472 業務日誌 海堂忠編 一
「いやぁ、あの先輩がついにあそこまでいったっすか」
先日の先輩の活躍から早数日、脇に置いていたタブレットには、社報が表示されていて今それを読み終えたところ。
筋トレしながらでもわかるくらいに大々的に大文字で初の人間将軍誕生!!と銘を打った一面に笑いながら、戦いの映像を見ていた身としてはいよいよ人間を辞めたなと言わざるを得ない戦いを思い出す。
今でも足元にも及ばない教官に勝ってしまった先輩。
色々と準備をしていたと言ってもそれそのものが快挙であることには間違いない。
「ふー」
そんなことを考えている間に今日も一日お疲れ様と、今日のトレーニングのノルマを終わる。
ふと下ろしたダンベルの重さを見て俺はフッと笑ってしまった。
「俺も俺で人のことは言えないっすねぇ」
そのダンベルの重量は五十キロ。
これが片手で持つ重量だ。
俺の武器は双剣。
だからこそ、最低このくらいの重量を平気で振り回せるくらいの筋力は必要なんだ。
ただこれも、今は魔力の強化無し、魔紋の強化だけでダンベル上げしてたけど、昔だったら両手を使ってようやく持ち上げられる程度の重量。
それが今では平気な顔して何回も持ち上げることができている。
「でも、先輩はこれ以上の力があるっすよねぇ」
だけど、これだけの重量を長時間上げ下げした俺の体に対して、すごいとは思えても満足感だけは欠片も浮かばない。
こんなのただのウォーミングアップ。
体を鈍らせない程度の準備運動に過ぎない。
「登る山が高いと、登り甲斐があるって言うっすけど。本当っすよ」
この会社に入ってからかなり高給取りになった。
六畳一間の一K、トイレと風呂が一緒の、築三十年のボロアパート時代から比べれば、今の俺の住んでいる部屋は正しく勝ち組と言える社宅に住んでる。
その社宅の中の一室に作ったトレーニングルームの扉が開き、左右の違いはあるけどサイドテールで分けたかわいらしい双子の天使が入ってきた。
いや、比喩表現の天使じゃなくて正真正銘の天使。
右側のサイドテールにしてるのがミィクちゃん、左側のサイドテールにしているのがシィクちゃん。
二人は正真正銘の天使で、今の俺と一緒に同棲している。
最初は保護者という形で一緒に住んでいたけど、今じゃ立派な同居人兼俺の恋人ということになっている。
「忠、飲み物とタオルの差し入れ持ってきたわよ」
「忠、ストレッチの手伝いに来たわよ」
そんな二人。
ミィクちゃんがタオルとスポーツドリンクを持っていて、ジャージに着替えているシィクちゃんがマットを指さして俺にうつ伏せになるように指さした。
俺は素直にうつ伏せになり、そしてすっと体の軽いシィクちゃんが俺の体の関節を伸ばし始める。
「ありがとう、シィクちゃん。ミィクちゃん」
そんな二人の行動に俺はつい、感謝する。
ここに引っ越しして、あまり日数は経っていないけど、先輩は豪邸に住み始めたけど、それでもこうやって過ごせる幸せはかみしめている。
部屋の広さは部屋ごとに違うけど、それでもトレーニングルームを作れるって言うのは昔の俺からしたら考えられないくらいに広い部屋だと思うし贅沢品だ。
おまけのこの一室だけは飛び跳ねたりしても周囲の部屋に全く迷惑が掛からないように特別仕様。
加えて、部屋自体も十二畳とかなり広めの部屋。
他の部屋も、昔の俺の住みかと比べたら雲泥の差があるほどしっかりしている。
本当はもともとここまで広い部屋に住んでいなくて、独身用の住居に住んでいた。
だけど、あの勇者の事件をきっかけにアミリちゃんがセキュリティのしっかりしたエリアを用意してくれてここに引っ越したわけだ。
「………」
昔と比べたら随分と柔らかくなった体を利用して、同居人であるシィクちゃんとミィクちゃんを見る。
アメリアちゃんを救出した時に助けた、双子天使のシィクちゃんとミィクちゃんが今ではトレーニングの手伝いに来てくれている。
5LDKの家に、さらに美少女三人と同居。
こんなこと昔の俺なら想像できない。
「あら、忠が私たちをじっと見つめてるわよ。照れるわねシィク」
