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527 責任者こそ現場の視察には来た方がいい

 

 海、海、海。

 辺りを見回す限り、見事なまでに海しかないし、遠目に日本がかろうじて見えるだけで、天気が悪かったらマジでどこに何があるかわからないくらいに海しかない。


 方角的にと、あっちに進めばいいやと高をくくって操船したら遭難しそうなほど見事に何もない。


 逆にここまで来るとあっぱれだと言いたくくらい何もない。


「うん、見事に何もないな」


 本当にここに島ができるのかと疑問が沸く。


「そうでしょうね。むしろ何かある方が困るのですが。それにしても私たちとしても、本当にこの場に島を作れるのかと疑問を抱いているのですが、そこら辺については何か公開できる情報はありませんか?」

「まぁ、あると言えば、普通に島の一つや二つ作れるのが魔王軍ですのでというコメントと」


 視察に来たはいいが、陸地と違いガチで何もない光景。

 霧江さんの疑問に答えつつ、ここに来た目的を成し遂げるためにケイリィさんに持ってもらっていたアタッシュケースを受け取る。


「これから沈めるこれについてくらいですね」

「それは?」


 暗証番号を入力して、解錠。

 カチャッと軽い音と共にアタッシュケースは開きその中身を露にする。

 見た目はスポイトみたいな形状をしている物体。


 あちこちに金属が使用され、中央に青い透明な宝石のような物体を装着しているから、スポイトのような形状であってスポイトではないのはわかる。


 当然見るのが初めての霧江さんには、それが何かはわからないだろうが。


「アンカーですね。目印と言い換えてもいいですけど、ここに島を作るっていうので転移門をつくるための座標用の魔道具ですよ」


 事前に説明を受けていた俺は、話せる範囲の部分を淡々と説明しながら起動準備を始める。


「それは話しても大丈夫なのですか?聞く限りだとかなりの技術のような気がしますが、ここに監視を置くわけでもないので、もし誰かがここにきて回収されたら大事に」


 魔力を使用する物体は、この世界ではかなり貴重な技術であるのは間違いない。

 それを何の監視もなく海のど真ん中に放置するという行為は確かに危険かもしれない。


「大丈夫ですよ。安全装置もありますし、いざという時には自壊してただの石ころや金属の塊になるように作られているので」

「なるほど、ちなみに安全装置のことは聞いても大丈夫ですか?下手に周囲に被害が出るのは自重していただきたいのですが」

「流石にこっちも、闇雲に迎撃するような機能は組み込みませんよ」


 そのことを想定しないほど魔王軍は甘くはない。

 魔力を注ぎ込み、淡く光り始めている魔道具を興味深そうに眺める霧江さんを脇に、ケイリィさんの補助を受けつつ、着々と準備を進める。


 メインとサブ、両方の魔石の接続を確認し、既定の時間を保てるように機構が正常に稼働しているかしっかりとチェック。


 そして、霧江さんが心配している安全装置も正常に機能するかチェックする。


「え?消えた」

「実際には消えてませんよ」


 その機能が発動して、忽然と姿を消した魔道具に目を見開かせる霧江さん。

 霧江さんを手招きして、俺が手を当てている付近を触るように指さすと、霧江さんは俺の隣にしゃがみ込み恐る恐る手を触れる。


「ありますね。これはどういう仕組みで」


 そして、しっかりと物理的に感触があることに感心する霧江さん。

 安全装置と言ったが、機能的には光学迷彩のような物。


 海の中に浮かぶ同色の物体を見つけるのは至難の業だろう。


 金属探知機も海上じゃほぼ無意味だし、熱源を発しているわけでも、ましてや電波を発しているわけでもない。


「それは企業秘密ですよ」


 シンプルにアタッシュケースに収まるような物体を、この広い海の中から見つけるのはほぼ不可能だろう。

 そして霧江さんには言っていないが、こいつは通常時は海上に浮いているが、もし誰かがこれに近づいて来たら急速で潜航して姿を隠すようになっている。


 まぁ、漁業のように網を使ってここいら一帯を探されたら流石に引っかかるけど、そうなっても安心。


