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586 人の行く末を見守ることは意外と大変だ。

 


 色々な要素を徐々に加えている間も、時間は過ぎていく。


 食事や酒に満足し、そして今度は異世界の種族の姿に変わったときは酒の勢いも相まって中々面白い反応になった。


 恋人のような雰囲気を醸し出す組み合わせも誕生している反面、スパイ組のように利益でしか物事を考えていない輩たちとのパーティー会場内での温度差が激しくなっている。


 表向きは普通の会話しかしていないから捕まえることはできないけど、その隠したニュアンスからそれが限りなく黒に近いと言うのは理解している。


 周りの温度が高まれば高まるほどその雰囲気の差が浮き彫りになっていく。


 ここまで盛り上がるとは思っていなかったけど、それは一つの成果として受け入れ、ついに一つの契機を迎える。


「ご歓談中の皆さま、お楽しみ中に申し訳ありません。様々なお話をしている中で相手のことを知る善き時間も終了です」


 ついに仮面を脱ぐ時間になった。


 シンデレラのように華やかな話ではないけど、それでもここからが正念場と言える。

 見た目を知り、中身を知り、そしてついにその二つを経験した状態での対面となる。


 一部意味のない状況になっているけど、それはそれで後々対処しようと思いつつ、俺は気配をもとに戻して、壇上へと上がり、マイクを取る。


 そして注目を集めるためにあえて声を少し高めにして話始めると、自然と注目は集まるものだ。


「声色、雰囲気、会話の内容、なんとなくどんな人物と話していたか予想をしている人もいるとは思いますが、それは答え合わせをするまで絶対ではありません」


 予想できている組み合わせを察した会場の参加者たちからわずかに笑い声が漏れ、そしてこれからやることを感じた人たちはそっと飲み物や食べ物をテーブルに置き始める。


「では、皆さまの準備が整ったようなので」


 そして今まで何かを持っていた手は自然と目元に伸びる。


「どうぞマスクをお外しください」


 誰も迷いなく、むしろ今まで話していた相手がどんな人なのか気になるのか。

 気がせり、勢いよく外す人の中、二度目の対面が果たされた。


 見つめ合う二人と言うには少しばかり、数が多すぎるが、雑談も何も起きず、無言で見つめ合う二人がいくつも見られる。


 パーティー会場と言うには静かすぎる空間。


 出会うべき人たちが出会ったとか、そんな感じのテロップが出そうな雰囲気。


 なんだろうか、今無性にブラックコーヒーを飲みたくなった。

 そしてスエラたちに会いたくなった。


 何人か、はいはいと諦めたように手を振り、そしてごちそうさまと言っているような感じの仕草が男女ともに見える。


 ジッと見つめ合って、このままキスでもしそうな雰囲気。


 流石にそれは互いの黒歴史になりかねない。

 それをストップするために、仕方なく、マイクの前で咳払いしてこの甘くなりつつある空気を一旦離散させる。


「ええ、大変良い雰囲気を壊してしまって申し訳ありませんが、ここからは二階テラスの個室席を開放します。よろしければお使いください。ただし、先ほども申し上げました通り節度はお守りください」


 後は若いお二人に任せてと言う時間になり、この会場の左右に設置されている階段を登れば別の建物内に入り、ちょっとした二人きりになれる空間に移れる。


 さっそくと足早に移動するような組み合わせはいないが、視線で合図しあったり、照れ合い行きたいのだけどどちらとも言い出せないと言う雰囲気を醸し出していたりと、とりあえずは様子見と言うわけだ。


