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489 業務日誌 所沢勝編 三

投稿遅れて申し訳ありません(汗


難産でした……

 アメリアさんのストーカーの件を南が報告してくれたから、大丈夫かと不安に思う日々を送っていたある日。


 今日は仕事でパーティールームに集まる日だったので、ついでに何か軽めのお菓子でも作ろうと思ってパンケーキの材料を買って出社したら。


「……」

「アミー、その元気出して?ね?」


 香恋さんがパーティールームのソファーに膝を抱えて座っているアメリアさんを必死に慰めていた。


「えっと、一体何があった?」

「聞かぬが情けってやつでござるよ。時間だけが彼女を慰めるでござる」


 いきなりの出来事に唖然となり、事情を聞こうと思って南に聞いてみたら普段ならふざけた反応を返すはずの南が真面目な顔をして、悟ったような顔で僕に何も聞くなという。


 正直、訳が分からない。


「あー。俺に聞いても無駄っすよ?俺が来た時にはすでにあんな感じになってたっす」


 同性である海堂先輩に助けを求めるも、だめだと首を横に振られ、放っておくしかないかと思いきや。


 ガサっと買い物袋が揺れ、中にある物を思い出して。


「……とりあえず食べます?」


 僕は今必死になってパンケーキを焼いている。


『なんなの!!なんなの!!男ってなんであんなに身勝手なの!!!』


 目の前で何やら英語で叫びながら、口の中に目いっぱいパンケーキを頬張り、やけ食いに興じるアメリアさん。


 普段の天真爛漫さも消え去り、唯々食べることに集中するアメリアさん。

 いったい何が起きたというのか。


 たしか僕の記憶が正しければ昨日アメリアさんは合コンに行っていたはず。


 荒れている理由を考えるならそれに関係しているはず。


 香恋さんが慰めていたのもそれが関係しているのか?


 フライパンを器用に三つ使い。

 次から次へとパンケーキを作る。


 そして新しい皿を用意して、三段重ねのパンケーキを造り上げて生クリームとリンゴのコンポートといちごジャムを添えてアメリアさんに差し出すと、ブスッとフォークを突き刺して無言で自分の方に引き寄せる。


「ほ、本当に何があったんっすか?」


 その形相にちょっと戸惑いながら海堂さんが流石に知らない状態はまずいと思って香恋さんに話しかけると。


「ああ、実は……」


 香恋さんも事情を話さないわけにはいかないかと、大きくため息を吐いた後に説明してくれた。


「全員アメリアちゃんに夢中になってストーカー化しかけた!?ヤバくないっすかそれ!?」

「健気に場の雰囲気を盛り上げようとしたアミーの努力が裏目に出ちゃったのね。ヤバかったわよ。メールに電話、出待ち、警察に通報して捕まった奴もいたわよ」


 はぁと大きなため息を吐いて、何でこうなったと頭を抱える香恋さん。


「おまけに対応に当たった警官が大外れ中の大外れなのよ。ストーカーの被害届出そうとしたら自意識過剰とか、ストーカーされる方が悪いとか言い出して、終いには定時間際に来るなとか言い出して」

「それは、なんというか。警察官としてどうなんですか?」

「大丈夫よ、きちんと会話録音して上の方に報告したら次の日にはそいついなかったわ」

「行動力ヤバいっすね。だけど、その話を聞いてるとどっちかと言うとアメリアちゃんは怒るって言うよりは、落ち込んだり怯える方が正しいリアクションのような気がするっすけど、なんで怒ってるんすっか?」


