473 業務日誌 海堂忠編 二
「不可解、なぜタダシはそんなに頬がこけている?」
「いやぁ、なんでわかんないっすかね?なんて言うか、自分のスペックの差を昨晩体感したって感じっすね。いや、マジで先輩凄いっす。先輩どうやって三人同時に相手取って勝てるんだろう」
理由と言うか、俺の今な体調不良の原因が、昨夜、三人とナニをしたことが原因であるのは流石に男である俺の口からは言えない。
だから、なぜ体調が悪いのかと首をかしげるアミリちゃんの言葉を濁しながら小さく、先輩の戦績に戦慄を抱く。
太陽の日差しが黄色く見えるってことはないけど、何だろう体の底からすべての生命力を吸い取られたと言った感じになってる。
とにかく体が重い。
けど、悲しいかなスッキリはしてるんだよ。
いや、もともと身体能力の差が歴然な二人に挑んで、追加でもう一人追加された段階で勝ち目があるわけがないから当然の結末だけど、それでもいずれか勝ちたいと思うのは男のプライドだろうか。
昔一緒に働いていた同僚にこの話をしたら贅沢者っていわれそうな気がするっすけど……
いや、その前に犯罪者のレッテルの方が先か?
「言えないっすよねぇ」
「?何を?」
「いやこっちの話っす」
それに反して、アミリちゃんが用意してくれた訓練室に一緒に来たシィクちゃんやミィクちゃんは朝食の用意に、昼食の弁当作りを俺よりも早くに起きて、さらには何やらお肌もつるつる。
「見て見て、シィク。やはり忠の魔力を感じると肌のツヤも格別ね」
「ええ、ミィク。体の疲れも残るどころか体に力が漲るかのようですわ。今ならアイワ姉さまにも負ける気がしませんわ」
そして今は元気に準備運動を二人でしている。
人間と天使の差ってどれくらいあるんだろうなって思いながら、俺は、そっとフルプレートアーマーみたいなゴーレムの前に立つ。
ああいった女性の話題に入りこむと今晩も搾り取られることが確定してしまう。
俺としても、もう少し体力が回復してからじゃないとそういった話題はダメっす。
もう少し体を鍛えないといけないっすね。
「アミリちゃん、これが完成品っすか?」
「否定、正確には試作型の改善機。性能向上よりも、フィッティング性能の向上を目標としたワンオフ機。現状この機体はタダシの魔力波長及び、魂の波長に設定してある。ゆえに私でもこの機体を使えば、性能の三割も引き出すことはできない」
「ほえー、完全に俺専用機ってことっすか」
「肯定する。そのために作った」
「でも、良かったんっすか?正直に言ってこれって魔王軍的には完全に俺に肩入れしているってことになるっすけど」
アミリちゃんがこの訓練室に用意してくれたのは、俺が変身ヒーローみたいに変身できるスーツの上位互換。
戦隊ヒーローにはロボットが必要ということで、パワードスーツならぬ着込むゴーレム。
見た目は完全にフルプレートアーマーなんだけど、俺が着たら全長三メートルは超えるんじゃないかってくらいに大きい。
今は胴体部分が開いてて、着ると言うよりは入り込むって言った方が正確かもしれないっす。
「問題ない。これは私がプライベートで作った。資金も軍事費からではなく資産から出した。軍の施設も使わず、私が個人で所有している研究所で作り上げた。私が私の技術で何を作り誰に渡そうと私の勝手」
「いや、でも、俺がこれ悪用するとは思わなかったんっすか?」
その見た目や、性能はあらかじめ聞いていたけど、その時に制作費に関しても軽く触れていて、俺も高給取りにはなっているけど、それでも買うのには戸惑うような値段だった。
それを簡単に試験運用という名目で渡してくれることに申し訳なさを感じる。
「悪用する?」
そしてここまで入れ込まれているとは思えないのは俺が自信を持っていないからだ。
いっちゃなんだけど、俺は生まれてこの方そこまでエリートってわけじゃない。
好き勝手に生きて、そのつけを支払って、先輩に何とか社会に溶け込ませてもらっただけの一般人だった。
そこからなんやかんやあって、この会社でダンジョンテストなんて言う特殊な仕事についている。
だけど仕事が特殊ってだけであって、この会社に入ったからって、そこまで特別な才能があるわけじゃない。
ぶっちゃけて今のパーティーの中で俺が一番才能がない。
今はどうにかついていける、いや、先輩には完全に置いていかれている。