 網程度ならすり抜けられるように体を圧縮して回避できるようになっている。


 それこそ、こいつの最小単位はミジンコクラス。


 よほど細かい網でもない限り通り抜けることができる。


 それでもだめなら自壊するように設定されている、二重三重のセキュリティというわけだ。


「よし、あとはこいつを投げ入れてと」


 そうこうしているうちに魔道具の準備が整い、俺はそれをもって甲板にでる。


 そしてそのまま投げ入れると、魔道具はすぐに海に擬態し瞬く間に姿が見えなくなった。


 ほのかに感じる魔力の残滓によってそこにあるのはわかるが、肉眼ではまったくわからないほどの擬態だ。


「本当にどこにあるのかわからないんですね。沈んで行っているわけではないんですね」

「ええ、一応まだ浮いていますよ。俺たちが離れたら次に来るまでここに定着します」


 波に流されたり、魚たちに壊されないようにするための装置もついているので、ここからあの魔道具が無くなる心配はない。


「さて、これで自分のやるべきことは終わったんで、あとは」


 そのまま帰路につけるのならそれでいいんだけど、俺は霧江さんの肩にいる人形を見つめてそれはないと判断する。


「そちらの神様から要件がなければ、そのまま帰路につきたいところなんですが?」


 ここまで無言を貫き、傍観していた神。

 触らぬ神に祟りなしというが、ただ見守るだけの神も恐ろしいという他ない。


 流石に何もないというのはおかしいと思い聞いてみれば。


『ハハハハ!気が利くね!大変よろしい!花丸を贈呈しようではないか!!』


 その人形から聞き覚えのある声が聞こえてくる。

 懐かしくもあり、また聞くことになるとは思わなかった神の声。


 ミマモリ様。


「お久しぶりです」

『ああ!元気そうで何よりだ!まぁ、些か以上に人の枠組みから逸脱しているようだが……それも含めて健康でよろしい!』


 挨拶を交わし、朗らかに会話が始まるのである。

 後はどんな要件が来るかという話になるのだが……


『そう警戒するな!君の邪魔をする気はさらさらない!今回はちょっとした頼みごとをするためにここに顕現しただけなのだからな』

「であれば私に伝言だけ言づければいいだけでしょうに、なぜ分身体まで作ってついてきたのですか?」


 神からのちょっとした頼みというだけで、警戒してしまうのは仕方がない。

 神のちょっとは、人で言う困難だ。


 計りの種類が違うだけで尺度というのは変わってしまう。


 霧江さんに伝言を頼まなかったことも含めて、あまり良い予感はしない。


「生憎と自分も忙しい身ですので、受けられるかどうかはわからないと先に断っておきます」

『それでいいよ!それでもこっちは断言しよう!君はこの頼みを断らないと!』


 そこに加えるように俺が断れない頼みと言うのだから、嫌な予感は雪だるま式に増えていく。

 聞きたくないという感情と、聞かないとまずいことになるという直感のせめぎあいで苦笑が生まれそうになったが、どうにか取り繕い笑顔を浮かべ、


「聞きましょう」


 覚悟をもってして聞く姿勢をとる。


『うむ!』


 それにしても、人形で威厳を保とうとするのは大変だな。

 依り代となる人形は、どう見ても手製のぬいぐるみ。


 霧江さんの肩の上で胸を張るために腰に手を添えているが、逆にそれが緊張感を削いでいるのに気づかないものか…


『用件だけを先に言っておこう!田中次郎、おぬしに頼みたいのは見合いの設定だ!』

「はぁ、見合いですか……見合い!?」


 そんな人形が何を言うかと警戒していたら、見合いの場を設けろと言い始めた。


『そうだ!!君との結婚だとさすがに夫婦間のトラブルを招きそうだからね!それならいっそ君の関係者と縁を繋げるために見合いの場を設けてほしいんだ!』

「ミマモリ様!それは」


 そしてそれは霧江さんにとっては初耳のようで、流石に諫めにかかる。


『霧江、世界各国の神秘側の組織の動きが活発化しているのは私も気づいているよ。私たちが今は主導で動いているけど、それはいずれ覆る差でしかない。だったらここで少しでも有利になれるように動いておく必要があるの』

