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565 打てる手札は手順を持って打つべし

 

「イッテぇ!?」


 俺の言う客というのが誰かとわかった途端、巡さんは海堂を放り投げるように放して、海堂はその慣性に従って床に打ち付けられる。


 そして巡さんはてきぱきと乱れた服装を正して。


「ほら!あんたも立ちな!!」


 死体蹴りのごとく、痛みで悶える海堂を蹴り飛ばして立つように指示する巡さん。


 ある意味ひどい行動なのだが、それだけ急いでいるということ。

 その間にも気配はどんどん近づいてくるからな。


「あ、ヒミクもいるのか」


 その気配の中に馴染みのある気配も感じ、多分だけどアミリさんの護衛とシィクとミィクの監視役というやつだろう。

 なんだかんだ言って、すでに商店街の常連、顔なじみは俺よりも多いとの噂。


 主婦業が板についてきた堕天使ことヒミク、しかし元は熾天使。

 その戦闘能力はエヴィアの全力に比肩すると当人同士で話していた事がある。


 そんな彼女がアミリさんと一緒にいると言うのは偶然ではないだろう。


「母ちゃん、もう少し手加減してくれよ。俺でも痛いんだぜ?」

「あんたが馬鹿なことしなければ、こんなことはしないんだよ」


 そして腰をさすりながら立ち上がる海堂の服をなんだかんだ言いながら整えていく巡さん。

 さっきまでプロレスに興じていた二人とは思えない。


「来ましたよ」


 そして丁度海堂の服装が整えられたタイミングで、メモリアの店の前で気配が止まる。


 チリンと扉が開く際に聞こえる呼び鈴に合わせて、店に入ってくる足音が聞こえ。


「ジーロいるか?エヴィアに言われて、三人を連れてきたのだが」


 先頭で入ってきたのはヒミク、エコバックに大量の食材を入れて、それを軽々と持ち運ぶ割烹着スタイル。


 背中の翼と西洋の顔立ちじゃなければ、明治の主婦のようだと言えるだろう。

 俺からしたら似合っているから、嬉しい限り。


「ああ、いるぞ。わざわざすまないな」

「構わん。買い物に来るついでだ。今日はおでんにしようと思っているからな楽しみにしていてくれ」


 そしてひまわりのような笑みで買い物袋を掲げて、その中に大根やらちくわやら昆布やらとヒミクの言う通り、おでんの材料が入っている。


 社内は基本的に適温で保たれていて、寒かったり暑かったりと気温変化はほぼない。

 冷暖房費という会社悩ませな経費に関して言うなら、ダンジョンの一言で解決できる。


 故に季節外れな料理であっても、只食べたいと言う気持ちだけで出てくるのだ。


 そんな感じでほのぼのと会話をしているが、そこにすっと割って入る影がある。


「夕餉の話はいい。本題に入ってほしい。人王」


 いつものフードに、ラフな格好、ではなく。

 これからお城の舞踏会にでも参加するのかと言わんばかりに気合の入った格好。


 メモリアの店を悪く言うつもりはないが、例えるのならコンビニに西洋のガチ貴族が来店するようなイメージだ。


 見なくてもわかるほど、精巧に化粧も施され、所作も気を使っているのがわかる。


 普段は冷静沈着な面持ちなのに、今の彼女は少しはやる気持ちを抑え込むような感じだ。


「ええ、ええ、忠のお母さまが来られたと聞いて駆けつけたのに、ここで足止めは嫌よねシィク」

「ええ、ミィク。挨拶は最初が肝心。こんなところでお預けなんて、嫌よねミィク」


 そしてそれは双子天使も一緒のようで、たまに海堂と一緒にいるところに遭遇したり、外食をしているところを見たりはするがその時は割と現代よりのラフな格好で行動しているケースが多いのだが……


