ」

「これでも小柄の方だぜ?」

「マジかよ」


閑古鳥が鳴いているおかげか、こうやってカウンターに座っている店員と軽口を叩き合うことができる。

身長二mを超えている時点で、俺から見たら大柄に見えてしまうのだが、その体躯で小柄に分類される巨人族の平均身長を知りたくなるがそれよりも今は武器だ。


「店員さん、おすすめの武器とかあるか?」

「一本、三千万で買える魔剣があるぜ」

「余裕で予算オーバーするような品物すすめるなよ」

「驚きの六割引の魔剣だぜ? もちろんローンも大丈夫だ」

「六割引いてその値段って、元値はとんでもないってのだけはよくわかったよ。それだけ聞けば確かにおすすめの武器だ。値引きの分だけ性能がすごいのかどうかわからなくなっているがな」


生憎とこちらが欲しているのは身の丈に合った武器だ。

いくら高性能な武器だとしても、それにおんぶに抱っこで使われているような状態では宝の持ち腐れで、いずれはそれを自身の力と勘違いして身の破滅だ。

こういうのは徐々にいい武器にしていくに限る。

車に例えるなら、とんでもハイスペックのF1カーではなく大量生産型の乗用車を求めているのだ俺は。


「性能はお墨付きだぞ? 問題なのは魔剣の性能で強化された超人的な肉体で達人クラスの剣技を所構わず敵味方問わず勝手に振るっちまうことだがな」

「さすが魔剣、致命的な欠点が備わっているな、通り魔も真っ青になるぞおい」


聖剣とか神剣には絶対に備わっていなさそうなスペックだ。マイナス的な意味で。


「やっぱダメかぁ、強くなりたいやつならほしがると思ったんだがなぁ」

「破滅しか待っていないだろう。お、店員さんこれは?」

「あ? それはうちの若い衆が鍛えたやつだ。それなりには使えると思うぜ」

「それなりねぇ」


見る限り、ワゴンセール品。

酒樽にぶっ刺されているあたり扱いも雑だ。

長さも形も刀剣としての種類もバラバラだ。

それでも値段は店内の中で随一に安い。


「まさかのイチキュッパ」

値段を見ると19800均一、道具はけちるなと言うが、それでも掘り出し物くらいは探したくなる。

買うか買わないかは、とりあえず見てから決めるとして、漁る。


「やっぱ掘り出し物はないかぁ」


しかし現実は甘くない。

そして、安い値段には安い値段なりの理由がある。

その中に、隠れた業物を隠すなんてご都合主義があるわけがない。

ここに入っていたのは鈍とまではいかないが、業物とは決して呼べない代物ばかりだと店員談、試しに持ってみたのはさっきの鉄製の剣と同じ型だ。

しかし持ってすぐに違いがわかる。

さっきはしっくりきた持ち手も、こっちはしっくりは来ないもののそれなりといった感じの代物だった。

さすがにそんなものに命を預ける気にはなれない。

そして一通り見た限りこれ以上いい剣に会えそうな気がしないので、とりあえず別の店に移るとする。


「ほかのも見てみるよ、説明ありがとう」

「おうよ、暇すぎるから冷やかしでもいいから来てくれよな」

「冷やかしでいいのかよ」


今回はめぐり合わせが悪かったが、こういった愛嬌のいい店員は割と好きだ。

また来ようと思ったが、どうせなら高級な武器も見ていくかと思い、出口ではなくガラスケースへと足を向け中を見ながら出口に向かう。


「どれもこれも桁が違うなぁ」


さすがにガラスケースに並ぶだけあって、どれもが一級品、日本語で書かれた説明プレートには値段と一緒に簡単な説明も書かれ、その内容が小説や漫画の中で見るような設定ばかりで見ているだけでも飽きは来ない。

次第に、貯金の残高と比べて買える買えないと頭の中で反芻するようになるが、どうにか物欲を抑え込もうとしたときそいつは目の前に現れた。


「なんだこれ、鉄の板?」


それは、唯々、片刃の長剣のような形に整えられただけの鉄板、細工も施されず、ただ柄らしき場所に布が巻かれているだけのお世辞にもガラスケースに入れるような代物には見えなかった。


「鉱樹の苗だよそれは」

「苗?ってことはこれ植物なのか?」


しばらく、見入っていたらさっきまでカウンターに座っていた店員が俺の隣に立っていた。


「ああ、こいつを魔力が豊富な土地に突き刺すとそこの魔力を吸って植物のように根を張って成長するんだ。材質は間違いなく金属なんだが、こいつは少し特殊な金属でね。樹齢千年単位になるとそりゃ良質な鋼になるんだぜ?」


