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539 働かせるための理由という条件

 


 さて、まずは状況を整理しよう。


 まず俺たち帰郷組、まぁ組と言っても俺とエヴィアなんだが、元々は義両親になるカデンさんとイブさんに今後の付き合いを認めてもらうための挨拶をするのと、その際にミマモリ様からの要請で行う見合いの相手候補であるノルド君を確保するためにノーディス家に来ていた。


 そのノルド君は、なぜか拙い結界と賞味期限ぎりぎりというか過ぎ去っている食料で籠城していた。


 その理由が自分の勘違いで女性だと思っていた男を口説き、その口説かれていた相手が本気になって迫ってくるのから逃避するため。

 厄介なことに都合の悪いことは全て隠蔽していた。


 おかげで結婚の約束をしていると思い込んでいたムーラ家のムラ君がノーディス家に来訪。そしてカデンさんと話合ってノルド君が色々と嘘をついていたのが判明。それを聞いた俺たちが見合いの話を撤回しようとしたので、ノルド君は唯一ムラ君と結婚しないで済む道筋を閉ざされないように泣いて土下座を敢行している。


 それが今ここ。


「うん……どう状況整理してもノルド君が悪いの一言で済むな。ここまで見事に弁解の余地がないのはいっそ見事だ」

「だろうな、言い訳できない」

「我が息子ながら何と愚かな」

「そこが可愛いと思えるところなんですよ?」


 若干一名、ダメ男製造機の発言は聞かなかったことに……いや、エヴィアたちからすれば血縁が繋がる子供が生まれる心配がないから引き取り手としてはムラ君は最良なのか?


 ノーディス家の血縁者を外に出しても、後々その血縁者の子供がノーディスの血筋ですと言われる心配がない。

 なにせ両方とも男だ。

 どうあがいても子供が生まれる心配はない。


 言い換えれば、ノーディス家にとっては都合がいいのだ。

 加えて言えば、ノルド君という存在を引き取ってくれる珍しい家でもある。


 ダメな男が好きという一定層の女性というわけじゃないけど、その範囲でも特に稀有な存在、女装した男性が引き取り手という珍しい例ではあるが、それはそれでいい。


 ここまで変なことになっているのは自業自得、潔く腹をくくって引き取られろという感想を抱いても仕方なし。


「許してください許してください許してください許してください許してください許してください許してください許してください許してください許してください許してください許してください」


