471 業務日誌 目次
新章突入!!
今回の章ははちょっと別視点でお送ります。
主人公たちの仲間たちに焦点を置いたストーリーなので楽しんでいただければ幸いです。
「おや?」
それはある日の昼下がり。
先日、田中次郎が人というには些か逸脱している肉体構成になりつつあるが、それでも人として初の将軍位につくということが決定し、世間を騒がせた。
これはそこから数日がたった昼下がりだ。
その数日間が静かなわけもない。
新たな将軍を生み出すとなると、現場作業から事務作業と様々な方面でてんやわんやになるのが予想できるのである。
だが、その仕事の息抜き(任意且つ強制)をしている魔王は、見つからないようにこっそりと社長室を抜け出し、誰にもばれないように自身の能力をフル活用して、周囲の目を誤魔化して刺客から逃げ回っていた時のことだ。
資料室。
これはこの会社の創業以来の様々な紙媒体資料が保管してある部屋だ。
そこにあるのは当然、数年前に発足したダンジョンテスターの資料も存在する。
「ふむ、これも縁か」
今日はちょっとここで休憩するかと決めた魔王は、いやになった書類仕事が山積みになっていることを一回忘れて、そーっとその資料室の扉を潜る。
「これとあれと、それと、あとこれもっと、あれもいるかな?」
魔王という能力の無駄使いで、隠蔽結界に、人避け結界、さらに危険を知らせるための探知結界に、この資料室を認識できないようにする認識阻害の結界を無駄に高度に編み上げて、それを終えた魔王は。
「よし!」
パチンっと一回フィンガースナップをして、プライベートで持ち歩いている机と椅子、そしてティーポットとティーカップ、さらには茶菓子を異空間から取り出してくつろぎモードに突入しはじめた。
「魔王にだって休息は必要さ!」
いったい誰に言い訳しているのか。
清々しいほど満面な笑みを誰にも見せることなく台詞を言いきったあとに大きく頷く魔王。
きっとエヴィアに見つかったら後で大変になるだろうとわかっていても、彼女のご機嫌は最近将軍になってくれた田中次郎が回復してくれると信じて、魔王は資料室で早速なにを読もうかと物色し始める。
年季の入った資料はほとんどなく、どれもこれも真新しく綺麗に整理整頓されている。
その中の一つをちらりと手に取った資料を見てみればこの会社の表向きの商売である貿易記録や、出納帳なども出てきて、そういったものは早々に読み上げて会社の方で違和感がないかを確認し終えた魔王は、頷いた後にまた別の資料を読み漁る。
魔王は、実は結構な読書家だったりする。
知っている存在は稀であるが、放っておけば、ずっと書庫に籠りずっと本と向き合っていることもあることは知る人ぞ知る。
過去に魔王が休暇に入ったとき、丸々一週間という魔王にしては長期に入る休暇を、その肉体能力を駆使して寝ずに本を読破し続けたということを古参の幹部たちは知っている。
ジャンルに関しては多種多様にわたると言うより、魔王は乱読家だ。
そこにあればとりあえず手に取って読む。
知識を貯めるには越したことはないといつも思い、それを実践している。
アメリア・宮川の賢者の書庫に実は多大なる興味を抱いてそこに入ることを夢見ているが、魔王自身がそこに入り込むと下手したら年単位で帰ってこない可能性があると危惧しているエヴィアが全力で阻止している。
そのことを知っているのは次郎だけだが、次郎自身もそれを聞いたらさすがに止めるしかないと、エヴィアに協力しているから未だ魔王の夢は叶っていない。
それに対して不満はあれど、そうなってしまうことも自覚している魔王は、仕方ないと将来的に平和になったら思う存分読破してやろうと野望を抱き、とりあえず今日はこの資料でも読み返すかと棚の端から順番に資料を読み進める。
丁寧に資料は扱っているが、その速度は本当に読んでいるのか?と思うくらいの速読だ。
パラパラと資料を弾くように流し、そのわずかな隙間からわずかな時間だけ見える文字を読み進めて、分厚い資料だってほんの数秒で読み終えてしまう。
これでも魔王からしたらかなりゆっくり読んでいる。
常人の読書スピードで例えるのなら、一ページ読むのに大体二、三分かけて読む感じだ。
その感覚で読み進めながら魔王は魔法で棚から次から次へと資料を取り出しては、お茶を飲みながら読んで、そして魔法で戻すというなんとも能力の無駄使いと言える行為を繰り返している。
ちなみにここはエヴィアのダンジョンの中である社内。