要は、成長する金属ということだ。


「ってことはこれは材料用なのか?」


それなら武器屋に置かれていても不思議ではない。これを使ったオーダーメイドの武器を作るということだろう。

値段も、新車の乗用車を買えるぐらいの値段をしているがそれだけ良質な材料なのだろう。


「いや、間違いなくこれは武器だぜ」

「は? 苗なんだろ?」

「こいつには別名があってな、鍛冶屋泣かせって呼ばれているんだよ」

「鍛冶屋泣かせ?」

「ああ、コイツは地面に刺すと木のように成長する。そして種を残すんだ。ほら、柄のところにあるアノ丸いのがそうだよ」


店員の指差した箇所を見れば、黒い球体が確かに柄の一番端についていた。


「普通ならそのまま地面に埋まって新たな鉱樹になるんだがな、地面に埋めず魔力を流し続けると細長い鉄板みたいになるんだ。それを、加工して剣みたいな形に整えた奴がこれなんだが」

「聞いている限りだと、どこら辺が鍛冶屋泣かせなんだ? あれか? 異常に硬すぎて加工できないとか」

「いや、苗レベルの段階だと鉄より少し硬い程度だぜ」

「だったらなんなんだよ」


どうも説明が遠まわしすぎる。

言いづらいことがあるなら、わざわざこんな目立つところに展示して売り物なんかにしないはずだが。


「そのなんだ、鍛冶屋泣かせって言われる所以はな。こいつを地面に刺さず持って戦うとだんだんと剣の形に成長していくんだよ」

「成長って、これがか?」

「ああ」


見るからに鈍らですと宣言しているような格好の剣、とても使えそうには見えない。


「使用者の魔力にあわせて成長する。俺ら鍛冶師の槌は要らず火もいらず、叩くことすら不要で、勝手に成長していくんだ。中には、それこそ伝説の名剣になった鉱樹もあるくらいだ」

「だから、鍛冶屋泣かせか」


勝手に名剣になってしまうような素材、確かに鍛冶師要らずの泣かせるような材料だ。


「……ちなみに、絶対に名剣になるのか?」

「いや、ほとんどが鈍らで終わる」

「おい」

「言っただろ? 鍛冶屋泣かせって、その中には笑いで泣かせてくれるって意味もあるんだよ」


要は、ただ珍しいだけの材料で金が転がり込んできてウハウハと。そんなオチだろうと思ったよ。

もし仮に、かなりの確率で勝手に名剣になるような素材があるとしたら、それなら鍛冶師という武器職人は不要になる。

そして、店頭には武器じゃなくて鉱樹が並ぶ、だけど鉱樹なんて品物はこの店で初めて見たし、それもガラスケースに入っていたがあまり目立たない場所にある。

つまりは、高級なギャンブルだ。

運がよければ格安で伝説級の剣が手に入る可能性を秘めた鈍ということだ。


「ま、コイツが名剣になるなんて一万本に一本ってくらいだ。俺も長いこと鍛冶師をしてるが、そんな話ここ最近とんと聞いてないぜ」


それならまともな剣を買ったほうがいいぜとアドバイスをくれる店員に従うのが利口だ。

だが、それじゃつまらないと思ってしまった。

もう二十代も終わりの時期、後がなく、たとえ失敗するのが目に見えていても、王道に行くのは何か違うと思ってしまった。


「店員さん、これ買うわ」

「……今日、耳鼻科やってたか?」

「空耳じゃねぇよ」

「おいおいおい、客だから頭の構造を心配して言わなかった俺の心を察してほしいぜ。正気か? さっきの話を聞いてたか? その耳は飾りか? こいつはただの金食い虫なんだよ。たとえ、後で地面に突き刺して植えたとしてもまともな値段になるのは千年後だ。あんたが長命種ならともかく、あんたは人間だ、せいぜい長く生きてもあと六十年とてもじゃないが元なんか取れねぇぜ?」

