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528 仕事というのは終わりなき宿題と誰かが言ってたな

 

「……で、お前はまた仕事を増やして帰ってきたと言うわけか」

「そう睨まないでくれ増やしたというか、増えたというか、増えるかどうかがこれから決まるというか」


 地球側と大陸側。

 文字通り異なる世界の双方にとってメリットがあるかもしれない話を持ち帰って、とりあえずエヴィアに報告しに行ったら、あきれ顔で彼女は溜息を吐く。


「選定するという手間がかかる段階で、すでに仕事が増えている。それくらいわかっているだろう」

「ハハハハ……断るに断れない話だったもんでな」


 あれから何事もなく無事に帰路につき、海の上での会話を報告しないといけないので、速攻で報告書の作成。

 日本政府側の動きの詳細と海外の神秘組織の動きの概要、そしき神呪術協会との連携のための見合いの設定。


 なんで、マーカーをセットしてくるだけの簡単な仕事に、ここまで内容を詰め込むような状況になるのかなと苦笑しか浮かばない。


「……まぁ、いい。この話は我々にとってもメリットはある。だが、当然話の持って行き方には気を使わなければならないがな」


 一応、メリットのある話なのでお咎めは無かったが、もし仮に厄介事を持って帰ってきてたら、それこそ俺の責任でなくとも苦言の一つや二つは出ていただろう。


 エヴィアの抱えている仕事も多い。

 少しでも減らさないといけないとわかってはいるが、それでも話をしなければならないのが組織に属する者の性というわけだ。


「それで、日本政府の方はいつも通り外交ルートで何とかするだろうけど、見合いの席はどうする?下手なやつを紹介できないっていうのはわかるが、俺の方で見繕うか?」


 だから、関わったからには俺もある程度は協力しないといけない。

 見合いの席と古風な言い方をしているし、そもそも組織同士の繋がりを深める戦国時代のような発想の政略結婚。


 そんなものに現代でも対応しているのかと聞きたいが、神秘組織の大半は、そういった政略結婚で成り立っているのだから冗談では済まない。


 霧江さんも、そういった人と結婚して子供がいるのだからな。


 そして、こっちで立場のある人間というとまたムイルさんの伝手になるが、用意できないわけではない。


 少しでもエヴィアの負担を減らそうとしたのだが、


「いや、その話ならこちらで用意しよう」


 彼女は間髪入れずに即答した。


「都合のいいやつがちょうどいてな」

「都合のいいやつ?」


 ところが、面倒ごとだと思われる選定は、エヴィアにとっては些事だったらしい。

 エヴィアの中で都合のいい人物とはこれ一体。


 首を傾げその人物を問うてみたら。


「愚弟だ」

「ああ、弟さん」


 そう言えばそんな人がいたなと、度々連絡を取るたびに俺に対してなぜかトラウマを暴露する弟さん。

 確か、今は軍で働いてニート根性を叩きなおしている最中だったはず。


「確か、今は情報部の方に所属してたんじゃなかったけ?」

「それはいつの話だ。そこでも腑抜けた態度を見せていたので、今はより鍛えらえる部隊に送り込んでおいた」


 俺の記憶が確かなら、ヒミクと出会った時には通信関連の仕事をしていたはずだから情報部にいると思ったのだが、あの後もやらかして転属したらしい。

 前に聞いたときは肛門の心配をしていたみたいだが、無事だろうか。


 身内にも厳しいエヴィアだからな、自分もスパルタで鍛え上げられた経験から弟さんには頑張れとしか言えない。


 一応、成果を出せば相応の報酬はもらえる。

 ムチだけじゃないのがエヴィアのいいところ、頑張れば報われる。


 むしろ、エヴィアのその対応はチャンスを与えてくれていると俺は思う。

 本当に無価値になったらそんな機会も与えられない。

 見合いの話だってもってこないハズだ。


「なんだその顔は」

「いや、家族を大事にしているなって」


 そんな気持ちが表情に出たのか、怪訝な顔で俺の顔をエヴィアが見てくる。

 なので、内心を素直に言ってみたら。


「たわけ、と言いたいところだが。私はあの家に恩があるからな。あんな奴でも私の弟だ、多少の面倒は見てやらんとな」


 厳しい視線ではなく、少しうれし気に笑う彼女の顔を見ることができた。

 エヴィアの過去は多少なりとも聞き及んでいる。


 養子として引き取ってくれたノーディス家には感謝しているのだろう。


「奴の実態を知られているから、他の貴族の令嬢たちが結婚したがらないと言う理由もあるがな」

「世知辛い」


 そして、ニートというのは異世界でも厳しい評価を得るらしく、一定期間の引きこもり生活は同世代の令嬢たちから冷めた目で見られ、結婚が厳しくなっているみたいだ。


「軍で鍛えていてもか?」

「戦功でも挙げれば話は別だが…次郎、お前はあいつと対面して戦の才能を感じたか?」

「……ないな」


 そしてさらに現実は厳しいと言わんばかりにエヴィアの弟、ノルド・ノーディスには戦いの才能がなかった。

 実際に俺も彼と対面した時はかなり情けない姿を目の当たりにしていて、その強さを垣間見たことはない。


 あれが演技なら話は別だが、演技には見えないガチの態度だったので、俺は素直に首を横に振った。


「あいつの魔力適正は悪くはないのだが、魔力適正があっても戦に向いているかどうかは本人の才能に左右される。頑張っても部隊長、軍団長クラスに上がってくることはないだろう」