それぐらいの差が開いていて、必死に追いつこうともがいていると言った方が正確っすね。
だからこそ自信を持てと言われても、そこまで自信はもてない。
「いや、しないっすよ」
実際に、こんな装備をどう悪用するか考えもしない小心者な俺っすから、コクっと首をかしげて、見上げてくるアミリちゃんの質問に素直に答える。
こうなんて言うか、シィクちゃんとミィクちゃんは天使だけど、仕草が基本的に小悪魔っぽい。
それと比べてアミリちゃんは小動物のような動きが目立つ。
一緒にアニメを見るときも、こうなんて言うか、気づいたら俺の膝の上に乗ってくる。
動物で例えるなら、最初は警戒しているけど、慣れてきたら人懐っこい小型犬に似ていると思う。
「なら問題はない」
淡々と話しているように最初は見えているアミリちゃんとの会話だけど、今ではその中に含まれる感情が節々に伝わってくる。
今だって少しドヤ顔してる。
「そうっすか。ならその信頼に応えないといけないっすねぇ」
「ん、期待する」
それを見て最近では癖になりつつある行動を俺は自然と取ってしまう。
そのちょうどいい位置にある頭に手が伸び、そっと撫でると拒否することなく、むしろもっと撫でろと言わんばかりに成すがままになっている。
「はっ!?」
そして、数秒間だろうか、アミリちゃんのサラサラな髪を撫でていると、背後に感じる視線。
恐る恐る、振り返ると、ジーっと羨ましそうな、あるいは不満そうなと言うべきか。
とにかく何も言わず、察しろと言わんばかりにこっちを見るシィクちゃんとミィクちゃんがいた。
慌てて止めようとするけど。
「ん、まだ撫でる」
ぎゅっと力は強くないけど、振りほどくには勇気がいる力の強さで頭の上から俺の手を退かさせてくれないアミリちゃん。
「撫でるならもう片方の手がある。そっちで我慢するべき。こちらの手は今は私が使用している」
「あら、私は何も言ってないわよ?ねぇ、ミィク」
「ええ、シィク。忠も私たちも色々と手伝っているんだからそれなりの報酬が欲しいと思ってなんかないわよ」
思ってるっすよねそれ。
俺でもそれは、わかるっす。
だけど、俺の腕は二本しかない。
多分だけど、ミィクちゃんとシィクちゃんは二人同時に撫でてほしいのだ。
そのためにはアミリちゃんの腕を退かす必要がある。
けどそれはアミリちゃんが捨てられそうになっている子犬のような瞳で止めてくる。
そんな目で見られたら流石に、いきなり止めることはできない。
この後この装備のテストがあるのに俺は何やっているんだと思わなくはないっすけど。
「えっと、じゃぁ、交代でどうっすか?あと十分したら、その後シィクちゃんとミィクちゃんで」
俺にはこんな感じで妥協点を提示することしかできない。
というより、このやり取りもよくあること。
先輩、女の子ってやっぱり気難しいっすね。
部屋でDVD見るときもジャンルでもめるときがあるっす。
アミリちゃんは基本的に戦隊ものと言った特撮。
シィクちゃんとミィクちゃんは基本的に魔法少女系統。
どっちかを見ると、温度差が結構離れる。
好みのジャンルを見れなかった方が不機嫌になるとかそう言うことはないけど、それでも楽しそうに見る側と、これも経験かと割り切って付き合うように見るとではやっぱり雰囲気に差が出る。
無理してみる必要はないと遠回しに言ってみたこともあったっす。
『別に面白くないと言うわけではない』
『ええ、興味がないと言うわけではありません。ねぇミィク』
『そうね、シィク。これはこれで味がありますわ』
だけど面白いと言うわけではないらしい。
『タダシが興味がある作品には興味がある』
『そうね、忠はどんな作品が好みなのか私も知りたいわ』
『ええ、本当に興味深いわ』
そして大体そこから俺の好みの方向に移行するまでがパターンだったりする。
気を使わせちゃったかな?と思ってケイリィさんに相談したこともあったっすけど、そうしたら。
『なに?独り身の私に対してあてつけてるの?そんなのあなたと一緒にいたいって言う乙女心じゃないの。それくらい察しなさい』
と言われて説教されたっす。
そう言えば、俺がリビングにいるときは、あの三人はいつも俺の側にいるような気がするっす。
何と言うか距離が物理的に近い。
ケイリィさんの言う通りなら、俺のことを知ろうとしているってことになるけど。
そう言うことなのかな。
