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581 馴染み始めればどうにかなる。

 

 良いところを見せた後に悪いところも説明出来て距離感が縮まり、婚活パーティーらしい雰囲気になって来た。


 そのために予算を確保して、人員も割き、普通じゃ絶対に食べれないような豪華な肉を手配した甲斐がある。


 最初に食べた時に男性陣が料理漫画のようなリアクションを多発させたが、今はそれも落ち着いている。


 マスカレードパーティーの方も、予想していた効果を発揮している。


 互いに姿が変わった所為で、見た目じゃなくて会話の内容を重視するような傾向が出てきている。

 おかげで、話が合う組み合わせが出来上がってきているうえ、壁の花になっているような人もいない。


 橘たちが帰ってしまって、男女の比率が少し女性側が余るかなと思ったが、一人の男性に複数の女性がつく場面が数か所出来上がることで、それも解消している。


 しばらくこのままにして、時間が経ったらマスクを外して、相手の姿を確認した時の判断次第でどうなるかだな。


 肉を巡っての争奪戦が起こらずに、美味く男性を釣る餌として機能している光景を見つつ、俺もようやく酒にありつける。


 と言ってもスタッフからもらったのはアルコール度数の低い酒だ。

 しかも上品な見た目のグラスに注がれているために、量も少ない。


 ああ、キンキンに冷えたジョッキに入っているビールが飲みたい。

 しかし、そんな居酒屋スタイルで飲むわけもいかず、上品な態度で威厳を見せねばならないのが今の俺の立場。


 普段とは違う飲み方に物足りなさを感じつつ、飲みたい欲求を我慢してちびちびとその酒を舐めるように飲む。


 右を見ても左を見ても、談笑する男女。

 最初の緊張している雰囲気は消え去り、橘が作ってしまった冷めた空気も温まり。


「うまぁ!?」


 最初に出たハツを食している男性の声に会場はさらに盛り上がりを見せた。


 自分のヒントは、自分の問いは、と男女の組み合わせもころころと移り変わり、そしてその移り変わりに流されず、そっと肉のエリアから離れて二人だけで談笑する組み合わせもできてきた。


「……うん、良かった良かった」

「良くないわよ」

「!」


 その幸せな流れの影のような声に、俺はびくりと背筋を伸ばす。

 気は抜いていないはずなのに、俺の気探りに探知されず背後を取った存在の声には聞き覚えがあり、そっと背後を見れば、艶やかな長い黒髪の美女がジト目で俺を見ていた。


「ケイリィさん?」

「正解、それで、どうしてくれるのかしら?狙ってた子が会場から立ち去ってしまったじゃない」

「ええと、もしかして橘を?」

「そっちじゃなくて取り巻きの方、少しインテリな感じの眼鏡の連れがいたでしょ?」

「ああ、いましたね。苦労性がにじみ出てたような感じの」

「彼はお目付け役なのよ。終始こっちに申し訳なさそうな視線を送って来てたわ」


 その中身が誰なのかは察せないわけがない。

 むしろ、察せなかったらあとが怖い。

 ワイングラス片手に、しっかりと天牛のハツをゲットして登場したケイリィさんは、その美味さに顔色一つ変えずに俺にクレームを入れに来たらしい。


 どうやらケイリィさんが狙っていた人は橘と一緒に退場してしまったらしい。


 記憶を遡ることなく、言われれば思い当たる。


 たしか、少しクールな感じの人がいたような気がする。


 彼をケイリィさんが狙っていたのは知らなかったが、あのグループにはどの女性も近寄っていなかった気がする。


「まぁ、結局あの橘って男がいなくならない限りあの人に近づくのは難しかったでしょうね。あの男は空気を悪くするだけで出て行ってくれてよかったけど、それと一緒に彼がいなくなったのは誤算だったわ」


