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520 方向性を決めよ

 


「と言うことで、俺たちに猶予はあまりないということを社長と教官から聞いてきたので緊急会議を始めたいと思う」

「急な呼び出し、何かと思ったが、まさか戦の話か。いずれ来るとは思っておったがまさかここまで速いとは」

「ええ、嫌な空気はなんとなく感じてたけど、本国の方ではそんな話が出てたのね」


 危急の要件と、忙しいムイルさんとケイリィさんを無理言って来てもらった。

 申し訳ないけど、こちらとしてもタイムリミットを決められたのだ。

 それ相応の行動を示していかないといけなくなった。


 縁談の話どころではない。


 そっちに関しては、これからのスケジュールであるパーティーとかでアピールしていくということで一旦収め。

 優先度の高いダンジョン建設の方に注力したほうがいいと思った。


 社内でも機密性の高い会議室を使うより、自分の屋敷内の方がいいと思って集まってもらったのは屋敷の応接室、そこに調度品とは不釣り合いなパソコンとプロジェクターを用意している。


 パソコンに不慣れなムイルさんが、おっかなびっくりパソコンに触れている姿は割愛し、俺は自分の手元の資料をプロジェクターで投影し、壁に設置した白幕に映す。


「今日、明日ですぐに戦争が始まるわけじゃないみたいだけど、戦争回避は難しいと教官は見ているみたいだ。早ければ来年の夏、遅くても再来年の春」

「猶予は長く見ても二年もないのね」

「戦支度の時間としては十分、収穫時期を控えている来年の夏は早すぎるとワシは見るが、そのないと思う隙をつかれるのも危険か」


 そこの資料は、教官に頼んで用意してもらった密偵からの報告書。

 写真資料には戦を準備している人の軍の様子が写され、そしてその兵士の鎧の種類が統一されていないところを見るといくつかの国の合同軍であるのが見られる。


「……ありえんとは言えないのが悲しいの。ワシの方でも貴族からその手の話はちらほらと聞いておったが、よもや連合軍を編成出来るまでに至っておったか」

「怖いのは戦争中であった帝国と王国が足並みをそろえているってことね。複数の国を個別で相手にするのとじゃ労力の度合いの差が出るわね。しかもこれって教会も参加してるってことよね?だったら相手が私たちっていうのは間違いないわね。短期間でそれをやってのけたってわけ?だれよそんなことしたやつ、わかってるなら教えて、あとで暗部に報告して暗殺してもらうから」


