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570 門出を祝ってくれる人が多いことは嬉しい限りだ

 

「お前ら!!今日は海堂の小僧と機王の祝いの席だ!!潰れるまで祝うぞ!!」

「「「「「「おおおおお!!!!!!」」」」」」」


 あれから、どうにか鬼たちの酒宴を用意しきった俺は、少しネクタイを緩めて大きくため息を吐く。


 この人、いや、この鬼しか宴の始まりを告げられないと言わんばかりの大声。

 教官の乾杯の音頭で早い時間からの宴会は始まった。

 この店の総力を駆使して用意された料理は開始早々鬼たちの胃袋へと消えていく。

 このペースで食べ続けると後の料理人たちが腱鞘炎になるのではと思えるくらいに、酒と料理の消費ペースがヤバい。


 大ジョッキに入ったビールなど鬼に連なる酒豪種族にしたら水と大差ない。


「兄ちゃん!!焼酎ストレート一番でかいジョッキで頼む」

「こっちはウイスキーボトルで頼むぜ!!」

「スピリタスあるか!!」

「バッカ野郎、ここはテキーラ一択だろ」

「日本酒、樽で」

「「「「その手があったか!!」」」」


 駆けつけ一杯のビールのおかげで、あっという間にジョッキの山が出来上がり。

 その回収に追われる店員たちが注文を受けさらに忙しさを増す。


 一応念のためセハスに連絡して、俺の屋敷にある対教官用の酒を店の方に無償で搬入するように指示し店長に伝えてあるので酒が足りなくなる心配はない。


「お前と機王の奴がついに結婚か!!ガキも出来たって言うのはめでてぇことだ!!ほれ機王祝いの品だ!!」

「感謝、まさかお前から祝われる日が来るとは思わなかった」


 場の雰囲気が整えば、あとは祝いの席においては歴戦の猛者である鬼たち、騒ぎ場を盛り上げ祝うのはお手の物。


 宴会の席では、鬼たちが飲めや歌えやと賑やかす。


 俺は一応、巡さんの警護ということで酒は弱め、といっても日本酒を選びちびちびと舐めるように飲む程度に納めている。


 昔なら日本酒を飲めばあっという間に酔いが回るのだが、この体になってから違和感を感じる程度の酔いで収まるのだから、強くなったものだ。


 隣では、教官が持ってきた大きな玉をアミリさんが受け取っているのが見える。


「俺もこいつをお前に渡す日が来るとは思わんかったわ!!海堂は俺の弟子だからよ。弟子の子を身ごもったお前を俺は身内だと思ってるぜ」

「……その考えに私は賛同したい。だが、今までのこともある。この品をきっかけにしたい」

「かぁ!!相変わらず理屈っぽいな。んな長ったらしい言葉なんていらねぇよ!!」


 その品が何なのかは俺にはわからない。

 ボウリングくらいの大きさの、少し緑色が混じった水晶のような玉。

 大きな木箱に入っていて、しめ縄のような縄が結ばれている一品。


「元気な子を産めよ!!そいつがでかくなったら俺が稽古つけてやるよ」

「感謝、そして機会があれば希望するが、その際は手加減を所望する」

「ガハハハハ!!おう、最初の海堂の時くらいには加減してやるよ」


 それを渡しながら何やら海堂の子供が将来将軍になりかねないフラグが立っていることに俺は海堂の子が苦労しそうだなと思いつつ、大丈夫そうだなとそっと視線を逸らす。


 巡さんがキラキラとキオ教官を見ているのが気になるが、大丈夫だろう。


「あれは、鬼族に伝わる子宝の宝玉ですね。かなり大きいですが」


 そっと視線を逸らして、何かが起きる心配がなくなった俺はそっと俺の席の前で用意されているおでんに手を伸ばす。


「でかいのか、メモリア」


 箸で二等分した大根は、程よい柔らかさで口の中に放り込めばいい具合に味が染み込んでいる。

 その味を楽しんでいると、隣で驚くように目を見開いているメモリアが見えたので、大根を飲み込んでから聞いてみた。


「はい、うちの商会でも取り扱いがあるので」


 あのままだと、夕食を一緒に取れないと思ってメモリアとスエラとヒミクと、無理かなと思いつつもエヴィアを呼んでみた。


 結果、予想通りスエラとヒミク、メモリアはこれて、エヴィアは遅参すると連絡があった。

 田中家というわけじゃないけど、俺の嫁と子供が一緒に食卓を囲む場所は結界が張ってある。


 これは子供がびっくりしないようにした配慮で、ユキエラとサチエラはあまり見ない鬼たちがいることに興味津々で、食事よりもジッとどんちゃん騒ぎをしている鬼たちを見ている。


