548 月日が過ぎるのが早いと感じた時はあるだろうか?
新章突入です!
さてさて、エヴィアの両親へと挨拶しに行ったのはいつのことだっただろうか?
少なくとも一か月はたったと思う。
……ちょっと記憶が朧気だな。
だけど、そんな俺の感覚を嘲笑うが如く、現実はその倍の月日が経過しているのを知らせるように、カレンダーは二枚めくられている。
世間は、夏の暑さを知らせ。
人の衣服が薄着になるシーズンを伝えてくる。
時の流れを感じる感覚は人それぞれと言うが、俺はどうなのだろう?
毎日毎日、仕事、仕事仕事仕事と同じことを延々と続けているわけではないけど、かなりの量の仕事をこなしたと思う。
前の会社の仕事量が可愛く思えるほどの膨大な量を高速で処理し、そして次の日にも同量の仕事が来てそれもすべて終わらせてきた。
土日を休みにせず、出勤していたらもう少し仕事の余裕があっただろうけど、それだと間違いなく精神がすり減っていた。
それを避けるために平日に膨大な量の仕事をこなしたわけだ。
おかげで辛うじて曜日感覚は残っていたが、過ぎた日数を覚えている余裕はなかった。
もう二か月過ぎたと言うべきか、それとも、まだ二か月しか経っていないのかと言うべきか。
最近忙しいのが当たり前になっているから、気づけば時間が経っていることが多いので、もう二か月が過ぎたと言うのが正解なのだろう。
「警告する。人王、現実逃避はそこまでにしておく」
「おっと、俺としたことが」
「気持ちに同意。目の前の肉食獣を見たらそんな気持ちになるのも仕方ない。私もこれは想定外だった」
最近忙しかったなと、この強化された肉体をもってしても目の下に隈を作るほどの激務を抜けた先でそんなことを思っていたら、業務上一緒に仕事をすることが多くなったアミリさんによって現実に引き戻された。
「おっしゃーーーーーーーーー!!行くわよ!!皆の者!気合は十分か??決行は明日だ。準備は怠っていないな!!」
出来ればこんな現実は見たくはなかったが。
壇上で仁王立ちし、拳を振り上げ、まるで扇動者のように意思をまとめ上げようと声を張り上げるケイリィさん。
その声に応えるのは。
「「「「「おおおおおおおおおおお!!!!!!」」」」
美しい容姿を持つ女性たち。
ついに計画していた魔王軍女性(有志)と日本神呪術協会の婚活パーティーが明日に迫り、決起集会と言わんばかりに会議室にあつまった女性陣。
時間は定時を少し過ぎたころ。
俺は今日の激務をどうにか終わらせて、疲れた肉体を動かしてこの場にいる。
なにせ責任者が俺だ。
この場にいない方がおかしいのだが……
「みんな元気だねぇ」
正直テンションについていけないのが現実。
空気の温度差は、俺と彼女達とでは極寒と常夏くらいの差はある。
「肯定、この日を楽しみにし、モチベーションを維持してきたと言っても過言ではない。中止を宣言したらまず間違いなく彼女たちはお前の命を狙う刺客となる」
極寒の住人であるアミリさんの言葉には、若干呆れが含まれているが、水を差す気はない様子。
なにせ水を差した瞬間、敵意が自身に降りかかってくるのがわかっているのだ。
好き好んで恨みを買おうとは思うまい。
俺もその意見には賛成なので、素直に頷く。
「ハハハハハ、笑えない」
「同意、私も同性であるがこれから起こることを理由にここまでの覇気を出すことは不可能と判断」
事実、この空気を少しでも害せば殺意の籠もった視線を向けられるのは必至。
種族は多種多様。
ダークエルフのケイリィさんだけではなく、ハーピーであったり悪魔だったり、獣人だったり、人魚だったり、木人だったり…まぁ、魔王軍にいる多種多様な女性達がここに集結しており、その数なんと百人。
種族が違うにも関わらず、その目には共通の意思が宿っている。
そう…それは婚約相手を見つけると言う、肉食獣にも引けを取らないほどの飢え。
「諸君!長い時の戦いは明日のためにあった!長きにわたる激務を過ごしながらコンディションを最善に整えるのは困難を極めただろう!!」
