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542 一緒に仕事をしたいと思わせる、それが面接のコツ

遅れてすみません(汗

 

「やれ」とエヴィアにゴーサインを出されたからと言って、「はいわかりました」と鎧袖一触で切り捨てるわけにはいかない。


 何せやろうと思えばすぐにできて、瞬殺確定。

 それじゃ何の意味もない。


 だけど、それでも選択肢が増えてくれるのは助かる。


 肩の荷が降ろせたかのように窮屈さが消え、

 一気に動きやすくなった。


 いや、まぁ、俺からしたらノルド君の動きなんて止まっているようなモノとまではいわないけど、コマ送りのようにゆっくりと動いているようなものだ。


 そこにタイミングを合わせて木剣を振るうことなんて造作もない。


『ひぃ!?当たった当たったぞ!?当てないって言いたじゃないか!?嘘つき!?』


 実際この通り。

 軽く振るった斬撃が、俺の想像した通りの位置に想像した被害の範囲で当たる。


 当たった箇所に手を当てて、おそらく鎧兜の下で顔面を青く染め上げて俺を非難するノルド君だったが、


「今さっき、エヴィアから許可が出たんでね。もう少し真剣に立ち向かわないと、その傷が内側に近づくぞ?」


 生憎とこっちはエヴィアという親族からの免罪符がある。

 左手でサムズアップして、ニッコリと警告してやると、さっきよりも俊敏に動き始めた。


『姉貴!?』


 そして、マジかと確認するかのように顔をエヴィアの方に向けていたが、エヴィアは何を今更という感じで肩をすくめ、溜息を吐いていた。


 それすなわち事実だということ。

 絶望がノルド君を襲うが、それは俺には関係ない。


「気張れよ、ちょっとばっかりここからはスイッチ入れるからよ!!」


 なので、相手の動きをさらに遅くするために魔力を放出して威圧する。

 同格以上の相手にはあんまり効果はないんだけど、格下相手なら、


「ひっ」

「気合入れろ!!ここからが本番だぞ!!」


 騎士という本職相手でも十分に効果を見込める。


『……』

「ノルド様!?」


 当然、本職の騎士よりも戦闘経験が乏しいノルド君相手だと効果てき面。


 蛇に睨まれた蛙のごとく、ピタリと動きを止めてしまい、

 その動きにムラ君が焦る。


「ノルド様!!」


 容赦なくそこに斬撃を飛ばす。

 間一髪というか、間一髪で間に合わせられるタイミングで木剣を振るったんだが、間に合ってよかったよ。


 じゃないと、右腕がサヨウナラしてた。


 ノルド君に跳びつくような形で地面を転がるムラ君は、何やら腰から瓶のようなモノを投げつけてきて、それは空中で破裂した。


「こいつは、探査妨害用の煙幕か」


 うっすらと青色が添付され、視界を塞ぐような形の煙幕。

 ただ煙幕を焚くだけなら、俺の魔力探知ですぐに居場所がわかる。


 だけど、その煙幕自体に魔力が付与されていて、魔力探知で相手の居場所を把握できない。


 結構な高級品の割には、互いの位置がわからなくなるから使い勝手は良くないし、こうやって魔法や通常攻撃で簡単に煙を晴らすことができるから効果もあまりない。


 故に俺は使っていなかったが、まぁ、一時的な逃走用と割り切れば確かに使える。


「さて、と」


 首を一回鳴らして、そのまま斬撃を一刀。

 一閃すれば煙は切られ、線が入り、そこからあっという間に視界が晴れる。


「見つけたっと」

『ひぃ!?』

「っ」


 さっきの場所から移動距離で十メートルと言ったところ。


 煙の効果範囲ギリギリのところにいるのを見つけて、ニタっと教官仕込みの三日月笑みを披露すると、ノルド君が悲鳴をあげて、さらにムラ君が迷いなく鞭を振るってくる。


 うーん、ここまでの対応を見る限り、ムラ君はかなり優秀と見た。


 戦闘能力もそうだが、ノルド君に夢中で視野が狭くなるということもない。

 エヴィアやカデンさんの言う通り、ムーラ家の指導の賜物と言えばいいのだろう。


 恐らく事務的な方面でも優秀なのかもしれないな……


 ふむと内心で頷きつつ、鞭を切らないように木剣で弾きながら、まずはわかりやすいムラ君の方を観察し続ける。


「ふん!」

「きゃ!?」


 何と言うか、仕草や見た目は完全に女性のそれなのだが、男なんだよな、と余計なことを考えつつ振るった攻撃が、ムラ君の持っていた鞭を弾き飛ばし、衝撃波でムラ君とノルド君を分断させる。