「ですが、それだと日本政府との関係に軋轢が」

『そこを踏まえて私の方で人選をしておくよ。大丈夫、下手な人材は用意しないから安心して』


 協会には協会の苦労があるんだなと思えるやり取りだが。


「ちょっと待っていただきたい。こちらとしてはその話を受けるメリットがない。下手に関係を持つことで均衡を保っているこの世界とのつながりを壊しかねない。その提案は流石に受けれないのですが」


 将軍として、あるいは魔王軍の人間として、ミマモリ様の提案はさすがに受け入れがたい話だ。

 日本との関係を強める。

 それはある意味で必須とも言えるが、均衡を崩してまでそれをする必要性はない。


 なので俺はその話を断る。

 会社に持って帰っても、おそらく受けることはできないだろうという予想。

 ケイリィさんもその話を受けることはできないと言うのは当然。


『ハハハ!君の返答は予想通り、そして霧江が止めに入るのも予想通りさ!!この私がその返答を予想していないとでも思っていたか!』


 だが、その程度の会話、予想していないわけがないと断言するミマモリ様の次の言葉に俺は耳を疑う。


『過去を含めて、異世界召喚でこの世界の魂を持ち出すケースが少々多くなり始めている。私たち神々もこの問題には悩んでいてね。その解決策として、君たちの世界の神と連携して異世界召喚を封じ込めようという方針でいるんだ。具体的に言えば、各国の神秘組織と連携して異世界召喚された際の対応の強化を図ると言ったところだね』


 異世界召喚。

 俺自身も何度か見てきた光景だが、それに対して対応するとミマモリ様は言った。


『君たちの組織としても、異世界から召喚された厄介な存在が減るのは良い話だと私は思うんだけどね?』


 そして同時に、異世界から召喚され強化された地球人が、魔王軍にとって少なくない被害を引き起こすとこも承知している。

 それを引き合いに出されたら、少なくともこの話をこの場で断るということはできない。


『そこで、関係性を深めるために見合いの席を用意してほしいというわけさ。日本が最初なのは出し抜いて一歩リードして仲人役という美味しい席を奪うため。その後の世界との調整役は私たちの方で受けるので、そちらへの負担は見合い相手の調整というわけだ』


 そして、悩むという一瞬の間を見逃さないミマモリ様はすかさず畳み掛けてくる。

 ミマモリ様が出せるカードは、異世界召喚される勇者を減らすもしくは召喚された際に勇者を説得できる人員を送り込んでくるという条件。


 もし仮に無理矢理召喚され、向こうで天涯孤独になり洗脳まがいなことをされていても、戦わずに連れ帰れる可能性が出てくるということ。


 戦わずして戦力を減らせるのは大きい要因になる。


 その条件の代わりに、俺たちの世界との交流を深めるために見合いの場を設けて婚姻関係を結びたいということだ。

 日本としてはその先達になり、後々の仲介人としての立場を狙う。

 それによって、世界中の組織に対しての発言権を高めたいというわけか……


「……私の独断では返答できないので、会社にこの話を持ち帰っても?」

『是非に』


 断ることができない。

 その宣言通りになってしまったことが釈然としないが、仕方ないことか。

 交渉術をエヴィアに習っている分、これは帰ったら説教かなと思いつつ、ドヤ顔をしているであろうミマモリ様の顔を見つめるのであった。



 今日の一言

 百聞は一見にしかずというが、その通りだと思う。







毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。

面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。


現在、もう1作品

パンドラ・パンデミック・パニック パンドラの箱は再び開かれたけど秘密基地とかでいろいろやって対抗してます!!

を連載中です!!そちらの方も是非ともよろしくお願いいたします!!

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