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ブックマーク2万人記念 IFストーリー もしも主人公が異世界に召喚されていたら(転)

二万件ブックマーク記念三話目です。


今話は完全に本編とは関係ない、最初期プロットを引っ張りだして書き直した番外作品となります。

設定は既存のモノを使っていますが、色々と人との出会い方が違ったりします。


お楽しみいただければ幸いです。

 

「敵襲!!敵襲!!」


 気を抜いていた。

 いや、常に気を張っていると言うことは一般人には土台無理があった。

 仲間がいる、屈強な騎士たちがいる、周りを守ってくれる人がいる。


 そんな安心感に浸っている俺が熟睡し切っている時間帯にそれは起きた。


「ジロウ様!!ジロウ様!!起きてください!!」


 ユサユサなんて優しい揺らし方ではない。

 肩を力強く掴み、地震でもこんなに揺れないだろうという勢いでエシュリーさんは俺を揺らしていた。


 皮肉になるかもしれないが、会社からの呼び出しの電話を常に警戒していた俺は条件反射的に目を覚まし。


「!?」


 ガバっと体を起こした。


「手早く身支度を!敵襲です」

「てきしゅう?敵襲!?」


 最初は目覚めたてで何が起きているかわからなかったが、エシュリーさんに言われ、辺りが騒がしい音が響き、そしてさらには争うような声と、さらに戦場でしか聞けないような爆撃音が響き、てきしゅうという言葉が敵襲という言葉と繋がり俺の頭は一気に覚醒した。


 何が起きているのかという思考よりも先に、俺の手は鎧を着こみ、そして上等な剣に手を伸ばしていた。


 一緒のテントで寝泊まりをしていたエシュリーさんはすでに着替え終え、入り口付近で外を警戒している。

 動揺していて、うまく鎧が着こめない。

 四苦八苦するとはこのことかと、動いている最中に鎧が脱げないように確認して。


「どうなっている?」

「賊ではありません。相手は正規軍のようです」

「正規軍?ということは他国の?」


 テントの外を伺っているエシュリーさんに確認を取ると、鋭い目つきで曇天の空でも見渡すことのできる視界で確認できた情報を教えてくれる。


 正規軍と聞いて、話に聞くハンジバル帝国かと思ったが。


「いいえ、魔王軍です」


 それをエシュリーさんは否定した。


「魔王軍!?」


 魔王軍って、え、ラスボスが攻めてきた?

 どんな敵が攻めてきたのか。


 慌ただしい叫びが聞こえ、外ではガチャガチャとけたたましいと音と一緒に一瞬何かが光ったと思うと爆音が響いた。


「部隊長のところに向かいます。敵に狙いはおそらく……」

「俺、か」


 そしてこの戦いが起きている原因を察するには時間はいらなかった。

 こんな大部隊に対して奇襲を仕掛けてくる理由は一つしかない。


 お宝を積んでいるわけでも、大量の食糧を運んでいるわけでも、どこかの土地に攻め込むわけでもない。


 そんな正規軍に護衛されている護衛対象が狙いだとすぐにわかった。


 テントの隙間から、遠くで起きた爆発が見える。

 これが俺の所為で起きていると思うと、吐き気とともにとてつもない緊張が走る。


 俺が居たから…と漫画やアニメで主人公が嘆くシーンに対し、土壇場で何日和っているのだとヤジを飛ばした記憶が蘇り、なるほどこんな罪悪感を感じたらあんな表情にもなるなと申し訳なさを感じた。


