482 業務日誌 アメリア・宮川編 一
今の私の人生は、楽しいと言える。
父親の浮気で母との離婚が決まったときは不安があったし、一時は異世界に連れ去られたけど、それも今では良い思い出とまではいかないけど、笑ってそんなこともあったねと言える。
そんな道のりの途中で加わった同居人はもういなくなったことが最近では一番寂しい思い出だけど。
けれどその寂しさを埋めてくれる仲間がいてくれたから、落ち込んでいる暇はなかったよ。
「絶対のNO!お断りでござる!!」
その騒がしい仲間の一人であるミナミちゃんに今日はちょっと相談だ。
最初はカレンちゃんに相談してたけど、話の流れでミナミちゃんにも相談しないといけなかった。
「合コンに勝を連れていくなんて絶対にNOでござる!!北宮のコネを使えばいいでござる!!」
そう、きっかけは私の学校の友達から合コンがしたいと提案されたことだ。
私も年頃の女の子、恋に興味がないわけじゃない。
ジロウさんやカイドウさんがスエラさんやアミリさんと仲よくしている姿を見ると羨ましいって素直に思う。
だからちょっと合コンというのも興味があって、やろうという話になった。
だけど、残念なことに私の友達を含めて合コンをするための男子の繋がりがほぼなかった。
さらば青春と嘆くような友達のなかでバイトをしていた私に白羽の矢がたった。
『バイト先でいい人いないの!?』
と友達がいった言葉がきっかけ。
いい人と言われ、求められているのが恋人というカテゴリなのを理解していた私だけど、ここで一つミスをした。
『いると言えばいるヨ』
まだ日本語の発音をマスターしていない私のつたない日本語で、発してしまった日本語。
『神様仏様アメリア様!!』
『どうか私たちに救いを!!』
『溜め込んでいたバイト代で合コンの時のご飯奢るから私たちに出会いを!!』
と私がいい人とカテゴリーしたのはパーティーのジロウさんやカイドウさんそしてマサル君だけではなく、私が魔王に支配されていた時にお世話になった色々な種族の人を含めて言ってしまったことだ。
いるのは事実だけど、会わせることは当然だけど出来ない。
けれど、異世界に拉致されて、おまけに授業が遅れて、さらには異世界の記憶を操作されて普通に事件に巻き込まれたことになっていた友達は色々な休みを返上して勉強に当てて、恋を楽しむ暇はなかった。
そこの点で同情して、ここで断ることはできるけど、ダメもとで聞くくらいは良いよねと思ったのは運の尽き。
『うーん、聞いては見るよ』
『『『お願いします!!』』』
だけど思ったよりも楽しみにしているのにどうしようと困る結果になった。
最初に相談したのはジロウさん。
『え?合コン?』
『Yes!!友達に紹介してくれって頼まれて』
『ああーそう言うことか』
青春だなと忙しい仕事の合間に頭を掻きながら相談にのってくれたジロウさんは書類を片手間で処理しながら悩みつつ。
『機密の関係があるからな……とりあえず向こうの世界の住人は無理だろな。できるとしたらテスターのだれかってことになる。まぁその時も機密を漏らさないように注意する必要があるが』
ダメもとで聞いた異世界人との合コンは無理だと言われた。
それに関してはダメで元々という感じで聞いてみたからそれは当然。
『うちの会社は恋愛は自由だから羽目を外さない程度にな』
なので合コンのメンバーはテスターの中から探すことになった。
だけどそれが思ったより難航して。
『はぁ』
知り合いに全員頼んでみたけど、いい返事が返ってこない。
困った、本当に困った。
そんな時に。
『どうしたの?』
とカレンちゃんに相談した。
そしてミナミちゃんに相談しているわけだけど。
「ダメでござる~いくらアミーちゃんの友達だからって、そこに勝を参加させるのは反対でござる!!」
「まぁ、こうなるわよね」
「そもそも北宮は良いんでござるか!?」
「良くはないわよ。けど、だからってアミーの相談を無下にはできないわ」
「それは、まぁそうでござるな」
「でしょ?それに私だけじゃなくてあんたもいれば少しは解決策が浮かぶと思って」
「北宮、合コンというリア充の陽キャ集団がやるような行事に拙者が役に立つと思ってるでござるか?」
「……私が悪かったわ」
「わかればいいんでござる」
