516 いざやろうと思ったが吉日、だが出鼻をくじかれることもしばしば
「あ、拙者、すっごく久しぶりにリーダーの顔をまともに見たような気がするでござる」
「最近あっていなかったら否定はしないが、面と向かって言われるとなんだか腹立たしいな。まぁ、お前は相変わらず元気そうだな」
「ふふん!いいことがあったでござるからな!拙者の元気は某菓子パンヒーローのごとく百倍でござるよ!!」
「いいこと?」
最近忙しすぎて、第一課にいる時間が少なくなっている自覚はあったが、まさか自分の席に座っていて久しぶりに見たと部下から言われる日が来るとは思っていなかった。
わりと早めに出社しているから、オフィスには他にも人はいるにはいるが少ない。
まだ完全に決まったわけではないが、この第一課も誰かに引き継がないといけないくなる。
その引き継ぎ書類の作成のために顔を出したら、ありありと驚いたと言わんばかりに目を見開く南の顔を見れたというわけだ。
あけすけに物言う女性ではあるが、言われるとなんだか俺がサボっているように言われた気がして少し腹立たしい。
悪気があるわけではないのは理解しているから、ちょっとした雑談で流す。
そしていいことがあったと機嫌が良さげな南。
俺が首をかしげて、何があったかと聞いてみれば、そっと南は机に近寄ってちょいちょいと手招きする。
耳を貸せということだろうか。
俺はそっと体を乗り出して、耳を南の方に寄せると。
「……拙者と勝、大人になったでござる」
少し恥ずかし気に報告してくる南に。
「マジか」
俺はついトーンを落として真剣な表情を作ってしまった。
ここは普通に考えて揶揄いつつも祝福の言葉を贈るのが定石なのだが、この二人の場合そうとはいかない。
「北宮にそのことは」
「ああ、いや、拙者も、その、雰囲気に流されてと言うか、ほら、ね?」
「……川崎の件か」
「拙者、リーダーのその察しのいいところが好きでござるよ」
「茶化すな」
一方通行ではあったが、南と北宮は勝をシェアといったらおかしいかもしれないが共有することを許容していた。
川崎翠というファクターがあり、感情的に脆くなっていた時に慰め合ってそのままという流れを聞いて、仕方ないと言えるが、それでもできればこのタイミングはやめてほしかったと願うのは俺のわがままだろう。
「どうするつもりだ?あいつのことだ、事情も事情だし、下手したら手を引くぞ」
「ああー、拙者としてもそうなるだろうなぁって、思ってまだ付き合っていることを公開していないんでござるよ。こういう時は、普段からべったりだった拙者の距離感が役に立っているというか、付き合っても距離感が変わらないことにへこむべきか悩みどころでござるな」
「お前の場合は人間関係を気にすることを優先しろ」
「ですよねぇ」
幸いにして、南もこのまま秘密にして付き合い続けるのはまずいことを理解している。
北宮と南この二人はなんだかんだ言って互いに信頼関係を築いているからこそ、その発想だが出てくる。
「ったく」
「おろ?リーダー、その写真は」
さてどうするかと、悩んでいると南が普段の机の上にはないはずの写真立てに気づき、指さして聞いてくる。
「あ?ああ、この前家族で撮った写真だよ。よく撮れてるだろ?この前外に出た時に買った最新のデジカメで撮った」
今朝置いたばかりのそれを掴んで見せて見ると、しげしげと見始める南。
「いや、綺麗に撮れているでござるが、なぜにいきなり机に家族写真を?今までなかったと拙者は記憶しているでござるが」
そして俺はこういったものを仕事場には持ち込んでいないことを知っている彼女は、いきなり何でこんなことをと聞いてくる。
「いま俺は、絶賛、愛妻家アンド親バカアピールキャンペーンを実施中だからだ」
そんな南の質問に、俺は某有名な人造人間を使って世界を変えようとした司令官のポーズを取って答えたら。
「……リーダー、疲れているときは疲れているって言った方がいいでござるよ?拙者でよければ少しは仕事を手伝うでござる」
悲しみに染まった南が俺の肩を叩いてきた。
「ガチで悲しい顔をするな。いたって真面目な行動なんだよこれはこれで」
ふざけた態度で真面目なことを言ったつもりが、俺の疲労が限界にきているのだと勘違いされてしまった。
舐めるなよ、疲労感的には後四日は正常に働き続ける自信があるからな。
そこは問題ないんだよ。
「いや、だって、普段からスエラさんやメモリアさんと仲のいいリーダーが、今更仲のいいアピールしますって言っても、ねぇ?」
「俺、そんなに仲良さげに見えるか?」
「傍から見れば大事にしていますって、わかるくらいには。海堂先輩とかアミーちゃんにも聞いても同じ答えが返ってくると思うでござるよ?正直、見るたびにリア充爆発しろって魔力を込めて唱えようと葛藤していた拙者の苦労をボーナスに反映してほしいでござる」