「構いやしねえよ、失敗したら失敗したで、酒の笑い話にするだけだ」

「それで、借金してたら笑い話にもならねぇぜ」


どうやらこの店員は俺の心配をしてくれるほどいい巨人らしい。

なら、俺はその不安を払拭してやるくらいの不敵な笑みで返してやろう。


「あいにくとこれを買うくらいの貯金なら溜め込んでるんだ。当然、一括だ」

「……っは! 馬鹿がいるぜ! おうよ! それなら止める必要はないな!! しっかりと金を払うなら、あんたは客だ! どこぞの偏屈屋のドワーフと違って俺ら巨人族は求めるやつに武器を与える! 死蔵なんて以ての外! 対価をしっかりと払うなら誰にでも渡す! 腕なんて知ったことじゃねぇ! 武器は武器だ! 武器は使わなければ意味がねぇ!! ほらあんたが客だって言うならとっとと金をだしな!!」

「テンション高いな」

「たりめぇだ! 久しぶりに笑える馬鹿が来たんだ! 鈍らになるかもしれねぇ武器で、わずかな可能性で名剣を育てようとする。ある意味俺等と同業だ! これを楽しまんで何が巨人族だ!」


誰が馬鹿だと、予定より大幅な予算オーバーの買い物をしている時点で、確かに馬鹿かもしれないと思い、返す言葉を言うことなく、何故かあるATMから金を引き出し、どんとカウンターにおいてやった。


「ちなみにお前、武器はどうやって運ぶんだ?」

「そりゃ……手に持って?」

「馬鹿野郎、常に武器を持ち歩くのか、ほら武器を背負う固定具だ。魔石式だから付けたいと思えば固定して、外したいと思えば固定が解除されるすぐれものだぜ!」

「おお!!」


いい巨人だと思ったら、さらに親切な巨人と言いかえてもいい。

まさかの大人買いに思わぬ副産物、車を買ってカーナビを負けてもらうくらいの値引き交渉だ。


「これを十万で譲ってやるぜ!」


前言撤回、親切な巨人じゃなくて、商売根性逞しい巨人だった。


「金取るのかよ!!」

「っは! それこそたりめぇだ! 対価なしで自分の作品を譲るなんて、自分の作品に糞を塗りたくるようなものよ!!」


人生そうウマい話はなかった。

言っていることは理解できるが大金を使ったあとの話では納得はできない。

ジト目で店員の厳つい顔を見上げるが、いい笑顔で結構良質そうなベルト式の固定具をゆらりと揺らすだけで何も言わない。

そして、鉱樹の形は長剣、今まで使っていた木刀より長さが若干伸びて、重さは倍に増えている。

いくらステータスで強化された体といっても、現状じゃ常時持ち続けるのは当然無理だ。


「毎度あり~鉱樹はきちんと磨いて魔力を流せば成長するからなぁ!! 何かわからないことがあったら来いよ!!」


結局固定具も買うことになって、貯金は結局大ダメージを受ける羽目になった。

おまけのおまけで買った手入れ道具も地味に痛い出費だ。


「あとは防具と薬だな」


とりあえず今はスーツで鉄板のような片刃の長剣を背負っている。

当然ながらそんな恰好でダンジョンなど潜れないし、支給品などとっくの昔に教官たちにズタボロにされている。

支給された防具など研修中毎回スエラさんが修理を手配して直してくれていたのだが、ついこの間というより研修最終日についにご臨終してしまった。

チャンバラブレード(魔剣)に砕かれてしまったのだ。

キオ教官いわく、手加減を少し間違える程度には強くなったと言っていたがそれで防具を破壊され手痛い出費を強いられる身としては強くなったのに切なく感じてしまう。

そして、その結果が防具にも反映される。


「すみません。動きやすくて、要所が守れる防具ってありますか? 予算は安めで」


とりあえず、基本方針を固めて店に入っていくのだった。



俺って実はRPGで強い武器を買って防具は後回して困るタイプだということを、俺よりも頭二つ分高いモデル体型の巨人族の女性店員に聞きながら思い出していた。

また、値段を比較しながら店をうろつくこと数軒目。

正直、さっきと同じ買い物はできないと吟味するうちにいくつかの店を冷やかしてしまった。

しかし、無い物(金)はないのだ。

だからこそしっかりと吟味する必要があるのだが


「正直、わからん」

「わかったら私たちなんて必要ないよ」


吟味して、少ない予算でどうにかしようと困っている俺を見かねてか武器屋と一緒で同じく閑古鳥を鳴かせている店員が俺に話しかけてくれた。


「そういうものですかね?」


ここは素直に、助けを求める。

ゲームやらアニメ、小説とかで見る。

この金属は強い、このモンスターの革はレアだ、この宝石にはこんな効果がといろいろ簡単に装備を選ぶ主人公達がいるが、よほど目利きがいいのだろう。

俺には値段が安いかどうか程度の目利きしかない。

革の鎧一つで、同じ飛龍なのに倍近い値段差の鎧があったり、逆に、もはや捨て値同然のコスプレしていますと言わんばかりの全身鎧があったり、正直ここで防具の性能が適正価格で性能がいいのかどうなのかも判断できない。


