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504 名前を覚えられ方は慎重に。

新年あけましておめでとうございます。

今年も全力で執筆していきますので、よろしくお願いいたします!!

 パーティーではごたごたに巻き込まれ、散々な結末になるかもしれないと一瞬焦ったが、どうにか終わらすことができた翌日。


「アハハハハ!!昨日は飲んだな次郎!!」


 俺は別の用事で魔王城に残っていた。


 ここは魔王城の中にある空間でも片手で数えられるほどの特別な空間らしい。


 陸上競技場をもすっぽりと収納できるほどの地下室内空間。

 そこで俺は教官と、エヴィアの三人でこの場に立つ。


 昨日はさんざん酒を飲めたからか上機嫌で俺の肩を叩く教官。


 一般人がこの肩たたきを受けたら脱臼じゃすまないだろうなと、思える位の衝撃が肩に伝わりつつも、それを平気な顔で耐えられる俺の肉体って何だろうな。


「教官ほどではないですよ」


 昨晩のパーティーは、結果的に見れば成功と言えるだろうか?

 最終的に会場に並べられた樽の数と、それぞれの部下に連れられて酔いつぶれながら帰っていく参加者たち。


 せめてもの救いは、女性の方には被害が出なかったことと、最後の方は大騒ぎできたので悪い方向の空気は払しょくできたこと。


 諸悪の根源である、モンドメント伯爵はきっちりと酔い潰しておいたので、きっと今日は二日酔いでダウンしているだろうな。


「場所が場所なら、アルハラ待ったなしだったな」

「ああ?何言ってんだ次郎」

「いえ、こっちの話です」


 モンドメント伯爵によってぶち壊された空気を回復させる手段を、俺はあの方法しか思いつかなかった。

 言わば、緊急事態を回避するための、危急的手段という奴だ。


 こっちの世界にアルハラ相談所とかあったら終わりだなと、思いつつ、ご機嫌な教官の大きな手によって与えられているダメージを耐える。


 浴びるように酒を飲むこと自体は、教官たちと一緒に酒を飲んでいれば自然と慣れるもの。

 肝臓を頑丈に生んでくれたお袋には感謝しないとな。


「……まさか、あんなお披露目会になるとは思いもしなかったがな」


 しかし、俺的にはOKだと思っていても、エヴィア的にはNG判定だったようだ。

 不満を隠しもせず、腕を組み、いつものレディーススーツに身を包み、いつもの三割増しで睨みつけている。


「おうおう、不機嫌そうだなエヴィア」

「不機嫌にもなる、私の婚約者がお前並の酒飲みだと周知されたようなものだ。次郎に絡めば酔い潰されると世間で噂が広まっていると部下から聞いた私の気持ちになれ」


 まぁ、最初の厳粛で、俺の中でのファンタジー世界の貴族のパーティーとはこんな感じだと言わんばかりのイメージ通りのパーティーが、気づけば頭にネクタイを巻いた親父たちが酔いつぶれている場末の居酒屋みたいに変わってしまったのだ。


 エヴィアが不機嫌になるのも頷ける。


 結果論になるが、最終的にはそんな居酒屋の宴会に社長や他の将軍たちも参加して、車座になって酒を飲み交し、揃って楽しんでいたから不問にされたようなものだが、本来であればエヴィアの反応こそ正しい。