 派手に動く鬼たちが楽しいのか、きゃっきゃきゃとはしゃいでいる。


 普通、あんな強面の鬼たちがいれば泣いたりするのではと思うのだが、うちの娘たちはだいぶ肝が据わっているようで。


「「べろべろばぁぁ!!!」」」


 子供が好きな鬼のいないいないばぁでも。


「「きゃあきゃきゃ♪」」


 滅茶苦茶笑う。

 酔っぱらった勢いでの変顔を晒す鬼たちはその無邪気な笑顔が嬉しくて、デレデレとだらしない顔をしている。


 スエラも子供たちが喜んでいるので、特段気にすることなく猫と子犬の精霊を呼び出して子供たちの側に置き、自分も料理を楽しんでいる様子。


 ある意味で、仕事ではあるが段々と気が抜ける環境が用意され始めていることに、安堵し。


 俺はメモリアに質問を飛ばせる余裕が生まれた。


「ええ、普通の家庭ならこう掌に収まる程度の大きさですので」

「……それが本当だとどんだけ気合を入れたんだ教官」

「よほどうれしかったようですね」

「だろうな、見てわかる。嬉しそうだ」


 メモリアの小さい白い掌に収まる程度の大きさというのが一般的というのなら、教官が用意したあのボウリング玉サイズは、絶対に一般的ではないということになる。


 身内を大事にする教官らしいと口元がほころぶのがわかる。


「オラ!!機王の奴が飲めない分はお前が俺と飲むぞ!!」

「う、うっす!男海堂!!付き合うっす!!」

「ハハハ!!馬鹿野郎!!俺がお前に付き合うんだよ!!何せ主役はお前だからな!!祝ってやるぜ!!」


 今も肩を組んで海堂にデカイ盃になみなみと日本酒を流し込んでいるのが見える。

 そう、相撲取りとかが儀式に使うような、あの杯だ。


 両手でそれを保持し、なみなみと一升瓶分の酒を注がれ。

 それを一気に飲み干して見せる海堂。


 今のご時世、アルハラとかあるけど幸いにして魔紋で強くなっている俺たちの体はこの程度の酒の量で潰れる心配はない。


「プハ!!」

「良い飲みっぷりだ!!」

「うっす!!教官もどうぞ!!返杯っす!!」

「おう!ならもらうぜ!!」


 そして、酒イコール命の水と豪語する教官が海堂よりも酒に弱いわけがなく、そっと差し出された海堂の持っていた盃を受け取り、なみなみと同量の酒を注がれると、海堂よりもさらに良い飲みっぷりを披露し。


「かぁ!!日本の酒はうめぇな!!」


 この一杯のために生きていると言わんばかりに、破顔させる。


「ほら、そっちの嬢ちゃんも飲めや!!」

「もう!嬢ちゃんって、こんなおばさんにお上手な人だね!!」

「ガハハハハハ!!俺から見れば人間はみんな小僧に嬢ちゃんよ!!!」


 そしてヌッと海堂の近くに座っていた巡さんに日本酒じゃなくて、ビール瓶を差し出す教官。


 意外かもしれないが、教官は嫌がる相手に酒は勧めない。

 相手が飲める量を把握出来るのも鬼としての特徴のようで、教官曰く、嫌がる相手に飲ませるのは酒がもったいないという何とも鬼らしい理由で、どれくらい酒に強いかがなんとなくわかるらしい。


