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571 宴の終わりって中々終わらないよな

 

 鬼の宴は本当に夜通し行われる。

 経験上、このままいけば間違いなく徹夜になるのは見えている。


 だけど、それに対応できない人はいる。


「すみません次郎さん。ユキエラたちが、もう限界ですね」

「そうだな、この子たちもはしゃぎすぎて疲れたんだろうな」


 まず挙げるのはうちの子供たちだ。

 飲めや歌えや、と騒がしく楽しい空気に当てられて、いつも以上に興奮していた二人だったけどまだまだ幼い彼女たちに徹夜というのは無理な話。


 むしろ、こんなに長くはしゃいでいること自体がすごいことだ。


 うとうとと眠くなり、騒がしさが煩わしいという仕草を見せだした我が子たち。


 そのタイミングで、そっと魔法で静けさを二人に与えるスエラ。

 母の魔力に包まれて、眠りだしたのを見ていた周りにいた鬼たちは、一斉に両手を口に当てて静かにするという姿を見せてくれている。


「ふむ、では私も付き添おう。一人だと何かあった時に困るだろう」

「お願いしますね。ヒミク」

「ありがとう、ヒミク」

「うむ!任せるがいい!!」


 そう言うことで、先に離脱するのはスエラと子供、そしてヒミクの四人になる。

 鬼の宴の中座はあまり好まれないけど、この四人に関しては咎める輩はいない。


 子供が笑ってくれて、気を良くした鬼たちは名残惜しくもこの四人を見送る。


 宴会とかで四人減るというのは目立つ行為なのだが、ここまで人数が多いと多少減っても騒がしさは減らない。


 飲酒していない4人が減り、ではこのまま続投かと言われればそういうわけじゃない。


「へへへへ!まだ飲むぞ―――!!」

「母ちゃん、ホラ水!水飲んで!!」


 普通の人間でも酒豪の部類に入りそうな勢いで、酒を飲み続けた巡さんがここでダウン。


 中々いい量を飲んだなと思えるような量を飲んで見せた巡さんを介護しようと、まだまだ余裕な海堂が水を差し出すが。


「忠!!良い子良い子!!」

「おわ!?母ちゃん放してくれよ!みんな見てるだろ?」

「そんな悲しいこと言うな!!孫を見せてくれようとしてる孝行息子を可愛がる親の楽しみを奪うなぁ!!」


 巡さんはするりとその海堂の手を躱して、海堂を胸に抱き込む。

 むふぅとかわいらしい鼻息をこぼして、荒々しくとも愛情のこもった手で海堂の頭を撫でまわす。


 脱出しようにも下手に暴れると巡さんが怪我するのがわかっているので成すがままの海堂。


「カカカカ、良い母ちゃんじゃねぇか。なぁ次郎」

「そうですね」


 そんな光景を見ているのは俺と、隣に座り込んできた教官である。


「とりあえず、飲みます?」

「おう、もらうぜ」

「すっかり日本酒にハマりましたね」

「良い国だぜ日本は、酒の種類が多いし、何よりうめぇ!!」


 彼の鬼が隣に座るということは、とりあえず酌をしろということなので、簡単な浮遊魔法でまとめて日本酒の瓶を引き寄せて、そのうちの一本を空にする勢いで注げば、教官は嬉しそうに飲み干す。


「機王の奴を味方につけたそうじゃねぇか」

「ええ、状況的にアミリさんに協力してもらうのが都合がよさそうだったので」


 そして教官はこういう時に回りくどいことはしない。


 さっさと本題を切り出す教官に苦笑しつつ、気に喰わないという雰囲気ではないのでとりあえず一安心。


「そんなに面倒なのか?」

「ええ、遠回しに美味しいところを搔っ攫おうとする人が多いようで、それだけ日本とのパイプが魅力的に見えるみたいです」

「だろうな、俺たちからすれば日本は金のなる木だ。そこを狙おうって輩は腐るほどいるだろうな」


 どちらかと言えば心配してくれているようで、珍しく気遣ってくれる教官の言葉に苦笑気味に仕事がうまくいっていないことを話せば、教官も似たような経験があるのか、うざったいと言葉をこぼして、酒を飲み干す。