 香恋さんの言葉を聞いて男運が悪いって脳裏によぎり、つい横目でパンケーキの山を食べ続けるアメリアさんを見る。

 確かに海堂先輩の言う通り、話をまとめると、合コンで頑張ったら参加者全員に好意を向けられストーキングされて、警察には対応をおざなりにされた。


 ここまで来ると、ショックを受けると言った方が正しいような気がするが……アメリアさんは普段の気性から考えられないくらいに怒っている。


「それが、警察官の言い方が完全にアメリアのお父さんと同じだったらしくて、ショックの反動で完全に怒っちゃたのよ」

「アメリアちゃんのお父さん?」

「ほら、アミー片親でしょ?」

「ああ、なんか家庭の事情があるって奴っすね」

「そう、私も詳しくは知らないけど、相当ヤバかったらしいよ?」


 なるほど……

 香恋さんの言葉を聞いて、共感する。


 僕も母親がろくでもない人だった。

 今育ててくれている父親とは血も繋がっていない。


 アメリアさんのショックな部分も理解できる。


 そっと再びフライパンを握る。


「海堂先輩たちも食べますか?まだ材料はありますし」

「お、良いっすか?ならいただくっす」

「そうね、みんなで食べてた方が気がまぎれるだろうしいただくわ」

「勝、勝、拙者のはメイプルシロップ多めでよろしくでござる!!」


 そんな時に気を紛らわせてくれるものはあった方がいい、南のリクエストに応えながらそっとパンケーキの材料を流し込んで焼き始める。


「マサルクン!!おかわり!!」

「はい、ちょっと待ってくださいね」


 その細い体に何で入るのかと思いつつ、パンケーキを焼き上げていくと、再び扉が開く音がする。


「お、良い匂いがするじゃねぇか」

「お、先輩っすか!!久しぶりっすね」

「そうね、最近忙しそうだったし、この時間帯に会うなんて珍しいわね」


 スーツ姿の次郎さんが部屋に入ってきた途端に、僕も手元から視線をあげるとちょっと疲れた姿の次郎さんがそこに立っていた。


「次郎さんも食べますか?今ちょうど焼きあがるんで」

「食べたいところだが、仕事の合間で寄っただけでな、すぐに次の場所に向かわないといけないんだよ。また今度食べさせてくれ」

「そうですか」

「悪いな」


 片手に茶封筒を持っていたが、それをそっと南に渡す。


「ほら南、お前に頼まれてたやつだ。遅くなって悪かったな」

「お!来たでござるな」


 それを嬉しそうに受け取る南。

 次郎さんから渡されるものだから、仕事に関係した物かなと思いつつ。


「それと何でアメリアは凄い勢いで食べてるんだ?」


 パンケーキを皿に盛り付けると、凄い勢いでアメリアさんが喰いつく姿を見て戸惑っている。


「先輩、女の子にはそう言う日もあるっすよ」

「本当になにがあった?」


 そしてさらに決め顔で海堂先輩が言うから余計に話がややこしくなったような気がする。


「いや、実は」


 二度手間な気がするが、勘違いしたままで次郎さんを仕事に戻らせるのもどうかと思った香恋さんがもう一度同じことを次郎さんに説明すると。


「なるほどな、大変だったみたいだな」


 苦笑交じりに次郎さんを香恋さんを労わっている。


「あ、だったらちょうどいいのがあるぞ」


 そして何かを思い出すようにスーツの内ポケットからなにやらチケットを取り出す。


「この会社の近くにファンタジーチックな店の支店ができたらしくてな。そこのなんかすごいパフェの無料券をエヴィアからもらったんだ。良ければお前たち行くか?」


 凄いパフェと聞いて、アメリアさんがピタリと止まる。


「おお!!これは噂に聞くマジカル・デラックス・ワンダーランド・パフェでござらんか!!」


 そして南の口から呪文のような名称のパフェが出てくる。


「噂になっているかどうかわからんが、エヴィア曰くなかなか美味しかったらしいぞ?気分転換を兼ねて行ってきたらどうだ?」

「流石リーダー!!話が分かるでござる」

「そうね、私も興味があったから行くのは良いけど、良いんですか?これ、エヴィアさんからのもらい物ってことは誘われているってことじゃ」

「大丈夫だ。そのチケットの有効期限中に俺もエヴィアもその店に行けないし、スエラたちを誘おうにも彼女たちも今は忙しいからな」

「ああ、今、スエラさんたちの結婚式の準備も並行作業で進めてるんっすよね」

「そう言うことだ。将軍への就任式を終えた後になるが、それでもやることは多くてな。正直体が後三つは欲しいよ」


 僕には想像できないパフェなんだけど、南たちから聞く限り美味しいパフェなんだろうな。

