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530 言われていた意味は体験してこそ理解できる。

 


 エヴィア曰くインパクトのある父親。


 それがどういう意味なのか、イマイチ理解できなかったが。


「私がノーディス家当主、カデン・ノーディスである!!」


確かにそうだと、カイゼル髭を拵えた顔を堂々と見せつける御仁の名乗りを聞いて、この人がエヴィアの父親なんだなと理解したと同時に、エヴィアの言うインパクトの意味が理解できた。


一言で言えば濃いそれにつきる。


「初めまして、エヴィアさんとお付き合いさせていただいている田中次郎と申します」


 一瞬、目を見開きつつそのインパクト……某年末歌合戦で毎年ド派手になっていく衣装の歌手並みに派手な衣装を着込んでいる男性悪魔を見て、俺はとりあえず挨拶をすることができた。


 目の前に立つエヴィアとは違った巻き角を頭に生やした男性は、孔雀かと言いたい派手な羽らしきものを背に背負い、さらにクリスマスツリーかとツッコミを入れたくなるほど体中にイルミネーションを施して、登場するときは上から飛び降りてきたのだ。


「ほう!私の姿を見て動揺しないとは、さすが魔王様が将軍位を任せるだけのことはあるようだな!!」


 いや、シンプルにツッコミが追い付いてないだけで、とりあえず挨拶だけはしておこうという常識が自動で発動しただけだ。


 目を点にして呆けるという無様を晒さなかっただけでよかったと安堵しつつ、お前紅白に出て来いよという言葉を必死に飲み込んで。


「慣れていますので」

「はははは!こんな格好をする輩が私以外にいるとは、世界は広いな!いや、君は異世界から来たのであったな!であればもしや、この格好は異世界では普通なのか?」


 慣れているというのは、教官たちの奇襲同様の酒の席への誘いのせいで、いきなりの出来事に慣れてしまったと言う意味になのだが、カデンさんにはこの派手な恰好が普通なのかと勘違いされてしまった。


 ここで、はいそうですと言ったら、日本はどんな愉快な世界になってしまうのかと想像してしまい、


「いえ、驚かせられるのには慣れているというだけです。カデンさんのような恰好をしている人もいるにはいますが、ごく一部で、それも特別な時の衣装です」

「カデンさんなんて余所余所しい!ここは一つフレンドリーにパパと呼んでくれても構わんぞ!!娘が認めた男で、私も先日の将軍位決定戦は見た!そんな君ならダディと呼んでくれても構わんのだぞ?」

「では、お義父さんと」

「ははは!まだまだ硬いな君は!」


 笑いそうになる頬を堪えてると、やけにフレンドリーなカデンさんに背中をバシバシと叩かれてしまう。


 ド派手な衣装に隠れていてわからなかったが、重々しい衣装の割に身軽に動けると思っていた正体は、その下に隠れていた鍛え上げられた筋肉というわけか。


 衣装を踏まないように底上げした靴を履いているのにも関わらず、バランスを崩す様子もない。


 これは芯があると思わせる背中への打撃は歓迎の印か。


「父上」

「おお!すまないエヴィア。お帰り、仕事が大変なのによく帰って来てくれた」

「いえ、彼を紹介するために私としても都合が良かったので」

「ははははは!今日明日はゆっくりできるのであろう?彼との馴れ初めを是非とも聞かせてほしいものだな」

「ええ、存分に苦い飲み物か強めの酒の用意を」

「はははは!ではイブに用意させておこう。アイツもお前が婚約者を連れてくると聞いてはしゃいでいてな」

「そう言えばその母上は?姿が見えませんが」


 少しむせそうになっている俺を案じて、エヴィアがカデンさんの間に入り、その打撃を止めてくれる。

 いかに耐久度の高い肉体であっても打撃を受け続けるのはきつい。


 感謝すると目で伝えれば、彼女は嬉しそうに口元を緩め、もう一人挨拶せねばならない人物の所在を訪ねた。


「……実はな」


 その話を振った瞬間に、カデンさんは申し訳なさそうに顔を逸らした。


「はぁ、なるほど。寝付けなかったのですね」


 それでおおよそ事情を察したエヴィアは、仕方ないと苦笑しつつ一度溜息を吐いた。

 寝付けなかった?