 苛立っている雰囲気はなく、やる気がそがれたという雰囲気をにじませるケイリィさん。


「他に狙っている男性はいないんですか?」

「いないわよ。いたとしても、協定を破棄して他の子を敵に回してまで狙うような男はいないわね」


 だから美味しい物でも食べて帰らないとやってられないわと若干やけくそ気味になっているのはご愛敬というやつだ。


 結婚願望はあるものの、略奪愛には興味のない彼女。


 姿を変えているからこそ、さっきまで言い寄っていた男性陣も彼女の様子には気づかない。


「そうですか。ちなみに他の女性陣の手ごたえはどんな感じですか?」

「本気になってる子は一割ってとこかしらね。まだ時間があるから様子見を決めてる子が大半だけど、マイナス印象を抱いているって感じはないわよ」


 ここで少し、愚痴を吐き出してもいいかもしれないとケイリィさんは意識的に気配を薄めて、自分の印象を隠している。


 そんな芸当ができる人は魔王軍でも一部だけだ。


「一番積極的に動いてるのはあの子ね」

「ああ、ドリアードの」

「よほど気にいったのかしら、あの男の子。あのままだと夜までにゴールインしそうな勢いね」

「そんな無茶な」

「無茶じゃないのがドリアードよ。知らないのかしら。ドリアードってサキュバス並みにそっち方面に積極的なのよ」

「……マジで?」

「嘘言ってどうするのよ。割と有名な話なんだけど知らなかったのね」

「初耳です」


 うまくいっているという筆頭は、俺が背中を押した男性とドリアードの組み合わせだ。

 今は、会場に設置したちょっとした休憩スペース用のベンチに隣り合って座り、会話に花を咲かせている。


「あの子って、清楚そうに見えるけど、その見た目で男を惹き付けてパクッといくのが常套手段よ」

「それだと、男には困らないような気が」

「言ったでしょ、割と有名な話だって。種族の話になるけど、ドリアードは女性単一種族なの。だから子孫を増やすためには他の種族の男が必要になるのよ。それで引っかける方法があれだから」

「それを警戒した男は寄ってこないと」

「そうね、サキュバスですら干からびるほど熱い夜を体験できるわよ」


 その光景は微笑ましく見えるも、ケイリィさんの話を聞くと逆に心配になってくるものもある。


「大丈夫なのか?」

「国際問題にはならないようにするくらいの常識はあるわよ。ある意味でダークエルフ以上に尽くす種族よ。ただ、男の子側の常識がかなり変わってしまう恐れがあるわね。ドリアードを経験したら、満足できるのはサキュバスくらいじゃないかしら」

