483 業務日誌 アメリア・宮川編 二
私はあの時、私の知らない戦いを見せつけられたよ。
あの時の彼女たちの姿はダンジョンの中で戦っているのではと錯覚するほどだ。
それほどクラスメイトの熱心なじゃんけん合戦から、もう一週間。
カレンちゃんと色々とお店の場所や、時間を打ち合わせして。
「アメリアさん!服を買いに行きましょう!!」
「OK!」
「絶対に次の合コンで彼氏作るんだから!!そのための勝負服を買わないとね!!」
「あははは、瞳。燃えてるね」
今は、日取りが決まった合コンに向けて服を買いに行こうという話し合いを進めている。
明日は週末で休み。
カレンちゃんが設定してくれた合コンの日は来週の土曜日だから、買い物に行くとしたら今週の土日しかない。
その所為か、伊沢さんの気合の入りようは凄いと思う。
ダンジョンの装備を更新するときの南ちゃんや次郎さんみたい。
今も、ファッション誌片手に、どんな服にしようか悩んでいる。
「気合が入るのは当然ね、私たちの青春はこの瞬間しかないんだから」
「私としては委員長がこういう話にノリノリなのが意外だけどね」
そんな私たちのいる場所に、そっと入ってくる。
「お、来たな戦いの勝者」
「言ったでしょ?私、じゃんけんで負けたことないの」
「圧倒的だったよね。大半一発で勝ってたよね」
それを歓迎する伊沢さん。
そっと眼鏡の位置を調整しながら、不敵な笑みを見せながらその片手に伊沢さんとは別のファッション誌をもって登場する冴木さん。
「ねぇ!!冴木さんの相手してる子ちょっと涙目だった」
その冴木さんの合コンの席を賭けたじゃんけんをするときの姿は、ジローさんの戦っている時くらいに真剣で、ちょっと気圧されてしまったのは内緒。
その様子を間近で見ていたのは同じクラスメイトの芳賀さん。
ベリーショートの運動が得意な芳賀さんは演劇部で、よく王子様役とかをやっていて全学年の女子から人気。
その芳賀さんの言葉に伊沢さんも同意する。
「うーん、やっぱり、行くとしたら原宿?」
「池袋でもいいと思うけど」
「全部行けばいいんじゃないかな?ちょっと早めに集合すればいいと思うけど」
「そうね、電車を使えばそこまで移動費もかからないでしょう」
そこから始まるのは明日の予定。
合コンが決まってから、何度も何度も話したことだけど、みんな嫌な顔一つせず、むしろ楽しそうに話す。
「くー、大学生との合コンやっぱり楽しみ!!」
「瞳ったらそればっかりだよ」
「だってー、アメリアさんだって楽しみだよね!!」
「Yes!!ちょっとドキドキするけど、楽しみダヨ!」
「だよね!だよね!!どんな人かな、私緊張して話せないかも」
その時間がすごく楽しくて、私も少し浮かれている。
「明日の待ち合わせ絶対に遅れないでよ!!」
「わかってる」
「ええ」
「うん」
「OK!」
異世界に飛ばされたときのことをみんな忘れてしまっているけど、私は覚えている。
だからこそ、この何気ない平和な日常が大事だというのを。
そして約束した日になり。
「あ!アメリアさん!」
「GoodMorning!」
「おはよう、やっぱり本場の英語は違うね」
「後は芳賀さんですか」
待ち合わせでおなじみの犬の像の前には、伊沢さんと笹川さん、そして冴木さんの三人がいて。
「やぁ、遅くなってごめんね」
「いいよいいよ!!芳賀さん私たちの中で一番遠いしね」
何のトラブルもなくって、あはは、ここはダンジョンじゃないし、あの危険な異世界でもない。
無事に集合できたことに少し安心してる自分の気持ちに少し笑ってしまう。
「アメリアさん、そんなに楽しみだった?」
「?」
「顔、笑ってるよ」
「オウ!そうだね!みんなと買い物するのがすっごく楽しみでちょっと寝不足気味カモ」
その内心を悟らせないように、嘘じゃないけど、本音でもない言葉を話す。
「わかる!私も楽しみすぎて、昨日寝るの遅くなったもん」
「私もです」
「へぇ、委員長でもそうなるんだ」
「ちょっと意外」
「何でですか、私だってオシャレに興味はあります」
「わかってるって、ほらほら、お店も開き始めたし、いこいこ!!」
ちょっとプライベートの時も仕事のことが出て来るなんてワーカーホリックって言うのかな。
少し反省反省と、思いながら。
「OK!行こう!」
友達との休日を楽しむ。
「ねぇ!こっちはどう?」
「あ!可愛い!!」
「でしょでしょ!!でも、これ一着でバイト代が……」
「ブランド物になるとそうなりますよね」
「わかる、僕もさっき欲しい服を見たら桁が一つ多かった」
「私もデス」
最初に入ったブティックで良い服に巡り合った伊沢さんだったけど、その服の値札の値段を見て、買うか買わないかを悩んでいる。
その気持ち凄くわかる。
私は言っては何だけど、この中では一番稼いでいる。
だけど、月に使えるお小遣いは限られているからこうやって服を買うときは結構悩む。
それが楽しいんだけどね。
この店でも、良いなと思って手に取った服を見てみたけど、結局のところ値段を見てそっと棚に戻した。
買い物も始まったばかり、まだいい服に出会えるかもしれない。
焦りは禁物!