「ここにある大半が地球にない素材ばかりで作ったものよ? まぁ、作り方とか技術的な面やデザインで参考にさせてもらった部分は多分にあるけど、素材という面ではあなたの判断基準は全くあてにならないわね」


どうりでどっかの特殊部隊の装備みたいな服が置いてあるはずだ。

マネキンに着せられたその装備が手の届く値段だったら間違いなくそれを購入していた。

仕事のやる内容が内容なのでその場にあったコスプレのような服装だと割り切っていても、それでもなるべく常識的っぽい服装にしたい。

何が悲しくて、三十路手前でついこの間までサラリーマンだった男がゲームのような目立つファンタジーチックな服装を着ろというのだ。

そこまで行くと宴会芸のレベルになってしまう。

この店を選んだ理由も、前三軒の店に比べて比較的現代的な服装が多いからだ。

前の店で楽しそうに装備を選んでいた同期もいたが、見た感じ大学生で構成された男女、若さというか、チャレンジャー精神と言うべきか、わいわいとコスプレショーをしている姿を見てジェネレーションギャップを感じてしまったのは置いておこう。


「少なくとも値段イコール強いって発想はやめておいたほうがいいわね。中には希少でとある種族には効果があるけどほかには全く無意味な装備だってあるのよ。素直に本職に聞くのが一番ね」


この店員の言っていることは確かだろう。

だが、それを鵜呑みにしていてはカモがネギを背負っている状態で買い物するようなものだ。

値段の比較と、独自の勉強による知識は必要だ。


「安心しなさい。よほどの客じゃない限りボッタくるようなことはしないわよ」

「……顔に出ていたか?」

「そっちが素なわけね。私はそっちのほうが好きだからそっちの口調でいいわよ。安心しなさい、それなりに経験しているようだから顔には出てないわよ、次からは目にも気をつけなさい」


トントンと自身の右目を指差す店員の顔は笑っていた。

この店員は仕事で邪魔になるからか、あるいはファッションでそういった髪型をしているかはわからないが、短く切りそろえたさっぱりとしたショートヘアと一緒で、性格の方も竹を割ったかのようにさっぱりとしているようだ。

さっきの武器屋の店員といい、目の前の店員といい、人との接し方がうまい。

こちらとしては気楽でいいのだが


「背中の武器から見て前衛、初期だと戦士ってところか、お兄さんステータスって見れる?」

「まぁ、できるが」

「お客の秘密を守るのも仕事のうちだよ。それに、ステータスを見たほうがしっかりとおすすめの装備を見繕えるよ」


さっきの武器屋ではそういったことをしていなかったので、正直戸惑ったが、言われれば確かにと納得する部分もある。

だが、情報は極力秘密にしておいたほうがいいような気がするので抵抗はある。


「少し待ってくれ」

「見ての通り、開店初日なのに閑古鳥が鳴いてるから気にせずゆっくりどうぞ~」


のんびりと、本当に暇していると言っているようでのんきに手首を振っている店員の姿を見て信用するかしないかは俺の判断だ。

それに、仮にもここは一組織の傘下の店、俺の情報を抜き取っても意味かあるかどうかなんて考えても詮無きことなのかもしれない。


「こんな感じだ」


戸惑って、悩んだが、結局は見せることにする。

一応持ってきた端末の診断アプリを起動、表示させたステータスのスキル部分だけ秘匿機能を起動して隠して残りは見せることにした。


「へぇ、ダンジョンに入っていないのにこのステータスかぁ。研修の間よっぽどしごかれたみたいねぇ。これなら、うんうん」


じっくりと数字を頭に叩き込むように考えて見せて、端末の画面から離れたら彼女の行動は素早かった。


「これとこれと、あとはこれかなぁ」


縦横無尽、店の端から端まで品物の位置を把握しているからこそ無駄なく動き回り、気づけばカウンターの上にいくつかの装備セットの山が出来上がっていた。


「全部は買えないぞ?」

「わかってるよ。これは私のおすすめ、あとはあなたの好みが決める感じに揃えてあげたのよ」


そう言って最後に見積書を出してくれるあたり、かなりの手際の良さだった。


「左から順に性能が良くなっていくから、軽くて固くて動きやすいをコンセプトに色合いを合わせてみたよ」


だが、残念なことに買えたとしても、左から三番目までが限界だ。

それも、生活費という生命線をガンガンに削った結果だから、実質三番目も買えないと言っても過言ではない。


「君のステータスを見た限り、耐える、動き回る、斬るの三拍子が揃ったステータスって感じだったからね。動けてある程度の防御力、そして視界を遮らないって感じにしてみたよ。ああ、君の武器からして盾は付けるとしたら肩にだから一応用意したけど、いる?」