「ホレホレ、分断されちまったぞ~、どうするどうする?」


 ムラ君はノルド君のところに向かおうと一瞬考えたようだけど、方向転換して俺の方に向かってくるという選択肢を取った。


 うん、その選択肢は間違ってはいない。


 仮に逃げることを前提にするならまだ別の選択肢が出てくるが、格上相手にそれをやるには全員が逃げるのは悪手になる。


 戦闘を放棄し逃げるというのは、一方的に狩られることを意味するからだ。


 故に、一方が攻めに回って、片方が逃走に回る。

 伝達兵の場合だとこの流れになるケースが多いくらいに典型的なパターンだ。


 片方が命懸けで時間稼ぎをして、その間に情報を持った片方が全力で逃げる。

 情報が重要視される戦闘ではこれが最も生存率が高い。


 全員を生かすよりも、半分を生き残らせるという割り切り。

 それが瞬時に判断出来て、行動に起こせるムラ君。


「ふむ、判断力もなかなか。行動力もある。逸材だな」

「ありがとうございます!!」


 素直に賞賛を送ると笑顔とまではいかないが、喜びを表すような表情でこちらに攻撃を加えてくる。


 展開されたのは多重詠唱によって展開された複数の魔法陣と、


遅延魔法ディレイマジックか。こっちもなかなか」


 遅延魔法によって溜め込んでいた魔法の展開。


 これが彼の切り札。

 実力的に見ても、この攻撃で一撃でも当てようという魂胆。


 攻撃は威力よりも早さと手数を優先。


 雷系統を中心とした中位以下の魔法構成に、手数を用意した魔法陣の数。


 取り囲むように展開したそれを見て、


「本命はこれかな」


 その中にこっそりと隠され紛れ込んでいた上位魔法を即座に切り捨て、返す刃で一気に他の魔法陣も切り捨てる。


「これが、将軍」


 自分の持てる手が瞬く間に消されたことによって歯噛みするムラ君。


 わかる、その気持ちすっごいわかる。

 俺も教官と戦っていた時の理不尽具合には本気で絶望しかけていた。


 何をやっても通用しないんじゃないかと不安に思えるような相手。


 何をどうやれば攻撃が通用するんだという困惑。


 隔絶した存在。


 それが将軍。


 たった一人で戦局を変え得る実力を持っている存在。


 本当にもう、理不尽という言葉しか似合わないよなぁ。


「ま、そこで諦めないあたり君は合格なんだけどね」


 おおよそ、彼の本質を掴めた。


 後は、最後の確認と。


「だけど、ちょっと詰めが甘い」


 俺もその立場と肩を並べられる位置にはたどり着いたけど、まだ上には上がいる。

 教官だってまだまだ強くなっている雰囲気がある。


 俺も訓練をしてまだまだ強くならねばと思っている最中。

 そんな相手に、準備していた攻撃が通用しないにもかかわらず、諦めず、突き進んできたムラ君には合格を与えたいのだが、


「実力的に届くと思われているあたり、予想がまだまだ甘いんだよねぇ」


 二手に分かれた程度で、俺の攻撃範囲が狭まれると思われるのはとんだ勘違いだ。


 木剣で、接近戦を挑むためにショートソードを抜いたムラ君のそれを弾き飛ばし、返す刃で今もなお背中を見せて遠くに逃げようとするノルド君の右手に狙いを定める。


「痛いよ」


 一応、言っておくが多分意味がない。


 唯一わかるのは、俺の闘気が本気で相手を傷つけ、さらには死を連想させるという事実のみ。


 ここで何が起きるかを想像できるだろうなと他人事のように思いながら、この試練で初めて全力で木剣を振り切ろうとした瞬間飛び出してくる影が見えた。


 ゆっくりとした視界の中で、必死の形相で守ろうという根性。

 そして、そこまで想っているのだろうなと思わせる雰囲気。


「エヴィア、キャッチよろしく」


 それを見て、つい俺はフッと口元を緩めて、木剣を振り切る前に木剣を握っていない左手でムラ君の手を掴むと、


「え?きゃ!?」


 何とも女性らしい悲鳴をあげる彼をエヴィアの方に投げ飛ばした。


 それをエヴィアがこともなく片手でキャッチすると、その場に立たせた。

 何が起きたか一瞬理解できなかったムラ君だったが、俺の攻撃範囲から抜けだせたということを認識したことから一気に脱力し、そこにへたり込んでしまった。


 ちょっと脅かし過ぎたか。


『やりすぎた?』

『いや、ちょうどいい塩梅だ』