「……諦める」
「仕方ないよ」
「うう、こんなことならもう少しバイト増やせばよかった」
そんな風に自分に言い聞かせている脇で、そっと服を元の位置に戻す伊沢さん。
その顔には欲しいという感情がありありと映っていたけど、その服を買ってしまうとこの後の買い物ができないという理由で諦めた。
服との出会いは一期一会ってカレンちゃんが言ってました。
本当に欲しい服は自分の手でつかみ取るものだと。
手に入らなかったのは残念だけど、今日はまだまだ時間があるから次に何かいい服に出会えると思うよ!
「あれだけ補習があったのにバイトしている暇があったのは私としては驚きですね」
その後に出てきた言葉に冴木さんは驚く。
異世界に拉致されていた時間は、私たちの授業に後れを作り、しっかりと補習を増やされた。
極力休みには影響させないように配慮されていても、土曜日に登校したり、通常の授業を増やしたりと色々とあって私たちは普通の学生よりも時間に余裕はない。
けどその少ない余裕の隙間を縫ってバイトをしていたという伊沢さんに冴木さんは素直に感心している。
「ふふふふ!私、早起きは得意なの!!学校が始まる前に早朝のコンビニバイトが結構いい稼ぎになるんだ!」
その言葉に胸を張って自慢する伊沢さん。
「すごいよね伊沢さんは、僕なんてお小遣いを三か月分前借だよ?」
「私早起き苦手だから瞳ってすごいと思う。私も無理だからお父さんにお小遣いの前借頼んだ。アメリアさんは?」
そのガッツにみんな素直にすごいと褒める。
私もすごいと思い頷くと、笹川さんに流れで話を振られる。
「私は、バイト代でス!」
別に隠すことではないから素直に答える。
「へぇ、アメリアさんもバイトしてたんだ」
「Yes!!ちょっとお世話になっている人のところで働いているヨ!」
秘密にしないといけないのは業務内容だけ。
「へぇ!なんのバイトしてるの?」
「デバッグ作業です!」
「デバッグってゲーム会社とかにあるやつの?あれって結構大変だって聞くけど」
それに聞かれたらどう答えればいいかは教えられている。
伊沢さんから興味があると、次の店に向かいながら聞かれて、その教えられた答えを返すと冴木さんがその内容について聞いてくる。
お店の場所は笹川さんが知っているみたいだからみんなその後について道を進む。
「Yes!大変ですけどお給料は良いですヨ!」
休日だから人通りも多くて、私たちと同じように休日を満喫している人も多い。
「給料がいいんだ。どれくらいもらっているんだい?」
「Sorry会社の契約でそう言うことは言ってはダメって言われているんデス」
「いや、興味本位だったからね、僕こそゴメンね」
「気にしてマセン!!」
お金が欲しいのは気持ちはわかる。
だから芳賀さんの質問も気にしない。
「そう言えば、アメリアさんってなんでアルバイトしてるの?私は色々と欲しいものがるからお小遣いじゃ足りなくてアルバイトしてるけど」
笑いながら、そのまま別の話に移る。
働いている理由か。
これは少し難しい。
「んー」
「え、何か言いにくい理由があるの?だったら無理に言わなくていいよ?」
「大丈夫!ちょっと考えただけデス!私が働いている理由は、成り行きという奴デス」
「成り行き?」
私は特段ものが欲しいというわけではない。
元々お母さんが一定のお小遣いをくれていたし、それをコツコツと貯めて色々なものを買うことも楽しんでいた節があるから、アルバイトをしようという感覚はなかった。
知っているアメリカの土地から、知らない日本の地に引っ越してきて不安だったというのも大きい。
「Yes!たまたま知り合った人の職場で働いてみないかと誘われてそれで働いているだけデス」
「なるほど、そう言うつながりもあるんだね」