確かに、耐久値が群を抜いて高く、次いで持久力と力が高いステータスだ。

対して、敏捷のステータスは低い、回避を前提とした装備には向かないステータスかもしれない。

掲げてみせられたショルダーシールド、きっちりと値札を見て首を横に振った俺は悪くないと思う。

装備はどれも長袖長ズボンの上下に、篭手、脛当、額当、胴というとりあえず要所を押さえた金属製の防具というコンセプトだ。


「一応わかっていると思うけど、付与は一切ないからねぇ。あったらこんな値段じゃすまないから」


付与、要は魔法的なサポートのことだ。

つまりは、素材を鍛えたのみの装備がここには並んでいるということ。

それだけで一番右の装備は新車が買えるような値段なのだから、ガチな装備だと値段がどこまで行くのか逆に気になるところだ。


「試着はできるのか?」

「むしろしないでどうするのよ」

「そうだな」


とりあえず、安い順番から着ていくことにしよう。

サイズの問題もあるが、動きやすさや使いやすさも買うときの目安になる。

そして、観客一人のファッションショーが始まるわけなのだが


「やはり高いほうが、使いやすい」

「力の入れ具合が違うし、そもそも素材の差があるからね。それは仕方ないよ」


値段はあまり目安にならないというが、いいものというものは自然と高くなるのはどこも一緒のようだ。


「予算的にはどこまで行けるの?」

「ギリギリで、ここまでだ」


できればいいものを使いたいという人間なら自然にわく欲と、予算という名の理性が拮抗して決めに決められない。

そのためアドバイスを求めるように、ギリギリの本当に買えるレベルのボーダーラインを指差してみせた。


「それなら、これが一番いいかしら」

「?」


それに応えるように店員が差した装備に思わず疑問が出る。

それは用意した装備の中で一番安い装備だった。

彼女は店員で、商売人だ。

可能なら高いものを売りつけるのが商売人というものではないだろうか?


「最初から、いいものを買ってそれに慣れるとあとが大変よ。ケチって粗末な装備をつけるのもダメだけど、良すぎる装備もダメなのよ」


そう言われて見るとたしかにそうかもしれない。

いいものに慣れてしまうと人間は不便なものを避けてしまう傾向になる。


「それに、最初から高いものを売るとあとから高いもの買ってくれなくなるじゃない」

「それは隠せよ」

「いいのよ、私たち巨人族はね、隠し事が大嫌いなの。隠すくらいなら罵詈雑言で罵り合ったほうが逆に仲良くなれるくらいだもの」


だからよく喧嘩っ早い、野蛮な一族って言われるんだけどね。

と茶目っ気なのか、そう言う店員はカラカラと笑っていた。

思い返せば、背中に背負っている鉱樹を買った武器屋の店員も結構あけっぴろげだったような気がする。

こういった物を作るのは器用なのかもしれないが、性格的には不器用な一族かもしれない。


「なら、これをもらうか」

「お買い上げありがとう!」


買ったのは、灰色の上下の服に鉄板が仕込まれている篭手、脛当、額当、胴だ。

金属を使っている面積は少ないが、それでも防具としてはしっかりと作りこまれている一品たちだ。


「どうせなら、私と値引き交渉ができるくらいの常連になってよね」

「隠せよ」

「いやよ」


金を支払い、でかい紙袋に入った品物を受けとる。

店員と冗談を言い合える仲、そういった触れ合いが新鮮で、この親しみを覚える店員のいる店にまた来ようと思うのは異世界の住人だからだろうか、とりあえずは、しばらくはこの店で買い物をしようと思う。


