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564 時には性急な行動も必要なのだ

 

 ギクリとギャグのような反応で背筋を伸ばす海堂。


 巡さんの言葉に、心当たりがあると言わんばかりに態度に表す海堂。

 そんな反応じゃ隠していることがありますと宣言しているようなもの何だが。


「さっさと吐きなバカ息子。あんた何かを隠そうとした時はいっつも右に目が寄るんだよ」


 加えて相手は二十年以上、息子を見続けた海堂のエキスパート。

 トントンと右目の瞼を叩くように目を見ろと仕草をして、はっとなり左の方向に目を向ける海堂だったが。


「馬鹿が」


 小声でついそう言ってしまうくらいに下手な行動だった。


 それじゃまるっきし隠せていないし巡さんの思うつぼ。

 教官に見られたらどつき回されて、ボコボコにされている。


 メモリアの店に来た時から、なんとなく嫌な予感はしてたが、俺が用意していた段取りが台無しだ。


 頭痛を堪えるように額に右手を当てる。


 性急に事を動かし過ぎだ。

 巡さんにとってここは異国。


 それも日本の常識とかけ離れた世界観が存在する国だ。


 海堂の流れはおそらく、俺という一夫多妻を実現した存在がいることが当たり前だとアピールすることで自分の行動を正当化しようと言う腹積もりなんだろうけど、巡さんは頭の回転が速い。


