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562 百聞は一見に如かずとはよく言ったものだ

 

「え、なに、それ」


 俺の合図に、一斉に護衛たちは隠蔽の魔道具の機能を停止し本来の姿を彼女の前に晒した。

 狼の獣人に、悪魔、ダークエルフ、そしてリザードマンと多種多様の種族が一斉に現れる。


 それは特殊メイクと言うにはリアルすぎる現実。


 隊長と副隊長の臀部には尻尾まで生えているのだ。

 その尻尾が自由自在に動いている様を見れば、巡さんでも信じずにはいられない。


「どうです?ふざけていると言うわけではないのはわかっていただけましたか?」

「あ、ああ」


 尻尾に耳、鱗に、羽と人にはない部分を備えた種族を揃えてきた甲斐があったわけだ。


「触ってみます?」


 まだまだ動揺が抜けきらない彼女に向けて、もう少し現実感を与えるために、リザードマンの尻尾を触ってみるかと提案して見ると。


 コクリと彼女は無言でうなずき、俺は再び目配せをして、リザードマンの護衛はそっと触りやすいように、尻尾を持ち上げてくれる。


 恐る恐ると言った感じで、青白い鱗のついた尻尾に手を伸ばす巡さんの手が、触れて、最初はそっと触っていたが、すぐに、じっくりと確かめる手つきに変わる。


「むかし、蛇を触ったことがあったけどそれに似てるね」

「彼は竜族の血族なので、蛇やトカゲよりも上位の種族ですよ。巡さんが触っている鱗は竜の遺伝子が入っていると言っても過言ではないです」

「これが、竜?」


 今回護衛についてきたリザードマンの彼は、水竜の血族なので青白い綺麗な鱗を持っている。

 それを触っている巡さんは、自分が竜の眷族の鱗を触っていると言う事実に一瞬驚いた後、昔触った蛇と竜の差を懸命に探ろうとしている。


「ああ、熱中しているところ悪いですが、話を進めたいのでそろそろいいですか?」

「まって、今もう少しで蛇と竜の違いが判りそうなんだ!!」

「母ちゃん、俺の結婚の話よりも鱗の違いの方優先すんなし」

「護衛の彼も困っているのでそろそろ」


 だけど、今回の要件は海堂の両親とアミリさんの良好な顔合わせをするために下準備のために来ているのだ。

 ここで、リザードマンの尻尾に夢中になってもらうのは困る。


 渋々と言った感じで、尻尾を手放す巡さん。

 よっぽど触り心地が良かったのか、チラチラと尻尾を見ている。


「母ちゃん、爬虫類好きなんっすよ。父ちゃんが爬虫類ダメだから飼ってないっすけど」

「実物の竜とか見たら大興奮しそうだな」


 好きな生き物が目の前にいれば、それなりに興奮はするか。

 だけど、今はこっちに集中してほしいので咳払いをしてこっちに意識を向けてもらう。


「ええっと、わかってもらえましたか。異世界人がいると言う事実を」

「うん、信じ切れていないところはあるけど、確かにいると言うのだけは理解した」


 動揺がまだ収まっていないのがわかる。

 常識を揺るがすような出来事が目の前で起きているのだからそれも当然のことだ。


「わかっているとは思いますが、この話は内密にお願いします。日本政府を含め現在水面下で向こう側の世界との交流について準備が進んでいます。もしあなたの口から情報が漏洩したらあらぬ疑いをかけられる可能性もありますし、拘束されることもあり得ます。最悪、この場での出来事を知りたい輩から命を狙われる可能性も」

