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540 距離感があった方ができることもある

ブックマークを確認してみれば、あれ?もうすぐ二万件超えそうじゃないか……という事実に感慨深くなりつつある。


何か記念を考えていますが、どんなのにすればいいか迷走中でございます。

 



 貴族間での繋がりを無くすのが惜しいとカデンさんは言った。


「それはどう言う意味ですか?」


 その言葉の意図を計りかねているムラ君がカデンさんに聞き返す。

 俺自身も、カデンさんの着地点がイマイチ見えていない。


 エヴィアに視線で問いかけても、どういう着地点を想定しているのかわからないようで、様子を見るつもりか、そっと首を振るだけで黙っている。


「結婚と言っても、すぐに結婚するわけではない。我らは種族柄長命だ。であれば、ここは一つ様子見というのはいかがかね?」

「様子見、現状維持ということですか?」

「いや、現状維持とは少し違う。少なくとも過程と結果次第では君の望むような形に落ち着くことになる。それも現実的な可能性でだ」

「……」

「理解できない、いやこの場合は見当がつかないと言った雰囲気だな」

「……はい、未熟者で申し訳ありません」

「なに、うちの愚息と比べれば、考え、予測しようと頭を働かせるだけ君は優秀だ。あと五十年も経験を積めば私の考えも理解できるようになるだろう」


 遠回しに俺も経験不足と言われているような気がして、精進せねばと思わせるカデンさんの言葉。

 実状、カデンさんの意図を一番理解しているのはエヴィアだろう。


 そのエヴィアが止めないということは、俺たちには不利益にはならないということ。


 代わりに、カデンさんの語り口に、ムラ君と結婚する可能性が示唆されているノルド君は気が気でないようで、チラチラとカデンさんを見たり、介入しないのかと俺を見たりしている。


