488 業務日誌 所沢勝編 二
投稿設定を忘れておりました(汗
遅れて申し訳ありません。
エヴィアさんが動いてくれる。
その事実が頼もしいことは理解している。
だけど何もしないというわけにはいかないのではと思わなくもない。
使った食器を洗いながら、考えていることは今日あった出来事ばかり。
ちらりと相談した南と言えば。
「♪~」
鼻歌を歌いながらゲームを再開している。
さっきみたいに一人で六人分のキャラクターを操作しているわけじゃないようだけど、両足で二キャラ分操作して、手はスマホを操作している。
行儀が悪いと言わざるを得ない姿だけど、あれが彼女なりの普段のトレーニングなのだから仕方ない。
南のポジション的に全体を把握し、常に状況変化に対応しないといけない。
常に脳を回転させて全体視野を持つ。
僕には到底できない技だ。
「まさるー、眉間にしわが寄ってるとおじいちゃんみたいにしわが取れなくなるでござるよ?」
こうやって僕が何かに悩んでいるのも南は見逃さない。
食器を洗っている視線から南の方を見ると、額に指を這わせてしわを伸ばすような仕草を見せる南。
「勝は働きすぎでござるよ。何かしなければならないって思って、何かしようともがいて、動き続けることは良いことでござるが、そればかりだと疲れちゃうよ?」
そして普段のふざけているような態度から一変、最後の方だけ昔の南に戻ったような言葉を吐いた。
「拙者みたいにルーズに考えるくらいがちょうどいいんでござる。人生張り詰めたままじゃ息苦しいでござる」
だけど、すぐにふにゃりと力が入っていないようなゆるい笑みに変わり気づけば僕の肩の力も抜けていた。
これだ、南は時折僕の心を読んだかのように気を緩めさせる。
子供のころからの付き合いでそれができているのかもしれないけど、こうも簡単に僕の緊張を解いてくるとそれはそれで思う所がないわけではない。
「そう、だな」
けれど、反発することもない。
むきになるには互いに性格を知りすぎている。
適度な距離感と言えばいいのか、どこまで踏み込んでいいのかどこが危ないのか。
それをわかっているからこそ。
「でも、不安なんだよ」
こうやってこぼれるような弱音を我慢しなくていい。
ピタッと南がゲームを止めた。
「前みたいに何かあってから知らされるって言うのはもう嫌なんだよ」
「……翠のことでござるか?」
そして僕が気にしていることをすぐに察してくれる。
「ああ」
「あれに関しては拙者でも予想はつかなかったでござるよ。昔のあいつは人当たりが良くて、誰に対しても自分のいい部分しか見せなかった。それが結果的に世渡り上手と言われる結果となっただけ、拙者からしたら猫かぶりがうまいだけだよ」
南の翠さん嫌いも相変わらずだ。
忌々し気に言いつつも話すこと自体は断らない。
そんな彼女の態度に甘えている自覚はあるが、それでも弱音を吐き出せることで気分がいくらか晴れる。
俺にとって翠さんが裏切ったという事実は、事実であったとしても未だ受け入れきれてない事柄だ。
もっと気を使えば、もっと何かできることがなかったかを考えていれば、あの時ああしていれば、なんてたらればを話しても仕方ないのはわかる。
だけど、もしもなんてことを考えてしまう現実がある。
「こらぁ。言った傍から眉間にしわが寄っているでござる。考えるの止めろとは言わないでござるが、自分の責任以外を背負おうとするのは問題でござる。アミーちゃんのこともそうでござるが、勝はもう少し他人に頼るということを覚えるでござる」
今度は眉間に優しく南の指が当たり、ぐいっとしわを伸ばすように南の指が動く。
ゲームのコントローラーを常に握って、最近では魔法の杖を良く握っているから硬くなっているかと思いきや、女の子らしい柔らかい指。
そして最近段々と綺麗になってきている南の顔がすぐそばにあることに、思わず俺はドキッとする。
何を、と思う。
南は親戚で、幼馴染で、そう言った対象として見ていなかったはずなのに、意識していなかった部分をいきなり刺激されたように感じて、戸惑ってしまう。