 マスクを被った状態から、本当の姿を見て、その姿に見惚れた男性陣が中々積極的ではないかなと感想を抱きつつ、俺は俺でもう一つの仕事を熟す。


 お幸せにと言えそうなカップルの影に隠れて、いよいよ何かしそうな雰囲気を感じ取ってスパイ組に目を光らせる。


 流石に武力行使はしないだろうし、テロリズムのようなこともできない。

 俺の催しをぶち壊すと言うのならそれもそれで有りなのだが、利益を求めているのなら流石にそれはしないだろう。


 よほど追い詰めたらしでかしそうだけど、そこまで追い詰めるつもりはない。


 精々するのが、ちょっと酒に細工をすることくらいだ。


 個室に移るのが都合がいいのは相手側だけではない、おそらくは死角になることを良いことに細かい打ち合わせでもするつもりなのだろうが、この会場とスタッフは全て掌握している。


 イベントが終わるまで、ぐっすりと眠ってもらおうとムイルさんが引き連れている部隊要員とスタッフを入れ替えて、監視体制を構築。


 後は網にかかるのを待つとして。


「色々とありましたが、うまくいっている部分もあり一安心です」


 イベントも佳境を迎えつつある。

 壇上から降りて、その下で待っていた霧江さんと合流し、色々と男衆に目を光らせていた霧江さんが表向きの成功を祝ってくれる。


「まだ終わってないので、ここから先は残業ですよ」


 パーティーはここまで、あとで集まると言うことはない。

 会場自体は残り、そこでまだ組み合わさってない人たちで会話は続いているが、互いに相性が悪いか、そこまで良くないと言うのがわかっているのか男女の関係までは進まないと割り切って一歩引いた感じで会話している。


 この場にいる人たちなら大丈夫だと、首を一度鳴らし、そしてスタッフに彼らの世話を頼む。


「残業と言う言葉は、どのような状況で聞いても良い響きでは聞こえませんね」

「サービスと頭につかないだけまだマシですよ」

「管理職には、残業代は付きませんよ。あなたにはつくのですか?」

「生憎と、将軍なので結構いい給料もらってるんでないですね」

「では、私の気持ちもわかるのでは?」

「前の職場の経験があるので痛いほど」


 そして連なって歩き出し、階段を上り始める。

 その登っている最中ケイリィさんはどうするのかとちらりと姿を探すと、会場に残っている彼女と視線が合い、こっちは任せろとハンドサインを送られる。


「良き人ですね。自身のこともあったでしょうに、常に仲間のために動き回ってましたね」

「ええ、仕事面でいつも助けられてますよ」


 そのサインこそ見られてないが、俺が誰とやり取りをし、どんなニュアンスのやり取りをしたかは察した霧江さんはケイリィさんを褒める。


 照れることなく、ケイリィさんのことを褒められたことを誇り、別会場へと移ろうとした瞬間。


「プライベートはどうなのですか?」

「ゴホ!?」


 とんでもなく変化球な言葉が霧江さんの口から出てきて思わず、むせてしまった。

 飲み物を飲んでいたわけでもなく、いきなりことで体が反応してしまい。


 ゴホゴホと、むせる俺を見て。


「違うのですか?」

「ち、違います。彼女とはそんな関係ではないですよ」

「そうなのですか、前にお会いした時も仕事中であっても距離感が近かったのでてっきり、女性の管理をお願いするためだけに彼女を会場に潜り込ませたのだと思っていたのですが」

「正真正銘、本気で彼女も婚活しに来てたんですよ」


 違うとわかりつつもどこか腑に落ちないと言うニュアンスを含ませる霧江さん。


「流石の俺も嫁の親友に手を出すことは躊躇いますよ」


 ケイリィさんはとても良い女性と言うのはわかる。

 だけど、だからと言って同僚全ての女性を異性として認識しているなんて自意識過剰な馬鹿になれるわけがない。


 彼女はあくまで同僚、女性ではあるが女性として見てはない。


 あの日、娶るかと聞かれたときにはじめて女性として認識したくらいだ。

 意識して彼女に好意を向けたことはないはず。


「前に冗談で結婚するかと聞かれたこともありますけど、スエラが冗談だって看破してくれましたし、普通そういう冗談を言う男性に対して異性としての好意は抱きませんって」


 それはケイリィさんも一緒だろう。

 結婚の話を冗談として使って、照れ隠しで使うなんて漫画やアニメの世界での話でしかない。

 現実にはそんな照れ隠しを使う人がいるのかどうかと疑問を抱きつつも、呼吸を整えながら霧江さんに答えると。


「はてさて、女性と言うのは同性であろうともその心を全て理解できると言うわけではありませんよ。例えそれが長い付き合いである親友であっても、いや、親友だからこそうまく隠す方法の一つや二つ持っているものですよ」