「胸張って威張った感想は?」
「虚しい勝利でござるな」
結局のところ、解決策は見つからなかった。
元々マサル君に好意を寄せている二人の前で、マサル君に合コンに参加してくれと頼むのは無理があった。
「いやぁ、巨人族とか悪魔族とか、ダークエルフとかなら紹介できるんでござるが」
「むしろ何でそっち側の知り合いが多いのよ」
「拙者、こっちの空気の方が肌に合っていたみたいで」
そうすると残りの頼みの綱は。
「わかったわよ。大学の方の男友達をあたってみるわ」
「最初からそっちにすればよかったでござる」
「そうね」
そっと見つめていると、少し苦笑気味だけど笑いながらカレンちゃんはなんとかしてくれると言ってくれた。
「大変でござるなリア充というのも」
「あなたが言うと重みが出るから不思議ね」
「良いんでござるよ。ねぇ、アミーちゃん」
「アハハハハ、NoComment」
「なんで、その部分だけネイティブなんでござる!?」
とりあえずこれでいいかなと思いつつ。
「それじゃ、メンバーが集まったらそっちに連絡入れるわね」
「うん!ありがとうカレンちゃん!」
ちょっと楽しみにしている私がいた。
そして次の通学の日。
「ねぇねぇ!!アメリアさんメールの内容って本当!?」
教室で一限目の授業の準備をしていると、興奮して眠れなかったというような朝にしてはテンションが高いなと思うような雰囲気でクラスメイトの伊沢さんが話しかけてきた。
「もう瞳ちゃん、アメリアさんが驚いてるよ」
「でも大学生との合コンよ合コン!!これが興奮しなくてどうするの彩奈!!」
原因は私が昨日寝る前に送ったメールだと思う。
「大丈夫ダヨ笹川さん。それに、まだバイト先の先輩から出来るって連絡が来たわけじゃないから絶対ってわけじゃないヨ?」
「なーんだ」
「もう、瞳。アメリアさんに失礼だよ」
それに期待してくれているのは嬉しい。
「あ、そうだね。ゴメン」
「ううん、いいよ」
それに私自身も少し合コンを楽しみにしている。
「朝から元気ね、何の話?」
「あ!委員長聞いて聞いて!実はアメリアさんの先輩繋がりで大学生と合コン出来るかもしれないの」
「へぇ、良いわねどこの大学?」
「あ、そうだ。どこの大学?それくらいは聞いてもいいよね?」
そこにクラス委員長の冴木さんも会話に入ってきた。
「ええと、確か。たぶんK大だと思うよ。カレンちゃんの男友達って言ってたから」
「K大!?すごいわね宮川さんの先輩って」
「K大の人と合コンできるの!?」
カレンちゃんの通っている大学は有名だから伊沢さんと冴木さんも知ってる。
「え!?K大の人と合コンするの?」
「マジで、いいなぁ」
そんな話を教室でしたら私の席にどんどん人が集まって来た。
「ねぇねぇどんな人?」
「年上と知り合えるなんてどんな関係なの?」
「私も参加したい!!」
そして始まる質問攻めに、私は少し慌てる。
ダンジョン内での戦いだったらこんなことにならないんだけど、次から次へと質問を浴びせられて誰から答えればいいかわからなくなった。
「ええと、まだ決まったわけじゃないから!その」
「はいはい!宮川さんが困ってるし、そろそろ授業が始まるからみんな席に戻って、話聞くならお昼休みでも大丈夫でしょ?」
そんな困っている私に助け舟を出してくれる冴木さん。
わがままを言うことなく、自分の席に戻るクラスメイトに安心していると。
「後で聞かせてね」
とウインクしながら自分の席に戻っていく冴木さん。
聞かせてねと言われてもまだ相手のこともわからないのに何を説明した良いのかと困りながら笑うしかなかった。
そのままチラチラとクラスメイトの視線を感じながら受ける授業。
マイクに貰った図書館とは違った、日本での普通の授業。
古典が難しいけど、それでも何とかテストでは平均以上は取れている。
それにマイクが色々と教えてくれているおかげで勉強そのものは苦じゃない。
むしろ楽しんで勉強ができる。
学ぶことが大切でどれだけ貴重かをマイクが教えてくれたから。
「?」
けれど、そんな授業中にふと変わった視線を感じた。
最初はクラスの女子からまた見られているのかと思ったけど、視線の角度的にクラスの女子じゃない。
誰だろう。
気になって視線を感じた時にちらっとそっちの方向を確認すれば。
鈴木君?