 その俺の態度に苦笑したエヴィアは、それでも弟に世話を焼く。


 より適性のある者が上に行く軍国主義の魔王軍は、強さこそすべてという社会構造になっている。

 弱者を虐げるようなことはしないが、強い奴が出世するのもまた事実。


 そこで、少しでもいい立場になれるように配慮しているのだろう。


「それなら、見合いをして外交方面で役に立てるようにした方がいいだろうな。知識なら、叩き込めば何とかなるだろう」


 なんだかんだ言って、才能方面を把握しているエヴィア。

 ノルド君がこれから受けるスパルタ指導に合掌をせざるを得ないが、それも愛の鞭だとして受け入れてくれ。


「問題があるとすれば」

「?何かあるのか」


 ここまでいけば、後はエヴィアが段取りを組むだろうと思っていたが、エヴィアは言い淀むように問題をあげてきた。


 てっきり早急に話をまとめて、そのまま社長に報告をあげに行くのだと思っていたのだが。


「いや、愚弟が男色に染まっていないか心配でな」

「……」


 あまりにも変則的な私生活を送っているノルド君。

 一時、男色家の同期に迫られプロポーズされたと聞いていたが……


「そっちの気が出てきたのか?」

「ああ、先日、両親から手紙で弟がそんなことをつぶやいていたと相談されてな」


 あの時は必死に嘆き、怖かったと訴えていたが、嫌よ嫌よも好きのうちという言葉通りにそちらに染まってしまったのか……


 おぞましい現実に、思わず口元が引きつっているのがわかる。

 そして、俺が仕事の話を持ってきたときよりも深刻そうにうなずくエヴィア。


 趣味趣向は人それぞれ。


「……これは、一度実家に顔を出した方がいいか」


 そのあたりを矯正するのは家族としても中々踏み込みづらい部分だろう。

 遠回しに何とかするのも限界だと感じたエヴィアは、難しい顔をしながらきっと頭の中でスケジュールを調整しているのだろう。


 そんな気苦労の多いエヴィアに、ちょっと空気を軽くしてやろうかなと思い、


「それなら俺も行くか?エヴィアのご両親にも挨拶しておきたいし」


 と、少しおどけて言ってみる。

 スエラとメモリアの両親には、すでに挨拶をしている。

 ヒミクの両親と言うか生みの親は神だから会えないけど、会っていないのはエヴィアの両親だけだ。


 まぁ、と言っても今のタイミングで俺が行っても迷惑かもしれないなと思いつつ、たわけと言われるのを待っていると。


「ふむ、ならもう少し詳細に話を詰めるか。縁談に関してもお前がいた方がスムーズに終わるだろう」


 俺の考えなどお見通しだと言わんばかりに、ニヤリと笑うエヴィア。


 俺としても行くことに関しては是非もない。

 けれど、これで俺もスケジュール調整をしないといけなくなった。


「……いつ頃になりそう?」


 せめて少しでも時間があればいいなと淡い期待を込めて聞いてみる。


「そうだな、今週は無理だが来週の金曜日には顔を出そうと思う。泊りがけで日曜日には帰ってくる予定だ」


 今日は木曜日、残り七日で抱えている仕事を一段落させて、さらにはしっかりと手土産も用意しないといけない。


 時間的にかなりギリギリで、出来るラインをきわどく攻めてきた。

 無理だと言えない絶妙な調整に、相変わらずだなと思いつつ。


「了解、それで調整しておくよ」

「タッテを向かわせる。それで私の両親の手土産に関して用立てろ」


 これでこの話は終了だと言わんばかりに、仕事に戻るエヴィア。

 そっけないなと思いつつ、少し寂しい気持ちになる。


「次郎」

「ん?」


 仕方ないと割り切ってそのまま立ち去ろうとしたタイミングで名前を呼ばれ、踵を返そうとしたのを中断しエヴィアの方を向いたら、そっと柔らかい感覚が唇に広がった。


「たわけ、油断しすぎだ。将軍ならもう少し周囲を警戒しろ」