 もしかして、あれか。遠足が楽しみで興奮して眠れなくなるっていう子供のあれか?


「エヴィアが帰ると聞いてここ数日寝付けなくてな、それで」


 そして、申し訳なさそうに言い淀むカデンさんの声を遮るように大きな音が聞こえてくる。


「遅刻遅刻、遅刻!?」

「お、奥様!?そんな急がれてはみっとものうございます!どうかもう少しゆるりと、優雅に移動してください!?」


 それが全力で駆け出している足音だというのは、たまに俺自身がやっているからなんとなく察することができる。


 そして、全力疾走しているがゆえに大きな声で従者の人が引き留めようとしているのだろうが、それすらも耳に届いている様子はない。


 これは、聞かないことにした方がいいのかな?


「「はぁ」」


 親子が同時に額に手を当てて溜息を吐く程度に日常的なことなのだなと察することはできた。


「えっと、元気な女性なんですね」

「その優しさに救われるぞ、まぁ、そういうことだ」


 とりあえず笑顔で自分は気にしていないと言えば、苦笑気味に笑みを浮かべたカデンさんは助かると言葉をこぼす。


 自分の奥さんがどこぞの少女漫画みたいな台詞を言いながらこちらを目掛けて走っているのだ。


 まぁ、パンを咥えていることはないだろうし、曲がり角で待っているのは自分の夫だ。

 新しい恋が始まることなんてない。


「ちこくーーーーーーーーーー!?」


 そして、ヒールでドリフトをかますという荒業をまじまじと見せつけながら、扉から亜麻色の髪を揺らす女性が飛び出してきた。


「エヴィア」

「なんだ?」

「君の言う通りだったな。インパクトがあった」

「今更だが、自分の言った言葉を後悔している」


 肩で息をするようなことはないけど。

 額にちょっと汗をかいている女性は、両手を水平に伸ばして、野球の判定のような仕草を見せる。が、

 カデンさんは容赦なく、野球の判定の仕草で答える。


「セーフ!?」

「アウトだ」


 何と言うか、貴族らしくないやり取りにちょっと安堵する。


「いつもこうなの?」

「いや、普段はもっとまじめだ。おそらくお前が庶民出身だと聞いて、貴族らしい挨拶はしなくていいと考え肩の力を抜こうと思ったのだろうが」

「抜き過ぎたと?」

「そうだ」


 だけど、貴族としてどうなのかと思って一応確認してみたら、フレンドリーさには理由があったということか。

 マナーとしては赤点だけど、これはこれで有りなのかと思っていると、


「えっと、初めまして。妻のイブです。この度は大変粗相を」


 おどおどとした亜麻色のウエーブのかかった髪を持つ悪魔の女性が、先ほどのドリフトなど露とも感じさせない笑顔で挨拶をしてきた。


「初めまして、田中次郎です」


 なら、これ以上触れてはいけないと思いそっと自己紹介を返す。


「見事なドリフトだったな母上」

「はう!?」


 隣で容赦なくいじりに入るエヴィアに、俺は、なんとなくこの家族のそれぞれの立ち位置を把握するのであった。


 そして、玄関先でずっと話すわけにはいかないと、場所を応接間に移した。


 ノーディス家は名門で、その領土が示す通り税収はかなりの額に上る。


 だけど、家の調度品は、所謂成金趣味のような高価な代物がずらりと並んでいるのではなく、カデンさんの衣装とは裏腹に必要最低限のところにお金をかけているという印象の部屋だった。