「まずは実績だ。それはノルドと仲を深めろという意味と、その仲を公に認めさせるための実績が必要だ」

「そうですね。ですが、そう都合のいい実績など」

「ある。君は運がいい。今日この日に来たのは神が定めた運命なのかもしれんな」


 ロリコンの神と自己中心的な神。

 そんな二柱に定められた運命ってなんか嫌だ。


 この国、いや、この世界では信心深い人は結構いたりする。

 それは神の実態を深く知らないからだ。


 エヴィアや教官と言った魔王の側近なら多少は神の性格を把握していたりするので、神の定めた運命と聞いたら苦笑の一つや二つ浮かべる。


 俺は太陽神が傲慢だというのしか知らないが、少なくともいきなりYesロリータNoタッチと叫ぶ神の決めた運命というのは勘弁願いたい。


 そしてその運命とやらは俺が関係しているようで、カデンさんの視線が俺に向き、その流れでムラ君の視線もこっちに向く。


「今、ノルドを彼に預けるという話が出ている。それに君も同行し彼の元で実績を作ってみたらどうかね?」


 そして、その視線の流れ的に当然のように俺にパスが飛んできた。


「彼が新規の将軍なのは知っていると思う。勢力的には拡大中だから他の勢力よりは活躍の場もあると思うのだが」


 どうかねと俺に聞いてくるカデンさんの言葉を吟味する。

 正直、有りか無しかの話で言うなら、有りだ。


 ノルド君の性能は未知数と言うかよりかは不安の方がやや勝る。

 現状スパルタ教育で使えるようにすると言う他ない。

 ムラ君に関しては、性癖はともかく、優秀だと名高い名家の出だ。


「……」


 ここでノルド君と一緒の職場で働けるかもという可能性を見出した彼の乙女チックな表情で見つめられるが、こっちは美人に囲まれている身だ。


 男であることも理解しているから心をグラつかせることもない。


 メリットデメリットを計算して、損得勘定をざっくりとだが済ませたら。


「二つ条件を飲んでもらえれば、受け入れてもいいです」

「それはどんな条件かね?」


 カデンさんの方向を見て、条件を出す。

 人手不足だと言ってもだれかれ構わず雇うことはできない。


 見極める必要があるし、通すべき筋もある。


「まず一つ目、この場で勝手に彼を雇うことによってムーラ家を敵に回すようなことは避けたい。しっかりと家の方に報告し、そちらとの打ち合わせをすること」


 愛の前に地位は関係ないとドラマとかで良く聞くセリフだけど、それをやられて困るのは受け入れた側の組織だ。

 何かの拍子で問題が浮上したら目も当てられない。


「根回しは当然だな」

「はい、父にはしっかりと報告し許可を取ります」


 気合を入れて、筋を通そうとしてくれているムラ君は一見善人に見えるけど、悪魔の家系だ。


 ノーディス家からの推薦という形になるから表向きは信用するが、一応裏を取る必要があるよなこれ。


 すみませんムイルさん、仕事が増えます。

 と心中で謝罪しつつ。


 もう一つの条件を付ける。


 最初の条件は雇う側としての条件で、今度は働く側としての条件だ。


「こっちはノルド君にも関係しているから真剣に聞くように」

「俺も?」

「嫌なのか?別に俺としては働きたくないというなら雇う気はないが、もし働かないならおそらく……」

「勘当だな」

「在野になるのでしたら、そのまま私の愛人ということで引き取れますね」

「働きます!!」


 一応カデンさんからは、ノルド君も一緒に働けないかという父親としての恩情を含めた打診をさっきの言葉で感じた。


 それをくみ取る意味で、ノルド君にも条件を一つ付けさせてもらおう。


 直立不動の気をつけの姿勢になり、働く宣言したノルド君の退路は断たれた。


「うん、わかった。じゃあ少し広い場所を借りてもよろしいですか?」

「広い場所?」

「いったい、何をするつもりだ?」

「ええ、ちょっと俺の実力を知ってもらおうかなと」


 そして俺の部下になるなら、将来的に教官にも目をつけられる可能性があるので身の安全を確保するためにしっかりと通過儀礼をせねば。


「お前、ライドウの戦闘狂がうつったのではないか?」

「そうかもしれないな。実際、必要だと思うんだけど?」

「まぁ、確かにお前のところなら戦闘能力は必須か」


 うきうきと上着を再び脱ぐと、すっと上着を寄越せと手を伸ばしてくるエヴィア。

 好意に甘え、その手に上着を預けると、呆れたように教官たちに似てきたと言われ、ちょっと嬉しそうに笑うと苦笑気味に納得されてしまった。


 執事さんに案内されたのは、地面が圧迫されたむき出しの土で占められていた少し武骨な訓練所。


「ここは、我が家の護衛が訓練に使う場所だ。塀も地面も魔法で強化してあるので、そう簡単には壊れないようになってる」

「ふむ、懐かしいな。私もここでよく剣を振るった」

「懐かしいな、ライドウ将軍やノーライフ将軍がお前をよくここで鍛えたな」

「へぇ、そうなんですか」


 エヴィアも使った訓練所ということで、つい踏み込みの感触を確認するように、そっと足さばきをやって見る。


「うん、悪くない」

「流石将軍になるだけの実力はあるみたいだな。私では手も足も出ないだろう」

「そうですね、私でも全力で戦って勝率は六割を切ると思います。この短期間でここまでの実力を身に着けたのは偏に彼の努力の成果かと」

「エヴィアが褒めるのだ、まさにその通りなのだろう」


 足の動きだけで俺の実力を垣間見、さらに娘のエヴィアから肯定されれば最早疑う余地もないとカデンさんは上機嫌になる。


 しかし、そんな上機嫌のカデンさんとは裏腹に、


「やめろ!?放せ!?現役の将軍と戦うなんて正気じゃないぞ!?お前ら!?この家の長男が死ぬかもしれないんだぞ!?なんでそんな冷静なんだ!?」