 その現実になったら恐ろしいという事実にムイルさんは眉間にしわを寄せて真剣に悩み、ケイリィさんは冗談とも本気とも取れる言葉を吐きだす。


「表向きは勇者がまとめたってことになってる」

「表向きってことは、裏もあるってことよね?それがこれって……随分と皮肉が効いているわね。私たちが日本人に協力してもらっているからあっちもって?」

「ああ、こっちで確認が取れている宗教団体の参加者で行方不明になっている人たちだ」


 そして次に映し出された写真を見てケイリィさんは見覚えがあったのか、少し目を見開いた後に忌々し気にその写真を睨んだ。

 その数枚の写真。

 密偵が持ち帰ってきたその写真には全員ではないけど、その誰もがヒミクの姉であるニシアが興した宗教団体に参加していた人たちの姿が映し出されている。


 ただ格好は日本で着るような私服ではなく、教会の紋章が描かれた白亜の鎧に身を包み、剣呑な雰囲気を醸し出している。


 予想通り向こうの世界に渡っていたということに呆れてものも言えない。


 いずれ敵対する可能性があるとは思っていたが考えていたよりも随分と早く仕上げて来ていた。


「はぁ、面倒、本当に面倒。写真でもわかるわ。この人たちもう私たちのことは悪の化身としか思ってないでしょ?」

「でなければこんな演説しないよなぁ。見ます?まるで特撮とかで出てくる悪の組織並みに悪人に仕立て上げられてますよ?」


 その写真に写る目は憎悪とも言って良いほど濁っており、そして報告書の一枚に民に向かって演説し、いかに魔王軍が悪い存在かを説いていると報告が上がっている。


 彼らの立場はさしずめ異世界を救う救世主といったところか。


「たちが悪いの。勇者というネームバリューを使ったプロパガンダと言うわけか」

「それを信じてしまえるだけの歴史の地盤があるって言うことだな」

「はぁ、戦争って嫌ね」


 憎しみはさらなる憎しみを生むと誰が言ったのか。

 人の意識を先導するのにこれほど都合のいい要素があったのかという典型例を見せつけられた俺たちは揃って溜息を吐く。


「とまぁ、嫌な情報が出揃ったところで俺たちの行動も方向性を決めて行かないといけなくなったわけで、俺たち仮称田中派閥は今後どのような形で国に貢献していくべきかという話になるわけだ」

「そう言われても、将軍に求められるのは戦力よ?将軍の代名詞であるダンジョンも一朝一夕で完成するわけじゃない。他の将軍の方々だって十年以上の年月をかけているわけだし」

「そうじゃの、ワシらはどう急いでも戦には間に合わん。それを魔王様が知らぬわけでもない。むしろこういう通達の仕方をしているということは、それを考慮しているということ、して婿殿の方針はいかに?」


 そして嫌な情報を一通り確認し終えた俺たちは、改めて俺たちの組織の方向性を決めていかねばならない。

 その指針を確認するムイルさんの言葉に従って、俺は再びパソコンを操作し、昨夜のうちに考えられるだけのことを書き出した資料を表示した。


「とにもかくにも俺たちには時間が足りない。だが、何もしないというのだけは避けなければならないから、時間がないなりにできることを考えてきた」


 戦争に耐えうる、それこそこの会社の方針である勇者が攻略できないダンジョンをすぐに作り上げるのは時間が足りなさ過ぎて無理だ。

 ノウハウの問題もあるし、組織的な問題もある。


 だけど何もできないわけではない。

 まだまだ机上の空論レベルの発想だが、条件が揃えば空想から現実に押し上げられる絵図。


「……見るからに支援優先、こちらの世界の物資を大陸の方に効率よく運ぶことを主とした貿易拠点と言う感じかの」


 その資料にさっと目を通したムイルさんが即座に俺の意図をくみ取った。

 立体図まで作っている暇がなかったから平面図で色々と書き込んでいる内容になるが、ムイルさんの言ったことがおおむね的を射ている。


「元々俺にもとめられている役割は、こっちの世界と魔王軍を繋げるパイプ役。戦力として期待されていないというわけではないけど、急造軍すら持っていない俺にそこに対しての期待は薄い」

