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509 今後の予定を決める際にすり合わせは大事

 


「今後の予定って……ああ、そうだよな。この子どこに連れて行けばいいかもわからないし」


 エヴィアに言われて、戦いに集中しすぎてすっかり頭から抜け落ちていた。

 その態度が出てしまった所為でポンと軽く頭を叩かれ。


「忘れていたな?」


ジト目でエヴィアに叱られてしまった。


「あははははは、すまん」

「ガハハハハハ!!!気持ちはわかるぞ次郎!!楽しいことの後はすっきりしてもう終わったと思ってしまうからな!!」

「僕もそこの気持ちは同意できる」

「その後いっつもシスターに怒られてるよね」


 フェリとの戦いでやり切った感がありすぎて最早仕事はこれで終わりだと思っていた。


 だけど、本当の目的はフェリを連れて帰ること。

 そのための場所に関してはエヴィアが手配してくれると聞いている。


「やっぱりあのデカイ魔石が用意されているのか?」


 教官、そして戦闘狂娘サムルと同じ感覚なのかと前者はともかく後者と一緒だったことにショックを受けながら話を変える。


 琥珀の中に古代の蚊が埋まっている物がたまに発見される。

 教官のダンジョンの中でみた神獣はその体を巨大な魔石に包まれて眠っているように見えた。


「何言ってるのさ」


 どうやって魔石の中に神獣を封印するか知らない俺は、ごく当たり前のことを聞いたつもりだった。

 だけど、俺の質問は見当違いのようで、サムルが呆れたように俺のことを鼻で笑う。


 そこにちょっとイラっとしたが、我慢する。

 ここで突っかかって話が進まない方が問題がある。


 大人の対応、大人の対応をしろと心に言い聞かせて、そしてサムルに聞かず。


 問いかけたエヴィアの解答を待つ。


「サムルの言う通り、あの巨大な魔石を用意しているわけではない。お前がライドウのダンジョン内で見たダンジョンコア、あれは神獣の持つ固有能力だ」

「固有能力って言うと、自分で魔石を纏えるってことか?」

「そうだ。神獣は神の直系と言って良いほど高濃度の魔力を持っている。故にその高密度の魔力を身に纏い、それを固体化しダンジョンコアとなる。自分の魔力であれば自由に解除出来て、いざという時に迎撃態勢を取れると言うわけだ」