「馬鹿野郎、この世界じゃその怨念がガチで攻撃になるんだから気をつけろよな」
「いずれ世の中に発生するリア充爆殺事件、その真相は嫉妬からくる犯行……うーん、シャレになってないでござるな。ガチで起きそうな案件でござる」
「この世界に魔法と言う技術が流入したら本当にそんなことが起きるかもな、まぁ、人を爆殺するほどの呪いとなると教官クラスの魔力がないと無理だろうが」
「そうなんでござるか?」
こいつと話しているとどんどん話が脱線していく。
まぁ、気にしても仕方ないし、結局は元に戻るのだからいいか。
「よく考えてみろ、呪いで爆発させる術式を込めるんじゃなくて、念による間接経由の魔力爆殺だぞ。消費魔力を考えてみろ」
「……燃費がクソでござるな」
「だろ?それで倒せるのはせいぜいが一般人レベル。俺たち将軍クラスなんて、それこそ軍団規模の魔力を総動員してどうにか違和感があるってレベルの呪いになるんじゃないか?こう肩回りが少し重いな程度で」
そんな会話が楽しいから、仕事を片付けつつ雑談に興じれる。
「っと、こんなことを話してる場合じゃないな。それでどうするんだ北宮の事」
だけど、それはそれ、これはこれと、真面目な話はしっかりと片づけておかないと落ち着かない性分なので、軌道修正ができるの時にしっかりと軌道修正をしておく。
でないとこいつは延々と話を逸らし続けるからな。
「拙者としてはリーダーのキャンペーンのやり方も心配でござるが、最終手段として、勝と北宮を酒で酔わせて朝チュンを狙うのも手かなと最近思い始めているでござる」
真面目かと視線で非難されるが、生憎と真面目な部分も存在するんだよと、睨みつければ仕方なしと肩をすくめて、現状考えている手段を暴露してきた。
その発想は女性としてどうなんだ。
朝チュンって……
「ムードもくそもない、発想が親父のそれだぞ」
ドラマでも昨今見ない展開だぞ。
最近じゃアルハラも世間では厳しくなっている。
当人同士が気にしなければいいが、無理矢理は厳しい処罰が待っている。
「そもそも、勝は未成年だろ。飲ませたら問題になるのは俺なんだから自重しろ」
「はーい」
それに勝は未成年、酒が飲める年齢でもないし、あいつの性格を考えればそもそも飲まないだろう。
それがわかっていて、ふざけている南は軽く返事をしている。
「問題なのは勝だけじゃないでござるよ」
その声が若干疲れているのは、俺の気の所為ではない。
「問題?」
「そうでござる、拙者も流石に勝とくっついて何もしていないわけじゃないでござるよ。北宮にも申し訳ないなと思っているから拙者なりに、最高の形で北宮と勝をくっつけようと画策したのでござる」
「ほう、その結果は?」
こんな朝早く、それも勝に起こされずに出社してきた南、その実、色々と動き回って画策していたのだなと感心しつつ。
「北宮って、意外と乙女チックな発想が多いのでござる。初めてはホテルの最上階のスイートとか、酒飲みながら言ってたでござる。拙者にそれを用意しろと?」
黄昏た南に対して俺は二の句を告げられなかった。
「……俺たちの給料的にはできるのが嫌に現実的だな……あいつ、ホテルの夜景の見えるレストランでディナーしてから的なことを考えているのか?」
辛うじて、北宮の趣味に関してどうこう言わずに無難な言葉を絞り出すことは成功したが、それでも現実は変わらない。
「そうでござる。そういうシチュエーションを整えようと思えば整えられるでござるが、それはちょっと拙者的に負けた気がするでござるし、それを実行しようとして最大の関門は勝の倫理観でござる。拙者と付き合っている勝が北宮と二人っきりになるような食事に出かけると思うでござるか?ましてやそのままホテルで泊まるなんて想像できるでござるか?」
「出来ないな」
勝は真面目だ。
それも、生真面目と言う部類に入るほど真面目だ。
他者に対してはある程度の許容を見せるが、自分に対しては律する部分はしっかりと律する。
「俺や海堂を見て、自分もと考えることは」
僅かな可能性を賭けて、南に俺や海堂に影響を受けていないかと聞いてみるも南は、力なく首を横に振った。
「拙者と付き合い始めてから真剣に将来設計をし始めたでござる。この前なんて、貯金計画なんてもの立ててたでござるよ」
そして、ハーレムを許可された男は真剣に将来設計をしていると暴露されて、俺はどういう顔をすればいいかわからなくなった。
「あいつ、高校生だよな?北宮の夢を聞いた後だと、ギャップで目眩がして来たんだが」
高校時代の俺がそこまで真面目に考えたことが一度でもあったか?