 トラウマになっていなければいいと心配したが、エヴィア的には本質を見れただけで十分だと思ったのだろう。

 隣で地面に座り込み、肩で息をして、死を連想させる攻撃から命からがら脱出出来てもなお、立ち上がってノルド君のところに走ろうとしているムラ君の肩を抑え、その場に固定している。


『うーん、いい子だ。なんでノルド君にそこまで惚れ込んでいるんだ?』

『知らん。後で愚弟を問い詰めなければいけない案件が増えたな』


 その行動が嘘や偽りでないことは、ここまで追い詰めた俺とエヴィアにはわかっている。

 故に、ムラ君の気持ちが本当にノルド君を想っているのがよくわかる。


 能力的にもかなり部下としてほしいくらい。


『エヴィア』

『なんだ?』

『ノルド君を餌に、ムラ君を部下に引き込みたい』

『お前のところは諜報員不足だからな……ムイルの元ならかなりいい人材に育てられる…か。ムーラ家とつながりを組めるならいい判断だ』


 一応、ノルド君が逃げ切れないように、ザ・ファンタジーと言わんばかりの曲がる斬撃を横薙ぎで放って、元の戦場に引き戻すのは忘れない。


『ぎゃああああああああああああ!?』


 ノルド君がこちら側に吹き飛んでくるのを見ながら、ムラ君が離脱してしまったことによりこっちの相手は片手間で十分だと考える。


 騎士団の方も相手にしないといけないけど、なんだかんだでムラ君が一番厄介な相手だったから、彼が離脱することによって俺の負担が減り、こうやってエヴィアと相談しながら適度に力を抜いて対応することができる。


 ノルド君の悲鳴をBGMにして、エヴィアと今後の話をするくらいには。


『ムーラ家との繋ぎはしよう。だが、その後の交渉はお前がやれ』

『了解、それだけで十分だ』

『浮気はするなよ』

『するか!』


 冗談交じり、いや、雰囲気的に割と本気で俺の心配をするエヴィアに、俺は苦笑しながら否定する。

 スエラに、メモリア、ヒミクに、エヴィア。


 タイプの違う女性をこれだけ囲っていて、さらに男に手を出すほど俺も馬鹿ではない。

 美女は三日で飽きるとどこかの人は言っていたが、そんなことはない。


 子供もできて、幸せな家庭を築いていて、それをぶち壊すようなことを誰がするか。


『冗談だ』

『冗談に聞こえなかったんだが……』


 クックッと念話の向こうから楽し気な笑い声が聞こえているのだが、その前に言っていた言葉が割と本気だったのは間違いない。


『なに、私も女だったということだ。惚れた男が女を囲うことは許容できるが、流石に男に負けるのは許せない。お前がそういう奴じゃないというのは知ってはいたが、つい、な』

『……そうか』

『照れたか?』

『そうだよ!悪いか!?』


 そして、戦闘中だというのに、こうやっていきなりデレるのだからエヴィアはずるい。

 普段の態度とのギャップもあって、ちょっと照れてしまったことに気づかれ、からかわれていると


『いや、お前も私に惚れ込んでくれていると思えば、悪い気分はせん。いや、むしろいい気分だ』


 わかるほど、彼女のご機嫌な声を、


『ぎゃあああああああああああああああ!?死ぬ―――――――――!?』


 手加減を少し間違ってしまって吹き飛ぶノルド君の声をBGMに聞くのであった。



 今日の一言

 欲しい人材は早めに確保を。





毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。

面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。


現在、もう1作品

パンドラ・パンデミック・パニック パンドラの箱は再び開かれたけど秘密基地とかでいろいろやって対抗してます!!

を連載中です!!そちらの方も是非ともよろしくお願いいたします!!

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[気になる点] 前回まで次郎は「借りた木剣」を使っていたのに、今回急に「鉱樹」を使い始めています。 前回と同じなら鉱樹ではなく木剣が正しいかと
[一言] ある意味これだけの時間、全力で声を出しながら逃げ続けられるんだからノルド君にも素質はあるよな…陽動部隊としてのw
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