 壊れたスピーカーみたいにエンドレスで謝罪をするノルド君は見なかったことにして、沙汰を決めるのは俺ではない。

 まぁ、内定として引き取ると言った手前、ここで発言を翻すのは些か体裁が悪いが、それはノルド君が全面的に悪いので仕方なし。


 エヴィアもカデンさんもそこには同意してくれているから、やっぱり引き取るのは無しでと言っても遺恨を残すことはないだろう。


 むしろ二人とも、いっそのことムーラ家とのつながりを作った方がいいのではという思考に傾きつつある。

 それどころか、傾き切ってないだけで、八割ほどこのままこの婚約話を進めた方がいいのではと考えている節がある。


 そしてここでノーディス家の当主であるカデンさんがこの婚約話に太鼓判を押してしまえば、もうノルド君の結婚は確定。

 ノルド君はいよいよ夜逃げでもして、誰もいないような山奥やノーディス家とムーラ家の影響の出ないような辺境に隠れ住まない限りムラ君と結婚することになる。


 同じ男として同性と結婚すること自体は同情するけど、逆に言えばそれ以上の感想は抱かないんだよなぁ。


 どうあがいても、後始末をミスった社会人の末路という体裁は払しょくできない。


 仮にノルド君に、俺や教官そしてエヴィア並に戦闘能力があったり、逆に領主として優秀な才覚を見せつけていたらこんなことにはならなかっただろうなぁ。


「……どうするか」

「お前がそこまで悩むことでもない。これはノーディス家の問題だ」

「いや、俺はエヴィアの旦那。めっちゃくちゃ関係者だぞ?お前が困っているのに知らぬ存ぜぬは流石に嫌だ」

「……戯け」

「「おー」」


 悩みながらだったから素直に言葉を吐いてしまった。

 別に恥ずかしくも後悔もしていないが、なぜか周囲にいるメイドや執事さんからは感嘆の声が漏れて、小さく拍手する人もいる。


「ハハハハハ!素面でそんなことを言ってくれる男が現れるとは、いい男を捕まえたではないかエヴィア!!」

「はい」

「エヴィアに育てられました!」


 その会話のやり取りに、一旦ノルド君のことを忘れ大いに喜ぶカデンさん。

 女傑を地で行っていたエヴィア相手に、ここまで堂々と彼女のために何かをしたいと言い切ったことがよほどうれしかったらしい。


 別に大したことではないが、それならとちょっと揶揄い交じりと場の空気を和らげるために決め顔で決め台詞を言ってみたら、


「調子に乗るな」

「アイタ」


 ほとんど力の入っていない拳でお腹を叩かれる。

 そのエヴィアのしおらしい態度にさらに周囲から感嘆の声が上がり、それに恥ずかしがるエヴィアというレアシーンを見ることができた。


 髪を触り、若干頬を染めたエヴィア。


 仲は良好、という姿に満足気にカデンさんも頷いている。


「ははは、さて、問題の方を片づけていくとして、正直ノルド君の意志は後々ムラ君が口説き落とすという方向でどうにかしてもらうのが一番後腐れのない方法なんだと話を聞いた限り俺は思ってますがいかがですかね?」

「私もそう思う。ノーディス家としてもそこまで損のある話ではないからな。ムラ君を我が家に迎えることはできないが、ノルドを婿に出すこと自体はできなくはない話でもある」


 まだ照れが収まっていないエヴィアは、黙って聞き、代わりにカデンさんが当主として俺に言葉を返してくれる。


 壊れたスピーカーと化していたノルド君はここで頭をあげ、ムラ君がニッコニコと満面の笑みを浮かべる。


 何と言うか感情の攻防が激しい二人だな。

 上がったり下がったり、起伏の乱高下がひどい。


「ただまぁ、エヴィアの両親ということで打ち明けますが、こっちとしても人手不足が致命的ではないにしてもひどい状況です。猫の手も借りたいと言いたいところです。ある程度の信用が置ける人材というのは現状ではかなり貴重なんですよ」


 そうさせているのが俺たちというのはあるだろうが、それは仕方ない。

 ロミオとジュリエットというわけではないのだ。


 恋愛感情を弄ぶような関係でないなら、社会的行動で感情を左右されても仕方はない。


 人材としてまだ自分が必要とされていることに光明を得たノルド君の表情がぱぁっと明るくなる。

 目先の利益しか見えていないノルド君は、自分の危機が救われることに一喜一憂している。

 対してムラ君の表情が曇る。


 もう少し互いにポーカーフェイスというのを身に着けてほしいと思うのだが……


「それに関しては我が家の方から人員を回すという手段もある。将軍という立場故に婿入りができないのが残念だがエヴィアの夫になるのだ、それくらいの支援はする。だからノルドにこだわる必要はないぞ」

「そうですね、そういう話なら自分の方でもそこまでこだわる必要はないです。これから義弟になる彼の将来のことを心配して自分の手元で教導し更生させようかという提案でしたから、そちらの家でどうにかしたいというのならこれ以上は余計なお世話でしょうし」

「君の立場はある程度理解している。いらぬ苦労を掛けるのは私としても本意ではない。新参者というのは何かと苦労が多いからな。私も今の地位につきたてのころは色々と苦労したものだ」


