54 積み重ねた先に結果は出てくる
PV100万突破!!
総合評価1万突破!!
一年前に投稿したときは、この十分の一を目標にしていました。
皆様、ご愛読ありがとうございます!!。
Another side メモリア
メモリア・トリス 百九十三歳 彼氏有り
彼氏 田中次郎
職業 MAOcorporation 商業施設雑貨店店員
魔力適性 不明
役職 店長
私は吸血鬼、人と交わり狩り狩られてきた存在。
血という糧を得るために襲い時に抗われ、血という土台に支えられ残ってきた欠陥品。
しかし、周りの吸血鬼は人を下に見る。
それは仕方ないことでしょう。
周りからしてみれば人間とは家畜、食料でしかない。
だが、私はそうは思えなかった。
強靭な肉体、膨大な魔力、英知を蓄えることのできる長き時、その全てが人間を上回る。
対して、主神の光はこの身を焼き、飢えれば蓄えた英知など消え去り、強靱な肉体は干からびる。
そんな人間に頼らなければ生き残っていけない我々は、どう考えれば人間よりも優れていると言えるのか。
劣っているとは私も思いません。
優れているとも私は思いません。
その僅かなズレが、私を孤立させた。
周りの常識と私の常識、大多数が占める常識の中にある異色の私は、同族からも家族からも変わり種として扱われる。
そんな私が運命のいたずらか、それとも必然でしょうか。
人間の男性に対して好意を抱いてしまっていた。
「不思議なものですね」
「何か言ったか?」
「いえ、独り言です」
巡り巡って恋人となり、今私は、吸血鬼であるということを隠してイスアルで彼と共に旅を始めている。
今の私を吸血鬼の仲間が知ったらなんと言われるか。
ありえないと笑われるか、それとも何をやっているかと怒られるか、どちらにしろ好意的には受け止めてもらえないでしょう。
頭を振り、彼の姿を探せばあっさりと見つかる。
結界石で匂いと音を遮り、探知石を周囲に散りばめた川辺に作った簡易野営地で、彼はせっせと石を積み上げた窯で人数分の料理に精を出しています。
その後ろ姿を眺めながらついこぼれた私の声を拾い、作業の途中にもかかわらず気にかけてくれていることに、つい嬉しいと思ってしまう。
私も生きている。
吸血鬼とは言え感情くらいは抱く。
だが、そのどれもが揺れ幅は少なく表に出にくいだけです。
常に凪いでいる湖面のように、波は立たない。
だが、彼の言葉はまるでその湖面に石を投げ入れたかのように波を起こす。
およそ二百年かけて出来上がってきた私の心は、戸惑いながらもそれを受け入れようとしていて、なんとも不思議な感覚です。
それを悪くない、いえむしろ好ましいと思ってしまっている私がいる。
「仲が良いのですね」
「そうですか?」
「ええ、とても。彼を見て優しそうに笑っていらっしゃいましたよ」
「そうですか」
「ええ」
「そうなのでしょうね」
そっと、指摘された箇所に手を添えると口元が笑っているのがわかる。
この人間、エシュリーは何かと私と会話の場を持とうと話しかけてくる。
野営地までの道中はさすがに事務的な会話だけに収まったが、野営の準備を終えると事あるごとに話題を振ってくる。
正直に言えば、次郎さんの関係者以外の人間に欠片も興味を持てない状況では煩わしいと思ってしまうが、だからと言って無視するほど嫌悪しているわけでもない。
目の前で調理する彼の姿に感心する四人の『女』騎士見習いに対しても、さほど思うことはない。
鎧で体格を隠し、声を魔法によって偽装しても魔力の波長までは偽ることはできない。
そんな彼女たちを彼と認識していた次郎さんですが、兜を脱いだ姿を見て性別を認識したときは、なんとも言えないような表情をしていました。
感情の機微に疎い私では、彼がその時どう思っていたかを察することはできない。
考えれば、巫女であるエシェリーさんの護衛となれば、必然的に中には女性が紛れるでしょうと彼に言った時は、そういうものかと納得するように笑っていました。
「できたぞ」
女性の集団の中で男一人、イスアルの男性であればバレないと思って色々と下品な行動を起こすところですが、次郎さんは極力視界にも収めないように行動しています。
味見をして、納得の出来のシチューを器に盛りつけている姿が事務的で少し寂しいですけど、最初に私に渡してくれるのは嬉しいと思う。
彼自身は最後に盛りつけ、美味しいと絶賛する彼女たちにそうかと淡々と返事をしながら食事を済ませていました。
逆に、その態度が珍しいのか、彼女たちの気を引いているとは気づいてはいないでしょう。
紳士的とは捉えられないが、マイナスの行動を取らないというだけで彼女たちからしてみればプラスに映るようですね。
「少し離れろ、火傷するぞ」
