表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
510/800

501 内心を読み解くコツがあれば是非とも教えて欲しい

 腹の探り合い。

 相手の意図をいかにして相手に気づかれないようにして把握すること。

 これ自体は、日常にもありふれていたりする。


 最たる例を挙げるのなら、好意に関してがわかりやすいだろうか。

 自分が好意を寄せている異性、男女問わず、相手の気持ちが気になって、遠回しに聞いたり人づてに確認したりと相手の気持ちを確認しようとしている。


 大人になれば、営業職が行う交渉。

 自社としてはこの値段でいって利益を確保したい。

 受け手の会社からしたら少しでも値段を抑えて品を確保したい。

 互いに知らない情報を隠し隠され、暴き暴かれを繰り返す。


 知りたいけど、知りたいと思っていることを気づかれるのがマズイと思うからこそ、パズルのピースを集めるように遠回しで情報を収集し、本命の情報を探っていないと思わせる行為。


 さて、なぜ長々と俺が探り合いに関して話しているかと言うと。


「人王様、お初にお目にかかります。私は、エッハス領の領主でございまして」


 視線が集まること集まること、そしてこの挨拶の会話に聞き耳を立てている輩が後を絶たず、周囲は熾烈な聞き耳に絶好なポジショニング争いが会話しながら執り行われている。


 目の前に現れた多分、獅子の獣人の初老の男性の会話を忘れない程度に頭の中にメモして、名前と顔を一致させ、何が言いたいかを要約しながら記憶容量を圧迫しないように焼き付けつつ、周囲にも注意しているとそれが手に取るようにわかる。


 今だ俺の人となりがわからない現状、挨拶にはいかないといけないが、どういう人物か見えていないので取り入るべきか利用すべきか、距離を取るかで迷っている様子。


 満員電車の押し合いと比べればスマートかもしれないが、あいさつに乗じてそっと場所を入れ変わりながら俺の方に耳を傾けている姿や動きは洗練され、そこからこの貴族社会で生き残ってきた匠の技を感じさせる。


 俺はと言えば、気配も魔力も平静を保って表情を取り繕うので忙しい。


 ちらっと瞳すら動かさず、視界の端に見えたキオ教官があいさつに来ていた貴族たちを適当にあしらいながら酒を飲んでいる姿が正直羨ましく思える。


 この貴族の挨拶、前半に重鎮が来ることが普通に思えるが、今回の場合は違うようだ。


『ふむ、大方は様子見と言ったところか』


 念話でエヴィアが俺に教えてくれる。


 現代に例えるのなら、今まであいさつに来てくれている貴族は中小企業の社長と言ったポジション。


 大企業クラスの社長たちは、この中小企業の社長たちで探りを入れていると言ったところ。


『社長に先に挨拶をしていると言う名目で時間稼ぎか?』

『そう言うことだろうな、魔王様の周囲に集まっている輩たちがこの国でもトップの権力者たちだ』


 将軍と言う立場についた俺よりも上の立場の魔王である社長に挨拶に行くのは当然と言う流れだが、今回は俺の就任記念祝賀会と名をうっているパーティーだ。


『んー警戒してる?』


 なのに国を運営している重鎮たちは遠巻きで見ているだけで、こっちに来る気配はない。


『いや、どちらかと言えば侮っていると言った方が正確か。自分たちの方が立場が上なのだから挨拶しに来いとな』

『うわ、もうマウントポジション争い始まってるのかぁ』


 そしてその理由を正確に見抜いたエヴィアは、表面上は俺の良き妻を演じている。


 遠巻きで、ノーディス家の〝冷〟嬢についに春がとこぼしている貴族、俺にも聞こえていると言うことはエヴィアにも聞こえていると思うから、身辺整理始めた方がいいかもしれんぞと心の中で注意喚起を飛ばし。