 ワクワクとチケット眺める南に、申し訳なさそうにする香恋さん。


 それを気にするなと笑顔で手を振る次郎さんは、最近の忙しさに苦笑しながらポンとアメリアの肩を叩くと。


「まぁ、なんだ。困ったことがあったら、連絡してくれ、忙しいが時間は空けるからな。溜め込まず発散できるときにしておけよ」

「OK」


 その対応に少し、元気がないけど頷くアメリアさんを見て良しと頷き。


「それじゃ、俺、仕事に戻るわ」

「先輩、前の会社にいた時よりも働いてないっすか?」

「それな、ただ。前の会社と違ってやりがいがあるのと体が頑丈になってるから問題はないんだよな」


 苦笑しながらそのまま部屋を出て行った。

 本当に仕事の合間を縫って様子を見に来てくれただけのようだ。


「南、あんた次郎さんから何を受け取ってたのよ」

「ん~?ちょっとした頼みごとの結果でござるよ」

「ちょっとって、今あの人忙しいのはわかってるでしょ、余計なことしてないでしょうね」

「大丈夫でござるよ~」

「本当でしょうね?」


 その後ろ姿を見送っているとジト目で南を見る香恋さんがいる。

 少し分厚い封筒を机の脇に置いて、忙しい時間の合間を使って誰かに頼むではなく態々手渡した代物だけに気になる。


「南、それって」

「ああ、前に頼んでいたモノではないでござるよ。これは拙者個人の物でござる。ちょっと会社の方に申請することがあっただけでござるよ」


 もしかしてアメリアさんを後ろをつけていた男のことに関して進展があったのではと思って聞いてみたが、それは違うと南が否定する。


 では何を?


「んー、美味しいでござる!やっぱり勝のパンケーキは最高でござるな」


 気にはなるけど、それを聞いて南が答えるとも思えない。

 変なことをしていなければいいけどと心配しつつ。


「あ、材料がなくなった」


 持ってきた材料がなくなったことに気づく。

 結構な量を持ってきたと思っていたけど、まさかこんなにも早くなくなるとは。


「ええー、もうないでござるか」

「アミーも含めても結構な量を食べてたからね、仕方ないわよ」

「何なら俺が地下で買ってくるっすか?」

「いえ、そこまでは何か冷蔵庫にないか見てきますね」

「むふふふ、だったらリーダーからもらったこれ、さっそく食べに行かないでござるか?仕事まで時間もあるでござるし」


 物足りないと語る南に香恋さんが止めに入るけど、海堂先輩も少し物足りなさそうにしていたから僕が他の物で何かを作ろうとしたら、南がさっき次郎さんが置いていったチケットを手に取る。


 その行動にアメリアさんがまたピタッと止まったような気がしたが。


「え、ええと私はイイカナ。お腹いっぱいだシ」


 それに何か乗り気ではないようにも見える。


「ええ!行くでござるよアミーちゃん!」

「そうね、気分転換も兼ねて行きましょう」

「そうっすよ!!こういう時はみんなで行って騒いだ方がいいっす!!勝君も行くっすよね?」

「ええ、大丈夫ですよ」


 気の所為かと思いつつ、エプロンを外し、みんな出かける準備を始める。


「うん、ワカッタヨ」


 だけど気になるのはアメリアさんの目が死んでしまったように見えた。

 そして僕たちはそのアメリアさんの目の意味を知ることになる。


 あの怪物相手にたった五人で挑むのは無謀であったと僕はお腹を押さえながら痛感するのであった。



 今日の一言

 出来ることとできないことの区別をしっかりと。


毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。

面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。


現在、もう1作品

パンドラ・パンデミック・パニック パンドラの箱は再び開かれたけど秘密基地とかでいろいろやって対抗してます!!

を連載中です!!そちらの方も是非ともよろしくお願いいたします!!

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― 新着の感想 ―
[一言] お店に行きたくないのではなくて、食べきれないのが分かっている目だったのか。
[一言] 例のパフェ「よう、また会ったな嬢ちゃん!(良い笑顔でサムズアップ)」
[気になる点] アメリアが学校でハブられませんように。 それだけが心配。
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