「……わかった」

「先導します。私の側から離れないでください」

「いや、でも」


 杖を構え、この騒動の中を進むとエシュリーさんは言う。

 しかし彼女は本来なら治療要員として同道しているはず。


 前で戦う能力は他の騎士と比べて劣ると言って良いだろう。

 そんな彼女に先導されていいのかと、俺が前に出るべきかと言いかけて俺は頭を振る。


「……わかった。頼む」

「はい、かしこまりました」


 餅は餅屋。

 戦場で素人同然の俺があれこれやってもろくなことにならない。


 自惚れるな田中次郎。

 お前は、異世界に召喚されて特別になったかも知れないが、決して最強になったわけではない。


 お前は生き物を殺した経験があるわけでもない。

 お前は戦場を知っているわけではない。

 お前はまだ騎士たちに守られなければならない存在だ。


 成長は早いが、まだまだ未熟。


 そう言い聞かせて。


「では、行きます」

「ああ!」


 大きく一回だけ深呼吸する時間をくれたエシュリーさんに続き、テントから出る。


「部隊長の元へ行きます」

「はい!我らが護衛につきます」


 そして入り口周辺で警戒していてくれた騎士たち四人がさらに周りを囲って俺たちの移動は始まった。


 百人が野営できる場所というのは中々ない。

 本当だったら村とか街中に泊まれた方が良かったのかもしれないが、流石に全員は泊まれないし、ゴブリンが巣を作っていたのが山中ということで、道中で野営するしかなかった。


 だからこそ、ある程度開けた場所でテントを張り、警戒網を構築、そのまま野営したわけだったが、それが仇となりこうやって襲撃を受けることになった。


「勇者殿!!」


 そしてガシャガシャと鎧が動く音を響かせながら、移動を開始した直後、既に部隊長が少数精鋭を引き連れて俺たちを迎えに来てくれた。


 いつ敵に襲われるかわからない。

 そんな最中で気が気でない状況で俺よりも強い人と合流できたのは安心感が違う。


「無事であったか」

「はい、何とか」


 フルプレートに顔を覆う兜までして、一瞬誰かまではわからなかったが、それでも声を聞いて相手が部隊長だというのはわかる。


「すまぬ、指示を出していて合流が遅れた。今は副隊長に現場の指揮を任せているので今しばらくは安心だ」


 合流が遅れたという割には、十分もかかっていないように感じたが、それでも部隊長からしたら遅いのかもしれない。


「いえ、大丈夫です」

「はははは!こんな状況で緊張程度で済んでいるのなら大したものですな」


 予定外のことが起き、気が動転してはいるが、まだ非現実的な状況で現実がうまく呑み込めていない状況だからこそこうやってまだ会話ができて且つ、さらに表向きは落ち着けているのだ。


 一歩間違えれば、慌てふためく無様な様をさらけ出していたかもしれない。


 そんな無様を晒したらこんな戦いの場ではすぐさま死んでしまうという恐怖感がギリギリの瀬戸際で冷静さを保たさせていた。


 コップにあふれるギリギリの水を入れた状態。


 それが今の俺だ。


「部隊長、これからの予定は?」

「いま撤退の準備をさせている。四半刻もかからないはずだが、いざとなれば物資を放棄し近くの町まで撤退行動に入るが、相手もそうされたら面倒のはず。退路に待ち伏せされている可能性もある。早馬と使い魔を出して、町の方に援軍を頼んだ。何事も無ければ半日で援軍が来るはず。それに合わせてゆっくりと撤退行動に入る」