だから異世界召喚されたという事情からちょっと特殊な事情を抱えた私にとっては、次郎さんからの誘いは渡りに船だった。
冴木さんには偶然だと説明しているけど、その実は色々と複雑な理由がある。
そこは話すことはできないのでこのまま流してくれたのは正直ありがたい。
「私もアルバイトをしたいと思ってたんだけど、なかなか時間が取れないのよね」
「委員長も?」
「ええ、私も欲しいものがいくつかあってね。予備校の方も通っているから中々まとまった時間が取れないから諦めているけど」
「予備校か、僕たちも受験が控えているからね。進学のことを考えるとなかなかアルバイトする時間はないよね」
「京子も予備校行ってるの?」
「ああ、僕が行きたい大学がなかなか難しいところでね」
そのまま別の話に飛び、その話の内容が学生らしくてちょっと嬉しくなる。
「ふーん、私も大学はいきたいと思っているけど勉強はしたくない」
「でもみんな大学行くって言うよね。私もだけど」
「そうだネ。私もマミーに大学は行った方がいいって言われてるよ。うう、古典が、古典がダメなんだヨ」
「アメリカ育ちの宮川さんだと、古典は天敵ってわけかい?」
「Yes、難しすぎるヨ」
そのまま勉強の話になるのも仕方ない。
私の苦手な古典の話をすると、皆、笑って、こうすればいいとか、私も無理とか色々と言ってくれる。
この時間を大切にしたい私にとって、それは安らぎ。
そのまま、いくつか店を巡って気づけばお昼になっていた。
「あー、楽しいけど疲れた!ねぇ、そろそろお昼にしない?私お腹ペコペコ」
気づけば私たちの片手には紙袋が握られ、それぞれお気に入りの服が入っている。
さらに歩き回っていたから私たちのお腹はいい具合に空腹を訴えかけてくる。
「そうだね、お腹もすいたし、適当な店に入るかい?」
「あ!それだったら入りたいお店があるヨ!」
芳賀さんの提案に、私はあらかじめ行きたいと思っていた店をスマホで見せる。
「へぇ、魔法使いの里?」
「Yes!有名な映画舞台を参考にした内装のお店らしいデス!アルバイト先の先輩も行って美味しいと評判だったから一度行ってみたかったノ」
それはカレンちゃんとミナミちゃんがお勧めしてくれた店。
評価の星マークも四以上を誇っている。
しげしげと覗き込む芳賀さんから伊沢さん笹川さん、そして冴木さんと移る。
「面白そう!!」
「このケーキ美味しそう」
「ここからも近いしいいんじゃないかな?」
「そうだね、僕も異論はないよ」
そんな感じで簡単に昼食の場所が決まり、ナビに従ってその店につき。
「いらっしゃいませ!何名様でしょうか?」
「あ、五人です」
「わかりました、空いているお席にどうぞ!」
魔法使いの格好、と言っても私からしたら本物ではないという違和感が付きまとう格好だけど、それを無視して、伊沢さんが先頭で店に入り、そのまま席に座ろうとすると。
「あ」
「む?」
途中、カウンターで美味しそうにパフェを食べる知り合いがいた。
思わず、声を漏らし、そしてその人もその視線を感じて日本では珍しい特徴的な赤い髪を振りながら私の方に向く。
「こんなところで会うとは奇遇だな。宮川」
「そうですね、エヴィアさん」
私のアルバイト先の先輩であるジロウさんの奥さんのエヴィアさんがスーツ姿でいたのであった。
毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。
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現在、もう1作品
パンドラ・パンデミック・パニック パンドラの箱は再び開かれたけど秘密基地とかでいろいろやって対抗してます!!
を連載中です!!そちらの方も是非ともよろしくお願いいたします!!