 複数の執事さんが神輿のように手足や胴体を掴んで甲冑姿のノルド君を担いで運んでくる。


 その神輿になっているノルド君は何やら叫び喚いているようだが、実力的にはノルド君の方が弱いようで、ピクリとも動いていない。


「屋敷に入ってから思ってたけど、この家の執事さんって戦闘訓練もしているんだな」

「ああ、外部を守る兵もそうだが屋敷内にいる使用人は全員精鋭で揃えている。並の兵士なら一人で三十人は相手できる」

「ほー、魔力適正も高そうだ。うちにスカウトできない?」

「はははは!さすがにそれはできない相談だな。長年仕えてくれている彼らを取らんでくれ。しかし、次郎君は良いところに目をつける」

「残念です。あそこまでの実力者、正直言って喉から手が出るほど欲しいんですけどね」


 その動き、そして体幹バランスに、さらに魔力の練り方、どれもが高水準にまとめられている。

 戦えば、かなりの実力を持っていると思われる。


 後で戦えないかなと、ちょっとエヴィアに視線で問いかければ。


「現役将軍と戦えるなら彼らも喜ぶだろう。胸を貸してやれ」

「それはありがたい話だな!!」


 呆れ顔でゴーサインを出してくれる。

 教官の影響がここにも出ているのか、実力者を見ると怯むよりも試したいという気持ちが沸いてくる。


 カデンさん的にも将軍と戦えるのは良き機会ととらえて、そっと側付きのメイドに二、三言つぶやくとメイドさんが離れていく。


 多分だが希望者を募りに行ったのだろうと思っていると、どんどん騒がしい声が近づいてくる。


 諦めればいいのにと思いつつ、担がれているノルド君の姿を見る。


「おーミスリル製の魔法鎧か。軽くて頑丈、関節部は……ワイバーン?いや魔力からして風竜の翼膜か」


 全身白銀の鎧に身を包み、それがどんな鎧かを察した俺は思わず感嘆の声をあげた。

 流石大家のノーディス家。

 あの鎧だけで、高級車が二台は買えるぞ。


 メイドさんたちが持っている武器も一級品だ。


 合計すれば、少し豪華な家が建つ。


「もともとノルドのために作った一品なのだが、あれは使わず家の倉に押し込んでいてな。まぁ、手入れはしているから性能的には申し分ない」

「宝の持ち腐れだがな。それにお前の斬撃だと、あの程度の鎧、紙よりも脆いのではないか?」

「火竜のブレスすら受け止められる一品なのだがな」


 そんな高級品に身を包まれたノルド君が俺たちの目の前に運ばれ、そして執事さんたちに無理矢理立たされたと思うと、強制的に装備が取り付けられていく。


 丸盾にロングソード、さらに魔法を防御するためのマント。


 傍から見れば勇者のようないで立ちに見える。

 中身に悪魔が入っているとは露とも思われないだろう。


 ただ、その立派な鎧とは裏腹に、腰は引け、足がガクガクと震えている様は情けないの一言に尽きる


「お待たせしました」


 そして、無理矢理連れてこられたノルド君とは違い、ムラ君は自分の足でこの場に現れた。


「すみません装備を整えるのに時間がかかってしまい」

「予想通りと言った格好だな」

「いえ、普段使っている装備よりも上等なものですよ」


 ムラ君の格好は、全身鎧のノルド君とは違いかなり軽装。

 部分的に金属は使われているけど、革をメインにした機動力を優先したものだった。


「あれは……もしかしてベヒモスモドキの皮じゃ」

「わかるか?」

「何度か戦ったな」


 その装備で主に使っている革は、ベヒモスモドキと呼ばれる魔獣の革。

 ダンジョン内にいる魔物の中では、上層下部に配置されてるモンスターだ。


 戦ったのは樹王のダンジョン。


 竜種だとワイバーン位の強さに当たるような魔物だ。

 姿がよく似ているが、ベヒモスの劣化版と言われる。

 けど、劣化版であってもベヒモスに似ている。


 その戦闘能力は格段に高く、防御力も高く、魔法にも抗体がある。


 そんな優れた革鎧に身を包んだムラ君とノルド君が揃ったことで準備が完了。


「さて、二つ目の条件だけど」


 俺は借りていた木刀を片手に訓練所の中央に歩いていく。


「うちの仕事は何かと度胸がいるからね」


 そして中央で立ち止まり、木刀を肩に担ぐ。


 結構物騒な存在を相手にする機会が多いので、少し度胸試しってことで。


 木刀を突き出して。


「しばらくの間、俺は二人に攻撃をする。だけど、当てはしないから気絶しないように」


 そっと振ると、真空の斬撃が生み出され地面に刃が走る。


「頑張ってくれ」


 そして教官譲りの三日月の笑みを浮かべるのであった。


 今日の一言

 影響は誰にでも受ける。


毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。

面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。


現在、もう1作品

パンドラ・パンデミック・パニック パンドラの箱は再び開かれたけど秘密基地とかでいろいろやって対抗してます!!

を連載中です!!そちらの方も是非ともよろしくお願いいたします!!

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― 新着の感想 ―
[一言] そう言われると、確かにロクな神様居ないなイスアルwww そして、物理的にメキメキしそうな短期集中講座キター!!w
[一言] 盛り上がる展開になってきましたね!
2022/05/11 00:16 退会済み
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