 言葉が短くなるのは仕方ない。

 逃げろ逃げろと、脳内の俺が警戒心を煽ってくるが、こんな状況で一人で逃げてどうする。

 経験がない俺がしゃしゃり出ても仕方ない。


 余計なことはするなと、理性を必死に総動員している。


「……」

「何か?」

「いや、正直驚いている。新兵でもそこまで冷静に対処できるものではないのでな。勇者殿は戦の才があるのやもしれん」


 そんな俺の態度に、一瞬沈黙した部隊長。

 そんな褒め方されても、今は嬉しくとも何ともない。


 むしろ時間を無駄にしたと感じて、わずかないらだちが募ってしまう。

 いかん、落ち着け、慌ててもろくなことがない。


 思考は常に落ち着かせろ。


「そう、ですか」

「いや、すまん。この場で言うことではなかったな。その調子で冷静さを維持できれば生き残れる。安心しろ」


 俺の様子を察して、部隊長は謝罪してくる。


「いえ、余裕がなくてすみません」

「初陣で余裕がある方が珍しい。気にするな」


 謝罪に答えるも部隊長も頭を振って、仕方ないという。

 その間にも戦場は激化の一途を辿っている。


「むぅ」


 思ったよりも近くで爆発音が響き、そっちを見た部隊長が唸った。

 その様子で戦況は芳しくないのだと悟ることができる。


「エシュリーさん」

「はい」

「俺は……」


 何かしなくてはと駆られて、エシュリーさんの方を向き何かを言おうと思った。

 だけど、その先が口に出ない。


 生き物を殺したことのない俺が、戦場で何ができる。

 お荷物以外の何物でもない俺に何ができる。


 そんな悩みを抱いていた時。


 一際大きな爆発音が響いた。


「報告!!」

「何事だ!?」

「敵に精霊使いがいました!!相手はダークエルフと鬼族の混成部隊!!前線健闘虚しく、第三小隊に負傷者多数!!!他の隊で前線を再構築しておりますが鬼族の数が思いのほか多く、このままでは持ちません!!」