 何故着物。

 ヒミクと合わせてか、それとも天使という種族の好みに直撃するのが着物なのか。


 それは定かではないが、淡い色で統一された双子天使。

 七五三ということなかれ、しっかりと化粧を施した彼女たちは立派な女性だ。


 それだけ巡さんに会うのに気合を入れてきたと言うのがわかる。


 連絡入れて大して時間は経っていないが、それでもここまでの準備をしてきたのだ。


「本来なら、しっかりとした店で待ち合わせる予定でしたが」

「予定が変更したのなら問題はない。私はいつでも準備をしていた」


 正直段取りは完全にご破算。


 どうせならメモリアの店ではなく、どこかの料亭で待ち合わせて正式なあいさつをと思った。

 しかし、結果的に巡さんが会社に来たと言う情報がアミリさんのところまで行ったのだ。


 こうなるのは予想できた。


「私の店は料亭ではないのですが」

「正直、すまんとしか」


 これから起き得るであろう出来事に、大きなため息を吐きたくても相手は七将軍が一人、機王。

 立場的な問題で、そんなことは口が裂けても吐けない。


 精々が、両家の挨拶にしては場違いだと苦言をこっそりと言う程度のことくらいしかできない。


 そんな彼女の心情に謝罪しつつ、そっと俺は横にずれ。


「彼女が海堂の母、海堂巡さんです」


 ちょっとでも冗談で場の空気を和ませようとしたが、この魔王軍に置いて知らぬ者はいないと言っても過言ではない。


 機王、アミリ・マザクラフト。


 その彼女が発する気迫、あるいは纏う雰囲気と言い換えた方がいいか。


 常人が目の当りにしたら、気後れするような次元の迫力。

 それに近い雰囲気を纏う双子の天使。


 正直、巡さんのリアクションがすごく気になるのだが。


「……」

「……」


 まさか、互いに無言になるとはだれが予想したか。


 慎重に言葉を探っているのか。

 それとも……


「海堂忠さんと結婚を前提にお付き合いをさせていただいております。アミリ・マザクラフトと申します。このような場でのあいさつ、先にお詫び申し上げます」


 とちょっと緊張した空気が漂ったが、先にすっとアミリさんが頭を下げて挨拶をしたことによって空気に流れができた。


「忠の母、巡と申します。この度はご挨拶が遅れて申し訳ありません」


 互いに礼儀正しく、そして真剣な言葉。

 唯一海堂だけは、え、この人誰って感じで自分の母親のことを見ているが、流石に空気を読んでそれを口にすることだけはなかった。


「息子から事情は聞いております。マザクラフトさんは、私の息子の子を妊娠していると」

「はい」


 そして雑貨屋の店内でするような話題ではないが、ここで口出しをすることもない。

 俺は静観の姿勢を貫きつつ、しっかりしろと海堂を肘でつついておく。


「それと、あなた以外にも付き合っている女性がいると聞いています」

「その通りです」


 そのやり取りしている間にも、話は進む。

 アミリさんの妊娠、そして双子天使との交際。


 隠していたことは全て吐き出したのだなと、迷いのない言葉で話を進める巡さん。


「初めましてお母さま」

「私たちは、双子の天使」

「シィクと」

「ミィクと」

「「申します」」


 そのタイミングで双子も挨拶に乗り出す。


 傍から見れば、幼き少女たちが移動に介して、おめかしした集団と見れないこともないが。

 生憎とここにいる人全員、俺よりも年上なんだよな。


 絶対に希少な光景を目の当たりにしているなと、実感しつつ、この後の展開をどうするかと悩む。


 仲人としてはここからが本番だ。


 どうにか仲を取り持って、良き関係を築いてもらいたいのが口を挟めるタイミングではないのも事実。


 どうする、どうするべきか。


「次郎さん」

「なんだメモリア」


 そんな悩める俺に対して、メモリアは珍しく表情を作り、完全な営業スマイルで。


「そろそろ営業妨害になりそうな時間なので、場所の移動をお願いしたいのですが」

「そうだな、ここで立ち話するのもなんだしな」


 俺にそう言ってきた。

 彼女も商人。


 ここは喫茶店ではなく、雑貨屋。

 お茶やクッキーが出たりするが、決して飲食店ではないのだ。


 彼女の好意で今は準備中ということになっている。


 自己紹介と言う必要最低限のことしかしていないが、まだこの会社内の見学も途中。

 案内がてら、交流するのも有りか。


「互いに自己紹介も出来たことですし、立ち話で済ます内容でもないでしょう。ここは一つ、軒先を変えませんかね」


 そうと決まれば話は早い。

 俺も俺で、営業スマイルを作り、話の誘導を始める。


「別の店を用意しています。巡さんはまだこちら側の事情をすべて把握しているわけではありませんので、道中で色々とアミリさんやシィクさんとミィクさんから説明していただけませんかね。知り合った経緯や、日常でどんなことをしているか」