 霧江さんは面白いものを見つけたと、どことなくうちのお袋が俺をからかう時のような笑みを見せ始める。


 こんなところで血筋を見せつけなくともと思いつつ、何でそんな含みのある言い方をするのだと思いつつ。


「仕事しますよ」


 これ以上掘り返していたら、変なことに巻き込まれかねないと言う直感で、話をぶった切る。

 少々強引であるが、うちのお袋に口で勝ったためしがない俺が、その血筋であり、全力でからかう気を醸し出している霧江さんに挑めるわけがない。


 時に逃げることも兵法。


「残念です。ではこの話は後ほどと言うことで」

「しません」


 ただでさえ変なものが混じっている婚活パーティー。

 ここに俺の異性関連を混ぜたら余計に変なことになりかねない。


「私、実は占いもできるのですよ?」

「相性占いとかは今出来上がったカップルにしてあげてください」

「それもそうですね」


 なぜかのケイリィさん推しに困惑しつつ、二階のフロアに到着し、もういくつかの組み合わせが個人ブースを使用しているのを感じる。


「手始めに手相占いでも」

「種族の中には手相がない種族もいますが」


 恋の行方のアシスタントとして、手相占いでも始めようかとする霧江さんに言いたい。

 カップルの中にはハーピィー族や、肉球のある獣人族もいる。


「普通の手相占いで測れるものなんですか?」

「……占星術なら」

「異なる世界の、異なる星の元で生まれてますけど」

「水晶玉で占いを」

「道具がないですね」


 一番オーソドックスな占い方法は身体構造上使えず、星占いも違う星の元で生まれているので使えず、占い師の代名詞である水晶玉占いも生憎と道具がないので使えない。


「諦めます」

「それが賢明です」


 恋の行方の応援は世界をまたぐと大変なんだなと思いつつ、俺と霧江さんは二階のフロアを歩き回る。


 覗き込めば中まで見えるけど、流石にそれはマナー違反だ。


 危険な気配を感じたら対処すると言う名目で見回り、特にスパイ組の周辺を重点的に見回る。


 ただ悲しいかな、親戚とこんな恋愛空気な場を見回るのは中々にしてきつい。


 なんの拷問だと思いながら、不謹慎であるがスパイ組が何かトラブルでも起こしてくれないかなと願ってしまう。


「次郎君」

「はい、何でしょう」


 そんな思想を露とも感じさせず歩いて回っていると、霧江さんは一度軽い溜息を吐いた後に。


「他人の恋愛を応援するのは大変ですね。この歳になってこのような初々しさを見せつけられるのは心に来ます」


 少し虚ろな目で俺と同じような気持ちを暴露するのであった。


「えっと、旦那さんとは」

「主人とは互いに仕事が忙しくて最後にあったのは二カ月ほど前です。子供は既に成人してますので家にはいません」


 うちの親と違って、少し冷めきっている夫婦間に俺は思わず苦笑するしかなかった。


 ただ、気になるのはさっき占いましょうかと言った言葉が善意であるかどうか確信が持てないと言うこと。


 仕事上表向きは応援するが、心の奥底で何を考えているかこの言葉でわからなくなる霧江さんであった。



 今日の一言

 他人の恋愛を楽しめた方が気が楽かもしれない。







毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。

面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。


現在、もう1作品

パンドラ・パンデミック・パニック パンドラの箱は再び開かれたけど秘密基地とかでいろいろやって対抗してます!!

を連載中です!!そちらの方も是非ともよろしくお願いいたします!!

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