「とりあえずアミーちゃんのことは拙者が後でリーダーに連絡入れて、エヴィアさんには確認取ってもらうようにしておくでござる。勝に任せると自分でどうにかしないとなんて思って、勝手に一人で解決しようと動き出しそうだし。それでいいでござるね?」
「あ、ああ」
普段はだらしなくて、生活基盤も僕が支えているはず。
なのに、ふとした時は頼れる女性としての姿を見せる南。
自然消滅に加えて、元恋人がとんでもないことをしでかしているおかげで変な恋愛経験を積んでいる僕だけど、異性との触れ合いはそこまで緊張するものではないはず。
パーティーのメンバーの半数は女性だし、次郎さんとの関係で女性と接することは多い。
容姿も整っている人が多いから、最初は緊張したけど今はそういうことはない。
だから、こうやって南のちょっとしたしぐさに反応したことに戸惑う。
「おろおろ?どうしたんでござるか?そんなに顔を赤くして、もしかして拙者の魅力にようやく気付いたってところでござるか?」
だけど、ニヤニヤと笑う南の顔を見て、すぐにその感情が収まるのがわかる。
うん、南は南だ。
さっきの感情は気の所為だったな。
「そんなわけあるか、食器を片づけたら次は部屋の掃除だからな」
「えー!こんな夜中にやったら近所迷惑でござるよ」
「静かにやる方法はお前のおかげで身に着けたからな、それに放っておいたらお前どんどん部屋を汚くするだろ」
「んー、こういう時絵本とかの魔法使いみたいに魔法で一発で掃除できたらいいんでござるが」
「魔力が使えないんだから、どっちにしろ考えるだけ無駄だろ」
食器の片づけを再開して、南は次郎さんにメッセージを送る。
そんなやり取りをしながら、冷めてしまった気持にちょっと呆れた笑いを混ぜながら返事をする。
「ちちちち、甘いでござるよ勝。リーダーの動きから察するといずれ魔法の文化がこの世界に広まる可能性は十分にあるでござる。それも拙者たちがまだまだ現役のころに。そうなると人は新しい技術を使おうとするのが性。そうなれば本当に魔法で掃除が簡単にできる日が来るでござる」
そんな僕に対してメッセージを送り終えた南は甘いと言いながら指を振る。
「そう言うものなのか?」
政治的な話の分野になるのだろうか、僕も次郎さんからよくこんなことをしているとさわり程度の話は聞くが、こうやって南みたいに将来はこうなると予想するような展開を考えることはあまりない。
「可能性としては十分にあると思うでござるよ。異世界の存在を公に公表する準備は少しずつ進んでいる様子、世間が受け入れるかどうかは賛否両論になると拙者は思うでござる。国を運営する面々からしても、異世界人の活動範囲に限界があることを知っていれば、それを管理できるというメリットで受け入れやすくする方法もあるでござる。その管理している間に地球に魔法と言う技術を受け入れる地盤を作り出すはずでござるよ」
だけど、南はそこら辺の展望も考えていることについ感心して、食器を拭いている手を止め南を見る。
「お前、真面目に考えている事あったんだな」
「失礼でござるな!?拙者は最近割と真面目に働いていたでござるよ!?」
だからつい零してしまった言葉に素直にゴメンと謝りながら、話の続きを促す。
「もう、まぁ、掃除魔法の話に戻るでござるが、基盤が作れれば後は企業が勝手に売れる魔法を考えるでござるよ。もともとの電機メーカーや自動車メーカーとかの兼ね合いもあるでござろうし、価格競争になるのは目に見えているでござる。あとは新しい魔法技術に対する法的規制の問題もあるでござろう。そんな流れができてしまえば止まらなくなって勝手に魔法は生み出され、世間に溶け込む。となれば日常的な生活を快適にするための魔法が作り出されるのも時間の問題になるでござる」
それを受け入れた南は、ツラツラと持論を展開していくけど、聞く分にはあながち外れている内容ではないように僕は聞こえる。
「そうなれば拙者たちのいる会社は、間違いなく魔法技術のに於いて地球での最前線になるでござる。元から持っているノウハウがあるでござるし、地球人の中で魔法を使える存在の第一人者と言っても過言ではないでござる。となれば、便利な魔法に関しての情報も得やすくなるのは自然でござる」