「ええ、もっと見てくれてかまわないよ忠。ねぇミィク」
「いや、まぁ、何でここまで二人が俺に好意的なのが未だ謎っすけど」
そう、正直、たまに俺も今の現実が夢じゃないのかって思う時があるっす。
あの日先輩にこの会社に誘われたのも夢で、実は俺は酒に酔いつぶれて、永い眠りの夢を見ているのではと。
二人の容姿は、正直言って若すぎるってくらいしか、問題がないくらいに美少女だ。
見た目年齢がかろうじて中学生にいっているかいってないかと最初は戸惑ったけど、美少女であることには変わりない。
正直、もうすでに同棲して長い月を隔ててる段階で今更だし、なんなら年齢的には合法だと言えるような二人。
これが夢なら覚めないでくれと思う期間はとっくの昔に過ぎていて、これが夢じゃないって言うのも理解している。
昔の俺の感覚からすると、正直、ストライクゾーンからは内角低めで外れている二人だけど、今ではしっかりとストライクゾーンに収まってしまっている。
これが夢だと言うのなら、それでもいいと思うくらいには、俺はこの二人に心を許してしまっている。
「あら、忠はおかしなことを言うわね。ヒミク姉様が教えてくださったではないですか。ねぇミィク」
「ええ、シィク。私たち天使は、その人の魂を見て、その人を見る。あなたの魂が私たちの好みだった。そしてあなたは敵であった私たちを助けてくれた。この二つが重なって私たちはあなたに好意を持っているのよ?」
クスクスと、優しく笑ってくれる二人の美少女。
うん、本当に絵になるなと思いつつ、ゆっくりと体が伸ばされる感覚を味わう。
この二人の言っている言葉に嘘がないのは何となくわかる。
「うーん、人間である俺にはわからない感情っすねぇ。魂の色なんて見えないっすから」
なにせ、実際に言葉じゃなくて行動でも示されているわけだし。
まぁ、今更隠すことではないから言うっすけど、こんな美少女たちに一つ屋根の下、炊事洗濯と言った家事全般をすべてお世話されて、そしてさらには一緒に風呂も入って、終いには一緒に寝る。
こんなことを繰り返していて、手を出さない方が男としてどうかしている。
最初は、この二人も気の迷いで一緒にいると思っていた。
実際に俺はそう言ったっすけど、そうしたら余計に二人が燃え上がって、俺のことを求めてくるようになってしまった。
あれやこれやと、色仕掛けは当たり前、終いには自家製の媚薬を食事に盛られそうになった。
いや、あからさまにスタミナと言うか、精力を盛る方向での料理のラインナップに加えて、慣れないネットショッピングのカートにあった勝負下着。
こんなものを見てしまってさらに薬まで盛られそうになって、本気度合いは察した。
流石に薬は止めたっすけど。
「あら?忠は私たちの愛が嘘だと言うの?それは悲しいわよ。ねぇミィク」
「そうねシィク。悲しいわ。私たちこんなにあなたを愛しているって言うのに」
わざとらしく悲しむような仕草を見せる二人の行動に、嘘だとわかっていても美少女を悲しませるのは心が痛む。
「いや疑ってないっすよ!?こんなに家のことしてもらって、さらには苦手な料理も覚えて、弁当も作ってもらってるし!!」
普段の行動から愛されているのはわかるし、好意も理解している。
そんな二人の感情を疑っているわけではない。
むしろこの場合問題があるのは、現実味を完全に受け止められていない俺に問題がある。
「そうよね、夜にもあんなに激しく愛し合ってるものね。ミィク」
「ええ、ええ、ドンドン夜の方もたくましくなってくるわね。シィク」
はい、ロリコンと言いたければ好きに言うっす。
実際に南ちゃんには言われたし、北宮ちゃんからも白い目で見られたっすから今更っす。
正直、俺も昔の好みからはかけ離れた女性関係を持っているのは否定できないっす。
正直に言って、手を出した時は何やっているんだと自分を責めたくなったっすけど、開き直った。
俺が好きになったのはシィクちゃんとミィクちゃん、そしてここにはいないアミリちゃんだったと……決して幼い容姿の女の子が好きではないと言い訳はしたっすけど。
何だろう、先輩と同じハーレムなのに、一瞬犯罪って言葉が過ぎ去ってしまったっす。