「そういうこと!!ま!知ってて常識だけどね」

「俺は知らなかったがな!!」

「う、ライドウさんの場合は特殊と言うか、なんというか」

「もうサムル、そんな喧嘩腰だからあとでシスターにお説教されるんだよ。もう黙っていようよう」


 そう言うことかと、サムルの後の未来が確定したことを脇目にダンジョンコアの作り方を知った俺は、そっとフェリの方を見る。


 見た目は完全に巨大なトイプードル。

 だけど戦闘能力は折り紙付きで、これでまだ幼生体。


 成体になったらどれ程の戦闘能力を持つ事になるのか……怖いような楽しみなようなと思いつつ。


「だけど、俺のダンジョンってあれだろ?東京と大陸を繋げるための浮島計画。まだ俺のダンジョンってできてないと思うのだが……」


 ダンジョンの作り方は国家機密の中でも最高位を誇る情報。

 なりたての将軍である俺には情報はまだ公開されていない。


 そもそもダンジョンを作る技術を保有しているのは神殿関係者。

 整備運用はある程度軍の方でできても、要のダンジョンコアを作っている神殿が情報を握っているのでそこの部分を知らないのは当然。


「それを含めてのこの後の予定だ。まずはお前と神獣の顔合わせが必要なのだ。神獣とお前が契約しなければ話にならん」

「契約?精霊契約みたいなやつか?」

「そんなものだ。神獣の魔力は無尽蔵だが、その魔力の使い方を決めるのはそのダンジョンの主であるお前になる。どのような関係を結ぶかはお前次第だがな」

「参考がてら、教官とエヴィアはどのような関係で?」

「喧嘩友達だな!!」

「主従以外あると思うか?」


 そして神獣との契約を持ち出され、どのような関係でもいいと言われれば聞きたくなるのが人の性。

 どちらもらしいと言えばらしい。

 イメージの型通りの言葉が返ってきた。


「ああ、なるほど」


 すとんと心の中に落ちてくる。

 むしろその関係以外であったら意外だったと言う他ない。


 まぁ、教官の場合喧嘩友達というよりは、バトルジャンキー同士というべきか、エヴィアの場合はどっちが主でどっちが従者かどうか聞く必要もない。


「お前はどうする?戦いの方は一応お前の方が勝ったと言える。ある程度の有利な契約は結べると思うぞ?」

「そうだなぁ」


 神殿関係者であるサムルとヤムルがここにいると言うことは、このまま契約まで一緒にやると言うことだろう。


 そっと立ち上がり、フェリの顔を見上げると、そっちもどうするつもりなのかと目線を合わせてくる。


「お前、綺麗な目をしてるんだな。さっきまで俺を噛み砕こうと目をぎらつかせてるから気づかなかったわ」

『ワフ』


 その蒼い瞳に素直な言葉を送ったらそうだろと嬉しそうに笑ったのがわかる。


 ふむと、そっとその下あごに手を伸ばしてわしゃわしゃと掻いてやると。


『くーん』


 気持ちよさげな声をあげる。


 ああ、何と言うか普通にどういう関係なればいいか分かった気がした。


「お前、子供好きか?」

『?』


 俺の中で答えが出て、その意志を伝えるためにまずこの質問から始める。

 何を言っているのだとフェリが片目を俺の方に向けてじっと俺を見る。


「俺にはな、家族がいっぱいいるんだ。そこにいるエヴィアもそうだし、他にもスエラって言うダークエルフにメモリアって言う吸血鬼、他にもヒミクっていう堕天使もいる」


 フェリに言い聞かせるように、一緒にいる女性の名前を列挙して。


「そしてスエラと俺の大事な子供のユキエラとサチエラもいる」


 最後に双子の娘のことを言うと。


「俺はな純粋な大陸出身者じゃない外様だ。だけど、できるだけ魔王軍の皆とはいい関係でやりたい」


 トイプードル相手に真剣に語る三十路の男。

 絵面にしたらかなり面白いことになっていそうだが、こいつの知能は人間並みだし、下手な大人よりも賢い。


 だからこそ相手を見下すのではなく、対等に自分の事情を教える。


「家族を守るためには、それがいいだろうと思っている。喧嘩腰に突っ張っても周りに敵を作るだけだしな。それは相応の我慢も必要だし、努力も必要だと思っている」


 実際ここまでの道のりはそんな感じだったと思う。

 色々なトラブルに巻き込まれながらも、突き進んでいたら気づけば将軍位だ。


「だけど、何でもかんでも受容するつもりはない。むかつく奴はぶっ飛ばすし、舐めてきた奴は相応に仕返しもする」


 我武者羅に出来る限りのことはしてきたつもりだけど、それでも敵意は向けられてきた、そのためにはそれなりに反撃もしたし、仕返しもした。


 俺の道のりは決して平坦な道のりではなかった。


 俺の言葉に耳を傾けるフェリは、そのまま話せと言わんばかりにジッとこっちを見る。


「それもこれも、俺が決めたことだし、やると一度決めたのなら男として完遂するのが当然だろうさ」


 下あごから手を放し、代わりに口元を手で撫でてやる。

 さっきまで俺の斬撃を防いでいたとは思えないほど柔らかい毛が俺の掌越しに伝わる。


「結局さ、そこで気づくのさ。俺のやれることって言うのは限られているって」


 俺の力など、この世界で言えばまだまだちっぽけだ。

 他の人たちよりも魔力があって、他の人よりも戦える。

 仕事も人並み以上にこなせるけど、そんな俺は個人でしかない。


 一人でできることは限られる。

 一人で強くなるには限界がある。


「大事な家族、スエラ、メモリア、エヴィア、ヒミク、ユキエラ、サチエラ。他にも大勢の家族ができた」


 それは海堂や南、北宮に勝、アメリア、ケイリィさんといった仕事の仲間であり、そしてムイルさんやマイットさんスミラスタさん、グレイさんやミルルさんといったスエラやメモリアの家族もそうだ。


