表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
493/800

484 業務日誌 アメリア・宮川編 三

 

 まさか、まさかの場所で上司と出会ったしまったことに一瞬だけど固まってしまう。

しかし、すぐに思い直す。

甘いものが好きなエヴィアさんならいてもおかしくはない?と思えばこの現実も受け入れられる。


「え?アメリアさんの知り合い?」


 私が驚いているとそこにすかさず割り込んでくるのが伊沢さんという人だ。

 人懐っこいと言うか、誰にも分け隔てなく、話しかけられる好奇心の塊というべきか。


 人懐っこい笑みを浮かべながら、そっとエヴィアさんが見える位置に出ると。


「うわ、すっごい美人」


 人から見ればぶしつけとも言える視線を遠慮なく向けることに、私はちょっと焦る。

 見た目こそ今は人の姿をしているけど、中身はれっきとした悪魔。


 私の仕事上の上司である、ジロウさんも未だ勝てないと言っているような強者。

 何か粗相があればすぐに何かするような人ではないのはわかっているけど、それでもハラハラしてしまう。


「エヴィア・ノーディスだ。そこの宮川が働いている会社で人事部の統括をやっている。彼女の上司とは色々と関係があってな。それで彼女とは顔見知り以上の関係は築いている」


 しかし、そこはさすが大人というべきか。

 積極的な伊沢さんの言葉にも腹を立てず、エヴィアさんはふっと、優しい笑みを浮かべて、伊沢さんに私とエヴィアさんの関係を説明してくれる。


 そこにホッとしたいところだけど、生憎とその笑みは営業スマイルだというのは重々承知。

 未だ地雷原の上でタップダンスを踊っているような感覚がキリキリと胃を痛めていく。


「へぇ!アメリアさんこんな美人さんと一緒に仕事しているんだ!!すごい!!良かったら一緒に食べませんか?」


 けれど、営業スマイルというのは私だけしか気づいてなく、仲良くなれそうと判断した伊沢さんがまさかの同席を提案した。


 そこに、私の笑みが明確に引きつるのがわかる。

 いや、別に私がエヴィアさんと一緒に食事を取るのが嫌だというわけではない。


 むしろ色々とお世話になって仲良くやらせてもらっている部分もあるから、会社の方では一緒に食事を取ることも珍しくはない。


 けど、クラスメイトと一緒だと話は違う。


 クラスメイトは全員異世界に一回拉致されていて、その時の記憶は全て封印されている状況。

 もしかしたら、エヴィアさんと接触することでその封印にほつれが生まれるかもしれない。


 それを承知で一緒に食事を取るのは危険ではないか。


「ちょっと瞳失礼だよ」

「そうだよ伊沢さん」


 そうだ、もっと言って欲しい。

 頑張って笹川さんに冴木さん。


 そしてすぐに店員さんの案内に従って席につこうよ。

 段々と笑みを維持するのが難しくなってくると、エヴィアさんと視線が合う。


「ふむ、私は構わないが、宮川はいいのか?お前も休日で仕事場の上司と一緒に食事を取るのは気が休まらないだろう」


 その聞き方はずるいデス!!

 断ったら私が仕事場で上司ともめているように思われるじゃないですか!!


 実際に、エヴィアさんがそんなことを言うからさっきまで勢いの良かった伊沢さんが気まずそうに私の方を見ている。


 これでNoと言えるような精神を私は持ち合わせていない。


「NoProblem!問題ないデス!!一緒に食べましょう」

「ふむ、となるとあれが食べれるな。いい機会だ。ここは私がご馳走しよう」

「あれ?」


 状況的にあまり私のクラスメイトと接触は良くないとエヴィアさんもわかっているはずなのになぜと疑問を抱きつつ、溜息をつきたいのを我慢して、エヴィアさんと一緒に店員さんに案内されて席に案内される。


