515 改めてやるとなると気恥ずかしいと思う行為はないだろうか?
愛妻家、そして親バカ。
ある意味で男としては憧れる役ではないだろうか。
エヴィアに出された課題は、社会人としてではなく、一夫、一父親として求められるものはある意味で難しいものだった。
「どう、振舞えばいいんだ?」
エヴィアと一夜すごし。
そして俺と同格の体力を保持するエヴィアと朝日が昇るまで肌を重ね。
『激しすぎだ、馬鹿者』
最後には自分の夜の姿を思い出して顔を赤く染めるというレアなエヴィアを見れた。
そんなことを思い出の記憶の中に大事に保管しつつ、俺は改めてエヴィアに言われたことを思い出す。
人間を辞めた俺にとって、徹夜に対しても平気な顔して次の日出社できるくらいに体力は有り余っている。
流石にフェリとの戦いで多少疲れているけど、食事を取ってある程度の休憩を取れれば体力も回復する。
正しく人外の回復能力。
昔ゲームで飯を食べて体力が回復するってどんな感じなのかと疑問に思ったことがあるのだが、瞬時に栄養素を吸収して体力に変換できる強靭な肉体と言う答えが今更になって出てきたわけだ。
さて、話が逸れたな。
「はい、次郎君。次この書類に目を通しておいて。エヴィア様から日本政府から送られてきた建築地に関しての契約事項と、特記事項、それと建設後の法律に関する草案と、あとはメディアに対する対応マニュアル。それと」
「……多いな」
「当たり前よ、異国どころか異世界に治外法権の土地を作るのよ?それの責任者となればそれ相応の知識と知恵が必要になるのよ。何か、仕事とは別のことを考えているみたいだけど、こっちもおろそかにしないでよね」
「バレてた?」
「安心しなさい。普通の人なら気づかないくらいしっかりと仕事してるから」
突然、どんと転移魔法で書類を運んできたケイリィさん。
転移魔法も駆使しないと仕事の時間が足りないとぼやく。
栄養ドリンクの代わりにマナポーションを飲む日々が続いている。
一瞬で机の空白地帯が埋まり、白い山が作られる。
俺はパソコンの方でやっていた処理を左手に任せて、残った右手と浮遊魔法を駆使してその書類処理を行う。
「それで?何に悩んでるの?一応私、あなたの秘書ってことになってるから相談には乗るわよ。というか、言いなさい。悩みを放置して後で問題になって仕事に支障が出た方が厄介なのよ」
左手で従来の仕事、右手で書類審査を行い、浮遊魔法を駆使してハンコを押しつつ、ケイリィさんとの会話もこなす。
このマルチタスク能力が昔にあったらもっと仕事ができてただろうなぁと思える。
そうしたらもっと社畜になっていただろうから絶対に言わないけど。
「厄介って……俺のプライベートの話だったらどうすんだよ」
「下の話以外なら受け付けるわ」
「下って、女性がそんなことをあけすけに言わない」
「あなたより長生きしているのよ?それに、日本と私たちの国じゃそういった交じり合いに関しては認識が違うの。あなたたちは恥ずかしいって思う部分の方が多いかもしれないけど、こっちは子孫繁栄がかかってるんだから真面目に考えるわよ。ただ、そこら辺に首を突っ込んだら厄介なことになるケースも多いの。だから下の話は家族間や恋人同士で解決しなさい」
「わかるような、わからないような話だなぁ」
ケイリィさんのセックスに関しての価値観は日本人としては理解しがたい感覚だけど、最近そっちの風習になじみが出てきている俺には理解できる。
大陸の方の子供を作る行為の認識は海外それもアメリカや欧州に近いかもしれない。
遊び感覚でするというよりは、体の相性を確認するような感じで、魔力の相性を確かめる的な。
長寿の種族が多いから、子供ができにくい。
故にそこら辺の相性はかなり気を使っているらしい。
容姿とか、性格とか、いろいろ他にも考慮する要素はあるが、そこも重要な点らしい。
幸いにして、俺のところはかなり相性のいい関係らしい。
スエラが子供を作れたという面も大きいが、元々魔力の波長の合う異性同士がくっつく傾向が多いとか。
貴族とかはそういった波長を無視して、強い血筋を求めて高位魔力適正者と縁談を結ぶことも多い。
ユキエラとサチエラの婚約の件もその流れというわけだ。
「それで、そっちの話?そっちの話しなら私は仕事に戻るけど」
「そっちの話ではないな、関係はあるが」
「そっちの話ではないのに関係があるの?」