本当だったらこんな感じで魔法を行使していれば即座にエヴィアが飛んでくるはずなのだが、その様子は今のところない。
全力で部下を使い、自身でも探知しようと頑張っているエヴィアの感覚は最初に張った結界によって誤魔化され見逃し。
足を使って探し回る部下たちが実際に資料室の前を通りかかってもこんなところにいるはずがないと思い込んでその資料室をスルーしてしまった。
一度大丈夫だと思った場所をもう一度探しに来るのには時間がかかる。
それを知っている魔王は、これであと三時間は大丈夫だなと、そっと茶菓子を補給して、それを口に運ぶ。
「うん!美味しいね」
それは最近お気に入りのこの会社の近くのケーキ屋で作っているマカロンだった。
そして少し甘くなった口の中を流すように口をつけた紅茶はイギリスから直輸入した高級茶葉。
最近地球の紅茶やコーヒー、そしてお菓子を食べることがマイブームな魔王はその味に満足しながら、ほんの少し止まった資料読書に戻る。
ほんのりと差す日差しと、魔王によって快適な気温と湿度に保たれた資料室は何とも快適か。
騒音もない。
文句を言う老害もいない。
後でやると言っても、今は見なくていい書類の山もない。
もし仮に、その光景をエヴィアが見たら怒髪天をつく勢いで怒りかねない光景であるが、それでもさすがにここまで休みなしで働き続けた魔王も流石に少しうんざりして小休憩を取っている。
「おや、これは」
内心で少しだけエヴィアに謝る魔王であったが、その手がふと止まる。
魔法で運んできた資料はダンジョンテスターたちが作り上げているダンジョンの改善報告書だ。
それも最初期。
ダンジョンテスターという部署が誕生したての頃の資料だ。
「随分と懐かしいね」
再度見直しても、お粗末と言うしかない第一期のテスターたちの改善報告書を微笑ましいものを見るような優しさで魔王は見つめなおす。
「このころから彼だけは異彩を放っていたということかな?」
数々のテスターたちがダンジョンの改悪を求める中、次郎だけが少しでも改善しようという気概を見せている。
自分で自分の首を絞められる奴は中々いないことを知っている魔王は、その行動自体をうれしく思いながらそれを読み進めていく。
そしてしばらく、と言っても数分程度であるが、第一期のダンジョンテスターたちの資料たちに紛れるように、新しい報告書が混じり始めたことに魔王は気づく。
「これは、ああ、そうか、彼らはこのころに入ったのか」
最初のころは直接挨拶もしたこともない、田中次郎によってスカウトされた三人の新人たち。
海堂忠
知床南
所沢勝
とある時期から、さらに田中次郎の報告書が他とは異彩を放ち始めたのは彼らが彼のパーティーに入ってからだ。
「ふふ、懐かしいね」
魔王からしたら、人間の一年は短いかもしれないが、それでも懐かしむことはできる。
なにせ彼らは少なからず、魔王の記憶に残ることをしているのだから。
田中次郎のパーティーメンバーただそれだけであれば、懐かしむことはない。
ただの付属品であるのなら魔王からしたら記号と変わらない。
魔王の記憶に残ることを彼らは確かに成し遂げている。
「海堂忠、君はまさかアミリに気に入られるとは思わなかったよ」
思い立って、ここにあったかと探知魔法をめぐらせば目的の資料を見つけてそれを手元に引き寄せるそれは社員の入社時に提出された履歴書。
そこにあるのは経歴と顔写真といった履歴書としてオーソドックスな内容が書かれていると同時に、その次のページには会社から見た海堂忠の人物像や行動履歴が事細かく記載されている。
「知床南、才能は有れど、本性は隠す臆病とも取れる少女、だけどその実思いを寄せる少年を助けるための優しさを持つ」
それは海堂だけのではなく、田中次郎のパーティーに関してまとめてある資料だ。
一通り海堂の履歴を読んだ魔王は次にめくって見えたどこか気だるげな眼をする少女の顔を見て思わず笑いが漏れる。
「所沢勝、少女に支えられ一見芯があるように見えるが、不安定な一面を見せる少年。だが、将来性は見せている」
その笑みのまま、そっとページをめくれば次に出てくる顔はガチガチに緊張した表情の勝。
そんな彼に対しての魔王の評価はまだまだ蕾だと言う裁定。
このままどういう変化を見せるか楽しみだと言えるその未来に期待しつつ、そっと次のページをめくる魔王。
「おっと、彼女は最初から彼のパーティーだったわけじゃなかったね」