 元レディースの総長だったと言うのも理解できるくらいに状況把握能力にたけている。

 海堂の状況を受け入れる能力も彼女からの遺伝か。


 適応能力が滅茶苦茶高い。


 そのおかげで、海堂の所々に出ている不審な行動に気づいて、こうやって堂々と問い詰めているわけか。


「巡さん」

「あんたはちょっと黙ってて、あんたならきっと綺麗に説明できるって言うのはわかっているけど、このことに関してはうちのバカ息子から直接聞くって言うのが筋ってやつさ」


 このままだと尋問染みた光景を見ることになるかもしれない。

 そう思い、ここは割って入るかと声をかけたが、巡さんが待ったをかけた。


 何か大事なことを、上司でありそれなりに付き合いが長いとしても、他人である俺から聞くのは違うと堂々と言い放った巡さん。


 メモリアの店でできれば騒ぎは起こしてくれるなと思って、メモリアを見るが彼女は構いませんと、そっと気配を消して、店の扉に準備中という看板をぶら下げに行った。


 まったく、出来た嫁を持てて俺は幸せ者だと、場が整ったのを確認して、俺は一歩引いた。


「ええ、と」


 こうなってしまえば俺は手出しは出来なくなる。

 後は海堂が堂々と言うだけの話し、その後に待っている折檻と説得は海堂がやるべきことだ。


 しどろもどろになりつつある海堂を脇目に。


「メモリア、奥にあるキッチンでお茶を淹れてもいいか?」


 どうも長くなりそうなので、海堂家の親子のやり取りを眺めつつお茶でも飲もう。


「私の分もお願いします。棚の上から三番目にこの前手に入れた少し貴重なハーブティーがありますので、隣のはちみつの瓶と一緒に持って来てください」

「おう」


 勝手知ったる嫁の店。

 間取りを全部把握しているし、どこに何があるのかもわかっている。


 じっと仁王立ちし、言葉を待つ巡さんの眼力に、様々なダンジョンに挑んだ海堂が気合負けしている。


 そんな二人のやり取りを見守るために、俺はそっとメモリアに聞いた棚にある茶葉とティーセットを取り出す。


 お湯は魔法でささっと沸かして、カップ二つ分のお湯をそこに注ぎカップを温めている間にメモリアが隣に立ち、下の開き戸から少し高そうな缶を取り出した。


「エヴィア様からいただいたクッキーです。一緒に食べましょう」

「それもいいな」


 蒸らしも十分、綺麗な黄色味のついたお茶をお湯を捨てたティーカップに注ぎ、カップを二つ持ってカウンターに戻って見ると。


「あんた!あの写真の女の子に子供を作らせた上に、他にも手を出している女がいるってか!?」

「ぎゃあああああああ!?背骨が!?」

「あ、バレたか」

「時間の問題でしたね」


 どうやって切り出したかは、海堂の名誉のために答えないでおくが、あれじゃダメだろと言う感じで白状し、今はエビぞりで締め上げられている。


 海堂の体は教官たちの加減した攻撃でも耐えうる肉体。

 魔紋も何もない常人の巡さんの攻撃程度なら平気なはずなんだが……異様に痛がっている。


「あれは演技じゃないな、巡さんの技もしっかりと極まっているし、関節の限界値を把握している力加減。なかなかできる」

「種族によっては効かないかもしれませんが、魔力適正次第ではいい戦力になりそうですね」


 よく観察して見ると、技のかけ方がかなりうまい。

 相手の力を分散させ、反撃できないようにして、さらに自分の力は必要最小限に。

 小柄な体で、自分よりも大柄な海堂の体に技をかける巡さん。


 海堂の実家でのやり取りもそうだったが、巡さんはプロレス好きなのだろうか?