「ああ、実はな」
エヴィアも隠せと言っていたわけではないし、今夜にでもエヴィアが段取りをしてくれている話をスエラにする予定だ。
秘書であるケイリィさんにも把握してもらっていた方が都合のいい話でもある。
なので、昨夜エヴィアとした話をケイリィさんにも話すと。
「なるほどねぇ」
「驚かないんだな。まだ生まれてもいない子供にも婚約の申し込みだぞ?」
彼女は、どこか納得の色を見せるように頷くだけで特段驚くような様子は見せなかった。
その反応に逆に驚くことになり。
「そういった話は良く聞くわよ。下世話な話で言えば、御家存続のために子供ができたらって話を百年越しでやってる貴族も珍しくはないんだから」
「受注生産の限定商品じゃないんだぞ」
「似たような感覚よ」
そして改めて異世界の風習だなと、苦笑するほかない。
「それでエヴィア様はあなたに愛妻家と親バカを演じろと言うわけね?」
「演じるって言うのは違うな、実際スエラたちのことは愛しているし、ユキエラたちのことも愛しているぞ?」
「素面でそれが言えるって、むしろそのままでいいんじゃない?決め顔みたいに妙に表情も凛々しくなってるし」
その風習に俺も染まりつつある。
日本人は、愛を囁くという行為にめっぽう苦手とする。
言葉で伝えず、気持ちで察せ。
雅とか、趣きとか言い方は色々とあるけど、あけすけな言葉を下品とするような風潮がある。
それは近年では変わりつつあるけど、それでも根強く残っているのも事実。
海外では愛を囁かなくなったら倦怠期なんて言葉があるくらいだ。
見習う所は見習うべきだろう。
「そうか?この机に家族写真でも設置して、スマホの待ち受け変えたところなんだが」
俺が考えていた愛妻家と親バカの第一歩はスマホと机の上の家族写真。
「まぁ、それもやっておいて損もないわね。言葉に関しては続けて言い続けないと効果はないわね。それも身内だけではなく外に喧伝するように伝えないと効果はないわよ。噂って言うのは大事よ。他者の趣味趣向を探るのに、いきなり当人に聞く人間はいないでしょ?他者に確認するのが一番やりやすいの。ただ、あなたのように愛妻家とか親バカを堂々と自称する人は意外と少ないのだけどね」
「そうなのか?」
「そうよ」
「意外だな」
堂々とスマホの待ち受けをこの前撮った子供たちを中心に俺たちが並んだリビングでの写真をケイリィさんに見せたらごちそうさまと苦笑されてしまった。
そして話はそのままエヴィアに言われたことに対しての行動指針に戻る。
「愛妻家と親バカって言うのは男にとっては新しい女性は受け入れませんてアピールしているようなものだって言ってたわよ」
「?それのどこがまずいんだ?別に問題ないと思うんだが」
スエラに、メモリア、ヒミクにエヴィア。
種類は違うが、誰もが美人で人格者。
その四人と関係を結び、そして一人は出産、さらには近いうちには挙式をあげる予定もある。
これ以上の何かを求めるのは罰当たりというものではないか。
「あなたは満足しているかもしれないけどね。他の男どもは違うのよ。子孫繁栄って大義名分があるんだから権力者の下の欲望は底なしよ。私が知るなかで女を囲っている貴族では百人超えているのなんてざらよ。一夜限りの関係を数えたらきりがないんじゃないかしら?」
「百!?嘘だろ」
「嘘なんて言わないわよ。まぁ。そういう家系って跡継ぎ問題で修羅場になるのが相場だけどね」
そんな俺は謙虚な部類に入るらしい。
ハーレム作っているのに謙虚。
どんなパワーワードだって言うんだ。
「だから、愛は女性に対しては囁くけど、堂々と公言する人は少ないの」
「なるほどな、まぁ。俺はこれ以上いらないから別にいいんだけどな」
「そうともいかないわよ」
「?どういうことだ?」
ただ、ケイリィさんのあげたデメリットは俺にとっては大した問題ではない。
むしろ、貴族から愛人にどうだと勧められる機会が減る分、余計なことを考えなくていい。
安心要素が増していいじゃないかと思っていたがケイリィさんは違うようだ。
「愛妻家、そして親バカ、男どもはそう公言することでモテないって思うかもしれないけど、それは一側面でしかないのよ」
「?別の見方があるってことか?」
「ええ、確かに自分の妻や子供を大事にする男性って言うのは女から見てもその関係に割って入らないといけないって言うデメリットがあるから敬遠しちゃう面もあるけど、それはあくまで常識の問題」