「あの若者に幸あれと祈るべきか、それとも止めるべきか」

「止めた瞬間、ドリアード種族を敵に回すわよ」


 触らぬ神に祟りなし、男女の関係に割って入って馬に蹴られる趣味はない。

 心の中で十字を切って、不幸にはならないだろうが太陽が黄色く見えるかもしれない運命を受け入れてくれることを切に願う。


「ちなみにだけど、地下施設のちょっと高いホテルを予約している子は何人かいるわよ?」

「……霧江さんが揃えてくれた初心な男性には刺激が強すぎるほど肉食系女子が多すぎやしないか?」

「それくらい、結婚って言うのはこっちの世界では切実なのよ。受け身の状態で男が寄ってくるなんて話は絵本の世界の王子様くらいよ」

「ちなみにそっちの世界の男の恋愛事情ってどんな感じなんだ?」


 彼女たちも真剣に向き合って、将来を見据えている。

 そこに幸せがあればいいなと思いつつ、女性側の恋愛事情は最近詳しくなったけど、そう言えば男側の恋愛事情って聞いたことはあまりない。


 教官たちは既婚者だけど、思えば馴れ初めと言うのはあの花見の時に軽く振れたくらいだ。

 地下街の知り合いたちも既婚者が多いけど、恋愛に関しては聞いたことはない。


「さぁ?女の私がそこら辺を熟知してたら今頃こんなところにはいないわよ」

「そりゃそうか」


 ケイリィさんでも知らないことはある。


 肩をすくめて、自嘲気味に笑う彼女に酒のおかわりをウエイターから受け取り、差し出すとありがとうと彼女は受け取る。


「それで、この後の予定はどうするつもりで?」

「とりあえず、このお肉食べたらあの輪の中に戻るわよ。ちょっと気になることもあるしね」

「……もしかして、見つけた?」

「何人かね。候補って感じで、流石に確証はないわよ」


 そして、自分の恋愛ごとに関しては完全に見切りをつけて、仕事モードになるケイリィさん。

 さっき追い出した橘が、男性側の問題児だとすれば、ケイリィさんが気にしているというのはこちら側の問題児と言うことになる。


 俺やムイルさん、そしてケイリィさんが精査し、さらにアミリさんが裏取りをしてくれた今回のパーティー参加者。


 そこに、勢力的にNGな輩が混じっているというのはあらかじめ予想はしていた。

 どれだけ精査しようとも、どんな手段を使おうとも独自のルートを確保しようとしている勢力はいる。


 手段を問わなければ、こっち側の精査を突破することはできるだろう。


 それを予想していた俺たちは警戒をし、ケイリィさんには参加者側として余裕があれば調べてほしいと頼んでいたのだ。


 本来であれば楽しんでくれれば一番良かったのだが、怪しい存在を見つけたから俺に接触してきたと言うわけか。


「番号は?」

「三と九、あと十二と二十三、とりあえずはこんなところね。ちょっと違和感が有るって言うレベルだし、例えそうだとしても婚活しに来ているっていう方便は崩さないと思うから、こっちから何かするっていうのはできないわよ」

「重々承知しているよ、このパーティーの空気を壊したくないしな」


 せっかくの場なのに仕事モードにさせて申し訳なく思いつつも、しっかりと仕事をこなしてくれるケイリィさんに感謝し、言われた番号の女性の魔力を覚える。


 獣人が二人、悪魔が一人、竜人が一人とどこの勢力かなと考えを巡らせる。


 食事が進み、皆の腹が膨れてくるころになる。


「次のイベントを差し込んで様子見てみるか」


 次のイベントは楽団による演奏だ。

 そこで踊ることもできるが、今回は生演奏で雰囲気を作り、このダンジョンの特性を活かした催しをする。


 それがある意味で都合がいい。


 楽団の演奏と、この店特有の演出で会話が他人から聞き取りずらくなる。


 要は二人っきりで話せる雰囲気を作ろうというわけだが、潜り込んだ勢力の参加者がいるのならここはかなり美味しい時間になるはず。


 正攻法で関係を持ち、縁を繋げるのなら打てる手は限られてくる。


 疑わしきは罰せよというわけにもいかないので、スタッフに指示を出して楽団の準備に入ってもらう。


「おや、予定よりも早く進行しているようですね」


 そのタイミングで霧江さんが戻ってきた。


「そちらの方はどうなりましたか?」


 戻ってきたと言うことは橘の対処は終ったということ、どうなったかは俺たちが知る由もないが、着物の袖で口元を隠し笑みを浮かべる霧江さんからは聞かない方がいいと語られているようで。


「やっぱり、いいです」

「その方がよろしいかと、こちらとしてもあまり話していて面白い話ではないので」


 今後の日本との関係性に支障が出なければいいのだけど、と一瞬不安に思うが、霧江さんがその辺の対処はしっかりとしてくれそうなので心配はない。


「私が席を外している間に随分と良い雰囲気ができているようですね」


 先ほどのケイリィさんとの会話は聞かれていない。

 気配はずっと追っていたから、会場に再入場したのも気づいていた。


 だけどここからは、霧江さんにばれないようにこちら側の闇を洗い出さないといけない。


 婚活パーティーってこんな後ろ暗いことをする仕事では絶対にないはずなのだが、政治的要素が絡むとこういうことになるんだなと、苦い物を心の中で感じるのであった。



 今日の一言

 馴染めば場は温まるが、裏は常に存在する。



毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。

面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。


現在、もう1作品

パンドラ・パンデミック・パニック パンドラの箱は再び開かれたけど秘密基地とかでいろいろやって対抗してます!!

を連載中です!!そちらの方も是非ともよろしくお願いいたします!!

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― 新着の感想 ―
[一言] あぁ、魔王軍側の独自利権を構築したい非協力的な貴族からの横槍案件か…(´・ω・`)
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