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51 約束事にしろ暗黙の了解は必ずしも守る必要はない

日刊3位!

週間11位!

累計PV35万越え

ここ一週間の伸びに驚愕しながらも皆様のご愛読に感謝です!!

これからもランキングに乗り続けられるように頑張ります!!

田中次郎 二十八歳 独身

彼女 スエラ・ヘンデルバーグ 

   メモリア・トリス

職業 ダンジョンテスター(正社員)

魔力適性八(将軍クラス)

役職 戦士



俺はいったいどこに向かっているのだろうか。

いきなり何を言っているかわからないだろうが、安心しろ俺もわからない。

出張の話が出て早くも一週間が経った。

スエラとメモリア、そして商店街のハンズたちに旅の心得を教えてもらい今日という日が迎えられた。

まぁ、前者二人はともかく後者たちのおかげで諭吉が二人ほど殉職した。

旅という名のサバイバル生活の豆知識をもらって授業料だと割り切れる分マシだと今は納得しているが、いざ学んだ内容を冷静に考えると。

すると不思議なことに、俺の人生はいったいどこに向かっているのだろうかと疑問に思うほど常識にとらわれない知識が増えていて、それに伴う経験がここ数カ月で積まれていたというのが分かってしまった。

転職してから、日本での日常という名の常識に加え、今では双子のビルのように二つ目の常識が建築されている。

まぁ、それがいいことなのか悪いことなのかはいずれ分かること。

ただ、今言えるのは


「監督官これは?」

「転移陣だ」

「いや、どう見ても落とし穴ですよね、それも底が見えないタイプの」


少なくとも、こうやってノーロープバンジー方式で異世界移動するために学んできたというわけではないのははっきりと言える。

とある一室、と言っても空間転移をいくつか経由していたために、俺の現在地は全く見当がつかない。

もしかしたら社内ですらない場所に俺とメモリア、そして見送りとゲート操作を兼ねた監督官とスエラがこの場にいる。

壁は綺麗に白に統一され、回路のような金色の模様が縦横無尽に張り巡らされている。

次元の壁を越えるというのを甘く見ていたのかもしれない。

これだけの規模、そして充満する魔力濃度は今まで感じてきた中で桁違いに高い。

しかし、そこで見せられたのは、この幻想的な空気に反してなんとも見た目が地味なゲートだった。

てっきりダンジョンに入り込むような感じの扉が用意されているか、もしくは魔法陣らしきもので送り出されると思っていたのだが、まさか落とし穴方式という斜め上に行くような発想に、俺は口元が引き攣るのを隠せない。

周りはしっかりと整頓され、魔法陣も書かれて神秘的なのにもかかわらず、幻想的な雰囲気に合わない穴の方向は横ではなく下だ。

さぁ、ここに落ちろと言わんばかりに堂々と真ん中に人一人が通れる穴があいている。


「臨時のゲートだからな、こういった手抜きになってしまうのは仕方ない。所謂経費削減と危険回避のための段取りだ」

「危険回避?」

「イスアル側からすれば、ここは魔王軍の秘密の一角。ゲートを逆に利用されて攻め込まれるわけにはいかん」

「過去に数度、ゲートを利用した襲撃は行われていますからね、その対策ですよ」

「なるほど」


監督官の説明に付随する形のスエラの補足説明に納得するように俺は頷く。

ダンジョンというのは挑むものであり、維持する側からすれば常時襲撃には備えないといけないということか。

確かに固定型のゲートを敵地に置くにはリスクが高いのだろう。

理由を聞けば納得はできる……

のだが


「帰りはどうすれば?」


聞いた雰囲気的に、このゲートは片道オンリーの使い捨てだ。

行ったら帰ってこられないようでは話にならない。


「イスアルからいくつかの空間を経由し魔王軍の大陸へ行ける。そこでこちらに帰れる手筈は整えておく」


行きは一発なのに帰りはどうにも手が込むようで。


「いい加減覚悟はお決まりで?」

「メモリア、人が現実逃避で心を落ち着けようとしているのを……」

「いえ、そろそろ行かなければエヴィア様に投げ込まれますよ?」

「OK、覚悟は決まった。自力で飛び込むのでそれだけは勘弁を」


なんですか、それは残念だと物足りなさそうな顔は、どこぞの三人組みたいなのりはしませんよ。

男は度胸、前言を撤回するつもりはない。メモリアの言葉通りなら、どんな奇天烈な異世界への渡り方を体験させられるかはわからないからな、トラウマを進んで拵えるつもりはない。