「いい素材が手に入ったら、売りに来てね。そしたら、店に並んでるものよりは安く作ってあげるから」

「おう」


店先まで見送ってくれた店員に手を振りながら別れる。

気づけば、背中には金属の塊、右手には大きな紙袋、重量的に昔なら間違いなく即座に帰宅を考える買い物量だ。

だが、あいにくとまだ買わなければいけないものがある。

残高的に寂しくなった数字を考えながら、唯一空いている左手で冊子を開き目的地に再び歩き出した。



「いらっしゃいませ、何をお求めで?」


まず最初に顔色が悪いが大丈夫かと言いたい。

俺が来たのは道具屋だ。

ダンジョンの中では素材という拾えば拾うだけお金になるものがたくさんあるのだ。

それを知っているのに、わざわざ武器だけ背負ってさぁ行くぞなんて考えられない。

そこで素材をいれる丈夫なカバン、もしかしたら重量無視の魔法のカバンもあるかもしれないと淡い希望を抱いてやってきたわけだ。

だが、ドアを開けて店に入った瞬間、品物を整理していた今にも倒れそうな顔色をしている少女に出迎えられて二の句が告げられなくなってしまったのだ。

アルビノという体質があると聞いたことがあるが、それとは違って瞳は紫色で、サイドテールにした髪の色は色素の薄い金色なのだが、肌は白を通り越して青白い。

一般的な人間の少女に当てはめれば、決して重量の有りそうなダンボールを持っていていい健康状態ではない。


「だ、大丈夫なのか?」

「? 何がですか?」

「いや、顔色が悪いみたいだが」

「ああ、私は吸血鬼なのでこれが普通で、至って健康なのでお気になさらず、せいぜいこのLEDが眩しいかなぁって思うくらいです。まぁ、それも、ブルーライトカットのこのメガネでだいぶマシになっていますが」


そう言ってダンボールを置くと彼女はグッと唇を横に伸ばし鋭い犬歯を見せてくれた。

それを見て、明るい場所にいる吸血鬼には違和感があるが、別に太陽光じゃないから平気なのかと納得することにした。


「それでお客さん、何をお求めで? できれば今忙しいので冷かしならよそでやってほしいのですが」


武器屋の店員といい、さっきの防具屋の店員といい、この道具屋の店員といい、なんでこうもきっぱりと客に対してはっきりとものを言えるのかと疑問に思ってしまう。

だが、彼女の言うとおり品出しで急がしいのは本当らしい。

店のあちこちに積まれているダンボール、一応商品は棚に並べられているが、営業できるギリギリの状態だ。


「あ、ああ、素材を入れるカバンと傷薬を買いに来たのだが、大丈夫か?」

「ええ、素材を入れるカバンと傷薬ですね。カバンは普通ので?」

「いや、どういうカバンがあるのかわからないが普通じゃないカバンもあるのか?」

「あなたの言う普通じゃないカバンの定義がわかりませんが、魔法の鞄(マジックバッグ)と言われる品物ならありますよ。重量無視と拡張の付与がされた鞄ですのでダンジョン探索には便利かと。残念ながらまだ品出しが終わっていないので貴重品は倉庫の中から出さないといけませんが」


遠まわしに時間がかかりますと言われているのだろうか。

こちらを見ず、持っているダンボールを脇に置いて別のダンボールを持ってカウンターまで移動する。

せっせとダンボールから傷薬らしい塗り薬と、俗に言うポーションらしき黒い遮光性のある色つきの瓶をカウンターに並べる吸血鬼の店員。


「確認しますが、予算はいくらぐらいで? うちの店の魔法の鞄は一立方メートルの収容面積の腰に付けるポシェットタイプが最安値で二百万ほどになりますが」


どうやら彼女は、省ける手間はとことんまで省くタイプらしい。

あっさりと予算オーバーどころか、しばらく手が出せない値段を提示されては、淡い希望などあっという間に粉々にされてしまう。

それにしてもこの少女、商売っけが見えない。

一見、それは商売人としておかしいかもしれないが、効率を重視する仕事人としてはまともな行動だ。


「ああ、それなら普通のカバンで、この剣に邪魔にならないようなやつはあるか?」

「……ああ、巨人族のハンズの店で買った固定具ですね。これなら、あれと組み合わせれば使えますね」


どうやら、あの巨人族の店員の名前はハンズというらしい。

少女は、さっと見ただけで、さっさと店の奥に引っ込んでしまった。

そして、あっという間に帰ってきた。


「背負子?」


それはホームセンターとかでたまに見る薪とかを載せるあれだ。


「素材といっても、大小様々です、それなら小さいものは小袋に、大きいものは固定して運んだほうが効率的です。普通のカバンならあっという間に埋まってしまいますが、むき出しのこれなら載せ方次第で普通のカバンより載せられます」