「では、ご注文がお決まりになりましたらお呼びください」


 伊沢さん以外は若干の気まずさを感じつつ、それでも興味があるという雰囲気は隠していない。


 でなければ遠回しでも反対の意見を言っているはずだ。

 それがないということは、間接的にOKということ。


 皆が皆、容姿の整ったエヴィアさんに興味津々だ。


 それに、正直に言って買い物後のお財布の中身が厳しい状況で、ご飯をご馳走してくれるのは正直ありがたいと思ってしまう。


 赤の他人であったら警戒もするだろうけど、エヴィアさんは女性で、しかも私と仲がいい。

 来ている服も高そうなスーツで、すっとそれを着こなしている姿からお金に困っているようにも見えない。


 実際に、エヴィアさんは貴族で会社でも重要なポジションについている。

 給料だって並以上はもらっているから私が財布の心配をする必要もない。


 そんな条件が色々と重なって、表向きは遠慮しているけど、みんなの心は正直助かったと言いたいのだろう。


 メニューに迷わず手をばして何を頼もうか相談している脇で、立ち去ろうとしている店員さんを呼び止めるエヴィアさん。


「すまないがこれを一つ頼む」


 さっきも大きめのパフェを食べていたように思うけど、まだ注文したりないのか?


 私もメニューを片手に、そっとエヴィアさんの方向をチラ見すると。


「え!?これ、でしょうか?」


 なんで店員さんが驚いているの?


「ああ、それに合わせて飲み物を五つ頼む。私はコーヒーだが、他は何を飲む?」


 そして、そっとメニューが置かれ、そのページを見て私は目を見開く。


『数量限定。魔法の世界にご招待!!あなたの舌もお腹も大満足!!マジカル・デラックス・ワンダーランドパフェ!!』


 エヴィアさん、もしかしてこれを食べたいから私たちの誘い乗ったの?

 甘党のエヴィアさんが、都合のいい食事係を見つけて、一人では食べれないから諦めようとした品を頼むためだけに!?


「あ、私はこのパンプキンジュースってやつで」


 そっと置かれたメニューを見てまさかと驚いている間に、他の人は奢ってもらえるのは飲み物だけだと思ったのだろう。


 最初に伊沢さん。


「私はこのホットココアを」


 次に笹川さん。


「なら私は、アイスコーヒーで」


 続くように冴木さんが頼み。


「僕は、このカラメルカフェで」


 芳賀さんも注文を決めて、店員さんもご注文は?と視線で聞いて来るので。


「紅茶でお願いしまス」


 この後いったいどんなものが来るのか不安になる。


「ではお飲み物はすぐにお持ちします。ご注文の品には三十分ほどお時間をいただきますが構いませんでしょうか?」

「ああ、大丈夫だ」


 三十分。

 その時間をかけて何を作るの?


 せめてもの抗いに紅茶を注文した。


 冴木さん以外甘い飲み物を注文しているからこれから来るものがどうなるか。


 程なくして、飲み物が運ばれてくる。


 この後来る問題も大変だけど、一体伊沢さんはエヴィアさんをどういうつもりで呼んだのか。


「それで、私を席に招いたということは私に聞きたいことでもあるのか?」

「はいはいはい!!どうやったらそんなに綺麗になれるんですか!!髪とかすっごく綺麗だし、スタイルもいいし!!今度合コンがあるんでそこで男を絶対にゲットしたいんで、綺麗になれる秘訣を教えてください!!」

「え?」


 ちょっと警戒していた、私は呆けてしまうほど伊沢さんに裏表はなく。

 正直に自分の欲望を吐き出していた。


 普段の授業でもここまで勢いよく挙手をすることはない伊沢さんが聞いたのは美容と、女子高生ならある意味で当然の質問なのか?