「そうね、私兵すらないものね私たち」

「義勇軍という形で募兵しているが、訓練を施す時間も、施設も、道具も何もかも足りん。国からの支援やトリス商会からの援助もあるからどうにかなっているがの」


 戦力として数えられるのが実質俺だけという悲しい現実。

 一応、傘下としていくつかの貴族が俺の派閥に加わっているがいきなり軍を出してくれと厚顔無恥な頼みを出せるほど信頼関係を築いているわけではない。


 新参者の将軍の悲しい現実。

 地盤がないことが露呈している。


 その地盤づくりのために社長に言われたこと。


「先日社長に言われてしまった。勢力づくりに手間取っているのに政略結婚を忌避している場合かって」


 それもしっかりと二人に伝えれば。


「言われても仕方ないわよね」

「目算が甘かったと言わざるを得ないのぉ。まったくもってその通りじゃ」


 二人そろって言い訳ができないと肩をすくめて反省していた。


「それを踏まえて聞きたいんだけど、政略結婚したほうがいいか?」

「それってしたいしたくないと言う次郎君の感情は置いておくってことでいいのね?」

「ああ、組織的なメリットとデメリットで考慮してほしい」

「……」

「……」


 組織的に見れば俺たちは脆弱と言っても過言ではない。

 それを補えるだけの要素を持っているのが政略結婚というわけだ。

 元々大きくある組織と繋がれるわけだからそれ相応の助力は得られる。


 ノーディス家というエヴィアの実家とトリス商会という大商家とつながりがあったとしても足りないと言わざるを得ない現状を速攻で打開するにはうってつけの策というわけだ。


「一人の魔王軍に所属する身として言うのならメリットは大きいわね。だけど、時期尚早と私は思うわ」

「その理由は?」

「今の段階で助力を請う形で政略結婚すればあなたの立場は傀儡に成り下がる可能性が高い。それにエヴィア様の家への裏切りにもつながるわ。そうなってしまったらそっち側の援助が見込めなくなる。やるとしてもこっち側の地盤を固めてノーディス家への一定の信頼を造り上げてからの話になるわね」


 そして黙考して数秒、メリットとデメリットを天秤にかけてケイリィさんはデメリットの方が大きいと言う。

 俺自身もケイリィさんの言う部分は懸念している。


「ワシも同意見じゃの。魔王様のお言葉はもっともだが、あくまで政略結婚は手段の一つにすぎん。ギリギリまで見極める必要がある。それにエヴィア様も動いておられるのだろう?であればワシらがその点で動くのはもうしばらく待った方がいいだろう」

「反対意見の方が大きいか」

「あくまで今の状況ならって話よ。あなたの立場が確固たるものになったときの方が政略結婚のデメリットが減ってうまみも増す。今はその時じゃないってこと」


 政略結婚とは無縁であった身であるから、どうすればいいか正直決めかねている。

 家族を守るためにならと身を犠牲にして嫁に出る女性というイメージの強い政略結婚。


 正直それに対してあまりイメージはない。


「俺としてはしないに越したことはないんだけどな」

「そう言ってられない時が来るわよ」

「ワシの方にも婿殿との仲を取り持ってくれと頼む輩は多い。いずれ時が来たら側室の一人や二人迎えないとまずいかもの」

「うへ」


 家同士の決められた結婚。

 そこに明るい未来はあるのかと思いつつ、俺はパソコンを操作した。

 表示したのは政略結婚に反対された場合のプランだ。


「となると俺たちが出来るのは、独力のみで戦力を集めつつ、将軍としての地盤を固めて戦争や今後の仕事に対応しないといけないわけだ」

「ああ、そう言えばあったわねこんなの」

「機王様から賜った戦艦、そう言えばこんな代物もあったの、してこれをどう使うつもりじゃ?よもや普通に使うわけではないとは思うが」

「でもこれってダンジョンの中で使えるの?閉鎖空間だと使いづらいと思うんだけど……」


 もともとこっちのプランであってほしいなと思っていた故の力作。

 その要となるのがアミリさんからもらった戦艦を使った作戦というわけだ。


「参考にするのは竜王のダンジョンとエヴィアのダンジョンってね。量より質、少数精鋭、あれだけ広ければ戦艦を運用できるだけの施設は用意できる。と言ってもこの戦艦は戦うために使うわけじゃないんだけどな」


 俺がダンジョンに求めているのは救助と商業施設としての機能だ。


 元々異空間に閉鎖的ではあるが、破格と言える空間を作り出すことができるダンジョン。


 その機能を十全に発揮させるには戦闘に特化させるのが筋ではあるが、全体の二割ほど使い、本来の意図とは違う機能を持たせようと思う。


「こいつは救急車さ、ダンジョン内に医療施設を作って他の軍への支援に当てさせる」




 今日の一言

 出来ることを探せばおのずと出来ることは見つかる。




毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。

面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。


現在、もう1作品

パンドラ・パンデミック・パニック パンドラの箱は再び開かれたけど秘密基地とかでいろいろやって対抗してます!!

を連載中です!!そちらの方も是非ともよろしくお願いいたします!!

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