 小柄で、魔紋で強化しているわけでもない巡さん相手に日本酒イッキを勧めない程度の常識があるようだ。


 教官の手だと、ビール瓶が五百ミリのペットボトルを持っているように見える。

 そしてその視覚光景に対比すれば普通のグラスなんて子供用のグラスに見えてしまう。


 そんなグラスを持つ巡さんにビールが注がれるのを見る。


「ヤバ!?」


 しかし、その姿を見て海堂が何か思い出して、ヤバいことに気づき。


 手を伸ばそうとしているのが見えた。


 けれど、それは一瞬遅く。


 ごくごくと一気にビールを飲み干す巡さん。

 そう言えば彼女は、最初はウーロン茶を飲んでいたな。


 まぁ、教官の酌を避けきれなかったのか、巡さん自身も教官に若いと言われて上機嫌になって酒を飲んだのだろう。


 教官は下戸で酒が飲めない人には酒は勧めない。

 アレルギー症状とかも直感で悟るから大丈夫かなぁっと、楽観的に思ったのだが。


「かぁ!!うまい!!」


 いきなり大きな声で巡さんが叫んで、俺はギョッとした。


「お、嬢ちゃんいける口だな」

「あったりめぇよ!!えっと、キオさんだっけ?」

「おう!そう呼んでくれていいぜ」

「こんなかわいい娘たちができた日に飲まないでいられるかってんだ!!潰れるまで行くよ!!」


 ビール一杯であっという間に酔ってしまっているのがわかる。

 眼が座り、頬が上気している。


 酔っ払いの兆候。


「む、あれはまずいのではないか?」


 ヒミクがその様子に危機感を抱き、水差しを持って行こうとしたが、すっと遠くで海堂が待ったをかけるように掌をこっちに向けてきた。


 そして口パクで。


「だいじょうぶ…?」


 そう伝えてきたので、大丈夫なのだろう。


 そして景気よくまたビールを一気に飲み干す巡さん。


 小柄な体であんな飲み方しても大丈夫なのかと、不安になるけど。


「おー!!いい飲みっぷりだ!!」

「あったりまえよ!!ササササ!キオさんも一献!!」

「お、いただくぜ」


 表情とテンション以外、異常は見受けられない。


 今も一升瓶を片手で持ち上げ、そしてそっと滑らかな仕草で教官の盃に酒を注ぎ始める巡さん。


「本当に大丈夫そうだな」

「ああ」


 その動きによどみはなく、そして危なさもない。


 嬉しそうに酒を注がれるのを見るキオ教官も見守っているということもあって、ある意味で酒のみのプロがそばに居る安心感もある。


 俺が口を出す心配はないかと、浮きかけていた腰をまた下ろして静かな食事に戻る。


「あたしはさぁ、子供ができにくい体でねぇ。この子が生まれた時は本当にうれしかったんだ」


 と思ったら、酔った勢いで何やら自分語りを始める巡さん。


「あたし自身ガサツで、粗暴で、すぐに手を出すような嫌な女だけどさ、旦那はそんな私が良いって言って一緒になってくれたんだ。嬉しかった、嬉しかったよ。そんで忠が生まれた時なんて滅茶苦茶泣いた」


 ニコニコと笑いながら、話す内容は不思議とガヤツク空気の中でも耳に入り、彼女の周りにいるメンバーも話を切らずに黙って聞く。


「ああ、愛しいってこういうことだって初めてわかってね。旦那に似て大人しいって思う所もあれば、私に似てヤンチャだって思う所もあって色々手間がかかったよ。高校生のときなんて、あんた将来どうするんだよって思うくらいに私に似ててね、最後まで見守ろうって思ってたら、一人で生きていて、便りがないのは元気な証っていうけど気づいたら結婚の話になってるのは驚いたねぇ」


 しみじみと、そしてニコニコと。

 酔っていますって言う姿の見本を見せるかのように、頭をゆっくりと揺らして。


「それがこんなに可愛い子を連れて来るんだなんて、本当に私は孝行息子を持ったよ」


 そしてお酒を持っている手とは反対の手でアミリさんを抱きしめる巡さん。

 なんだろう素面の時は散々ダメ出ししていたのに、今はべた褒め。


 ちらっと海堂の方を見ると、恥ずかしさで顔を突っ伏している。


 なるほど、こうなることがわかっていたのか海堂は。


「もう!アミリちゃん、うちの忠を好きになってくれてありがとう!」

「こちらも感謝」

「ほらほら、そっちの子たちも来なさい!おばさんがハグしてやるぜ!!」


 そして少し羨ましそうにしている双子天使にもハグする巡さんを見て。


 教官はニヤリと笑って。


「良い母ちゃんじゃねぇか」

「……うっす」


 教官の言葉に、少し照れながら頷くのであった。



 今日の一言

 祝いの席は人数が多い方が楽しい






毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。

面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。


現在、もう1作品

パンドラ・パンデミック・パニック パンドラの箱は再び開かれたけど秘密基地とかでいろいろやって対抗してます!!

を連載中です!!そちらの方も是非ともよろしくお願いいたします!!

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[一言] 巡さん、酔っ払った方がハートフルな母ちゃんみがあって良いなw(ノリの好き嫌いは人によってかなり分かれるテンションだけども)
[良い点] ほんと良いかーちゃんじゃねーか。
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