一緒に並べられた革製の小袋と紐を見せられる。


「つけ方は腰と肩で固定するので、その剣も固定具を調整すれば脇に付けられますよ。あとは付属のケースを反対側につければ薬も出しやすく持ち運べるかと」


訂正しよう、この吸血鬼娘、間違いなく商売人だ。

こっちのニーズと予算にざっと予測を立てて、効率的に必要なものを提示して、なおかつこっちの買えるギリギリの値段で攻めてきている。

鞄と傷薬の二点でここまで品物を提示できるのはある意味すごい。

少なくとも、小分けにできる小袋や固定用のロープ、そして傷薬を入れるケースなど考えもつかなかった。


「傷薬の値段は後にして、合計してこれくらいになります」


そして、タイミングよく提示される電卓の数字は必要経費だと割り切れるような値段だった。


「なら、それで」


ならばと購入することを決定するが、今時珍しいジャキンとお金の音のような音を鳴らすレジスターに貯金が減ったと自覚されて少し気分が落ちる。

そんな俺の気分などお構いなしに、淡々と仕事をこなす吸血鬼店員は、背負子を脇にのけて代わりにさっき出した薬を俺の方に押し出してくる。


「わかりました、それと傷薬はどちらをお求めで?」


見る限り飲み薬タイプのポーションと塗り薬タイプの軟膏みたいのがあった。


「すまないが、違いがわからないのだが」

「効果は大して違いはありませんが値段はポーションの方が高いです。違いは使いやすさです。戦闘中に飲んでよし、傷口に振りかけても使えます。逆に塗り薬は文字通り塗ります。なので戦闘中には使いにくいかと」

「なるほど」


飲み薬は予想通り名前はポーション、逆に塗り薬はそのままみたいだ。

用途は戦闘中用と戦闘後用みたいだが


「ちなみに、消費期限とかは?」

「ここに」


蓋の部分を見ればポーション、軟膏共にきっちりと数字が書かれていた。

比較すれば、ポーションの方が短いが、栄養ドリンク程度の消費期限はある。

なので、まとめ買いして使い忘れなければその心配はないだろう。

あと比べるとしたら持ち運びやすさだろうか。

ポーションの方は壊れやすそうだ、軟膏の方は肉厚だから逆に割れにくそう。

両方に利点があって、どうするか悩む。


「ちなみに、それぞれ専用のケースとホルダーがあります」


ポーションは三本ほどセットで穴に差し込み首の付近でバンドで固定し腰に巻くベルト式、軟膏の方は、軟膏と一緒に包帯や別の薬を入れるような小さな救急箱だ。

ちなみに、両方共それなりの値段はする。

消耗品で、ある程度の量産はできているのでファンタジー小説みたいに馬鹿高いわけじゃないが、ホイホイと買えるような値段でもない。

電卓二台でそれぞれのセット価格が表示されるが、これも必要経費と考えるか、それとも死んでも大丈夫だから怪我など無視して、傷薬を買わないでいくか悩む。


「今なら両方買えばセット価格で安くしますよ?」


悩んでいるところに囁くように、さらにもう一台の電卓で数字が一割ほど削られた合計金額が表示される。


「死んで、トラウマになったら元も子もないか」


押しに弱いなぁと思い、さらにノーと言えない日本人ここにありと自覚しながらも財布の紐を緩める。

たとえ生き返ると言われていても、死ぬ痛みなんて経験したことはない。

仮に死んで生き返ったとしても精神的に傷が残らないとは限らないのだ。それに必ず死ぬとも限らない。致命傷とは程遠くても、戦闘には支障の出る傷などいくらでもある。

せめてと頭の中で言い訳しながら、この出費は必要経費だと割り切ることとした。


「この薬の効果はどれくらいまで効く?」

「骨折程度なら両方共使用後数秒程度で完治します。ですが、さすがに体に穴が空いたり、腕が切り飛ばされたりするなどの欠損に対してはせいぜい止血程度の効果しかありませんので気をつけてください」