いやない。
少なくとも竹刀を振り回して、青春の汗を流していたことくらいしか思い出せない。
貯金のちの字も出てくる気配はなかった。
「残念、拙者たちの耐久値では簡単には倒れないでござるよ」
南もお手上げ状態だと、言うことか。
「正直、拙者じゃどうしようもないでござる。それこそ一服盛って無理矢理という方法しか」
「……確かに正攻法だと難しいな」
ハーレムを拒む男というのは確かに存在する。
だけど、ここまで身近にいたとは。
「まぁ、勝のことでござるから体の関係さえ結べれば後はなし崩しで責任取ろうとするでござるから、そこまでどう綺麗に持っていくかが問題でござるなぁ」
「おまえ、女性としてそういう考え、どうなんだ?」
「リーダー、女性に幻想を見すぎでござる。女性にも現実主義者はいるんでござるよ?」
「いいだろ、異世界の女性思考に若干嫌気がさしているんだ、地球の女性くらい幻想を抱いても」
こっちもこっちで、まだ生まれてもいない将来の子供たちに婚約を申し込むような輩を相手にしようと愛妻家宣言しようとしたら、さらに言い寄られる可能性があると言われているのだ。
「ユキエラとサチエラに会いたい」
「いいでござるな、拙者もぜひ同伴したいでござる」
現実とはままならない。
癒しを求めて、子供に会いたくなった。
それについて来ようとする南、どうするかと悩んでいるとその後ろから。
「あら、あなたがこんな朝早くからくるなんて珍しいわね南」
「げ、香恋」
「げってなによげって、何か後ろめたいことでも話してたの?」
話の当事者である北宮が出社してきたのであった。
何とも間の悪い。
南からどうにか話を逸らしてとSOSを視線で送られてくるが、さてどうしたものか。
「ああ、北宮、おはよう」
「おはようございます。次郎さん。今日はこっちにいるのね」
「南にも同じことを言われたな」
無難に挨拶から切り出したが、そこからどうするかと考え。
「それくらい珍しいからじゃない?そう言われたくなかったらもう少し顔を出した方がいいわよ?」
「新しい仕事が忙しくてな、正直、分身の術を覚えたいくらいだ」
「あの術式って、分身しても物理的な身代わりにしかならなくて、仕事とか細かい作業はできないんじゃなかったかしら?」
全力で話を逸らしていく。
流石にいきなり勝との関係はどうだと切り出すのは無理だ。
南がナイスと北宮に見えないようにサムズアップしてくるが、お前のまいた種だろうがと心の中で文句を言いつつ。
「条件次第という奴だな。ゴーレムを媒体に使ったり、それ相応の触媒を用意すれば思考を植え付けることも可能らしいぞ」
「それってコスト的にどうなのよ?」
「この職場を見ればわかる。分身体などいるか?」
「そういうことね」
「ちなみに、人並みに思考する存在を作ろうとすると、それだけで豪華客船が作れるらしいぞ。それなら人を雇うなり、身体強化で仕事の能率を上げた方がコスト的にいいってわけさ」
笑顔で話を広げたは良いが、どうしようこの後のことを考えていない!!
今日の一言
自分のしたいことができなくても焦るな。
毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。
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現在、もう1作品
パンドラ・パンデミック・パニック パンドラの箱は再び開かれたけど秘密基地とかでいろいろやって対抗してます!!
を連載中です!!そちらの方も是非ともよろしくお願いいたします!!