「まぁ、そうだな。浮気とか不倫とかよく聞くが、良くはないわな」
ケイリィさんのいい口だと、愛妻家と親バカにもモテる要素があると言っているような口ぶりだ。
だけど、俺の想像だとその関係は所謂、禁断の関係。
ドラマとかゴシップ雑誌でよく見かける関係だ。
する気はないし、今の立場になってそういう関係を求めてくる輩はロクなやつじゃないと思っている節がある。
むしろ俺にとってはそういう関係を求めてくる女性は警戒対象、ハニートラップ要員だと思っている。
「違うわよ。あなた女心わかってないわね」
「その分野に関しては鋭意勉強中でございまして」
「はいはい、あなたの人生も長いんだからしっかり勉強しなさい」
だけど、俺の着眼点は違うようだ。
手を振り、そういう話じゃないと否定するケイリィさん。
ではどういう話かと仕事の手をいったん止めて、視線をケイリィさんに向けると、彼女もチェックボードに向けていた視線をこっちに向けてくる。
「いい?愛妻家で親バカ、それってすなわち身内に入れてくれたらしっかりと愛情を母子ともに注いでくれるってことでしょ?」
「まぁ、当然だな」
今だって訓練や仕事といった必要なことを除けば出来るだけ家族サービスに時間を当てている。
俺に趣味がないかと聞かれれば、あるにはあるけど、どちらかといえばスエラたちと一緒にいるのが楽しいと思っている節もある。
体力が増えてくれているおかげで、休みの日寝て過ごすという機会もなくなった。
魔力万歳と諸手を上げて喜んでいるくらいだ。
「その当然を求める女性もいるってこと、そういう女性からしたらあなたはかなり優良物件なのよ?例え政略結婚でも、結婚した後大事にしてくれる。生まれた子供にもそれ相応の地位を与えてくれる。そんなことを考えない女性がいないとでも思ってるの?」
「……そっちか」
「そっちよ」
まったくの盲点だった。
「だけど、それで俺に関係を迫ってくるのは……」
「馬鹿ね、そういう時の女性ってあなたよりも先にスエラとかエヴィア様に取り入るわよ。メモリアさんって手もあるわね。日本のことわざだったけ?ほら将を射るには……」
「馬を射よ?」
「そうそれ、はっきり言っていきなり女性をあなたのもとに連れていくよりも、同じ女性を納得させて、取り入った方が確率は高いの。男なんて、自分の妻が許可出したら後ろめたさが無くなってそれならって思うでしょ?エヴィア様がスエラを鍛えるって言っているのはその面もあると思うわよ」
「女って怖ええ」
「まぁ、そういったケースならよほど悪辣な女じゃない限り受け入れても変なことにはならないでしょうね。ただ、女の器量に甘えるようじゃあなたも見限られるから気をつけなさい」
「肝に銘じておきます」
女性のこういったアドバイスは貴重だ。
男にはない視点。
そして盲点を埋めてくれる。
「これからそういった機会が増えるのか?」
「増えるわね、あなたはうちの将軍なのよ?そんな将軍が愛妻家宣言。スエラの苦労が増えるわね……」
「……今度ケーキでも買っていこうかな」
今でも俺の知らない部分で苦労を掛けている気がするから、慰労も兼ねて前に買ったケーキでも予約しようかなとスマホを取り出す。
「それと一緒にいる時間も増やしなさい。物で釣ってそれで終わりなんて安易なご機嫌取りは少ないに越したことはないのよ」
それを目ざとく見つけたケイリィさんの素早い指の動きで、ケーキの個数が増えたがまぁ仕方なし。
「はい」
女性の心は将軍位を維持するよりも難しいのではと思う。
権力者の女性関係に関する裏事情を知りつつも、結局俺の行動は、周囲に愛妻家であり親バカであることをアピールすることになったのであった。
今日の一言
恥ずかしいという感情を抑えてでもやらないといけないことはある。
毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。
面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。
現在、もう1作品
パンドラ・パンデミック・パニック パンドラの箱は再び開かれたけど秘密基地とかでいろいろやって対抗してます!!
を連載中です!!そちらの方も是非ともよろしくお願いいたします!!