「は、はい!」
そして面倒見がいいというのも困りものです。
少々突き放しているように見えるが、要所で気遣っているというのはわかる。
彼は火の後始末をしている時に見学しようとした騎士見習いの一人に注意しつつも、体をずらして何をしているか見えやすいようにしています。
彼にとっては当たり前の行動でしょうが、こっちでは無償でそのような行動を取れる人物は希少でしょうね。
野営の設置作業など彼女たちに適度に仕事を振り、後片付けまでをするまでの間に随分と懐かれたようです。
彼と彼女たちの距離は、最初よりも近くなっている。
「頼りになりますね彼は」
「そうですね、ですがよろしいので? 本来でしたらあなたが指揮を執らなければならないのでは?」
「料理に関しましては……」
「ああ」
全力で騎士たちが止めに入っている段階で、彼もエシュリーが料理に対して何かあるのだろうと察していたようですし。
私自身できなくはないが、雑になってしまう。
他の方々も似たようなものでしょう。
せめて飯くらいは旨いものをとこぼしながら腕まくりをする彼の姿は印象的でした。
今は片付けを終え、私の隣で武器の手入れに入るようです。
「お疲れさまです」
「ああ、と言うかお前ら少しくらい料理できるようになっとけよ、なんで俺が一番まともなんだ」
「適材適所というやつですね、あいにくと私はトマト料理以外は苦手なので」
「実際食ったことのある身としては否定ができないのが悲しいぞ」
仕方ありません。
トマトは旅には持ち運べない食材ですから。
作業途中に声をかければ、悪態を吐いてくるが武器の手入れの片手間に受け答えはしてくれるその態度は言葉以外の意味がないのはわかっている。
料理の腕についても、彼にとっては冗談のつもりで言ったようですが、女子力ですか?
誰とは言いませんが、それらが著しく欠落している方々は胸を押さえてダメージを堪えているようです。
私も地図で現在地を確認しますと告げれば、彼はそうかと言って装備の手入れにもどりました。
困りました。地図を見る限り大体の位置から予定通り進んでいるのがわかる。
それで作業は終わりです。
ほかにやることを考えますが、互いに信用しきれていない状況で相手に見張りを任せるなんて正気を疑うような選択が取れるわけもなく、最初の段階で私たちと彼女たちから見張りを出し合うことは決まっている。
先に見張るのは私で彼には休んでもらうことになっている。
食事も取り、あとは見張りを済ませ休むだけ。
「……」
有り体に言えば手持ち無沙汰ということになってしまいます。
「さて困りました」
「なにか問題があったか?」
「ええ、このままいくと私が暇になります」
「彼女たちと話せばいいだろう、世間話くらいはあるだろ?」
「おや、あなたが話し相手になってくれないんですか?」
「この手入れが終われば俺は休むんだが」
「でしたら、それまでは相手をしてください」
「あいよ」
問題の先延ばしを行っているだけですが、私としては嬉しいのでこのまま流れに任せましょう。
話す内容も、街についたら何がしたいかと当たり障りの無いこと。
彼の口から風呂と聞こえ、何故と私が返す。
「何日も風呂に入らないのはな、どうも落ち着かない」
「旅の間は仕方ありませんが」
「まぁな、そういうものだが、いずれどこでも風呂に入れるようになってほしいよ」
「こだわりますね」
「そういう人種なんだよ」
日本人だからなと聞こえてきそうな仕草を示す彼との会話を楽しむ私がいる。
時間経過を忘れる私がいる。
気づけば私から話しかけている。
「あ」
「っと、これで終わりだな」
しかし、楽しい時間ほど早く過ぎ去ってしまうようですね。
もっと大きい武器を使えばいいのにと的はずれな考えが頭をよぎる。
獣の血で汚れた武器を磨き終え、刃こぼれがないか確認しそれに布を巻く。
それはこの会話の終わりを示す。
もう二度と話せないというわけでもないのに、明日になればまた話すことができるというのに、まだ話したい。
だが、これからのことを考えるとこれ以上は話せない。
もし仮に、彼女たちがいなかったらもっと話せただろうか、そんなことを考える私がいる。
「先に休むが、何かあったら起こしてくれ」
「どのように?」
「声をかけるとかゆするとかじゃないのか? それ以外にあるのか?」
「そうですね、私の思うこの起こし方はどちらかといえば私がされる方でした」
「そういうのはプライベートで頼む」
だからだろうか、少し引き止めるように普段は使わないような言葉を唇を指差しながら言えば、呆れるように彼は笑い一撫で私の頭に触れました。
そして彼は、笑いながらお休みと言い私の近くにある岩に寄りかかります。