「怖いこと言うんじゃないよ!?」

「残念ながら、こうやって護衛を引き連れていると言うことで、お察しください。今回の移動も我々は細心の注意を払ってここに来ているのです」


 そんな常識が揺らいでいるところにさらに動揺するような情報を投げつけるのは申し訳ないが、ここはしっかりと伝えておかないといけない。


 ふとした拍子に、気が緩み、そしてポロっとこぼした言葉が噂になることなんてよくあることだ。

 それで巡さんが危険な目にあうのはいただけない。


 心を鬼にしてそこはしっかりと釘をさしておくのだ。


 海堂の実家に監視の目がないと言うのも事前に確認して、こうやってお忍びで来ているのだ。

 ここで、失策を講じてしまったらエヴィアに何を言われるかわかったものじゃない。


「理解していただけましたか?」

「うちのバカ息子が、とんでもない会社に就職して私も巻き込まれたと言うのは理解したよ」

「それは重畳です」

「あんた、皮肉が通じないって言われないかい?」

「言われた経験はあまりないですね」

「あるんじゃないか」


 営業スマイルを維持している俺を胡散臭そうに見る巡さん。

 もう取り繕うのは止めたのか、正々堂々正面から俺に言葉を投げかけてくる。


 その性格は嫌いじゃないなと、心の中でも笑みを浮かべつつ話を進める。


「それで?うちバカ息子と結婚してくれる女性って言うのはこの人たちと比べるとどれだけ変わっているんだい?」

「見た目だけで言えば可憐な女性です。一見するだけなら普通の人間と大差ないのですが、お相手の女性は機人と呼ばれる種族で、その特徴で生身の肉体と機械が融合しています。ハリウッド映画とかで見られるアンドロイドとかサイボーグのような存在と思っていただければわかりやすいかと」

「へぇ、そんな人もそっちの世界にはいるんだね」


 そんなさっぱりとした性格故か俺の話をすんなりと受け入れてしまっている。

 海堂も結構簡単に会社の雰囲気に溶け込んでいたから、もしかしてその性格は母親譲りなのか。


 もっと何らかの嫌悪感とか、疑心とも言えるような感情が見えてくるだろうかと思ったが、あっさりと受け入れている。


「意外です、結構すんなりと受け入れるんですね」

「うちのバカ息子は、見ての通り馬鹿だからね、こうやって筋を通そうとしてくれるような女性だったら反対する理由もないよ。もしかしたら、そっちの人みたいな女性が現れるかもしれないけど、それはそれで見た目じゃなくて心が通って付き合ってると言うことだろ?それならそれで私から言うことはないさ」


 肩透かし、とまではいかないが、あっさりと結婚に関して了承してくれる巡さん。

 六割がたこれで話は終了なのだが、まだ話さないといけないことがある。


「そうですか、では、もう一つお話を。つきましては、ご両親お揃いで食事の場を設けたいのですが、旦那様のご都合の良い日に海堂の方に連絡を入れてほしいのですが」

「そいつはいいけど、あんたらに会うのはかなり危ない橋を渡るんだよね?」

「それに関しましてはこちらの方でしっかりと移動手段を手配します。海堂の出入りだけではなく、私共の会社は日本政府から監視されています。出入り業者、社員、その誰もが情報源ですから」