十分だと判断できる。数秒のタイムラグで、最低限移動できるようになるとなれば、非常用としては十分な効果だ。


「ポーションは三本、あとホルダーも、軟膏は一個でケースと一緒に包帯も」

「どうも、では包みますね」


これで一通りの準備は終わった。

あとは部屋に戻って、ダンジョンに潜るだけだ。

時計を見れば、十一時を回るところ。

昼食をとってそれから挑めば今日のノルマ分は挑める。


「ありがとうございました。またのお越しを」


紙袋に入った品物を受け取って店をあとにしようと思ったが、挨拶だけ済ませてまた品出しに戻る彼女を見てふと疑問に思った。


「忙しそうだが、ほかに店員いないのか?」


せっせと動き回るのは彼女だけ、店のサイズは通常のコンビニくらいの広さだが、それを彼女一人でこなすのは大変だろう。


「いませんよ」

「は?」


俺は間違いなく、間抜けづらを晒しているだろう。


「前任者が土壇場になって、人間相手に商売なんかしてられるかと逆ギレしてほかの店員もろとも国に帰ってしまったので、この店は私一人です」


なんだそれはと思ってしまった。


「それで一週間前に急遽私が配属されたのですが、どういうわけか準備は何もされておらず、営業開始日をずらしてもらおうとしましたが、どうやら統括が前任者の親族らしく失敗を隠したいらしくて、営業開始日はずらせず資材の手配だけであとは私に丸投げ、おかげにかれこれ六日徹夜していますが」


もう一度思う。なんだそれはと。

呆然と立ち尽くす、俺など眠気覚まし程度の会話相手でしかないのか彼女は変わらず店の中を歩き回って品を出している。


「……手伝おう、これはどこに?」

「? ええっと、向こうの棚にですが、何やっているんですか?」

「手伝いだ」


彼女の話を聞いて、俺はすぐに今日買ったものを脇にのけてスーツの上着を脱いでダンボールを運んでいた。


「いえ、お客に手伝ってもらう理由がないのですが」

「そっちになくてもこっちにはあるんだよ」


伊達にブラック企業で働いていない。

上司の無茶振りでサービス残業をした回数なんて数え切れない。

自分で振った仕事なのに不明瞭な点を聞いても自分で調べろと何も答えず、大したサポートもせず、俺の仕事はやったと定時を少し回る頃には帰っていた部下に尻拭いを任せる糞みたいな上司、それを思い出してしまった。

彼女の現状に思う所どころか、前の会社の上司の無茶ぶりを経験している俺を見ているようで共感してしまった故の行動だ。

こんなもの偽善だとわかっているが、自分が経験した嫌なものから視線をそらして放っておくのは俺は嫌だと思った故の行動だ。

せっせと、ダンボールに貼られている伝票を見て品出しを行う。


「あの」

「なんだ?」

「それ、二つ隣です」

「……指示をください」

「わかりました」


その行動にたいして、実際人手が足りないのかそれ以上言うだけ無駄だと思ったのかはわからないが、彼女は何も言わずに黙々と自身も作業をしながら俺に指示を出し続けていた。


「とりあえず、終わりましたね」

「そうか」


一通り品出しは終わって、隅に置かれたダンボールは消え去っていた。

店内の棚にも隙間はなくなり、ようやく店らしくなった。あとはガラスケースの貴重品のみとなったので俺の出る幕はない。

当の店員である吸血鬼娘はカウンターの中で伝票整理をしている。

一仕事終わったと、ネクタイを外し腕まくりした状態で端末の時計を見る。


「うげ、もう四時かよ」

「ですから、お客に手伝ってもらう理由はないと言ったじゃないですか」

「いや、まぁそうだけど……はぁ、初日から残業かよ。この会社残業時間ないんだよなぁ」


こちらに顔すら向けず、黙々と伝票整理を続けながら彼女は答えてくれる。

一日最低五時間というノルマがあるので、これから挑んだとしても終わるのは九時過ぎになる。

自業自得

それに尽きる行動だ。


「まぁ、なんとかなるだろ。邪魔したな」

「いえ、勝手にやっていましたが結果的には助かりました」

「店員さんが言ったとおり、勝手にやったことだよ。さてこれ以上長居するわけにはいかないから、行くわ。また買い物しに来るから、その時はよろしく」


早く行かなければ下手すれば日付が変わってしまう。

荷物を持って店を出る。

だが、トンと紙製の伝票をまとめ整える音に止められる。


「現地での情報収集は向こうでは当たり前の行動です。ですので、少々ダンジョンについて教えます」


振り返ると、カウンター越しから彼女はこっちをじっと見ていた。




田中次郎 二十八歳 独身 彼女無し 職業 ダンジョンテスター(正社員)

魔力適性八(将軍クラス)

役職 戦士


今日の一言


一期一会

事前準備って大事だと思います。


少しづつですが、お気に入りや評価が増えてくれれば幸いです。

誤字脱字があれば指摘の方を、感想があれば是非にも。

これからも、本作をよろしくお願いします。

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