そのまま外衣で身を覆い包み、肩に立てかけるように鉱樹を置き目を閉じました。
わずかに訪れる静寂。さて、今度こそ手持ち無沙汰になってしまった。
もう少しためらってもいいのではという彼に対しての不満は明日に持ち越すとしましょう。
今は見張りをどう過ごすか考えるとしましょう。
結界は起動しているが、日本とは違いいつ何が起こるかわからない。でも最後の砦である封印を解除すれば大抵の事象には対処が可能。
普通に警戒していれば問題はない。
吸血鬼である私にすれば、この時間帯はむしろ起きている時間帯なので集中が途切れる心配もないでしょう。
このままで問題ないと言えるが、いささか退屈なのも事実。本を読むような環境でもない。空を見上げても星は見えず暗い木々の葉が見えてその先には厚い雲が見えるだけ。
こっちの住人はこの空を見てなんとも思わないのだろうか。
「あの」
「どうかしましたか、エシュリーさん」
ないんでしょうねと様々な自問自答を繰り返していくうちに、警戒心とは別に暇を持て余していた思考が脱線の兆しを見せ始めた。
それを引き戻すように話しかける気配があった。
そう言っても、私に話しかけてくる人間など彼女以外いないが、丁度いい暇つぶしになればいいと思いながら空から彼女へ視線を移す。
「?」
返事をしたにもかかわらずエシュリーはソワソワと話を切り出してこようとしない。
顔も赤く、視線も安定しない。
アルコールの類は摂取しているはずもなく、先ほどの食事に変なキノコが入っていた形跡もない。
吸血鬼である私が彼女に向けて魅了の魔法を使ったわけでもない。
では何故彼女は話を切り出さないかとあらゆる可能性を考察し、彼女の様子から答えに至る。
「ああ、用を足すならそちらの川岸がオススメですよ?」
「違います!」
「声はもう少し抑えたほうがよろしいかと」
「メリーさんが変なことを言うからです!」
エシュリーの声に一瞬彼が反応しましたが、何もないと思い一回周囲を見回したあと眠りに戻りました。
その様子に気づいていない彼女は声を抑えて更に顔を赤くし話しかけてくる。
しかし、ではなんでしょうか?
私の中でも最適な推論だと思ったのですが、やはり人間の考えは予想がつきませんね。
さっきから他の方々もこちらの様子を窺っているようですし。
雰囲気はどこか似通っているようですが。
「はて、ではどのようなお話が?」
「あの、メリーさんは」
「はい、私がどうかしましたか?」
「殿方とお付き合いをされているのですよね?」
「はい、そこで眠っている方と」
「あの」
「はい」
「殿方とお付き合いするのはどういう風なのでしょうか?」
「……」
これは、あれでしょうか、恋バナを求められているのでしょうか?
気づかれていないといっても人間が吸血鬼に恋の話を求めてくるのですか。
初めての経験ですが、魔王軍について聞かれているわけでもありませんので話しても構わないでしょう。
しかし
「どういう風にとは、具体的にどのようなことをお聞きしたいのでしょうか?」
聞き方が抽象的すぎるので私は何を話せばいいのだろうかと考えてしまう。
仮に、仲が良いか悪いかの話でしたら、私はなんと答えればいいのか?
仲は、悪くはないでしょう。
スエラという第一夫人はいますが、彼は極力平等に接しようとしてくれます。
三人で過ごす時もあるが私自身で不快と感じる時間ではない。
当然二人で過ごす時間もあるので私の中では良好と答えられる。
ですが、彼女が聞きたいのはそういうのではない気がする。
「あの、どうやって出会ったとか、普段どのように過ごして仲を進めていったとか」
彼女は呪いか何かにかかっているのだろうか。
質問してくる度に顔の色が真っ赤になっている。
周りの彼女たちも盗み聞くというより拝聴するという姿勢を見せている。
エシュリーから呪い特有の気配はないし、血の雰囲気から病というわけでもなさそうです。
「彼との出会いということですか?」
「はい!別に殿方と出会いがなかったり、未だ付き合ったことがなかったりとか、かっこいい人と出会いたいとかそういう意味ではありませんから!」
「はい、わかっています」
やはりおかしい。
私としてはただ質問の内容を確認しただけなのに……何故聞いてもいない情報を提供し顔を赤くするのでしょうか?
まぁ、いいでしょう。
そして彼との出会いですか。
『だ、大丈夫なのか?』
思い返せば最初は心配されましたね。
見ての通り私の肌は白いので、彼からしたら私が病人か何かに見えたのでしょう。
優しいですか?
いえ、私からしてみれば健康なのにいきなり心配されて変な人だなぁと思いました。
買い物に来たはずなのに私の仕事を手伝い始めてその印象は強まりましたね。
おかしな人でしょう?