「あら、シィク。いきなり忠が頭を振り出したわよ?」
「ええ、ミィク。何か辛いことでも思い出したのかしら?」
二人が心配そうに俺の方を見てくるっすけど、大丈夫っす。
ちょっと自分の性癖に対して疑問を呈していただけっすから。
大丈夫、俺はロリコンの疑惑があっただけで、普通に他の少女や幼女を見ても反応はしない。
三人だから反応しただけっす。
「いやぁ、今度アミリちゃんが用意してくれる装備を使いこなせるかどうか不安になっているだけっすよ」
「ああ、あの装備ね。天界の方でも見たことのない装備だったわ」
「ええ、なかなか斬新な考えだったわね」
そのことを悟られなかったことに安堵しながら、無理矢理感は否めないけど、話を変えることには成功。
「だけど割とこっちの世界では当たり前なんっすよね。主に二次元の方向っすけど」
「そうね。私もイスアルでは色々な書物を読んできたけど、こっちの世界の物語の豊富さには負けるわね。ねぇ、ミィク」
「ええ、シィク。こんな楽しい物語を知ることにはなるとは思っていなかったわ」
話している内容は、今この場にいないアミリちゃんに頼んで作ってもらっている新装備。
俺は魔力適正が低いからその分は他でカバーしないといけない。
他という部分、それはすなわち装備という部分だ。
もちろんその装備に見合うようにしっかりと体は鍛えているし、訓練も行っている。
そしてアミリちゃんが作ってくれている装備というのは、この世界の物語、もっと言えばアニメを参考にした装備だ。
まぁ、アミリちゃんのハマっているジャンルから察するに戦隊ものだったりロボットSFだったりするんだけど、それを再現しようとして再現できるアミリちゃんの技術力には脱帽だ。
「まぁ、この会社に入ってから思ってたっすけど、つくづく、変な方向で技術力が高いと言うか、現代ではできない魔法は凄いって言わざるを得ないっすね。何で再現できるんだって」
「発展した分野の差ね忠。こちらの技術は目を見張る物もあるけど、イコールこちら側の世界が劣っていると言うわけではないのよ。ねぇ、シィク」
「そうね、食料の生産方法、医療分野、情報伝達手段、娯楽、様々な面でこちらの世界はイスアルよりも優れているけど、それと同じくらいにこの世界よりも優れている部分はあるのよ。それが科学分野であり、魔法分野である。ねぇ、ミィク」
世界が違ければ、発達する分野も違う。
流石に今の現代じゃ、転移魔法みたいに一瞬で移動したりする技術や、空間魔法みたいに空間を広げる技術はない。
むしろそれができたら技術革新だって騒ぎになるレベル、それこそアニメの世界だ。
先輩の話だと、いずれはこの地球でも魔法が日常にありふれる物になるかもしれないって言ってたっすけど、俺が生きている間にそれが実現するのか。
「とりあえず、ストレッチは終わったわよ忠、さぁ、お風呂入りましょう?」
「え? 今日も?」
「ええ、そうよ。あんなに広いお風呂なんですもの。一人で入ったら寂しいでしょ。ねぇミィク」
「ええ、シィク、二人で入っても余るくらいなんですもの。三人で入っても問題ないわ」
そんなことを考えていると、あっという間に筋トレ後の体はほぐされて、お風呂の準備を知らせるブザーが鳴りお風呂の準備も整ったことを知らせてくれる。
そして相も変わらずどうやったらこんな力を出せるのか不思議なくらい、小さな体で強引に俺を風呂場に押し込もうとする双子。
抵抗はしないけど、こうやって早くと急かされるのはまだ慣れない。
まぁ、良いかと諦めるのに数秒かかり、そしてお風呂に入って数分後にアミリちゃんまでも突撃してくることになるとは、昔の俺なら想像できないっすよね。
今日の一言
過去や未来を知るのは難しい。
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パンドラ・パンデミック・パニック パンドラの箱は再び開かれたけど秘密基地とかでいろいろやって対抗してます!!
を連載中です!!そちらの方も是非ともよろしくお願いいたします!!