「ギブギブ!?ロープ!ロープ!」

「うちに縄は有りますが、持ってきた方がいいのでしょうか?」

「そういう意味のロープではないから放っておけばいい、もう少しすればおのずと解決する」


 人様の店で迷惑かけやがってと、愚痴りつつエヴィアがくれたと言うクッキーに手を伸ばす。


 甘くほのかに香るシナモン。

 しつこくなくさっぱりと溶ける甘味。


 お菓子を探すことが趣味のエヴィアが見つけてきたクッキーは美味しくいくらでも行けそうだな。


 のんびりとお茶をすすり、俺は海堂と巡さんのやり取りを気にも留めなかったが、隣で一緒にお茶を飲むメモリアはプロレス用語を叫ぶ海堂を不思議そうに首を傾げながら見る。


 そしてロープという単語から店頭に用意してあるサバイバルグッズの頑丈なやつを持ってきた方がいいかと指を指すが、必要ないと首を振る。


 メモリアはプロレスという競技を知らないから、海堂の言っている意味も理解できないのだろう。


「もう少し、とは?」


 そして店内がいつもよりも騒がしい状況に、棚とかが倒れないか、一応注意しているメモリアは、この騒動の終着点がくるということにさらに不思議そうな顔をした。


「エヴィアに連絡を取って、当事者を集めてもらっている。海堂の背骨が耐えられる程度の時間でここに集まるだろうさ」

「私の店は集会場ではないのですが」

「そこはすぐに、移動するから。ケイリィさんに地下街のちょうどいい店を抑えてもらってる」


 そして当事者、アミリさんとシィクとミィクという双子熾天使。

 この三人がこの店に向かっていると聞いて、なるほどと納得している。


「本当だったら、もう少し段階を経て、最後の方でアミリさんを紹介して、食事で場を和ませてとか色々細工してから本題に移るはずだったんだけど」

「海堂さんがすべてぶち壊したと」

「その結果があれだから、俺からとやかく言うつもりはない」


 もうすでに半分以上俺の仕事は終わった感がある。

 何と言うか、綺麗に仲人をやろうとした俺が馬鹿らしいと、ほんのりと甘いハーブティーとクッキーを交互に口に運び疲れを癒す。


 その間も。


「あたしはあんたをそんな子に育てた覚えはないよ!!」

「ぎゃあああああああ!?先輩には試すようなことを言ったけど、こんな技仕掛けなかったのに!?」

「当たり前じゃないかい!!あんたと違ってあの人はしっかりしてそうだし、付き合ってる当人同士が納得してるんだ。他人のあたしが出張るのは野暮ってものさ」

「骨が、背骨が、悲鳴をあげてる、もう駄目、これ以上は曲がらないし曲がっちゃダメ!?」


 親子での熾烈なやり取りは続く。


「仲がいいんですね」

「あれはあれで親子のスキンシップなのかもな」

「私は、ああいう感じのスキンシップは有りませんでしたね」

「グレイさんはやらなさそうだし。ミルルさんは……やりそうだけど、メモリアは海堂みたいな馬鹿はやらないからな」


 そんな関係を見て、メモリアは仲がいいと評価し、俺もその評価は間違っていないと思うので否定はしない。


 親子の関係は千差万別。

 ああいった感じで、体でぶつかる親子関係もあるだろうし、そんな関係を経験しないで育ったメモリアという実例もある。


「次郎さんは何か特別な思い出は有りますか?」

「目が覚めたら、サウジアラビア行の飛行機に乗っていたことはあった」

「サウジアラビア?」

「ああ、あれは中学に入る前だから、もう十年以上前のことになるか」


 そして、気づいたら拉致まがいの方法で国外に旅立つという経験を持つ俺もいる。

 お袋の無駄にハイスペックな能力を駆使されてしまえば、子供の俺なんて手も足も出ない。


 多分、親父がサウジアラビアで撮影をしたいと言ったのだろう。

 それがきっかけで、言葉も場所も何もわからない異国の地に連れてこられ、子供の気持ちも考えず行動に出る母親。


「気づいたら右も左も、知らない人だらけで言葉も通じない。必死に母親の側を離れない様に、って危機感だけはあったな」

「私の感覚でいえば、気づいたらイスアルのどこかの国に連れられていたと言うことでしょうか」

「治安面ではこっちの方がいくらかましだろうが、似たような感じだな。成人して、あの時のことを言ったら、経験を積ませるのにちょうどよかったとか言ってたなお袋は」

「私も何度かお会いしましたが、色々と積極的な方でしたね」

「お袋を積極的という言葉で一括りにしていいかはわからんが、まぁ、とりあえずうちは国内外問わず色々なところに連れていかれたな」


 北に南に、東に西に。

 国内の時は純粋に楽しめたけど、父親のオーロラの写真が必要だと言う言葉が出た瞬間に逃げ出そうとした俺の襟首を締め上げるお袋。


 高校生になるころには条件反射の領域で、逃げ出すことを覚えたが抵抗は無駄だと言わんばかりに問答無用で、家族旅行は敢行された。


 大学に行ってからはそれもなくなったけど、部活や学校行事がない時は大半が国外にいた記憶しかない。


「それは少し、羨ましいですね。私も父と母に旅行に連れて行ってもらった経験はありますけど、二人とも忙しいのでそこまで経験はありませんね」

「まぁ、大商会のトップだからな。そう簡単に出かけることはできないか」


 それを羨ましそうに目を細め、ティーカップに口を付けるメモリア。

 しみじみと懐かしそうに昔を語る俺たちだが。


「もう、だめ、背中が」

「反省したかい!このバカ息子!」


 BGMは海堂親子の一方的なコミュニケーションなのが笑えてくる。


「っと、メモリアこれでポーションを一本くれないか?」


 もうすでに海堂の背骨が限界に近い、息も絶え絶え、顔色は真っ青、額には脂汗。

 このままいけば海堂の背骨はご臨終待ったなし。


 そのタイミングで俺は何度か感じている魔力の波動を感知し、そっと懐から財布を取り出して、千円札を一枚メモリアに渡して棚にあるポーションを指さす。


「構いませんよ、ではお釣りを用意しますね」

「おう、この場で使うから袋はいいよ」

「では、瓶の方はこちらで回収しますね」

「それで頼むわ」


 思ったよりも早く来たなと思いつつ、棚から一本のポーションを拝借し、その蓋を開けて。


「ほれ海堂、口開けろ」

「ごほ!?」


 エビぞりでキープされている海堂の口にポーションを差し込む。

 口に流れ込んできたモノがポーションだと気づいた海堂は必死にそれを飲み干している。


「何やってるんだい、これは私たち親子の」

「問題なのはわかっていますが時間切れです。巡さん、お客さんがお見えですよ」


 その行動に邪魔をされたと思った巡さんに非難の目を向けられるが、俺が客が来たと言って怪訝な表情を浮かべる。


「ええ、海堂のお相手と言えばわかりますかね?」


 しかし、その表情は俺の一言であっという間に変わるのであった。



 今日の一言

 話を進めるには、時には急ぐことも重要だ。


毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。

面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。


現在、もう1作品

パンドラ・パンデミック・パニック パンドラの箱は再び開かれたけど秘密基地とかでいろいろやって対抗してます!!

を連載中です!!そちらの方も是非ともよろしくお願いいたします!!

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[一言] 関節を極められながらポーションをキメる男、海堂。
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