そして次に見たのはすました表情で履歴書の写真に写っている北宮香恋。
彼女が次郎のパーティーに入った経緯は聞いている。
現場では才能的にも実力的にももっとも期待されていた火澄透のパーティーにいた娘。
しかし挫折に対しての耐性がないゆえに、徐々にそのパーティーは機能不全に陥った。
その所為でパーティーから北宮香恋は離脱、その後次郎のパーティーに入っている。
「彼女も彼女で色々と苦労しているみたいだね」
言動からきつい口調が目立つ彼女であるが、その実、色々と面倒見がいい部分が見え隠れしている。
火澄透に対しては色々と思う所があるみたいではあるが、他のダンジョンテスターに対して、特に女性テスターに対してカバーしている光景を他の社員からの報告が入っている。
その行動を評価する資料を見れば、現場からは中々の好感度を稼いでいるようだ。
「うんうん、良いね」
実績を見せてくれること自体、魔王からしたら嬉しいことこの上ない。
こう言った資料は中々トップまで回ってこないから、見ていて新鮮だ。
本当だったらこんな感じの資料にも目を通したいけど、魔王という役職上、国の将来を左右するような物事の書類の方が圧倒的に多い。
現場作業を担当する者たちとの接触が少なくなるのはそのためだ。
「うーん、私としてはもう少し現場との触れ合いがしたいんだけど、時間とエヴィアが許してくれないからなぁ」
魔王自身はそれではいけないと考えているが、文字通り後先考えずこうやって無理やりにでも休まなければ休む暇もないくらいに多忙な魔王だ。
仕方ないことだと割り切っていても、やりたいと言う願望と、下との触れ合いが必要だと感じる感情はどうにもならない。
「はぁ、明日隕石でも降ってきて老人どもが全員死なないかなぁ。ああ、だめだ。後継者争いでまた面倒になる。一人づつ片づけても十年は面倒になる。それは嫌だな」
誰も聞いていないことをいいことに、つい愚痴をこぼしながら紅茶を飲む魔王は、普段は見せない疲れた溜息を吐きながら少しだけ魔力を漏らして、隙あらば足を引っ張ってくる老人たちを呪う。
後に抜け毛の量が増えたと老人たちは焦ったが、この呪いの効果であったかどうかは神のみぞ知る。
「だけど、悔やまれる。本当に悔やまれる。この私がこれを見逃すなんて、もし最初に見つけていればエヴィアに止められる前にこれを見られたと言うのに」
そんなことを言いながら気分をあげるためにさらに資料をめくった先に見えた主は、アメリア・宮川。
田中次郎のパーティーの中で最も新しく入ってきたメンバーであり、異世界に召喚された元勇者、そして初代の魔王の魂を宿し、賢者の魂とともに過ごしたというある意味でこのパーティーの中で一番稀有な経験をしている人物だ。
彼女の母親は現在この会社で事務員として働いているが、その勤務態度は良好。
最初こそ種族の見た目、言動、思想に戸惑っているが、今ではしっかりと適応している。
そんな女性を母に持つアメリアの持つ賢者の書庫は魔王からしたら宝の山。
暇さえあれば、書庫に入りたいと思っているが、その暇が生まれない。
「ああ、本当に悔やまれる。いずれチャンスが来たら絶対に見る」
普段は威厳を保ち余裕を崩さない魔王であるが、欲が関わってくれば話は別。
その時アメリアの背筋に何か寒気が走って一緒に食事をとっていた北宮が心配していたという光景があった。
しかもそこは社外のカフェテリア、そんな場所までに念を飛ばせるほどの覚悟を決めた魔王は。
「うん、気晴らしがてらとりあえず彼らの資料を全部読みなおすとしようか」
アメリアの書庫に入れない鬱憤を晴らすかのように、開き直って、さらに資料室の棚から次郎以外のパーティーメンバーの資料を机の上に出現させ、読む体制を敷いた。
こんな魔王を見つけたのは半日後。
魔剣を取り出したエヴィアが本気になってからであった。
その間に魔王は次郎の仲間たちのことを振り返るのであった。
今日の一言
振り返ることも大事である。
毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。
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現在、もう1作品
パンドラ・パンデミック・パニック パンドラの箱は再び開かれたけど秘密基地とかでいろいろやって対抗してます!!
を連載中です!!そちらの方も是非ともよろしくお願いいたします!!