何と言うか、ハーレムって昔は憧れてたっすけど、いざ抱え込んで見ると考えることが多いっすねぇ。
純愛の方が手間は少ないっす。
いやまぁ不満はないっすよ。
こんなかわいい子たちに慕われること自体、俺の人生で一度あるかないかの奇跡のようのなこと。
それに不満を言えるほど、俺も自惚れているわけじゃないっす。
所謂、ぜいたくな悩みっていう奴っすね。
そんな、答えの出ない悩みを考えていたら、俺のない頭はオーバーヒート起こしちゃうっすよ。
こういう時は、深く考えないのが吉。
いまは素直にこの子たちの頭を撫でることに集中っすよ。
アミリちゃんの頭を撫で終えて、今度は両手でミィクちゃんとシィクちゃんを撫でる。
「うーん、アミリちゃんのとシィクちゃんとミィクちゃんの髪質が違うのは当たり前っすけど、シィクちゃんとミィクちゃんの髪質も微妙に違うっすねぇ」
さらさらとしたショートヘアーのアミリちゃんの髪も撫でていて楽しかったけど、シィクちゃんとミィクちゃんの髪を撫でるのもまた別の楽しさがある。
ミィクちゃんとシィクちゃんはアミリちゃんと比べるとちょっとふわっとした柔らかさがあるけど、シィクちゃんは少し硬い。
魔紋で強化された感覚でわかるようなごくわずかな差だけど、双子でここまで差が出るのかと思う。
「あら、なら忠は誰の髪が一番好みかしら?私たち、それぞれ使ってるシャンプーやリンスが違うのよ?」
「非常に興味深い。今後の生活において参考にしたい」
「そうね、今までは私たちの好みで選んで来たけど、忠にも好みというのはあると思うわ」
だけど、その好奇心がまさか、こんなことになるとは思わなかった。
じっと見つめられる三対の瞳。
ついさっきまで満足そうに眼を閉じて髪を撫でられていたシィクちゃんとミィクちゃんはそっと顔をあげて俺を見つめている。
そこに加わるアミリちゃん。
「いや、一番ってのは決められないっすよ?みんなそれぞれ良さがあるっす。アミリちゃんの髪はサラサラでいいと思うし、シィクちゃんとミィクちゃんの髪もまた違った感触で撫でていて気持ちいっすよ」
そんな三人に対して俺は正直な心を言う。
こらそこ、優柔不断って言うなっすよ。
みんな一緒にいるときは、絶対に誰かを贔屓しちゃダメっす。
言っていることは本心だし、誰が一番って考えることも難しいのも理解している。
先輩もそこら辺は気を付けてるって言っていたっす。
完全に平等にすることはできないけど、それでも極力平等にする。
そう言って実践しても難しいけどなと苦笑していた先輩の顔を思い出しつつ、実際に三人に対して俺が思うのは、一緒にいてくれるだけでもうれしい。
ただただそれだけだ。
好意を向けられ、好意を向ける。
一方通行だけではないのは確かだけど、まだまだ手探りな俺とこの子たちの関係。
そこに順位はなく、好みを押しつけるようなことをしない。
「強いて言うなら、アミリちゃんやシィクちゃんにミィクちゃんが俺のために頑張っておめかししてくれていることが一番うれしいっすねぇ」
なにせこの子たちの努力を知っているから。
仕事に行っている間に家事全般をやってくれている双子の天使。
そして何かと仕事をしながら便宜を図ってくれる機械の王。
この三人が時折、部屋に集まって色々とファッション雑誌を読み漁っているの見る。
傍から見れば、子供が背伸びをしているようにも見えているが、女性が必死に綺麗になろうとしている姿を見て、それが誰のためにやってくれているかを知っている身として、そこに順位をつけるのは無粋ではないかと思ってしまう。
「みんなが一番って言うのはおかしいかもしれないっすけど、こうやってアミリちゃんにシィクちゃんにミィクちゃん。三人に好きだって思われているだけで俺は幸せっすよ」
だからこそ俺も俺で素直になろうと頑張ってる。
ちょっと驚いて、顔を見合わせる三人の顔を見れるのは俺だけの特権。
例えこの後の予定が遅れるとしてもこれだけは言えるときに言っておかないとダメっすよ。
今日の一言
素直な気持ちは言えるときに。
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現在、もう1作品
パンドラ・パンデミック・パニック パンドラの箱は再び開かれたけど秘密基地とかでいろいろやって対抗してます!!
を連載中です!!そちらの方も是非ともよろしくお願いいたします!!




