表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
560/800

551 忠告はきちんと胸に刻んで。

 

「……大変?いったい何が?」


 軽めの夕食を食べ終えて、食後の酒をメモリアからもらう。

 エヴィアが若干羨ましそうな目で俺の手元を見ているが、そこは仕事を終わらせた者の特権ということで、メモリアが選んだワインを嗜む。


 異世界のワインはこっちのワインと違った味だ。

 ほんのりと甘みの中に、しっかりとした酸味が混ざり、魔力が生み出す心地よい渋みが後味に残る。

 俺的にはこっちのワインの方が好みだったりする。


 何と言うか、渋みがまろやかなんだよな。


 そんなワインに舌鼓を打ちつつ、スエラが言う大変という部分をしっかりと聞いておく。


「前にケイリィが遊びに来た時に愚痴をこぼしてまして」


 そしてその大変の部分の根拠を思い出しているスエラは、苦笑気味に思い出し笑いをこぼしながらその理由を話し始めた。


「いい男がいないって」

「「「ああ」」」

「?どういうことだ?」


 そのたった一言で、俺、エヴィア、メモリアの三人はおおよその事態を把握していた。

 ヒミクだけは首をかしげて意味を理解できていないようで。


「ヒミクも知っての通り、ダークエルフの私たちは少々特殊な恋愛事情を抱えておりまして」

「惚れ込んだら一途な種族だと言われているんだよな」

「改めて言われると恥ずかしいですが、そうなんです。なので、恋愛に関してはかなり慎重な種族でもあるんです。だからか、晩婚種族とも言われることがありまして」


 説明するために随分と懐かしい話が出てきた。

 まぁ、魔王軍側の人たちからすれば有名な話で俺も会社に入社した時に教官たちから教えられた話だ。


 まぁ、主に惚れ込んでしまって破滅してしまったダークエルフの話という教訓に近いものなのだが。


 ダメ男に引っかかったり、悪女に騙されたりと失敗談を聞かされて、ダークエルフは恋愛に慎重なんだと聞かされた割には……


「エヴィアに思いっきり背中押されて、そこからかなり一直線だったよな」

「じれったかったからな」

「もう!話の腰を折らないでください!!感謝はしているんですから」

「ああ、今は少し後悔している。先を越されたからな」


 一歩踏み込んでからは弾丸特急張りに一直線だったのだから。

 子宝にも恵まれ、幸せになっているのだからそんなに恥ずかしがることもないのに。


 エヴィアも皮肉のように言っているが、それが本心ではないのは皆わかっていて、さらには、ちょっと拗ねているのもなんとなく察している。


 揶揄われていることも同時にわかっているスエラは咳ばらいをして話を仕切りなおす。


「とにかく、ケイリィがここまで気合を入れたと言うことは、〝いた〟と言うことでしょう。あの子が求めるいい男というのが」

「……マジか」


 考えればごく当たり前のことだ。

 ダークエルフの嫁がいるのだからむしろ気づかない方がどうかしていた。


 ケイリィさんが婚活パーティーに気合を入れたと言うことは、すなわちそういう相手、あるいは候補がいたと言うことだ。


「正確には、候補といった感じでしょうが…」

「まぁ、まだ写真を見ただけだからな」


 まだ乳離れできていない子供のためにアルコールを控えているスエラは、そっとヒミクの淹れてくれたほうじ茶を飲む。


「あの子、私が子供を産んでから結構焦ってるみたいですから。この前なんて裏切者なんて言われましたよ、涙目で」

「なんとなく想像がつくな」


 親友同士の軽いじゃれ合いだと、わかっている。

 いやむしろ、親友だからこそ冗談のようで本気の焦りに気づいているのだろう。


「気合を入れたケイリィは凄いですよ。普段は全力を出さず余力を残して後に備えますけど、今回はきっと全身全霊。全力で来るでしょうから」


 その焦りを失敗に繋げるようなタイプでないのは百も承知。

 そして、スエラの言う大変という意味もここに繋がる。


「振り回されないように、しっかりと対応してくださいね」

「そうだな。わかった」

「ただ違和感もあるんですよね」

「違和感?」

「はい」


 いつもの倍か、あるいはそれ以上か。

 フルマックスの状態になったケイリィさん。