それは異世界でイスアルの司教と関りが深かったクラスメイト。
彼の能力は嘘を見破ることだからよく知っていた。
そんな彼もこっちに帰還する際に記憶を封印されているから、私との繋がりなんてなかったはず。
何で見られているんだろうと思いつつも、害意はないしとそのまま授業に集中した。
そして昼休み、教室で昼食を食べている時だった。
「ん?」
最初は朝の続きで、色々と聞かれていたけど何もまだ決まっていないのがわかってから大人しくなってくれている。
私の席とくっつける形で一緒にお弁当を食べているのは伊沢さんと笹川さんだ。
「どうしたのアメリアさん」
「カレンちゃんからメッセージが来て、あ、写真もある」
鞄から出していたスマホに入れているメッセージアプリに着信が来ている。
メッセージはいたってシンプル。
『こんなのだけどいい?』
ちょっとぶっきらぼうだけど、早い動きにびっくりして写真を見てみれば。
男の人が五人写っている。
それをそのまま二人に見せると。
「へぇ!結構イケメン」
「優しそうな人だね」
仲が良さそうな男の人が五人で写真に写っていた写真は背景を見る限り、大学で取ってそのまま勢いで送ってきた感じかな。
伊沢さんと笹川さんは嬉しそうにその写真を眺めていて。
「え!?もう合コンの相手決まったの!見せて見せて!」
その話を聞きつけたクラスメイトがどんどん集まってくる。
「カッコいい!」
「え、普通じゃない?」
「でもいい人っぽいよ?」
「私この人タイプかも」
合コンというイベントに対して大盛り上がりを見せるのはいいけど。
「オウ、私のスマホ」
右へ左へ、代わる代わる移動し続ける私のスマホ。
「まぁ、仕方ないよね年上の男の人と出会うなんてことないし」
「そうだね」
興奮して、昼食を途中で止めてまで見ているクラスメイトまでいるとここまで大きなことになるとは思わなかった。
ようやく手元に帰ってくるまで十分もかかって。
「相手は五人だよね!!参加する人は決まってるの!?」
「もし空いてるなら私行きたい!!」
「あ、ずるい!!私も私も!!」
「えーと」
グイグイと押し寄せてくるクラスメイト。
どうしようかと悩んでいるときにさらに私のスマホに着信。
何だろうと思って見て見ると。
『一応、アミーと年の近い後輩にしておいたから全員未成年よ。お酒とかの心配ないからカラオケでいいかしら?』
カレンちゃんからの追加のメッセージだ。
そのメッセージを伝えないわけにはいかなくて。
未成年との合コンということでカレンちゃんの気遣いが感じられる。
「ええ、と。相手の人は私たちと一歳か二歳しか違わないって」
「年が近いってことは今年大学に入ったばかりってこと?」
「多分でも、そっちの方がいいよね。成人してると変な店に連れていかれるって聞くし」
「そうだよね。カラオケだったら安心かな」
それはクラスメイトも一緒で、ちょっと不安に思ってた子も年が近いと聞いてそれもいいかもと乗り気になっている。
これって不味い流れだよね?
元々これは伊沢さんと笹川さんと私で話し合ってた合コン。
それが段々と誰が参加するのかという話になっている。
「ちょっと待った!!何勝手に話しているのよ!!これは私と彩菜、それとアメリアさんで話していた合コンなんだから!参加するにしても後は二人までよ!!」
そこに火にあぶらを注ぐように伊沢さんが、待ったをかけたおかげでちょっとクラスメイトたちの目が怖くなった。
「……」
「……」
「……」
その光景をみてダンジョンの中で感じる雰囲気とちょっと似ているなと思ってしまったのは私の心の中の秘密。
「わかったわ。ここは一つ公平に行きましょう」
そこで立ち上がってくれたのは冴木さんだ。
「二人一組でじゃんけんをして最後まで残った二人にしましょう。これで恨みなしの文句なしよ」
だけど、この提案が良くなかった。
ギロっと気合を入れたクラスメイトたち、その気迫に私は一瞬気圧されてしまった。
「だ、だいじょうぶなの?」
このまま喧嘩でも始めてしまうのではと不安になって冴木さんに心配を伝える。
「大丈夫よ、安心して宮川さん」
そして優しく大丈夫と言ってくれてほっと安心した。
「私、生まれてこの方じゃんけんで負けたことがないの」
蹂躙してくるわと普段の落ち着いた雰囲気から打って変わってジロウさんみたいに戦う人の雰囲気を出して冴木さんもいってしまった。
そうじゃない!と心の中で悲鳴をあげる私の肩をそっと優しく伊沢さんが叩き。
「アメリアさん、これは女の戦いよ」
そう言われて、ちょっとだけ日本が怖いと思ったよ。
勝者と敗者の差を見ながら、呆然と見るしかなかった。
今日の一言
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パンドラ・パンデミック・パニック パンドラの箱は再び開かれたけど秘密基地とかでいろいろやって対抗してます!!
を連載中です!!そちらの方も是非ともよろしくお願いいたします!!
 