聞く人が聞けば南の言葉は妄想の一言で断じられそうな内容だけど、僕は魔法に関係している会社に勤めている。
だから素直になるほどとうなずくことができた。
「南が、このまま真面目に働いていればそうなるかもな」
この会社に出会えたことは素直に感謝しかないなと、あの時次郎さんとの出会いに感謝しつつ、食器を片づけ終わったので次に部屋の掃除でもしようかなとキッチンから離れる。
「ただ、絵本みたいな魔法を作るのは相当大変だと思うでござる」
「そうなのか?」
放置されている洗濯物をかごに入れて、分別されていないゴミを分別して、さらには読みっぱなしの本を元の本棚に戻す。
慣れた手つきで進む僕の手は、ダンジョンで鍛え上げられた肉体によって瞬く間に汚かった部屋を綺麗にしていく。
片手間で会話しつつ、整理整頓をしていく僕の傍らで南は椅子に座りながら腕を組んで考え込んでいる。
手伝えとは言わない。
前に手伝わせて、余計に汚くなったことがあったからそれ以降言わなくなった。
「だって、物をもとの位置に置くための転移魔法、物を綺麗にするためにもほこりを取るための魔法や磨いて綺麗にする魔法に、ダニやほこりを消滅させるための魔法、少なく考えてこれだけの魔法を一気に発動させないといけないんでござるよ?転移魔法に至ってはあらかじめ転移位置を決めないといけないだろうし、部屋が広くなればなる分だけ効果範囲が広がる。その分だけ魔力消費も激しくなるでござろう?となるとその分だけ魔法の術式やイメージに左右されるわけで、労力に見合った結果が来るかどうかはわからないでござるよ」
故に南の言うような掃除魔法があれば南も掃除してくれるかなと淡い希望が芽生えていたけど、南の話を聞くとその希望が芽生えるのは当分先ということになる。
「複合魔法にしないで、個別魔法にした方が簡単そうでござるが、それだと掃除機とかで代用できるでござるし、そこら辺の境界線を決めておかないといけないでござろうなぁ」
「そうか」
思い返してみれば、普通にヒミクさんとかも掃除道具で部屋の掃除をしていることを思い出した。
あれは拘りではなくて普通に掃除用の魔法が存在しないということ。
たまに浮遊魔法とかで家具とかを持ち上げて下のほこりとかを掃除していたのを見たことがあったけど、逆に言えばそれくらいしか魔法を使っていなかった。
「汚れを落とす魔法に限定しても、どんな汚れに効果的か術式を設定しないと効果が出ないでござる。油汚れなのかそうじゃないのか。簡単に汚れを落とすという概念の魔法を作り出したとしても汚れの範囲を決めないとあらかじめあった模様や塗装も剥がしそうで使い方が難しくなりそうでござる」
「確かに、治療魔法とかでも使えば治るってわけじゃないからな」
魔法と聞けば何で解決してくれそうな便利な技術かと思われがちだけど、実際に使ってみるとそう言うわけではない。
攻撃魔法にしてもしっかりと範囲と威力を決めている。
治療魔法に関して言えば、どういう風に直すかどうかの過程をしっかりと見極めなければならない。
南の使っている付与魔法なんてどんな効果が出るかどうかを考えないと下手すれば悪影響になってしまうのだ。
「まぁ、技術は日進月歩、いずれ簡単にそう言った魔法が使える日が来るのを待つしかないでござるな」
「南が作ろうって思わないか?」
「拙者はあくまでユーザー側でいたいでござる」
「南らしいな」
そんなことを話す南だから、魔法を作れそうな気もするのだけど、この本気になることが年に一度あればいい幼馴染がやる気を出すわけがないかと笑い僕は掃除に精を出すのであった。
今日の一言
誰かに頼ることを覚えましょう。
毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。
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パンドラ・パンデミック・パニック パンドラの箱は再び開かれたけど秘密基地とかでいろいろやって対抗してます!!
を連載中です!!そちらの方も是非ともよろしくお願いいたします!!