「ま、あたしとしては身の安全を保障してうまい飯が息子の金で食えるんなら文句はないよ」

「何でしたら、彼の給料でドレスでも用意させましょうか?」

「ちょ!?先輩」

「よしてくれ、そんな堅苦しい服装、あたしには似合わないよ」


 とりあえず、アミリさんの都合も相談してからの話になるが、海堂を介して巡さんともスケジュールを合わせて食事の場は設けられそうだ。


「そうそう、肝心なことを確認するのを忘れてたよ。おい、バカ息子。あんた相手方の写真とか持ってないのか?流石に顔も知らない女性と会うのは緊張するんだよ」

「母ちゃんの口から緊張って、いたぁ!?」

「殴るよ?」

「殴ってから言うな!!」


 海堂と巡さんの遠慮のないやり取りを脇目に、俺はゴソゴソと持ってきた鞄から一つの包みを取り出す。


「それに関しまして、私の方で最近とある事業を請け負ってまして、その事業の合間に撮らせてもらったものがあります」

「おお、お見合い写真じゃないか。あたし、こういうの見るの初めてなんだよ」


 そう、俺とケイリィさんが手がける婚活パーティーの産物。

 もうすでに参加者のお見合い写真を撮っているので、ノウハウはしっかりと学んでいてお見合い写真を造り上げるのに苦労はなかった。


 装丁をしっかりとしたものに変えて、さらにプロの写真家に頼み、アミリさん自身も化粧や衣装を拘った一品。


 楽しみにしながら受け取ってくれる巡さんだけど、俺にとってはかなり緊張している。

 なにせ。


「どれどれ……」


 その中身について俺は、ある印象が抜けないからだ。


 楽しみにしながら、そっとお見合い写真を開き、中を見た巡さんが一瞬固まる。

 一度お見合い写真を閉じて、大きく深呼吸をして、もう一度お見合い写真を開く。


 そして現実をもう一度直視すると。


「おい、バカ息子」


 ここに来て一番トーンの低い声で海堂に声をかけた。

 俺に声をかけて来ていないのにもかかわらず、背筋が伸びるほどの迫力を醸し出す巡さん。


 魔力があればゆらりと闘気のごとく湧き上がるのではと思えるくらいに迫力のある声。


「お前なに未成年に手を出してんじゃボケぇ!!!」


 そして機密性を保つために防音結界を張っておいて良かったと心の底から思えるほどの怒声を放つ巡さん。


 さらに、幾多の戦いを経験してきた俺をもってしても見事な動きで海堂の襟首を掴み、そしてそのままテーブルを縦断する形で一本背負いをやってのける巡さん。


 おかしい、海堂もかなりの戦闘経験を積んでいるのに、こうも綺麗に技を決められるとは。

 一本背負いで地面に叩きつけられてからの腕挫十字固うでひしぎじゅうじがためへの移行は見事と言って良い。


 思わずほぉっと感嘆のため息がこぼれる。


「誤解!誤解だってば!!先輩も感心していないで説明してほしいっす!!イテテテテテ!?母ちゃんガチ!?ガチで俺の腕折りに来てる!?」

「幼い女の子に手を出すようなこんな腕いるわけがないだろ!!いくら異世界で許されようともこのあたしが許さないよ!!」

「だから誤解!誤解だって!?ぎゃぁああああ!?本気で折れる!?」


 これで魔力適正があれば、是非ともうちの会社にスカウトしたいなと、海堂の戦闘センスも母親譲りだったかと感心しているが、このままだと海堂の腕が折れてしまうので、それは流石にだめだと思い、俺も席を立ち、寝技に持ち込まれている海堂を救出すべく動きを開始する。


 ミシミシと緊急時用の魔力を使って保護していて、さらに身体強化している海堂の体が悲鳴をあげていると言うことは、本当に折りに来ているのだろう。


「巡さん、海堂の言う通り誤解です。彼女はむしろ自分たちよりも年上の女性なんです」


 しゃがみ込み、しっかりと巡さんに聞こえるように話すと、骨が軋む音がピタリと止まる。


「は?」

「日本でもたまにいるでしょう?とても若く見える女性というのは、あっちの世界だと二十代の容姿に見えていても、百歳を超えている人種なんてざらにいます。そこにいる彼も三百歳を超えてますよ」


 異世界人という情報を受け入れられても、寿命という概念まで思い至らなかったようで、俺が護衛の一人のダークエルフを指さして説明すると、マジかと驚いた感じで彼を見た。


 嘘だろと疑惑の視線を向けるが、彼は頷き、自身の年齢を告げると、巡さんはより一層驚く。


「人種によってあっちの世界は寿命が異なるんですよ。その代わり、子孫が残しにくかったり増えやすかったりと色々事情があるんです」


 異世界の事情はある一定の知識があれば受け入れやすいけど、逆に知識がなければ受け入れにくいとも言える。


 今まで普通に受け入れているような感じの人と接する機会が多かったからこんなリアクションする巡さんは新鮮だ。


 そして、前知識がない所為かジーっと未だ疑いの視線を向ける巡さんに対して。


「ああ、この後お時間があるのでしたら一度うちの会社に見学に来ますか?」


 俺は自然とそんな提案をするのであった。



 今日の一言

 前知識というのは先入観を与えるかもしれないが、受け入れの準備でもある。


毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。

面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。


現在、もう1作品

パンドラ・パンデミック・パニック パンドラの箱は再び開かれたけど秘密基地とかでいろいろやって対抗してます!!

を連載中です!!そちらの方も是非ともよろしくお願いいたします!!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 母が強い [一言] 次郎も腕とかに竜の鱗生やせるようにならないのかな?
[一言] やっぱりボコられたか海堂君www にしても、巡さんも戦闘の経験値だけで言うなら下手なテスターよりも遥かに上なんじゃないかってレベルの手練れなのねw いやぁ、コレは俄然お父さんがどんな人な…
[一言] やっぱりファンタジー世界のゴタゴタも面白いけど、ここ何話かの日本でのやりとりも面白いです。
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