「お気を付けて、無事の帰りを待っています」

「ああ」


ここでキスの一つでもすれば格好はつくのだろうが、監督官の前で


「今更キスの一つで目くじら立てん、時間さえかけなければな」


するわけはないのだが、当人がゴーサイン出したよ、ちくしょう。

要はさっさと『しろ』ってことですね。

頭の中を読むような監督官の仕草にはもう慣れましたよ。

羞恥心は捨てていないし、昨日も十分にしたが、まぁ、いいか。


「無事に帰ってくる」


キスの一つを落として、目を見つめて帰りを約束する。

南がこの場にいれば『フラグが!フラグでござるよ!!』と騒いでいたに違いない。

実際、最後までイスアルに行くのに付いて(憑いて?)こようとしていたくらいだ。

へばりついたのを引き剥がすのに苦労した。

あいつ、強化魔法まで使い出す始末だったしな。


「では、私も」

「お前は一緒に行くだろうが」


この天然吸血鬼娘は……

ドラマのようなシーンをして恥ずかしいという気持ちを流してくれたのはありがたいが……

革袋を背負い直してゲートの前に立つ。


「はぐれないように手をつないでおけ。空間で引き離されたら亜空間で彷徨うことになるぞ」

「それを先に言ってくださいよ」


監督官は出鼻をくじくのが好きだな。

しかし慌てず手を差し出しメモリアがその手に己の手のひらを重ねる。

ひんやりとした、すでに何度もつないだ手をゆっくりと包む。


「それじゃ行きますかね。メモリア、先導頼む」

「はい、承りました」


しっかりと手をつなぎ最後に一回スエラに向けて手を振り穴に向けて足を踏み出す。

柔らかな笑顔で見送って、手を振り返すスエラを最後に、いざと第一歩をそのゲートに向けて踏み出す。

そうなればあとは重力に従い、あっさり体は穴の中に引きずり込まれていった。


「濃いな」

「体内の魔力に注意してください、外に漏れ出すと一気に吸収されますので」

「そうなったら、どうなる?」

「意識くらいは簡単に飛びますね」

「なら気合をいれるさ」


ゲートに落ちた先は、蛍がそこら中に飛び交うような光の渦の中だった。

そこで最初に感じたのは魔力の濃さ。

ダンジョン内でもそうそうに感じたことのないほどの魔力密度、世界と世界を繋ぐ通路なのだから当然といえば当然だ。

体内の魔力が外に引っ張り出されるような感覚、生命に影響は出ないだろうが脱力する感覚は感じる。

体感で一分くらいの異世界へのトンネル旅行は、フラッシュを目の前でたかれたような光を浴びて終わりを告げた。


「っと」

「着きましたね」

「ここがイスアル……って洞窟の中じゃないか」

「目立つ箇所に転移するわけにはいきません。バカ正直に都合のいい場所に転移すれば向こうにも探知されますので。ですがここは、ダンジョンのアンカーポイントには適さないですけど座標を固定できる箇所の一つです。大多数が移動できるゲートを開くことはできませんが、このように秘密裏に移動するには都合のいい場所ということです」