「そのガード役をアミリさんがやってくれるので、これでようやく本腰を入れられるってところですね。報酬も支払いましたし」

「報酬って、あの嬢ちゃんとアミリの野郎を引き合わせたことか?」

「ええ、それが報酬で良いって言われました」

「あいつも丸くなりやがったな」


 教官と肩を並べて飲むのは久しぶりなので、なんだか楽しくなってきた。

 ゲラゲラと大きな声で笑う声をBGMに酒は進む。


「そんなに違います?アミリさんと接点ができたのって最近ですので」

「ちげぇよ、全然ちげぇ。あんなコロコロ表情は変わらなかったぜ」

「そうなんですか?」

「冷徹の機王、その噂は有名な話ですよ次郎さん」

「冷徹?」

「おう、そっちの吸血鬼の嬢ちゃんの言う通り、何をやっても顔色一つ変えねぇ。すべての出来事を作業のようにこなす。それが昔の機王だ。海堂の奴に会ってからは色々と変わってきたがな」


 そんな中で聞くのは昔のアミリさんという、俺にとっては中々新鮮な情報だ。


「想像できませんね」

「次郎さんはスピード出世してますが、魔王軍に所属してからの日にちは浅いですからそこら辺の情報を知らないのは仕方ないかと」

「まぁ、話すような内容でもないしな」


 俺、教官、メモリアと何とも珍しい組み合わせでの飲みの場。

 ガバガバと酒を消費する教官の隣で、ゆっくりと酒を飲む俺とメモリア。


「俺個人としては、教官の昔とか気になりますね。あんまり聞いたことはありませんし」

「今と変わらねぇよ、毎日毎日喧嘩してた。それだけよ」


 昔語りのついでに教官の過去を聞けるかなと思ったが、あっさりと話を流されてしまった。

 聞かない方が良かったかなと思ったが、雰囲気が変わった様子はない。


「昔話って言えば、俺よりもエヴィアの方が面白いぞ」

「エヴィアの?」

「ああ、あいつがノーディス家の養子に出される前の話だ。聞きたいか?」

「聞きたいですけど、聞いたら後でエヴィアに何されるかわからないので遠慮しておきます」


 方向転換し、エヴィアの話になりそうだったが、当人のいない間に聞いてしまったらバレた時の処理が面倒なので遠慮しておく。


「なんだよ、詰まんねぇな」

「私は詰まらなくはない。次郎の判断は英断だ」

「エヴィア、仕事終わったのか?」

「社長が是非とも仕事をしたいと言っていたのでな。ご厚意に甘えて抜けてきた」


 その判断は間違っておらず、噂をすれば影と言わんばかりにスッと気配を消して空いている座席に座ったエヴィアに目を見開かせる。


 時間的にはかなり早い、いや、定時の時刻はとっくの昔に過ぎているから遅いと言えば遅いが、彼女にしては早い部類の時間だ。

 すなわち、社長が今頃地獄を見ているのだなと確定した瞬間である。


「大将も、エヴィアを敵に回すたぁすげぇ度胸だな」

「度胸で仕事を放り投げられる身にもなって見ろ、お前ならどうする?」

「ぶん殴る」

「だろうな、私でもそうするが相手は魔王様だ。防がれるのがおちだ」


 魔王の右腕に、古参の将軍、そして新参者の将軍と中々濃いメンバーが揃い。


「随分と私が場違いになりましたね」


 メモリアが若干肩身が狭いと嘆くも。


「同じ男に惚れた仲だ。私とお前に身分差などない」

「ガハハハ!次郎の嫁なら問題ねぇよ!!」


 この二人がメモリアがいることを咎めるとは思えないので問題ないし、案の定、気にしないと言ってくれる。


「それに私としてもメモリアに聞いておきたいことがあってな」

「私にですか?」


 おまけにエヴィアが、メモリアに聞きたいことがあると言ってくる。

 中々珍しい話だ。


「おう、俺も商人の嬢ちゃんに聞きたいことがあんだよ」

「鬼王様も?」


 それがエヴィアだけじゃなくて、教官もとなるなおの事珍しい話になる。

 なんだろうと俺とメモリアが顔を見合わせる。


「物価の上昇のことだ。今後のことを考えると軍の方で様々な資材を調達せねばならん。そうなれば根本的に品不足になり、物価が上昇することになる」

「俺の方でも色々と手を考えてるんだけどよ。どうあがいてもそこは避けられねぇんだよ」


 そして切り出された内容は確かにメモリア向きの内容だ。

 今魔王軍が用意しているのは戦争の準備。


 戦争は金食い虫。

 非生産的な行為であるのは間違いない。


 食料に始まり、様々な物が消費されるが生産されることはない。


 そうなれば物は減り、その物の価値は増えるのだ。