 同性としても確かにエヴィアさんは綺麗だし、スタイルもいい。


 それを聞きたいのは確かだ。


「秘訣、か」


 ただ、エヴィアさんの答えが私たちに参考になるかどうかは話は別。

 高級な化粧品や、エステに通っていると言われればそれまで、どう答えるのだろうかとさっきとは別のドキドキと緊張してくる。


「自分の欲望を叶えるために努力を惜しまないことだな」


 そしてエヴィアさんの答えは、私が想像していた答えとはかなり外れていた。

 それは質問した伊沢さんもそうだし、それを聞こうと思っていた冴木さんたちもそう。


「私は自分の容姿は武器だと思っている。その武器を磨くのに妥協した段階でその武器の格は一つ下がる。そう言う捉え方で、私は日々自分を磨いていった」

「妥協って、安い化粧品を使わずに高い化粧品を使うってことですか?」


 けれど、言い方が遠回し過ぎたのか私を含めて、エヴィアさんの言っている事を理解できる人はいなかった。


 伊沢さんが、素直に質問するとエヴィアさんはそっと首を横に振る。


「その選択肢を作るための基礎も含めて努力するということだ」

「……よくわかりません」


 余計にわからなくなり、どうしようと困り始める伊沢さん。

 自分から聞いておいて、もういいですとは言えない。


 それを理解しているエヴィアさんはふっと優しく笑うと、手に持っていたコーヒーをテーブルに置き。


「一つ、勘違いを訂正しよう」


 代わりに人差し指を立てて、話の主導権を握る。


「君の言う、綺麗になる方法は様々な方法の上で成り立った結果だ。結果を導くためには様々な努力が必要だが、その努力を積むための基礎も必要になる」


 とある喫茶店で行われる悪魔による美容講座。

 種族を知っている私だから、それが悪魔のささやきになるのではとちょっと場違いな感想を抱く。


 伊沢さんをまっすぐと見て、しっかりと聞いていることを確認したエヴィアさんは話の続きを語る。


「先ほど言った高い化粧品を使うというのもその一つだ。高い化粧品はしっかりとした効能を保証されているがゆえの高級品だ。学生である君たちからしたら手の届かない品物かもしれない。高い、故に諦める。これはれっきとした妥協だ。もし仮に君がこの化粧品に対して妥協したくないなら、その高級な化粧品を使える環境、そしてその化粧品を使うまでの間、美貌を維持する努力が必要になる」


 クエッションマークが乱立する伊沢さんの傍らで、それを聞いていた冴木さんが頷く。


「それはすなわち、綺麗になるための環境を整えるということですか?」

「正解だ」


 そしてその言葉に満足気にエヴィアさんが頷き。


「綺麗になることを目的とするなら、そのためにどういう努力が必要か考えればいい。高価な化粧品を使いたいなら、それが使える金銭を確保する。スタイルを磨きたいのなら運動や食事に関することで携える環境を。人のやり方は千差万別。美容にどこまで求めるかによって人の答えは変わる」


 貴族という立場にいるエヴィアさんだからこそ言える内容。

 それになるほどとうなずく伊沢さんだけど、たぶん半分も理解していないと思う。


「つまり、綺麗になるためにはお金がかかるってこと?」

「それも一つの答えだな」


 事実、ざっくりとした答えでまとめてきた伊沢さんにエヴィアさんは苦笑を浮かべ、否定はしなかった。


「綺麗になりたいと思うことが欲望であり、願望だ。その願いは簡単に手に入るものではない。綺麗になりたいという理由が男に好意を向けられたいというのなら、綺麗になることによって男と縁がつなげるという結果が対価になる」


 そしてそろそろあれが来るなと時間を気にしていた私はエヴィアさんが話しを締めにかかっているのに雰囲気的に察する。


「要はその対価に満足できるかどうかだ。その過程の努力に見合う結果を引き出せるから努力できる。そう言った女はほとんどが綺麗になれる。逆に辛いや面倒だと言い訳するやつは与えられた容姿を言い訳に使う。その事柄は覆せるというのにな」


 努力をすることをためらうな、努力をするための環境を整える。

 小難しく言ったが、まとめればごく当たり前のことしか言わなかったエヴィアさん。


「ただ気をつけろ、努力した結果を貪ろうとする男がいる。寄せるだけで満足せず、見分けるための目も養っておけ」


 最後に経験からくる忠告を授けたエヴィアさんは。


「お待たせしました。マジカル・デラックス・ワンダーランドパフェでございます。こちらが取り皿になりますのでお使いください」


 テーブルを埋めるほどの大きな器が運ばれてくるのを見て、話は終わりだと言い。


「さて、そのための甘味の調達だ」


 率先して取り皿に手を伸ばすのであった。



 今日の一言

 劇的というのは努力をしてこそである。





毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。

面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。


現在、もう1作品

パンドラ・パンデミック・パニック パンドラの箱は再び開かれたけど秘密基地とかでいろいろやって対抗してます!!

を連載中です!!そちらの方も是非ともよろしくお願いいたします!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 1週間更新がありませんけど、何かあったのでしょうか? もしご病気だとかだったらごめんなさい❗ 更新も待ち遠しいけど、まずは体調に努めてください。
[一言] 悪魔(=エヴィア)による美容講義、合コンに舞い上がっている女子高校生たちは、どこまで理解できたかな? しっかし、「テーブルを埋めるほどの大きな器」で出てきた「マジカル・デラックス・ワンダーラ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