「なるほどな」


ストンと一メートルほどの高さを落ち、砂を踏む感触とともに視界が蘇る。

と言っても目に映る光景は薄暗く、メモリアの輪郭を捉える程度の明るさしかない。

ダンジョンでは、薄暗い箇所の一つや二つは体験している。

魔紋に魔力が流れ込み、段々と夜目が利き始める。

そしてメモリアは吸血鬼、暗いところはお手の物、俺が慣れるのを待っている間に説明を済ましてくれる。


「目は慣れましたか?」

「ああ、そろそろ大丈夫だ」


あの明るい移動から一気に暗いところに出たせいで時間はかかったが、動ける程度にはなった。

足場がある程度整備されているから動く分には問題ない。


「でしたらこちらに」

「了解」


それでも気遣いはありがたい。

動けるといっても万全ではないのだ。

動くとともにゆっくりと俺の手を握り出口に向けて一緒に歩き出してくれる誘導に素直に頼る。

百メートルほどだろうか、道幅がそこそこある道を出口に向けて無言で進み、しばらくすれば出口の光が見える。


「おお」

「ようこそ、イスアルへ」


そこを抜けると、出迎えてくれたのは、地球なら樹齢千年を超えていそうな樹木がズラリと並ぶ樹海であった。

そして


「魔力が充満しているんだな」

「ええ、万物に魔力が宿り、そして作り出される、それがこちらの世界です」


洞窟内でも感じてはいたが空気中に魔力が充満している。

濃度的には社内にいた時の感覚に近い。


「いかがですか? 初めての異世界は」

「いや、もっと驚くと思ったが、ダンジョンの中に毎日入っていたからかな」

「まだ実感がないのかもしれませんね」

「ああ、そうかもしれない」


地球と違うのは、この成長しすぎている樹木と魔力くらいだ。

これで魔獣なんて出てくれば話は別なのだろうが、今のところここが異世界だという感動的な衝動はない。

まだ、異世界に来たという実感がないからなのかもしれないが。


「それにしても、空が明るいな」

「そうでしょうね。何せこの世界には『夜』がありませんから」

「ああ、そういえばそうだったな。確か、メモリアたちの主神がこの世界を離れたときに夜がこなくなったんだよな?」

「正確には、夜という現象が主神ルイーネ様がこの世界より離れたときに無くなった、ですね」


満天の青。

雲がチラホラと見えるような青空を、明るい樹海の中から見上げて思った感想に対し、事前知識として学んでいたことが未だ信じられない。

夜がない。

そんなことはありえない。

星というのは地軸を中心に回転することによって日出と日没が交互に訪れるという工程を繰り返している。

球体である星であれば当然の現象とも言える。

それがないなんて、ありえるのか?


「詳しいことは分かっていないんだよな?」

「はい、主神であるルイーネ様が言われているという事実と現実が証明しているだけで、神の領域を知るものはいません」

「まさにファンタジーってやつだよな」

「次郎さんから見ればそうなるかと。文献にもほとんど残っていない五千年前の話なので、今ここに住んでいる種族でこのことを知っているのは長命種のほんの一部だけでしょう」