 そして不幸は続く。

 敵はこちらが予想していた数よりもはるかに多い戦力を投入してきたと言うのだ。


「なんだと!?ここは首都と目と鼻の先、なぜそこまでの軍勢を送り込めた」

「わかりません。しかし、強力な鬼の個体と精霊使いのダークエルフがいるのだけは確かです」

「……」


 刻一刻と状況は悪化している。

 それをしかめ面で、今後のことを考えている部隊長。


 余裕のはずのゴブリン討伐で、まさかこんな苦境に立たされるとは。


「止むを得ん。物資は今この時を持って放棄!第二第三を殿に撤退に入る!!」

「!」


 そして苦肉の策、それは人の命を犠牲にして撤退行動を部隊長に決断させるためには従前の理由になった。


 見捨てるのかと一瞬口に仕掛けた。


「勇者殿、これは必要なことだ。彼らとて信仰に準じる覚悟は常にできている。我らの目的は貴殿が生き残ること他ならない。貴殿が生き残れば彼らの死は無駄にはならぬのだ」


 だけど、それを言うのを躊躇う。

 これはただ単に〝俺が〟罪悪感を感じたくないからくる言葉だとすぐにわかったから、俺の所為で誰かが死ぬという責任を背負いたくないから。


 それを瞬時に悟り言葉を止めたのだ。


 そんな俺の感情を悟って、肩に硬い手が置かれる。

 罪悪感を感じる必要はないとは決して言わない。


 しかし、命を捨てる覚悟はできていると断言され、やはりここは異世界のなのだと痛感する。


 何より、その言葉に覚悟を感じた俺は。


「……わかりました」

「その決断に感謝する」


 指示に従うことを選ぶ。

 本当に、ここはブラック企業よりも、精神的に心を抉って来るな。


「撤退だ!!第一第四は中央に集合したのち、全速力で街まで撤退する。第二第三は防衛から攻めに転じ敵を少しでも引き付けろ!!」


 そして俺は今、命を捨てさせる決断を下した。

 罪悪感が半端ない。


 やっぱり、勇者はろくなものではない。


 死にたくなる。

 けれどそれは覚悟がない俺だからこそ、そう感じるのかもしれない。


 急げと叫ぶ部隊長。


「ジロウ様、こちらへ」


 そして馬車へ誘導しようとするエシュリーさんの手に引かれ、俺はこの戦場から逃げ出す覚悟を決める。


「……」


 無言で動くしかない。

 もし、俺に超人的な力があればと切に願ってしまった。


 しかし現実的には、俺の強さは騎士団の中でも下の下。

 見習いよりも強い程度。


 成長能力が早いといっても、所詮はその程度。

 まだ力の強い人たちに守られないといけないひな鳥なのだ。


 駆け足で馬車の元に走る。


 そんな時。


「!エシュリーさん!」


 背筋にゾクリと寒気が走り、俺はその直感に従ってエシュリーさんの手を引いた。


「なに!?」


 その急な行動にエシュリーさんは立ち止まり、何事かと言おうとしたが。


 その前に馬車を馬ごと消し飛ばす黒炎。


 いや違う。

 あれは。


「黒い炎の巨人?」


 その拳だけで人一人分の大きさはあるのではと思わせる巨大さ。

 揺らめく肉体が、実態を持たないのを示している。


「精霊!?」

「馬鹿な!侵入を許したというのか!?」


 愕然と複数の腕を持つ黒炎の巨人を見上げている俺と違って、いきなりの敵襲にも驚きはするも即座に警戒態勢に移る二人。


 周囲の騎士もそれに遅れること一瞬。

 剣を構え、盾を構え目の前の巨人に備える。


 そして、巨人が馬車を複数あるうちの一本の腕で潰し、地面まで焦がし腕を引き抜き、俺たちの方へと向き直ると。


 その巨人の影から二人現れる。


「あれが勇者?」

「ええ、情報部の話を聞く限りそのようですね」

「ふーん、なんか弱そうね」

「実際召喚されて一月程度しか経っておりませんからね。強くなる前の状態です」


 声からして女性か?

 二人ともローブのような物を着てフードも被っているから顔は陰になっていて見えない。


 もしかしたらそういう姿を隠すタイプの魔道具なのか?


「ダークエルフか」


 部隊長が、巨人を見つめた後そっとその二人の方を睨みつけている。


「ま、こんな精霊が召喚されてたら嫌でもわかるわよね」


 部隊長の言葉に片方の女性が肩をすくめて、その答えを否定しない。

 むしろ隣にいる女性に同意を求めるように視線を向けている。


 ざっと俺は騎士たちに囲まれる。


 守る、その決意を示すような騎士たちの動き。


 それほどまでにこの女性たちは強いのだろうか?


 実力差もわからない。

 挑み勝てると思い上がりはしない。


 部隊長の警戒心が、目の前の女性たちが危険だということを教える。


「ああ、一応聞くけど、そこの勇者渡してくれないかしら?そうすればあなたたちは見逃してもいいって言われているんだけど?」


 そんな危険な人物と思われる二人の、少し気安い感じの女性から俺は指さされて、身柄の引き渡しを要求された。


「断る!邪神に使える魔族風情に我らが希望を渡してなるものか!!」

「ま、そう答えるとは思っていたわよ。まぁ、それでも私はいらない労力はかけたくないのよ」


 俺としてはいきなり現れた強敵に引き渡されるという不測の事態に見舞われなかっただけありがたい。

 けど。


「あなたはどう?私たちと一緒に来る気はないかしら?」


 てっきり殺されると思っていたのに、入ってきた言葉は勧誘の言葉。


「は?」


 勇者と認識されているのに、一緒に来ないかという質問。


 これはあれか、世界の半分をやろう的な魔王からのお誘いだったりするのだろうか。


「だってあなた、そのままそっち側にいると死ぬわよ?」

「え?」


 しかし、俺が考えていたふざけた質問より、より明確に死を告げてきた女性に、俺の頭はついに処理能力を超えてフリーズを起こした。


「ふざけたことを言うな!!」


 俺の脳がその言葉を処理し切る前に、部隊長の堪忍袋が切れて怒鳴り散らした。

 フルフェイスの兜からどうやってそんな怒声を放てるのかと、疑問に思うほど大きな声。

 それで、俺はようやく目の前の女性の言葉を理解する。


 こっち側にいると死ぬ?

 どういうことだ?