 そんな彼女と明日から全力で仕事をするとなると、中々大変だなと思っていると胸ポケットに入れていたスマホが震える。


「すまん」


 こんな時間に誰だと思いつつ、断りを入れスマホの画面を見ると。


「海堂、っていうことは」


 海堂からの着信にちょっと電話に出てくると、席を立つ。


「もしもし、海堂か?」

『あ、お疲れ様っす先輩』


 自室に入り、電話を取ると最近顔合わせる機会が少なくなっている後輩の声が聞こえる。


「おう、元気そうだな」

『毎日毎日ダンジョンアタックしてるからヘロヘロっすよ。先輩が抜けた穴を埋めないといけないっすから』

「そいつは悪かったな」

『そこは大丈夫っす、前の仕事よりもやりがいはあるっすから』


 口ではヘロヘロと言いながら、返ってくる声には張りがある。

 前の会社に務めているときは、もっとトーンが低く力ない言葉で大丈夫と返ってくるだけだった。


 軽口を叩けるならまだ大丈夫だと安心感を与えられる海堂の声に電話越しだが口元に笑みが浮かぶ。


「そうか、近いうちにまた一緒に仕事ができるようにするから、その時にお前の成長を見るとして、お前が電話してきたってことは頼みごとの件か?」

『うっす。アミリちゃんにしっかりと伝言を伝えたら明日の午後なら時間が取れるみたいっす』

「そいつは助かるな」


 海堂に頼んでいたのは機王アミリ・マザクラフトとのアポイントメント。

 派閥が違う上に、先輩の将軍。


 安易に物事を頼むことはできない相手。

 きちんと手順を踏んで行動を起こさないといけない。


 なので、最初のきっかけを海堂に任せた。


 本当だったらエヴィアとか社長とか、教官とかに立会を任せるのが筋なんだけど軒並み忙しすぎてそんなことをやっている暇がないのだ。


 海堂には後で礼をするとして。


『話し合いの場所は、第一で良いっすか?』

「おう、時間は午後からなら、午後一で頼めるか?」

『うっす、伝えておくっす』


 今はこの助けを物にする。


「助かる、今度何か奢るから」

『ああ、それなら今度稽古つけてほしいっす。俺も強くなりたいっすから』

「わかった。今度時間作るわ」

『助かるっす』


 互いに助け合ってこその仲間。

 一方的な援助は搾取と変わらないってな。


 とりあえずこれで防御の準備は整いそうだなとめどが立ちつつ。


『『ああああ!!ああああ!!』』


 元気に泣く我が子の声が聞こえ。


「あらら、起きちゃったか」


 久しぶりに顔を起きてる顔を見れると思ってリビングの方に行くと。


「ほら、お父さんも来ましたよ」

「ふむ、ジーロの気配を感じて起きたはいいが、いなくて泣いたと言う所か?」

「この子たちは魔力に敏感なところがありますからね」

「将来有望といったところか」


 女性四人で子供二人をあやす光景に遭遇。


 ユキエラをスエラが抱き、サチエラをエヴィアが抱いているがぐずって泣き止む様子がなかった。

 ヒミクが羽を使ってあやそうとしているが、それじゃないと駄々をこねているようにも見える。


 メモリアもおもちゃを使って気を引こうとしているがそれでもないと首を横に振る子供たち。


 タイミングが良かったのか、それとも偶然か。

 部屋から出てきて、どうしたとそっと手を伸ばした途端。


 これだと言わんばかりに小さな手が赤子の力で手を伸ばして俺の指を掴んでくる。


 小さな指でニギニギと握力と言うには小さすぎる力だが、求めていたのはこれだと言わんばかりに、ご機嫌な声で俺の指を振ろうとする。


 それを見たスエラたちが、顔を見合わせて仕方ないなと笑う。


「最近忙しくて、次郎さんには会えていなかったですからね」

「そうだな。帰ってくるのも夜遅くだったからな」

「寂しかったのでしょうね」

「むぅ、しかし、少し嫉妬するな。私は普段から傍にいると言うのに」

「そう言われてもな……まぁ、嬉しいが」


 子供が俺のことを覚えてくれている。

 父親冥利に尽きると言うか、シンプルにうれしいと言う言葉が出てくる。


 仕事での疲れも、こんな無邪気な笑顔を見せてくれれば有名な菓子パン戦士よりも元気が出てくる。


「私も前の休みの時にできていればよかったのだが」


 お腹の部分をさするエヴィア。

 カデンさんたちに挨拶した時も、当然ヤルことはヤッている。