『さてどうしたものか』


 目の前で挨拶している貴族の領地の特産は小麦とワインっと、覚えることが多いが、覚えられないわけじゃない。


 今後の行動的に、このパーティー中に挨拶をしないで別れるという選択肢はない。

 だけどこのままいくと下手をすれば重鎮たちとあいさつができず、重鎮との不仲説を周囲から広げられそうな流れ。


 そうなれば相手の思うつぼ、これ幸いと俺の失脚を狙ってくるだろうな。


『……餌をばらまくか』


 新人いびりねぇ。

 相手の行動が見えてきたのなら、どうせならアッと言わせたいのが男心。


『ほう、もう少し様子を見ると思ったが、こちらから仕掛けるか?』


 エヴィアが俺へあいさつに来る貴族たちの牽制、スエラとメモリアがこのパーティーに参加した貴婦人たちの防壁、ヒミクが食事に関して警戒してくれているおかげでこっちから攻勢に出ること自体は可能。


 エヴィアもその行動に関して否とは言わない。

 むしろ、どうするのかと表情を変えずに、お手並み拝見と様子を見守る姿勢だ。


『……をしようと思うんだけど』


 だけど、これからやることにはエヴィアの協力が必要不可欠。

 そして多分だけどスエラとメモリアにも問い合わせが殺到する可能性がある。


 なので念話でその旨を添えて説明すれば。


『面白い、いいだろう。いつも上から目線のあいつらには私も苛立っていたところだ。魔王様には私から説明する。存分にやれ』

『こちらの対応はお任せください』

『ええ、大御所の方々は都合のいいことに様子見をしておりますから、その対応が間違いだということを教えましょう』


 うちの女性陣はノリノリで反撃ののろしをあげろと後押ししてくれる。


「む?何やら楽しそうだな」


 ヒミクだけは、周囲を警戒していた故にその純真な顔をして首をかしげていたが後で説明するから勘弁してくれ。


「つきましては、是非とも人王様には我が領地の小麦などを贔屓していただければ」

「ふむ、そうなると一方的にそちらが益を得るようですね。そういう話でしたらこちらも一つ提案が」


 タイミングよく相手をしていた貴族が商売の話に持っていってくれたので、これ幸いと話に乗る。

 そのためににこりと笑顔をつくると、ピリッとした空気が一瞬流れた。


 これから何をするのかと警戒心が強い貴族特有の気配の変化。

 俺がコネクションを作っている時にも感じた空気。


 さっきまで聞き手に回り、のらりくらりとあいさつを無難にこなしていた俺が動いたと言うだけでこの変化。


 さて、これから投下する爆弾に対してはどう対処するか。


「実は私が直轄する領地なのですが、私の生まれ故郷である地球と呼ばれる星の日本から少し離れた人工島なのですよ」

「ほう」


 話を振られ、一応興味深いと言う風に頷く貴族だが、内心どう思っているのか。

 人工島と言う単語も理解しているか怪しい。


「そこを中心に魔王軍とそちらの世界の交流の懸け橋を担うことが中心になりそうで、目玉と言う商品があればこちらとしては色々と交渉がやりやすいんですよ」


 あえて手札が少ないと晒しているように、振舞い、困ったように肩をすぼめて見せれば、大変そうですねと周囲の貴族も同情的な視線を送ってくる。


 ただその視線を額面通りには受け取らない。


 心の中では馬鹿めと思っているのがわかるくらいに、魔力が少し揺らいだ。


「ええ、困ったもので」


 なのでその揺らぎをもっと大きなものにしてやろう。


「鬼王殿や、巨人王殿、ああ機王殿にも協力していただく一大プロジェクトですからなかなかやることが多くて、困りものですよ」


 ここで大物がすでに参加を表明しているという事実を宣っておく。

 俺が将軍となり統括するのは、日本の首都東京から直線距離で三十キロほど離れた位置に建設する予定の人工島だ。


 接続水域内に人工島を作ることによって、日本の領地でないことをアピールしつつ管理のしやすい範囲に設置したことになる。


 海外との交流も控えていての日本政府の判断。

 アメリカからの圧力もあっただろうが、それをこの場で語ることはない。


 重要なのは、この国の重鎮たちがすでに参加を表明するほどの信用性があるプロジェクトの主軸に俺が居座って、主導していると言う事実。


「そ、それは何とも大きなお話ですな」

「ええ、魔王様からも是非にと言われたので、期待には沿えるように努力する所存です」


 この会場には、先ほど名をあげた将軍たちも同席している。


 そのうえ、ここまで注目が集まれば俺の声など聞こえない方がおかしい。