「もう、私ったら恥ずかしいところを見せてしまって」

「だから言ったであろう。昨夜は早く寝るようにと」


 頬を抑えて、先ほどのとんでもない登場の仕方に今更ながら恥ずかしがるイブさんに、俺は苦笑するほかない。


 悪魔という種族は外見年齢がかなり若く見えてしまう。

 イブさんはその中でもさらに若く見えるのか、外見的には女子高生と言ってもいいほどだ。


 だからこそ、こうやって頬を挟んで照れる仕草も様になってしまう。

 苦言を呈すカデンさんとイブさんの関係は、夫婦というより親子のように見えてしまう。


 もし仮にこの夫婦が街中でデートをしていたら、通報されるのではと心配になる。


 そして、さらに言えば、


「母上、私も言いましたよね。婚約者を連れて行くのでくれぐれも寝坊はなされないようにと」

「ううー、だってエヴィアちゃん」


 その幼い容姿故に、エヴィアの義母というのにすごい違和感がある。


 エヴィアとはあまり似ていないから、学校の先輩後輩という関係に見えてしまう。

 どっちが先輩でどっちが後輩かは言うまでもない。


 今の会話もどっちが年上なのかと言いたくなる。


 エヴィアが叱る姿を身近で見続けていた俺としては、様になりすぎて違和感がないことに笑うしかない。


「まぁ、エヴィアそれくらいにして」

「ん、そうだな。なぜ私は、お前を紹介するために家に帰ってきたというのに母上に説教をしているのか」

「私からしたら見慣れた光景なのだがな」

「ううー、母としての威厳がぁ」


 エヴィアがイブさんを説教するのは日常的にあったことらしい。

 それならあの自然さも納得だ。


 さめざめと泣くイブさん。

 しかしそれも、エヴィアが帰って来て懐かしいと言わんばかりに微笑むカデンさん。


 そして気づいたら説教をしていると悩むエヴィア。


 確かに独特な家族だな。

 だけど、血のつながり以上の暖かさを感じさせてくれる家族とも言える。


 俺の家族も大概非常識な部類に入るが、しっかりと家族だと断言できる。


「ほう、エヴィアは彼が魔王軍に入ってきたときにから目をつけていたと」

「わー!エヴィアちゃんが、エヴィアちゃんが男の子に興味を!!」


 今はなぜか、俺とエヴィアが出会ってどういう風に関係を構築してきたかの思い出話をそれぞれの主観で話している。


 互いにあの時どう思っていたかを聞けて、俺も中々新鮮だ。


 エヴィアの第一印象はと聞かれたときに。


「美人で仕事できそうだなと」


 そう素直に答えると、背中をペシペシと尻尾で叩くエヴィアがいて、


 逆に俺の第一印象はというと、


「面白い遊び道具になりそうなやつが入ってきたなと思った」

「おい」

「事実だ」


 正直に悪魔のようなことを宣った。

 いや、実際に悪魔だし、それっぽいことを考えてていそうな表情も見てきた。


 否定はできないんだけど、さっきからいじいじと尻尾で気持ちを表してくるエヴィアに、俺は何という言葉をかけてやればいいんだ?


 今は違うぞと訴えかけるようにいじってくる尻尾に、わかっていると伝えるにはどうすればいいのかと悩んでいる。


「うむ、きちんと仲を育んでいるようだな」

「いいわねー、若いって」


 だけど、カデンさんもイヴさんも、空気感で俺とエヴィアの仲が良好だというのはわかってくれたみたいだ。

 ド派手な衣装の父に、女子高生に見える母。

 そんな夫婦は、微笑ましいものを見つけたと言わんばかりに俺たちを眺めているけど、絵面的にそっちの方もかなりすごいんだけどな。


 特にイブさんの若い発言には物申したい。

 あなたもかなり若いと。


 そんな賑やかな雰囲気で、俺がノーディス家に歓迎される形で談笑を続けていた時、


「そう言えば、ノルドはどうしたんですか?あいつにも家にいるように言ったはずですが」

「ああ、ノルドは…」


 ふとこの場にいないもう一人の家族の話になり、義両親は顔を突き合わせて困った顔をする。


「実は、この前家に帰って来てから様子がおかしくて」

「様子が?」

「ああ、あいつが来るとうわごとのようにつぶやいて、部屋に結界まで張って引きこもってしまってな」


 そして聞こえてきたのは何やら不穏な言葉であった。




 今日の一言

 実感というのは経験しなければわからない。







毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。

面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。


現在、もう1作品

パンドラ・パンデミック・パニック パンドラの箱は再び開かれたけど秘密基地とかでいろいろやって対抗してます!!

を連載中です!!そちらの方も是非ともよろしくお願いいたします!!

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