 悪魔はダークエルフよりも子供ができにくい体質だ。

 というよりも、うちの嫁たちは全員長寿種族な上に、子供ができにくい種族の上位が揃い踏みだ。


「子供は授かりモノですので、気長にいきましょう。次郎さんの寿命も幸いにして人の何倍も長くなりましたから」

「何倍で済むのか?私の感覚だと竜種はもっと長命だったと思うのだが」

「十倍は固いだろうな。私たちもそれくらいは生きる。気長にと考えるが、この暖かさを思うとどうも気が急いていかんな」


 唯一子供を産んだスエラは、メモリア、ヒミク、エヴィアの言葉に少し恥ずかしく思いつつも誇らしいような顔をする。


「む、スエラよ。それは勝者の余裕というやつか?」

「いえ。そんなことはありませんよ」


 それを見たヒミクが、ずるいと言わんばかりに少し拗ねたような顔になって、スエラを揶揄う。

 子供を抱いている状態では逃げることはできず。

 笑顔でヒミクの言葉を否定する。


「ただ、そろそろこの子たちにも弟か妹がいてもいいかなぁとは思っていますが」

「それは看過できません」

「そうだな、独占は許されないな」


 しかし、ちゃっかりと自分の願望を言い放っているあたり、強かな面も見せているが、それに待ったをかける他の嫁たち。


 体も安定して、子供の世話もヒミクという助けがあるから心に余裕がある。

 故に、ちょっと母としてではなく女の顔をちらりと見せられ俺も久しぶりに彼女の女としての顔を見せられてドキリとしてしまう。


「ああ?」

「いや、なんでもないぞ~ユキエラ」

「あう」

「こら、口に運んじゃいけません」


 そんな顔を子供に見せるわけにもいかず、必死に取り繕って子供の相手をする。


「……いいでしょう。その言葉宣戦布告と取ります。今日の順番は私なので次郎さん今日は全力でお願いします」

「いや、いいけど」

「ふむ、なら私はスタンバイしておくか。いつでも交代できるように」

「あの、俺、明日仕事」

「ふむ、なら夜中くらいに帰ってこれれば私も混ざれるな」

「いや、俺の意思は?」

「「「問題ないですよね(よな?)【ないだろう?】」」」

「はい」


 しかし、スエラの言葉で何やらスイッチが入ってしまった様子。

 今夜は寝かさないぜという言葉は、男の特権ではないようだ。


 今晩は、全力を出さねばならないなと覚悟しつつ。


「では、その後は私が」

「「「ダメ」」」

「ユキエラ、サチエラ、お母さんはのけ者にされちゃってますよ」


 四戦目も予約が入りそうになって、すかさず三人が止めてくれてホッとする。

 出来たらいいなぁ程度の願望に見せつつ目がマジだったスエラ。


 意味を理解していない娘たちに慰めてもらおうと声をかければ子供たちも、母親が悲しんでいるのを察してか、俺の手を握っていない手でペタペタと彼女の顔を触る。


「そうと決まれば私は行く、手早く残りの仕事を終わらせねばな」

「では、次郎さん一緒にお風呂に入りましょう」

「ふむ、なら私は明日の弁当でも用意しておくか」


 そしてこの後の行動が決まったら、嫁たちの行動は早い。

 そっとサチエラをスエラに渡し、最後に軽く子供たちの頭を撫でると転移魔法で消えるエヴィア。


 メモリアは俺の手を引き浴室に誘導し、ヒミクはキッチンで片づけをしながら調理を始める。


 そんな俺たちをスエラは見送る。


 今夜は仕事以上に忙しくなりそうな予感だ。



 今日の一言

 他者の言葉はしっかりと聞こう。



毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。

面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。


現在、もう1作品

パンドラ・パンデミック・パニック パンドラの箱は再び開かれたけど秘密基地とかでいろいろやって対抗してます!!

を連載中です!!そちらの方も是非ともよろしくお願いいたします!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] コレは、明日の朝イチにエナドリ代わりに鉱樹接続して魔力を回さないとヤバい感じに一晩で色々と持ってかれそうですねぇ…(ゲス顔)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