そんな飢えを抱える女性陣に向けてのケイリィさんの弁舌は絶好調。
その言葉に共感した女性たちの瞳に涙が浮かんでいる。
「その苦労も明日報われる!経費として受理された私たちの戦装束がその証拠だ!!巨人やダークエルフと言った職人たちに無理難題を吹っかけて最高の衣装とアクセサリーは手に入った!諸君らの努力によって最高の状態に持ってきた肉体を以ってしたらこれを身にまとうことに何ら不足はない!!」
見た目からでは察する事は出来ないが、彼女たちは適齢期が来ている。
故に今回の婚活パーティーに挑む気合の度合いは桁違いに高い。
見目麗しい彼女たちは、そこまで気にしなくていいのでは?と思うのだが、日本の女性たちのように結婚願望が薄れている昨今と違い。
魔王軍では今でも結婚願望というのが根強く残っている。
加えて言えば、スエラのような女性が二百年近く独身であった事実を思い返してほしい。
結婚はいつでもできるモノではなく、自ら掴み取らないといけないモノなのだ。
縁があればそれを死んでも手放すな。
それが良縁ならなおのこと。
こっちの世界では結婚できるかどうかが人生の分かれ目と言っても過言ではないようだ。
「準備は整った!いざ、決戦の時!!」
「「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」」」」
この場にいる人みんな見目麗しい妙齢の女性ばかりだけど、軍内部ではそれ相応の実力者と言う猛者ばかり。
一般男性からは、強い女性はちょっとと敬遠され、貴族男性からはちょっとはおしとやかになれと忌避され、ご縁に恵まれなかった女性陣だ。
そんな彼女たちが揃って雄叫びをあげる姿を見てつい。
「……おかしいな、明日戦争でも始まりそうな勢いだぞ」
変な感想を抱いてしまった。
「肯定、見合いは女にとって戦争。間違ってはいない」
「大丈夫かなミマモリ様。一応こっちの参加者リストには、写真とプロフィールも添えておいたけど」
血走るまではいかなくても、目を見開き雄叫びとも取れそうな声をあげる女性陣を見て、一般人ではないだろうけど、彼女たち程強くはないだろう男性陣を思い浮かべて心配になる。
「こちらにも似たようなものは来た。精査したが向こうもしっかりと準備していたのがうかがえる」
戦闘能力は記載していない。
記載していたら、絶対に成立しないとわかっているから、パネルマジックがない正真正銘の化粧で気合を入れた女性陣の写真と、人となりがわかるプロフィールを添えたリストを送ったのが一か月ほど前。
そして相手方の参加者リストが送られてきたのも同時期だ。
元々打ち合わせで、互いの人数が決まったら、見合い写真を送り合うと決めていたからこそスムーズに出来た。
だけど、このスムーズ具合がある意味でとんでもない結果を呼び寄せた。
当然互いに変な人間を混ぜるわけにはいかないので、本当に穴が開くのではと思うくらいに精査するのは当然だ。
この会社内にいる女性たちは比較的、人間という種族に対して友好的な人たちが多い。
なので、特段忌避感なくその見合い写真を見ることができる。
ただ問題なのが、ミマモリ様が用意してきたのはどこぞのアイドルユニットかというような面々が勢ぞろいしていた。
それに激震が走り、当初は二十人程度の婚活パーティーだったのだが、人の口に戸は立てられない。
機密情報だけはきちんと黙秘しつつ、俺の主導している婚活パーティーの相手はイケメン揃いという噂がひっそりと流れ。
その真実を確認するために一人、また一人と参加を表明してきた。
最初は増やす気がなかったが、そうなったら既存枠を血で血を洗うような戦いが起こりそうな雰囲気になり、急遽枠を増やせないかという打診をする羽目に…向こうが断ってくれれば後は将軍の地位を利用してまた次回と言える。
だけど、返ってきた返事は。
『了承!!』