「そうだね、息子からの話しだけじゃ偏りが出ちゃうし。良ければ聞かせてくれないかい?」

「問題なし、私は構いません」

「「私たちも異論はございませんわ」」


 どうにか営業妨害は避けられそうだ。


「ヒミクはどうする?」

「私は案内だけだ。ジーロがそばにいるのなら問題はないだろうさ。家に戻り、夕食の準備をすることにする」


 案内だけで、申し訳なかったが本当に買い物のついでだったようで、ヒミクは双子と挨拶を交わしたのち、この場にいる全員に別れを告げて去っていく。


「ちなみに、あの人も先輩の嫁」

「へぇ、あの人も幸せそうだね」


 その際に海堂親子の会話が聞こえていたが、それは一旦スルー。


 キリキリと痛みそうな胃を気合で我慢し、メモリアの店を後にする。


「今日は、定時で上がれそうですか?」

「ああ、予定的には問題はないはず」

「そうですか、では私も今日は早めに上がることにします」


 店先で、準備中の札を外しに来たメモリアとそんなやり取りをして、地下街の散策を再開する。

 綺麗に着飾った少女たちを連れての商店街の移動は非常によく目立つ。


「あそこで私は忠と出会いました」

「あれって、ガチャポンだよね」

「肯定、私はこの世界の文化で非常に興味深い物に出会いました。それを忠は知っていて、それを教えてくれると言うのが最初のきっかけです」

「うちの息子の趣味が役に立つ日が来るとはね」


 しかし、そんな視線などアミリさんは全く意に介さず、自分の出会いの思い出を語っている。

 機王と人王、そして熾天使に囲まれた少女。


 どんな重要人物なんだと、好奇の視線が集まるのがわかる。

 ああ、これって絶対後でエヴィアに怒られるものだよな。


 海堂も巻き込んで、絶対に責任取らせよう。

 道中、知り合いの店員から何事だと、視線で問われて、あとで説明すると視線で投げ返すと言う行為を繰り返す。


「あなたたちは、アミリさんの世界とは違う世界の住人なんだ」

「ええ、お義母様。私たちは天界と呼ばれる世界に住んでいましたわ」

「最初は、敵として忠と向き合いましたが、傷つき、命尽きようとしたとき彼はその優しき心で私たちを助け、魔王軍に捕虜としてではなく、保護という形で交渉もしてくれました」

「私たちは、その優しき心に胸打たれ、是非とも私たちの勇者になってほしく彼の側におります」


 アミリさんの出会いの次に双子天使との出会いの話。

 そこまで時間は経っていないはずだけど、それでも結構昔の話のように聞こえる。


 脇で話を聞く俺とは違い、一体どんな話が飛び出てくるのかわからない海堂からして、ドキドキと緊張した様子で女性陣の話を静聴している。


 和気藹々と言うよりは、距離感を計っていると言う感じのやり取り。


 巡さん、アミリさん、シィクにミィク。

 四人を中心に話が進み、そして文化交流という感じでこのまま何事もなければいいと思っていたが。


「おう!次郎じゃねぇか!こんなところであうとは奇遇じゃねぇか」


 こういう時に限って、イベントと言うのは発生する。


「鬼王」

「機王、お前がそんなめかし込むなんて珍しいじゃねぇか」


 俺と海堂の教官。

 ある意味で、この会社での出来事を語るに必要な存在。


 鬼王、ライドウことキオ教官のお出ましであった。



 今日の一言

 手札を切るタイミングは慎重に






毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。

面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。


現在、もう1作品

パンドラ・パンデミック・パニック パンドラの箱は再び開かれたけど秘密基地とかでいろいろやって対抗してます!!

を連載中です!!そちらの方も是非ともよろしくお願いいたします!!

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― 新着の感想 ―
[一言] 奇遇? キオ教官、ほんとうに奇遇なんですか?
[一言] コレ、逆に食事会に参加したキオ教官と呑み明かして腹を割った結果上手く纏まりそうだなw
[良い点] キオ教官キター!! フシオ教官は何してる??
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