「ふざけたこと言ってないわよねぇ?」


 それはあれか、魔王という存在は俺たちが考えるよりも強大で、倒すことが実質不可能だと言えるような存在だったりするのか。

 だけど、この女性がいう口調はまるで……


 そこまで想像して俺は頭を横に振った。

 敵の言葉に惑わされてはいけないと強引に意識を振り払うのだ。


 そんなことをしている間にも話は進む。

 部隊長の怒声に晒された、気安い感じの女性は肩をすくめるように両手を左右に広げ隣の女性に同意を求めた。


「ふざけているのはそちらじゃないですか」


 呆れたと言わんばかりの仕草を見せた女性のとなりにいたもう一人が沈黙を破り、怒りをにじませて、睨みつけるように部隊長を見る。


「〝聖剣計画〟」


 そしてこちらに聞こえるようにはっきりとその言葉を言い放つ。


「!?」

「聖剣計画?」


 聖剣とはあの勇者とかが持つ聖剣だろうか、俺は勇者として呼ばれたけど、その聖剣は受け取っていない。

 てっきりもう一人の勇者の方に渡されたと思ったが、この様子だとそうではない?


 それに聖剣だけではなく計画って、まるで聖剣を作りだそうとしているようではないか。

 部隊長がいきなりだまりこんでしまった。


「この言葉に聞き覚えがないとは言わせませんよ」

「そうそう、なにせあなたを含めてその勇者様の周囲には全員周知されているはずの計画だもの、何せ「だまれぇ!!我らの希望を絶たせてなるものかぁ!!」うわ、逆ギレ」


 そして肝心の何かを言い切る前に、部隊長は剣を振りかぶり巨人へと切り込んでしまった。


「隊長に続けぇ!!」

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

「後は任せたぞ!!」

「我らの希望を!!」


 そして騎士たちもそれに続く。


「勇者様、こちらに」

「ジロウ様」

「あ、ああ」


 何が何だかわからないまま、俺は残った騎士に先導されてエシュリーさんに手を引かれ、戦場を脱出しようと行動を起こした。


「あ、もう、スエラが話しをしようって言うから面倒になったじゃない!!」

「どっちにしろこうなる運命ですよケイリィ」


 その後ろで何やら女性たちが話していたようだけど、今はこの場を逃げるしかないと不信感を心の中に灯しながら俺は全力で走る。


 騎士たちは何とか生き残っていた馬を見つけ、それに乗り込む。

 俺は馬に乗れないのだが、手綱は騎士が握るので、俺は必死に捕まってればいいと指示された。


 四苦八苦し、エシュリーさんにサポートされて俺は馬に乗り込み。


 行きは百名近くいた騎士団と比べ、総勢五名という少数でその戦場を脱出した。


 日本と違って、夜とされる時間でもしっかりと視界を確保できる。

 馬という生き物を走らせてもしっかりと足元が視認できるくらいに明るい。


 前に一人、右に俺の乗る馬の手綱を握る騎士が、左にエシュリーさんがいて後ろに一人と少人数で街道をただ走る。


 なんなんだあれはと、今だ現実に戻れない俺の思考なんて置いてきぼりで唯々逃げ出す。


 恐怖も、驚きも、困惑も、すべてごちゃ混ぜになった俺は必死に頭を冷静にさせようとしたが、それはできない。


 ただわかるのは、俺という存在がいた所為で命のやり取りが起きたという事実。


「ジロウ様、大丈夫ですか?」

「……っ」


 必死に馬にしがみつくしかできない俺にエシュリーさんが声をかけてくれるが、生憎と答える余力はない。


 精神的に平常心を保てないし、頭の中がごちゃごちゃしていて理解することもできない。

 だが、ここでエシュリーさんに当たり散らしてはいけないという常識が、かろうじて感情任せの行動をせき止めている。


「騎士様少し休憩を!」


 だけど、それだけで俺に余裕がないことを悟ったエシュリーさんが先頭を走る騎士に休憩を申し出た。


「なりません!このまま山を越え、その先にある街まで走ります。どうかもうしばらくの辛抱を!」


 しかし、騎士の答えはNO。

 休む暇はなく、今はただこの場から離れなければならないときっぱりと断り、速度を落とさなかった。


「このままいけばきっと街からの援軍と合流できます!ジロウ様それまで頑張ってください」