「そうですね、トリス商会の方でもそれは懸念されて色々な方面で対策を講じています。しかし、お二方の言う通り物価の上昇は避けられないかと」

「やはりそうか、となればどれほどまで上がるかによって軍自体の体力が決まるな」

「短期決戦は無理だろうよ。どうあがいても長期戦になるんだよ」


 そして戦争を経験している二人からすれば、そう簡単に戦争が終わらないのは理解している。

 故に、その物価上昇がもろに軍にダメージを与えるのも理解しているということだ。


「ただ、解決策がないわけじゃありません」


 深刻な表情になりかける二人に対して解決策があると、飲んでいたワイングラスをテーブルに置きながらメモリアは言う。


 鬼と悪魔、恐怖の象徴とも言える種族の二人の視線を受けても動じることもなく堂々と正面から受け止めたメモリアは、そっと俺の方を見てくる。


「鍵は、次郎さんです」

「俺?」


 そしてなぜか解決策が俺だと言う。


「現状、魔王軍と日本を繋げる顔役は次郎さんになっています。なので、次郎さんに日本との交渉で食料の売買契約を設けて貰えば、少なくとも国内での食料の値段上昇は避けられるかと」

「それは私も考えている。日本やアメリカが求めている石油。あれは我々にとっては不要の代物だ。それを対価に色々な交渉ができるとは踏んでいるが、その交渉段階に踏み入っていない。会社で貿易とも考えたが、今の世間は会社イコール我々の国という認識がある。迂闊なことは出来ん、メモリアの言う話はあくまで将来的な話であって……」


 その解決手段をメモリアが言うが、それはもうすでに行われる予定の内容だ。

 交渉は難航しているし、すぐさま貿易を始めましょうというのは国的にも不可能。


 どう短く見積もっても、年単位の時間がかかると踏んでいる。


 教官もそれは知っているようで、口出しはしない。


「それは国の話であって、次郎さん個人の話ではないですよね?」


 しかし、あっけらかんと商人であるメモリアは何てことはないと宣言する。


「……なるほど、そういうことか」

「え、もしかして俺に大量の食料を買い込めって言ってるのかメモリアは」

「はい、その通りです。国として商売するのではなく、あくまで次郎さんが個人名義で食料を大量に購入するのは手続きさえすれば問題はないかと。幸いにして、次郎さんにはご親戚にそのコネクションがありますので、実現自体は現実的に可能かと」


 その内容を瞬時に察した俺とエヴィア。

 メモリアは俺に商人まがいのことをしろと言っているのだ。


 婚活パーティーに加えてダンジョン運営、さらに商売ごととキャパシティーオーバー待ったなしの提案に口元が引きつるのがわかる。


「どういうことだ?」


 唯一教官だけは理解できていないようで、メモリアはすぐにわかりやすく説明するように人差し指を立てて。


「次郎さんが個人資産で食料を大量に安く仕入れて、他の軍の方に少し安めに売りさばいて恩を売れば市井の物価上昇を抑えられて、戦争の体力も増します」

「なるほどいい案じゃねぇか!!」

「俺の仕事が増えること以外はそうですねぇ!?」


 うちの嫁の一人は嫁である前に商人であったようで、情け容赦なく解決策を提示するのであった。

 そこに待ったをかけられるのは俺だけであった。



 今日の一言

 宴が終わりですと言っても、語り合う時間はできてしまう。



毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。

面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。


現在、もう1作品

パンドラ・パンデミック・パニック パンドラの箱は再び開かれたけど秘密基地とかでいろいろやって対抗してます!!

を連載中です!!そちらの方も是非ともよろしくお願いいたします!!

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― 新着の感想 ―
[一言] やはり、巡さんも酒量的には(ほぼ)真人間だったんだな…w そして、段々と次郎が何でも屋みたいなポジションに…w
[一言] エヴィアとメモリアが仕事で忙しくなるとすると、次郎も大変だねえ。 外伝のフレアが第三子だとすると、次郎の心のよりどころ的な意味で、スエラがフレアを妊娠するのは意外と早いかもしれない。
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