 俺は身内に甘いのかもしれない。

 俺の周りを大事にしたい。


「俺がお前に願うのは、お前もその輪の中に入ってほしい。それだけだ」


 フェリとの関係と聞いて真っ先に思いついたのが家族になる。

 それはもしかしたら魔王軍としては歪かもしれない。


 神獣と家族になる。

 そんな発想思いつかないかもしれない。


 だけど、主従や喧嘩友達といった関係には俺はなれないと思った。


 それを相手に言ってどう思うか。


『……』


 じっと俺を見るフェリは、しばらくたつと、そっと俺から離れる。


 ダメかと思った。


 だけどすぐにその体が発光し、さっきまで巨大だった体がみるみる縮んでいく。


 そしてそこには俺が知っているサイズのトイプードルがいて。


 そのトイプードルことフェリが、テクテクと歩いてくると。


「ワフ」


 俺の前でお座りした。


「家族になってくれるか?」

「わふ!」


 その小さくなった体を持ち上げてみる。

 いくらステータスが上がったからと言って、流石に十メートル越えの巨体を軽々と持ち上げられるわけがない。


 その肉体のどこに重量を隠したのかというくらいに軽々とフェリは持ち上がった。


 そして抱き上げると、満足気に頬をこすりつけてくるフェリの下あごを撫でてやると嬉し気に鳴く。


「どうやら無事に契約できそうだな。サムル」

「わかったよ、まぁ、変な関係じゃないだけまだいいか」


 神獣と契約する際には一定の関係が必要らしい。

 俺がフェリと家族になることを選んだことは、サムルにとっては合格点だったらしく、渋々といった様子は隠せてないが、契約の準備に入ってくれるらしい。


「それじゃフェリを一旦置いて魔法陣に入って」


 口は悪いが仕事は早い。


 手慣れた手つきで床に魔法陣を書き上げ、そしてサムルとヤムルがついになる形で外周の円の部分に立つと、俺とフェリに中央に立つように指示を出す。


 それに従って、俺はフェリを地面に置くと、一緒に魔法陣の中に入っていく。


 そして向かい合った。


「いくよ、ヤムル」

「うん、サムル」


 そのタイミングで魔法陣が発動する。


「我が主神に奉り希う、我が名はサムルリアーラ」

「我が名はヤムルミーア」


 淡い青色が混じった白金の光が魔法陣を走り、そして満ちた瞬間に小雪のような光が魔法陣からあふれ出す。


「選ばれし者の名は田中次郎、彼のものに神獣との契約を許したまえ」

「許されるのならば、神獣との関係に祝福を与えたまえ」


 その光は徐々に大きくなり。

 そして一瞬、大きな光に包まれる。


『汝、神獣との関係に何を望む』


 一瞬とも永遠とも取れる時間の領域。

 そこに囚われた時、聞こえるのは、声は違えど、一度聞いたことのある神の声。


 嘘偽りを許さぬ荘厳なる言葉。


「家族としての絆を」

『その言葉に偽りはないな?』

「ない」


 故にまっすぐに目を逸らさず、声の方向を向いて答える。


『汝の契約を認めよう。汝、その絆をもってして神獣との契約を成す』


 その言葉を聞き、神の声により俺はヴァルスさんと繋がったときとは別の感覚で誰かと繋がったように感じる。


『戒めよ。契約が終わる時、それすなわち汝の心が変わる時だけにあらず』


 そして最後に警告を残し神は立ち去っていった。


 その刹那とも取れる瞬間が終わり、そして元の広い空間に戻ってきた。


「わふ!」


 そして目の前のトイプードルにしか見えなくなった神獣との契約を成したことを、繋がりとして感じるのであった。


「……よろしくな」

「わん!」


 フェンリルというのは狼だったとイメージしていたが、見た目が随分とかわいらしくなった。

 これもまたよしなのかなと笑いながらそっと膝をついて、このかわいらしくなってしまった神獣の頭を撫でるのであった。



 今日の一言

 スケジュール調整は重要である。














毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。

面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。


現在、もう1作品

パンドラ・パンデミック・パニック パンドラの箱は再び開かれたけど秘密基地とかでいろいろやって対抗してます!!

を連載中です!!そちらの方も是非ともよろしくお願いいたします!!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 次郎らしいねー いいじゃん。 家族みんなに言わないとね 家族増えましたって。
[一言] こうして毎朝ダンジョンコアを散歩させる将軍が誕生したのであった
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