 モンドメント伯爵によって、空気がぶち壊されたからこそ情緒酌量の余地があると許されている。

 本来だったらエヴィアの機嫌はもっと悪くなっていた。


 酔いながらも、しっかりと待機していた楽団の演奏に合わせて一緒に踊ったのが良かったのだろう。

 そこら辺はしっかりと約束したから、ちょっと雰囲気の違うダンスになってしまったが、及第点はもらえた。


 もし、その約束すら忘れてしまってたら、この程度の不機嫌さではなかっただろう。


 さて、そんな感じで俺の将軍としてのお披露目は、ある意味で失敗、ある意味で成功した。


 そしてここからは俺の将軍として必要なものを受け取るということになる。


「そいつは悪かったな!」

「悪びれるつもりがないなら謝るな」

「なんだよ、やけにつっかかるな。ストレスたまってるなら一戦やるか?付き合うぜ?」

「ほう、その軽口を矯正するのも悪くはない。いつまでも小娘扱いされるのもいい加減鬱陶しく思っていたんだ、その目立つ角叩き切ってやる」


 これだけ広い空間に何がやってくるか、それを知る身としてはこうやって軽口を叩ける教官とエヴィアは凄いと思う。


 俺はと言えば、酒が完全に抜けきる程度には緊張して仕方がない。

 いや、緊張すると言うよりは、楽しみでワクワクしていると言った方が正確か。


「はいはい、教官もエヴィアもそこまでにしてくれ。ここで戦い始めたら間違いなく日が暮れる」


 あと一歩でも踏み込めば戦い始めそうな二人の間に入り込み、仲裁する。

 本気で戦う気なら、そんな前口上無しにに戦い始める二人であるがゆえに、こんな感じに止めればあっさりと二人は引いてくれる。


「教官やエヴィアもここで受け取ったんですよね?」


 ついでと言わんばかりに話を振ってみれば、二人の肩の力は抜け、戦闘の空気は薄れる。


「俺の時は部下も大勢連れてきて、そりゃ盛大に出迎えてやったぜ?」

「私は魔王様と一緒だったから、護衛もそれなりにいたな。こいつの時と違って厳粛な雰囲気だったが」

「あ?喧嘩売ってんのか?」

「さてな、そう聞こえたのなら買えばいいじゃないか」

「はいはい、魔王城が壊れるから止めてくださいね」


 長年の付き合いのある軽いじゃれ合いの間に入るのも、慣れたもので、人によっては死を覚悟するほどらしいけど、生死を賭けるかどうかの線引きは二人ともしているので致命的な間違いさえしなければ問題はない。