「最初に聞いたときは納得するのに時間がかかったよ」


事前知識としてスエラたちからこの話を聞いたとき、最初に巨大な亀の甲羅の上に成り立つ世界という図解を思い出した。

地動説が否定されてからこっちでは天動説が主流なのかとも思ったが、衛星なんて便利なものがないので、どっちにしろ未だ証明できる問題ではないらしい。

地球の学問に触れてそこも解明したいという一派もいるらしいが、それもイスアルへの帰還を果たしてからの話になるだろう。

もはや魔法だから神様だからという一言で終われそうな現象が、この世界で当たり前に常識となっている。

一緒に習った魔王軍の大多数が住む異界の大陸。島だけをくり抜いてスノードームのような世界を形成しているという話を聞く限り、そういった現象は当たり前なのだろう。

むしろそういうものだと新しい数式を覚える感覚で受け入れていかないと、頭痛薬や胃薬が手放せなくなりそうだということを先に学んだのだ。


「ふぅ、それで、ここはどこら辺なんだ?」


そして、この世界の成り立ちという神秘をここで議論し答えを出す必要はない。

学びから来る行動、頭を切り替えるために深呼吸を一つ、いつもだったらここでタバコを一本吸いたいところだが、限られた荷物に入れたタバコの本数は少ない。

補充が利かない代物だ、大事に吸わなければ。

予定では、山や川といった地形から現在地を確認し、そこから目的地である拠点のある街に向かうとのことらしいが。


「予定通りですね……ですがやはり距離があります」

「探知されないように人里からは離れた位置を狙ってるからだな」


吸血鬼であるメモリアはもちろん、俺も人間とはいえ魔王軍に属する。

ここは敵地。異世界からの侵入者である俺たちは、言わば招かざる客というものだ。

行動には慎重を期す必要がある。


「こちらですね」

「ああ」


そして、たとえ街から距離があると言っても、すぐにこの場は離れたほうがいい。

可能性はゼロではない、危険性を排除するために行動は早めにしたほうがいい。

地図を取り出し、方角を確認するメモリアのあとに続く。


「これから行くのは、確か交易が盛んな街なんだよな?」

「各国に所属しない交易拠点サカル。様々な種族が行き交う街ですね」


歩きながら無言というわけもなく、話の話題は自然と行先の街のことになる。

交易の街サカルという場所は誰もが手中に収めたい街であろうが、どこの国にも属さない独自の文化を形成してきた独立地点だ。

治安も、国ではなく街の権力者たちが維持している。

大国三国に加えて連合に四方を囲まれながらも、その文化を維持するほど利益を出している。

その土台を持つがゆえに、各国も介入したいが抜け駆けすれば他の国々に叩かれてしまうという絶妙なバランスの上に成り立っている商人の街とも言える。

俺たちみたいな輩が入り込める隙がある時点で、裏では何が蠢いているかわからないという事実を聞いたときは驚きよりも先に納得した。


「北に神権国家、西に帝国、東に王国、南には小国の連合、小説とかではおなじみの街だな。確かにここを拠点にすれば今回の出張の目的に沿うことができるな」

「期間から考えれば、回れても二国がいいところでしょう。情報を集めてから動くので、もしかしたらそれ以下になる可能性もあります」

「安全第一、それは前提条件だな」


樹海を歩き続け、時々木々を払い除け道を確保しながら今後の予定を立てていく。

今の感覚を言えば少し難しいハイキングという雰囲気だ。

これが、予定通りなら五日ほど続くわけで、当然こんな樹海の中ではホテルどころか泊まれる建物など存在しないから野宿することになる。

出張で野宿というのも斬新ではある。


「聞こえたか?」

「はい」


どうやら、ハイキング気分は終わりらしい。

遠くから聞こえる木の倒れる音、そして飛び立つ鳥の鳴き声。

歩き始めて二時間、ぴたりと歩んでいた足は止まり、代わりに注意を向けるため周りを見回す。


「こっちに来るな」

「匂いをたどっているようです」

「魔獣か」

「はい」


段々はっきり聞こえてくる巨大な何かが移動してくる音は、俺たちが進んできた道から聞こえてくる。

魔獣、ゲームや小説ではおなじみの存在だ。

ダンジョンで戦っているので気負うこともなく次の選択肢もすぐに決まる。


「逃げるぞ」

「そうですね、それが利口でしょう」


多分、ここに異世界転移の小説を読んだことのある人がいれば「え?」と疑問を浮かべるだろう。

ほとんどの人が、戦うなり逃げるなりするにしても出会ってからだ。

前者なら、最初の戦いで能力を覚醒させたり、助けに入ったりして街に連れていってもらうイベントになる。

後者も似たようなものだろう。

だが、俺の場合は違う。

社会人の常識の一つ。

余計なリスクや余計な仕事を増やすな。

ここで戦い、時間をかけ、魔獣を倒すメリットとデメリットを考えれば、当然選択肢は逃げの一手に帰結する。

情けないと笑うことなかれ。

戦闘は戦うことにより時間を浪費し、体力を消耗する。

仮に、魔獣の皮などの素材入手と魔紋の強化ということがメリットになったとしても、今現在の目的は街への到達。

余計な時間と余計な体力を使えば今後の予定に支障が出てくる。

時には引くことも仕事の一つと言える。

結論、現在の取るべき行動は魔獣と戦い倒すことではなく、逃げて体力を温存し移動距離を稼ぐことだ。


「では、お願いします」

「了解」


こっちに来るに際して能力を著しく制限しているメモリアを横抱きで抱え、魔力で身体強化を施し走り出す。

異世界イスアルに来て最初にした仕事は、魔獣からの逃走であった。



田中次郎 二十八歳 独身

彼女 スエラ・ヘンデルバーグ 

   メモリア・トリス

職業 ダンジョンテスター(正社員)

魔力適性八(将軍クラス)

役職 戦士



今日の一言

次郎とメモリアは逃げ出した!


以上となります。

様々なご感想をいただき、指摘を受けこの作品がまだまだよくなれるということを知ることができました!

これからも鋭意努力していきたいと思います。

よければ、ブックマークや評価、そして感想をよろしくお願いします。

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[気になる点] 夜がない、ということはイスアルでは日暮れとか夜とかそういった関係の言葉や話題ってどうなってるんだろうか?
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