の二文字がでかでかと書かれたミマモリ様が書かれたと思われる返書と、詳細内容を再び送ってほしいと言う旨を書かれた多分霧江さんが書いただろう書類だった。
マジか…と思いつつ、了承されてしまえば対処せざるを得ない。
追加で仕事を抱え込んでしまった結果はケイリィさんには怒られなかった。
なにせ彼女も、このままでは血が流れると危機感を抱いていたからだ。
おかげで、通常業務とダンジョン経営業務に加えて婚活パーティ準備というデスマーチが出来上がった。
ここ最近の疲労度合いが増えた理由がこれだ。
自業自得ではあるが、協力者を増やすためにノーディス家とムーラ家との関係調整も含めてやっていたから余計にしんどい業務となってしまった。
そのデスマーチの結果、最終的にこの人数になってしまったわけで。
「これがほんとの神頼みってやつですかね?会場準備は向こう任せですし」
その気合の入り具合に戦場とは違う気迫に気圧されそうになった。
将軍である俺とアミリさんを気迫で押し切るなんて相当なことなんだけど。
「相手方が神である時点で間違ってはいない。こちらも準備をしているという点では大して変わりない」
後はこの女性たちを送り届けるだけ、会場には俺も入るがいわば俺は幹事ポジション。
向こう側と一緒に舞台の司会進行を受け持つだけだ。
理想の男性がいることを切に願いつつ。
「そうですね。アミリさんもご苦労様です。周囲への牽制大変だったでしょう?」
「問題ない」
ここまで苦労を一緒に過ごしてくれたアミリさんに感謝の言葉を送る。
毅然とした態度で、何ともないように言い放っているがムイルさんからの報告で、かなり動き回ってくれているのを聞いている。
「報酬はしっかりと徴収する。それで良しとする」
「はははは、そっちもしっかり近日中に海堂と調整して話を進めますよ」
その動きの多さに、本当に報酬がそれでいいのかと思うくらいに安価で動いてくれた機王アミリ。
報酬は、海堂とアミリさんの仲人役という立場になると言うこと。
「約束、私のこの肉体ではこの世界ではあまり世間体が良くはない。立場もあり、年齢的にも問題はないが、この容姿というだけで忌避感を抱く人物もいる。忠の両親とは仲良くやりたい」
そして俺の最近の仕事の四割が結婚関連だなと今更な感想を抱く。
まぁ、アミリさんに依頼した日からこうなるのではと思ってはいた。
機械を肉体に埋め込んだような近未来的な容姿をしているアミリさん。
俺や海堂は最早見慣れた姿で、忌避感というより、すでに馴染んでいると言う印象の方が先に立つ。
普通にかわいらしい少女という印象のアミリさんであるが、イスアルの人間には悪魔と揶揄されることもあるのだとか。
オタク文化は世間でも人権を得てはいるが、年齢層が高まるとその手の忌避感が出てくるのも仕方ない。
海堂は全面的にアミリさんの味方になってくれるだろうけど、味方は多いに越したことはない。
「任せてください。社畜時代に培ったプレゼン能力で海堂の両親の心を鷲掴みにしてやりますよ」
そこでたまたま利害が一致したのは幸運と言って良い。
あの日、ノルド君やらムラ君の教育を施さないといけないと、激務を覚悟したあの時。
アミリさんに協力を打診した当日に来てくれ、こちらからしたら最上の条件を引っ提げてくれたことには今でも感謝している。
「感謝。期待している」
「ええ、期待してください」
こんなやり取りをしたあの日のことを。
今日の一言
終わりが近づくと経過が懐かしくなる。
毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。
面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。
現在、もう1作品
パンドラ・パンデミック・パニック パンドラの箱は再び開かれたけど秘密基地とかでいろいろやって対抗してます!!
を連載中です!!そちらの方も是非ともよろしくお願いいたします!!