 その言葉を聞いたエシュリーさんが俺を励ましてくれるが、肉体的よりも精神的にまいってしまっている俺にその言葉にうなずく余裕はない。


 できるのは必死に馬に捕まり振り落とされないようにするだけ。


 あとはひたすら馬が走り、街につくのを待つしかできない。


 早く、早く終わってくれと、久しぶりに願っている気がする。


 だけど、現実って言うのはそこまで甘くはない。


「はい、ちょっと失礼するわよ」


 山道を走る俺たちの横からいきなり現れたと思えば、俺の乗る馬の手綱を握る騎士に跳びかかる人影。


「ホイッっと」


 その人影は馬に飛び乗ったと思うと、あっという間にグキリと首を捻じ曲げてその騎士を殺してしまった。


「ジロウ様!」


 しかし、俺はそれを見ているどころではなかった。


 俺の馬を操る人が居なくなってしまったために操作ができなくなり、馬が暴れはじめてしまったのだ。


「っ!?」


 歯を食いしばり、必死に捕まるけど、驚いた馬というのはここまで暴れるものなのか。

 暴れ馬に乗った経験などない俺はしばらくは耐えたけど。


「うあ!?」


 馬が吼え、立ち上がるように前足をあげた途端。俺は落馬してしまった。


「っつぅ!」


 受け身を取り、どうにか頭から落ちることは避けたが、勢いがあって中々痛い。


 起き上がって状況を確認しようとしたが。


「動かないでください」


 その隙に、もう一人が来て俺の首筋に杖をあてがわれた。

 その杖の先には魔力で出来た刃が展開され、やろうと思えばいつでも殺せると言わんばかりだ。


 そっと顔を動かさず、視線だけをその杖の持ち主の方向に向ける。


「……」


 無言で見下ろすその女性の顔はさっきは見えなかったけど、今回は運よく見ることが出来た。


 かわいらしさを残した綺麗な顔立ち。

 ダークエルフと言っていたけど、俺の知る種族と一緒で少し耳が長く尖っている。


「スエラ~、確保できた?」

「はい、そちらの方はどうですかケイリィ」

「ん?全力で戦う気満々って感じかしら?」


 そんな確認をしている間に、戦局は動いている。


 エシュリーさんを含め騎士たちは武器を構えてこっち見ている。


「おのれ魔族!人質を取るとは卑怯な!!」

「卑怯って、奇襲は戦の基本技でしょ。正々堂々としか戦っちゃいけないなんて決まりはないわよ。第一、あんたたちもこれぐらい考え付くでしょう?」


 人質という立場になって、もうどうしようもないという状況。

 部隊長が戦いを挑んだ二人が、馬で移動していた俺たちに追いつき、今ここにいる。


 それはすなわち部隊長は負けたということ。


 部隊長に一度も勝ったことのない俺は、ここで超次元的な力の覚醒でも起きない限り命はないということを悟った。


 護衛についていてくれた騎士たちも俺よりは強いが、やり方次第では勝てるという感覚があった。


 だからこそ、人数的には一人多い戦力であってもこの状況を覆すことはできないと思っていた。


 ああ、もう、何と言うか。

 神様に俺の人生はここまでだと宣告された気分だ。


 そう思った途端、ここまで感じてきて、我慢してきた負担がどっと溢れて、もうどうでもよくなった。


 抗う気力というものが無くなってしまった。

 ブラック企業で働いていた時も、生きるために必死に働き、異世界に召喚されてからも監視下におかれながらも必死に行動していた、その結末がこれか。


 なんて言うか、俺の人生は随分と奇天烈なものだな。


 騎士たちと俺を人質に取っていない女性ががやがやと何やら騒ぎ立てている。

 そんな会話も俺はどこか他人事のように聞いている。


 もうすでに、俺には関係ないから、どうでもいいと思っていたから。

 だけど。


「返せ返せってさっきからうるさいわよ、そんなに聖剣の材料が大事なのかしら?」


 そんな精神状態でもこの言葉だけは聞き逃せなかった。

 部隊長も、聖剣計画という言葉にはかなり反応していた。


 そして聖剣の材料。


「なぁ」


 その言葉で俺の中で何かつながるようなものを感じた。

 だからこそ、ガヤガヤと騒がしい最中で、俺は俺を人質にとるような女性に対して話しかけるような精神状態になってしまった。


「何か?」