「了解」


 まったく、こういう時に隙をついてくる女性だから惚れ直してしまう。

 そっと腰に手を回して、今度はしっかりとキスを交わして、気合をもらってエヴィアの執務室を後にする際に、少し嬉しそうに彼女の尻尾が揺れていたのを見逃さなかった。


 両親に挨拶しに行くと言ったことが嬉しかったのかなと思いつつ部屋の外に出ると、


「あのお嬢様があんな乙女なことを、このタッテ嬉しくて涙が止まりません」

「うお!?タッテさんいつの間に」


 全く気配を感じさせず扉のすぐそばに待機していたタッテさんに驚いてしまった。

 目元にハンカチを当てて泣く仕草を見せるメイド姿のタッテさん。


 なんでこの場にいるのかと唖然としつつ、俺に気配を感じさせないこの人は何者だと戦慄もする。


「お嬢様の命で向かわせると、先ほど言ったではないですか」

「向かわせるって……ついさっき言ったばかりじゃないですか」


 さらに、一分くらいしか経ってない時間で移動したこの人は、本当にメイドなのだろうか。

 頭にバトルとつきそうな戦装束の似合うメイドなのではと思いつつ、

 相も変わらず仕事ができるなと感心する。


「念話で指示が来ましたので、これは可及的速やかに参上する必要がありましたので全力で移動しました」


 汗一つかかず、全力で移動。転移魔法でも使ったか、あるいは秘密の道でも存在するのか、

 はたまたシンプルにすぐそばに控えていたのか。


「な、なるほど」


 どちらにせよ、これでエヴィアのご両親に挨拶するための土産の準備は問題が無くなったわけだ。


「とりあえず、エヴィアのご両親に挨拶するための手土産は何が良いか、歩きならでもいいから教えてもらえるか?」

「かしこまりました」


 こっちも時間に余裕はあまりないので、執務室に戻りながらどんなものを用意すればいいかなと考えてると、


「一番お喜びになることはエヴィア様が子供を授かることですので、こちらの魔法店で早速ご用意を」

「ちょっと待て」

「はい」


 このメイド、とんでもないことを今言ったような気がした。


「今なんて言った?」

「はいと返事をしました」

「いや、まぁ、そうだけど、お約束だけど。そうじゃなくて、その前に言った言葉」


 身体的に強化された俺の耳がかなり変なことを拾ったのではと思った。

 だけど、どこから取り出したかわからないカタログを持っているタッテさんを見て、それが幻聴ではないと知らされたが、一応確認をした。


「はい、エヴィア様のご両親、カデン様とイブ様は、エヴィア様のご結婚とご懐妊を非常に強く願っておられます。ですので、一番お喜びになる手土産は妊娠ですと、私は進言します」


 あれ?この人ってこんなにはっちゃける人だったっけと前に会った時と比べるのであった。




 今日の一言

 人生終わるまで宿題は無くならない。











毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。

面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。


現在、もう1作品

パンドラ・パンデミック・パニック パンドラの箱は再び開かれたけど秘密基地とかでいろいろやって対抗してます!!

を連載中です!!そちらの方も是非ともよろしくお願いいたします!!

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― 新着の感想 ―
[一言] 見合いに出すには、本人の性格や魔王軍での地位がショボすぎる気がするね。 エヴィアと次郎との関係にしかメリットが無い。
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