思えばそれがきっかけなのでしょうね。
彼の職業と私の職場の関係性が強いおかげで彼とは定期的に話すようになりました。
『これは?』
『新作のポーションです』
『いや、どう見てコー○』
『ポーションです』
新商品の話や、
『調子はいいようですね』
『ああ、それでこっちのロープなんだが』
『割引はしませんよ?』
『そこをなんとか!』
彼の頼みを断ったり、
『その本面白いのか?』
『なかなか興味深いです、なぜこの男性はここまで複数の女性の好意に気づかないのか、それに反して友人とは仲が良い。もしや同性愛者では? 同じ男性としてどう思いますか?』
『……そういうものとしか言えないが、少なくともお前が思っているような展開にはならないと思うぞ』
『そうなのですか』
普通に商品や仕事に関係ない話をしたりと、気づけば彼とのカウンター越しの会話を楽しみにしている私がいました。
いつもでしたら買取作業や棚卸、暇でしたら読書をしながら話を聞いていたのですが、いつごろからでしょうか。
片手間の会話ではなく、カウンターの中から彼を見上げるように視線を合わせ会話するようになったのは。
そのすぐあとでした、彼が別の職場の女性と付き合い始めたと聞きました。
「「「「ええええええ!!??」」」」
驚くことですか?
どうやら彼が怪我をして、そこからその女性が告白し、彼が受け入れたという流れのようです。
なんでしょうその目は、別にその女性から彼を奪い取ったわけではありませんよ?
そういう考えもないわけではありませんでしたが、その考えを思いつくよりもいきなり現れた感情の方がなんなのか理解するのに忙しかったので。
幸い怪我は大したことがなかったようなので彼は数日後に私のもとに来ました。
その時は普段通りに対応しましたが、そっと出ていく彼の背から目が離せませんでした。
閉まった扉がまた開くのではと、期待してしまいました。
「そ、それって」
さて、当時の感情が恋なのかどうなのか今でもわかりません。
理解したのは、当時読んでいた本に私と同じように彼を取られそうな女性の描写がありまして、それと照らし合わせてからでしたから。
おかしな話ですか?
私もそう思います。
初めての感情というのはそういうものですよ。
それからどうなったかと?
「そうですね、そのあとは」
「そこまでだ」
「おや、起きていたのですか?」
「仲良くなっているのはいいことだが、何が悲しくて自分の恋愛話を聞きながら寝たふりをしないといけないんだ」
「いけなかったですか?」
「頼むから、次やるときは俺のいない時に頼む」
「だそうです」
「「「……」」」
「無言の圧力には屈しないからな、お前らも休めるうちに休んでおけ。寝不足で動けないって言ったら置いていくからな」
話はここまでのようですね。
気づいてはいましたが、話に夢中だった彼女たちは気づかなかったようで、そっと軽く手で覆われた私の口はこれ以上語ることはできない。
そっとずらすだけでその手は払いのけることができたが、苦笑しながらの彼の頼みを断るわけにはいきませんね。
振り返り彼の顔を見ていたけど、前の彼女たちに向き直り終わりを告げる。
そして次郎さんは解散を告げるように手を叩き、彼女たちは不満気に役割に戻っていく。
その姿は未だ興奮の冷めないようで、チラリと私の耳に先ほどの会話でどこが良かったのだと話が聞こえてくる。
そう言えば、彼女たちは日本では高校生? ですか、それくらいの年齢でしたね。
向こうではお年頃というのでしたか。
「おや」
「どうかしたか?」
「いえ」
どうやら、私もそのお年頃なのかもしれません。
なんでもありませんと次郎さんに言いながら、さっきの話の続きを言えなかったのが残念と思ってしまっている自分に気づく。
そうかと首をかしげながら元の位置に戻り再び眠る彼の姿に二度目のお休みを言い、彼の返事を聞き、続きを聞きたそうな見張りの時間帯がかぶっているエシュリーにダメですと告げる。
犬のように残念そうにする彼女を脇目に、話の区切りとしてはここでよかったと思う。
なにせ
『これから、お前を好きになる』
この言葉を言いたくなかったから。
彼は私に向かって言った言葉かもしれないが、この言葉は今では私の言葉、だって
暑さに弱い吸血鬼が苦にならないほど、暑くあなたを好きになっているから。
どうやら、残りの見張りの時間は思い出を振り返る時間になりそうですね。
メモリア・トリス 百九十三歳 彼氏有り
彼氏 田中次郎
職業 道具屋店主
魔力適性六(副将クラス)
役職 曲者
今日の一言
数ヶ月、生きてきた年月と比べれば刹那のような時間ですが、積み重ねてきたものは確かに実を結びました。
Another side END
仕事が忙しい中、皆様の誤字脱字や設定の指摘は非常に参考になっております。
コツコツと治していきたいと思いますのでこれからも本作をよろしくお願いします。