 周囲の貴族たちは、俺から一瞬視線を外し、大丈夫なのかと確認すれば、気にしたそぶりも見せずパーティーを楽しんでいる将軍たちの姿があるだけ。


 もし仮に俺の言葉に嘘偽りがあれば、この言葉を黙って聞いているほど他の将軍たちは甘くはない。


 国家プロジェクトとでも言っていいこの企画に嘘を並べ、あまつさえ国のトップである魔王の名も語った。


 将軍に就任しても吐いてはいけない嘘はある。

 その嘘を見咎められれば、即座に排斥されてもおかしくはない。


 だけど、待てども待てども、俺の語りを止めに入る様子はない。


 それはすなわち、異世界との交流の全権代理者として俺を認め、他の将軍たちも援助することを確約したという事実が今この場で流布されたということ。


「人王様!それでしたら是非とも我が領地のワインを」

「いえいえ、それよりも我が領地が誇る布などいかがですか」

「そんな物よりも、私が抱え込んでいる魔導士が作る魔道具などいかがでしょう」

「我が領地では鉱山をいくつか抱えておりましてな。そこから産出される宝石の数々は見事なもので」


 そんな美味しい餌がぶら下がって、あたかも困っていますと振舞えば、こうなることはわかり切っていた。


 次から次へと上げ連ねられる各地の特産品。

 少しでも市場に食い込もうとする営業者たちが売り込んでくるかの如く、さっきまで飄々と柳のように無難にすごそうとしていた人たちとは思えないくらいの熱意だ。


「いやはや、皆さんの熱意は非常にうれしい限りです」


 だが、それに食いつくにはまだ早い。

 釣り竿垂らした餌はまだまだ、獲られないように丁寧に揺らし、小魚ではなく大魚を狙う。


 わざとらしいと思われるくらいに、綺麗な笑みを浮かべる。


「しかし、ここまで多いとなると皆様の希望を全て聞くわけにもいかず、将軍になったばかりの私には婚約者の知見があったとしてもどなたと交流を結べばいいか判断できかねますな」


 そのわざとらしい動きだからこそ、道化のような笑みに磨きがかかり、より俺の真意を隠すものとなる。


 俺が何を求めているか、何をしてほしいか、それを探る情報が必要になる。


 背後ではそっと女性陣の方へ指示が出たのか、スエラたちに情報の裏付けを取ろうとしている貴婦人たちが集まろうとしている。


 スエラとメモリアはあらかじめ打ち合わせをしていたかのように冷静に対応している。

 そちらから情報が漏れることはない。


 そっとヒミクが差し出してきたワインを手に取り、すっと口の中に流し込む。

 その仕草すら注意を向けられるようになった折りに、垂らした糸に反応が帰ってくる。


『釣れたぞ』


 言葉にすればニヤリと言うべきか、エヴィアの楽し気な言葉に俺は意外と早かったなと感じつつ、そっと誰が釣れたかと思い待っていると、貴族たちが割れるように左右に移動し、堂々とした立ち振る舞いで俺の前に一人の男が立つ。


「どうも、お初にお目にかかります新たなる将軍人王よ。この度は将軍就任をお祝い申し上げます。私の名前はクセリュ、クセリュ・オル・バイジャン。陛下からは伯爵の地位を賜っております」


 初老と言うには若いが、若者と称するには年を感じさせる風貌の男性。

 こっちの世界の基準からしたら見た目通りの年齢ではないはず。


「お見知りおきを」


 そして老獪と言ってもいい、優し気な笑みは、先ほどまでの貴族たちの技が遊戯だと言わしめるほどに一切の感情を感じさせない。


 狐の獣人。


 狸が出てくると思ったら狐が来たかと冗談を内心で思いつつ。

 ここからが本番だと気合を入れなおすのであった。



 今日の一言

 相手の意図を読み解くことは難解だ。


毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。

面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。


現在、もう1作品

パンドラ・パンデミック・パニック パンドラの箱は再び開かれたけど秘密基地とかでいろいろやって対抗してます!!

を連載中です!!そちらの方も是非ともよろしくお願いいたします!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 遠巻きで、ノーディス家の〝冷〟嬢についに春がとこぼしている貴族、俺にも聞こえていると言うことはエヴィアにも聞こえていると思うから、身辺整理始めた方がいいかもしれんぞと この所々にある笑い所も…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