 その声の方向から、自身に話しかけているのだと悟った女性は返事を返してくれた。

 根はいい人なのかなと、返事をしてくれないという可能性を考えたけど、返事を返してくれたのはありがたかった。


 死んでも仕方ないと割り切ってしまう精神状態なら最悪、そっちで舌戦を繰り広げている女性の方に話しかければいいやと思っている精神状態なら正直どっちでもよかったと言えばそうだけど、やはり距離の近い方が話しやすい。


 それに俺が知らされていない情報を彼女たちは持っていそうだ。


 だからこそ、俺はコツコツと積もった情報をパズルのように組み合わせて、まだまだ穴だらけで完全に絵になっていない状況でも、その情報を確信したいがゆえにこの質問を飛ばす。


「この国に聖剣って存在しないのか?」


 大して声を張り上げたつもりもなければ、声を潜めたつもりもない。

 だけど不思議と響いた俺の声に騒がしかった山中は自然と静まり返ってしまった。


「はい、少なくとも私たちの知る限り、常時稼働できる聖剣は先代の魔王様との戦いで喪失したと聞いております。そして現在聖堂に安置されているものは聖剣としての機能は有していますが、実戦に耐えられないほど消耗しているとも」

「なるほど、使い物になる聖剣は存在しないと」

「はい」


 そして俺の予想はピタリと当たりはしなかったが、おおよそ許容の範囲内に収まってしまった


「なるほど、なるほど、そういうことか」


 俺はその状況になって逆に笑えてきて。


「ああ、馬鹿らしい」


 そんな言葉を吐きだすとともに脱力してしまった。


「勇者殿!魔族の言葉を信用してはなりません!!」

「そうです!聖剣は存在します!!なにとぞ気をしっかりと!!」


 無性にタバコが吸いたくなってきた。

 騎士たちが大きな声で何か言っているみたいだが、エシュリーさんが暗い表情になっている段階でお察しだろう。


 否定の言葉もなんだか虚しく聞こえ、励ましの言葉もどこか薄っぺらい。

 おかげで抵抗するという気力が根こそぎ無くなった。


「へぇ、よくそんなこと言えるわね。その言葉一番信用していないのはその言葉を吐き出しているあなたたちでしょうに」

「うるさい!魔女め!勇者様をたぶらかして世界を混乱に招く悪女!!」

「魔女って言ったり悪女って言ったり、どっちかに統一しなさいよ」


 信用って言うのは最初は作ろうって気力がわくけど、一度蹴り飛ばされるように崩壊するともう一度作ろうという気力は中々わかない。


 騎士たちの言葉が真実である可能性は、まだ辛うじてあるが、この慌てようだとそこまで可能性がありそうな感じではない。


 そこまで来て、なんだか不思議な覚悟ができてしまった。

 もうすでに運命が決まっているのなら、この命の使い道くらい自分で決めたい。


 死ぬなら死ぬで、それでもいいかと思い始めている自分がいる。


 だからこそ。


「なぁ、こんなことを頼める立場ではないのはわかっているんだけどよ」


 脱力し、抵抗する気力がないと悟り、そっと刃を少し離してくれたこのどこか優しさを感じるダークエルフに。


「一つだけ俺の願いを聞いてはくれないか」


 直感で頼みごとをするのであった。




 今日の一言

 諦めは人の価値観を下げ、そして浮き彫りになる価値観を見出す。



毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。

面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。


今週は2万件ブックマーク記念もありますので、次回の本編の更新は日曜日になりますのでよろしくお願いします。


現在、もう1作品

パンドラ・パンデミック・パニック パンドラの箱は再び開かれたけど秘密基地とかでいろいろやって対抗してます!!

を連載中です!!そちらの方も是非ともよろしくお願いいたします!!

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[一言] 頭のキレる人間が召喚されたら怪しむところがいっぱいある国だからなぁ……
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