 さっきから絶望したり、喜んだりと本当に激しいな。

 今度はノルド君の顔面が真っ青になり、ムラ君が喜んでいる。


 話の内容的にはノルド君が不利と言ったところか。


「ただ、私もノルドの親だ。ムラ君、世間一般では同性愛があまり良い感情で見られていないというのは理解しているかね?」

「はい、残念ながら」


 しかし、カデンさんは公正な目で見るつもりのようだ。

 家の利益的には、ノルド君を養子に出してムーラ家とつながりを作ることは利ではある。


 だが、同性愛というのは世間一般ではあまり良い目では見られていない。


 貴族の中にはそういう趣味を持っている輩がいないわけではないが、それは表向きに公表されているわけではない。


 あくまで噂、暗黙の了解という部分で収まっている。


 ここでノルド君とムラ君が愛し合っているなら問題ないのだが、今はムラ君の一方的な思いでしかない。


 そこを無理矢理結婚させてしまえば、ノーディス家は利のために息子を無理矢理同性に嫁がせたという汚名を被ってしまうのだ。


 そこが、ある意味でノルド君の最後の防壁ということになる。


 これは人によっては気にしないような内容だ。

 家の利益になるならと冷めた思考の持ち主ならば、速攻でノルド君は売り払われていた。


「そして、今の君とノルドの関係はノルドの過失ではあるが片思いだということも理解しているな?」

「はい」


 だからこそ、カデンさんは冷静に物事を解決しようとしている。


「もし、ノルドと君が、次郎君とエヴィアのように良好な関係であれば私は背を押す所存であったが、この愚息は責任逃れをしようとしている。貴族としては君たちムーラ家と繋がりを持てることは望ましいことだし、父親としても性別を超えた愛を向けてくれていることにも喜びがないと言えば嘘になる」


 そこは大家の貴族というわけか、ノルド君の不始末に対しても冷静でありムラ君の将来を気遣っている。


「一時の気の迷いでこんな愚息と結ばれると後悔すると私は断言する」

「そんなことは!?」


 そして恋に浮かれて、積極的になりすぎているムラ君を諭そうとしている。


「あるのだよ。世間の目が冷たいというのは思いのほか人の心を削り取る。最初は幸せであっても、その幸せを補填し続けるのは難しい。ましてや、この愚息は君の気持ちを拒否し続けている。その道はいばらの道であり、常人の倍、いやそれ以上の苦労が待っている。それを知って覚悟を持って添い遂げると口では言えても、行動で示さねば意味はないのだよ」


 待っているのは不幸。

 男女の交際でもそういうのを見てきたカデンさんの言葉は重い。


 私たちは違う。

 そう言って、失敗するケースは数多く存在するだろう。


 もちろん成功するケースもあるけど、ノルド君とムラ君の関係を考えるならまず土台が脆すぎる。


 出来たムラ君であっても、ダメすぎるノルド君を支えるのは難しい。

 いや、支えるのではなく飼うならできそうな気がするけど……それだと世間体が悪すぎる。


「父上!」


 ノルド君は、父親が一般常識を持ち出して断ってくれるものだと思い込んで尊敬のまなざしを向けているようだが、俺には話の流れ的に違うような気がする。


 ムラ君にとって一般常識というのは耳にタコができるほど聞き慣れた言葉だろう。

 同性愛に生きるムーラ家ならその対策もノウハウも存在するはず。


 であれば、当然反論も出てくるのだろうが。


「一方的な愛では、君が疲れるだけだ」


 カデンさんの言葉もまた重みがあるのだ。

 ここで色々と言っても、結果が伴わなければ意味がないというのをムラ君は理解できる程度には聡い。


「……」


 すなわち、諦めた方が彼のためになると諭されてしまうというわけだ。


 大人の対応、それでおしまい。


「だが、私としてもムーラ家のとのつながりを逃すのはおしい」


 とならないのが貴族なのである。



 今日の一言

 偉い人は大抵狸である。








毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。

面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。


現在、もう1作品

パンドラ・パンデミック・パニック パンドラの箱は再び開かれたけど秘密基地とかでいろいろやって対抗してます!!

を連載中です!!そちらの方も是非ともよろしくお願いいたします!!

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― 新着の感想 ―
[一言] ノルド君が悲惨な目に遭ってざまぁでスカッとするほど読者のヘイトを稼いでいなかったのと、ホモを罰ゲームに使う展開にモヤッとする
[一言] ムラ君が女体化して、嫁に来れば万事治まるような? この異世界に性転換薬があるかどうか知らないけどw この作品に女体化とかTSとかのタグが付くとは思わなかったが(苦笑)
[一言] 何だろう…魔法で作られた『○○○しないと出られない部屋』みたいなのを作ってノルド君とムラ君を放り込みそうな未来が見える…w
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