「ったく、となると俺は静かな部類ってやつですか。こんな広い空間で俺と教官、そしてエヴィアだけで出迎えってわけですから」


 戦力的にはとんでもないけど、逆にそれがこれからの出来事に不安を与える。

いざとなれば背中に背負った鉱樹を使う羽目になるかもなぁと思いつつ、もうすぐ約束の時間。


「さてな、それはどうかな」

「ああ、向こう側が人数は最小限に抑えろと言う指示、それがどうも気になるな」


 その時間が刻一刻と迫るにつれて、教官はニヤニヤと笑い始め、エヴィアは表情を引き締め始める。


 ああ、そう言うことか。


 最早慣れた。

 この二人が言葉を少なくし、この後に何かが起きると匂わせれば間違いなく何かが起きるということ。


 その勘が外れることはまずない。


「二人の反応から察するに厄介事、ってところですかね?」


 またかと、最早溜息すら出てこない。

 社長の楽しみにしてくれと言う言葉と、教官が見せてくれたあの光景。

 その二つが重なった故に楽しみにしていたのだが、どうやら社長の楽しみにしてくれと言う意味を履き違えていたようだ。


「まぁな。なにせ神殿が絡んでいるからな、次郎、お前、あそこの面々が関わってて何も起こらずに済むと思うか?」


 そして、教官に言われて、教官に嬉々として勝負を挑むような身内を抱え込むロリコンの神がまとめる神殿。


 これから会うのはその関係者と聞いて。


「いいえ全く」


 考えてみたら安心できる要素が全くなかった。


「ダンジョンコアを受け取るって聞いて、浮かれてましたけど、もっと疑うべきでした」

「今更だな。神殿絡みと聞いて、冷静に考えればわかるだろうに」


 俺がここで受け取るのは、将軍として保有を許されるダンジョンコア。

 あの時、教官が見せてくれたダンジョンの心臓部。


 それを貸与とはいえ、所有することができ、これから俺がダンジョンを作る側に回るのだと言う事実に浮かれていた。


 この言葉を聞くまではと今では冒頭にその文字が付属された。

 さっきまでのウキウキ気分は完全に消え去り、エヴィアに冷静に考えろと言われて厄介事はどこへでも出張するものだと再度認識される。


「ここまで来ると、お約束の展開でダンジョンコアの中の神獣と戦うまでは予想できる」

「甘いな、俺は神獣を得たければ俺を納得させろと別の誰かが戦うことを予想するぜ」

「ふむ、では私は神獣の親と戦うと予想するか」


 そして、そこから繰り広げられるのはバトル展開だと疑っていないあたり、俺たちの日常に戦うことが溶け込んでいることがよくわかる。


 そして時間だ。

 巨大な空間に、複雑な魔法陣が展開され、何か巨大なものが転移してくる。


 その魔力は膨大で、あの時教官のダンジョンで感じ取った同質同量の魔力量が肌越しに感じ取られる。


 いよいよ来たか。


 そして転移してくる姿が顕現すると。


「は?」

「これは」

「……予想外だな」



 いきなり襲われることも想定していた俺たち。

 咄嗟に避けることも考えていたが、現れた巨大なそれを見て俺は思わず呆け、教官はガリガリと頭を掻き、エヴィアは予想が外れたとこぼす。


「あ、おーい!!人王さーん。神獣届けに来たよー!!」

「サムル、そんな気安く話しちゃだめだよ。将軍様なんだよ!!」


 そして件の神獣を連れてきたのは顔見知りの神殿関係者のサムルとヤムル。

 相変わらずの幼い容姿で、登場しているが、前回と違いしっかりとした礼服を着こなしているのが唯一の違いか。


「お、おう。お疲れ?」


 そんな彼女たちの登場だったけど、俺は本当にこの存在が神獣なのかとショックを受けていて頭の再起動に時間がかかってしまい返答が遅れた。


「何で疑問形なのさ」


 その対応が不満なのか、腰に両手を当ててフンスと頬を膨らませるサムル。


「サムル!ダメだよ!シスターにも礼儀を忘れずにって言われてたじゃん」

「だって!苦労してこの子連れてきたのに気のない返事をされたら気分悪いじゃん!!」


 いや、言われるのも理解するし、申し訳なくも思うけど……


「いや、悪い。神獣の姿に驚いてな」

「ふふーん、なるほど、この子の姿に驚いて声も出なかったわけだ!!それなら仕方ないね!!」


 素直な感想を伝えれば、小さな体を出来るだけ大きく見せるように胸を張り、許してやろうと上から目線でサムルが俺に言い放ち、アワアワと隣でヤムルが慌てる。


 仮にも俺将軍なんだけどな。

 国の重鎮相手に、こんな礼儀知らずでいいのかと思いつつ、もしかして俺舐められている?


「いや、まぁ、確かに驚いた、な」

「そうだろ!そうだろ!!何せ私が調整を施した子だからね!!自信作だよ!!」


 ……いや、この話しぶりからしたら舐められていると言うことはまずないはず。


「……」


 となると神獣の実力は本物で、俺はかなり期待されているということ。

 こいつが、これから俺が一緒にダンジョンを作るにあたっての相棒になるということ。


 その現実と向き合うために俺は、そっと目が合わないように気を付けて、わざと逸らしていた神獣を視界に納める。


 白い毛並みは柔らかさを感じさせるほどのふさふさ。

 つぶらで優し気な目はまっすぐに俺を見つめ、可愛げに首をかしげる。


 その幼さを感じさせるあどけなさは、この神獣がまだ幼体であることを示しているように見える。


 そして、俺はこの体の大きさを除けば、この姿に見覚えがある。


 トイプードルじゃないか、それも子犬の。


 体の大きさは全長十メートルを超えているが、どう見てもトイプードル。


 大人しそうに座り、ジッと俺を見つめてくる。

 優しそうな子で良かったと安心すべきか、それともダンジョンを作るにあたって頼りなさそうだと不安になればいいのか。


「まさか、神殿がここまで思い切ったことをするとはな」


 そんな俺の心情を捨て置き、感心したように教官が頷く。


「ああ、神殿も次郎には期待しているということか」


 そしてエヴィアも教官に賛同するように頷いている。

 え?

 俺が知らないだけで、実はすごいのかこのトイプードル。


 俺以外の全員が感心していると言う事実に、俺も流石にこの神獣がすごいのかもと思い始める。


「当然だよ!!この子は神殿の秘蔵っ子、フェンリルの幼体なんだからね!!」


 ああ、なるほど、フェンリル、フェンリルね。


 ……


「フェンリル!?」


 まさかのトイプードルがフェンリルと聞いて俺は思わず絶叫するのであった。



 今日の一言

 有名になる過程は慎重に





毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。

面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。


現在、もう1作品

パンドラ・パンデミック・パニック パンドラの箱は再び開かれたけど秘密基地とかでいろいろやって対抗してます!!

を連載中です!!そちらの方も是非ともよろしくお願いいたします!!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] えーと、お世話としてトリミングとかしなくちゃいけないんだろうか? するっとわかったってことは、根源で見分けられるんだろう。
[一言] あけましておめでとうございます 今年も楽しませて貰います トイプードルがフェンリルの幼体とか分かるわけないやろ!!
[一言] あけましておめでとうございます。 新年さっそくの更新、お待ちしていました。 今年もどんな話しが読めるのか、とても楽しみです!
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