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465 歩んだ先に進歩はある

「雷伝!!」


 放った技は建御雷の派生形の技だ。

 天照・日喰が効かないと思った俺は、瞬時にこの技に切り替える。

 

 次から次へと切り札を切らされるのは正直痛手であるけど、教官相手に出し惜しみしていたら負ける。

 

 天照は系統的には炎系統の極地。

 能力的には焼くと言った分類のダメージリソースになる。


 その攻撃力は確かに破格。

 だが、その剣速は俺の肉体頼りでしかない。

 攻撃力が足りない現状で、さらには攻撃速度も足りていないとなるといずれじり貧になるのは目に見えている。


 であれば。


『今度は何だ?雷で俺の体を焼くか?それとも感電させるか?どっちにしても俺には効かな』


 今度は攻撃力の鋭さを増す方向に傾けたらどうだ?


 天照よりも何倍もの速度で放った剣戟。

 それは楽しく笑っていた教官の笑みを一瞬とは言え止めて見せた。


「やはり、切れましたか」

『てめぇ、何をした?』


 そして確かな結果を俺にもたらした。

 発想の転換。

 焼き切る攻撃でダメなら、刃先を鋭くして尖らせればいいのではと。

 極論を言えば魔力も分子配列構造と一緒で、目に見えない細かい物質の集合体。


「唯々、早く、斬っただけです」

『一瞬とはいえ、俺の目で追えないほどの斬撃か』


 その繋いでいる部分を斬れれば理論上はどんな魔力でも斬れるということになる。

 これはフシオ教官の教育でそれを学んで、それが理論上可能であったとしても、実際問題、実現が困難だと言うのが現状だ。


『それだけじゃねぇな。ただ速いだけの攻撃で俺の肉体に傷がつくはずがねぇ』

「気づきましたか」


 キオ教官の指摘はその理論上可能である部分に由来する。


 久々に動きを止めて、向き合う俺と教官。

 俺は種明かしをするためにゆっくりと鉱樹を持ち上げて、刀身を見せる。

 そこにはわずかに蒼く発光しているように見える鉱樹が見える。

 それ自体はただただ魔力で覆い強化しているようにしか見えないかもしれない。


『そりゃ、雷か?随分と地味な雷だな』


 だが、教官の目にはその刀身で覆われている正体が見える。


「地味って言いますけど、この雷が教官の肉体を切り裂いたんですよ」


 どうせ勘で教官はこの魔法が大方どういうものか理解しているだろう。


「極微小の雷の集合体、それが雷伝の正体。この雷全てが刃であり、その刃の大きさはナノ単位ですよ」

『ああ?どういうことだ?』


 であれば。


「あなたを斬れる刃って今証明された魔法ですよ!!」


 これ以上の種明かしは、呼吸を入れる暇を与えてくれた代金にしては高くつくのではないかと思い、思いっきり踏み込む。


『そうかよ!!ならそれで俺を切って見な!!』


 建御雷・雷伝。

 これは正確に言えば、鉱樹を中心として、俺の肉体全体に雷の魔力を回すことによって肉体的反射速度を上げると同時に、その循環経路に鉱樹を組み込み、鉱樹に回るときは極微小の雷による刃を形成、それを回転させ疑似的なチェーンソーを作り出す。


 小難しいことを言い続けたけど、簡単に言えばSFやロボット物で出てきている単分子カッターを魔法で再現した代物だ。


 精密な魔力操作こそ必要とするけど、魔力消費はそこまで多くなくエコでかつ攻撃力は劇的に変化する。


 その精密な魔力操作も、ヴァルスさんのおかげで思考加速ができる俺にとってはそこまで負担になるものではない。


 その切れ味を教官で試せば。


『かぁ!さっきも味わったがなかなかの切れ味だな』


 かなりの防御力を誇る教官の肉体を切り裂くことができる。


 これならいけると思って踏み込むが。


『当たればの話だがな!!』


 そう簡単に倒せれば、この鬼はこんな地位に収まっていないだろう。


 空を切る斬撃。


『防げねぇなら、躱せばいいだけの話だ次郎!!』


 そして思考加速し、未来予知までしている俺に対して、絶技と言えるカウンターをして、俺にボディーブローを見舞ってきた。


 いけると戦い中にやってはいけないほんのわずかな焦りを見抜いて、俺の防御をぶち抜く勢いで放った攻撃は白蛇の鎧によって防がれ、俺が吹き飛ばされるだけで済んだけど。


『■■■■■■■!?』


 鎧に付与されている白蛇が悲鳴をあげた。

 特級精霊に悲鳴をあげさせるなんて、どんな威力だよと愕然として前を向くが、教官は楽し気にニヤッと笑ってかかって来いと言わんばかりに指でクイクイと俺を手招きするだけだ。


「盛り上げ上手って言われませんか!」


 そんな憎い演出に俺は皮肉を込めてそう言って再び高速戦闘に入る。

 防御力が優れていても、連打による足を止めての打撃戦になると俺の方が不利だ、だからこそ体力消費が激しくとも足を使った攻勢に出ないと俺は勝てない。


『ハハハハ!良く言われるぜ!!』


 それがわかっている教官は、俺とは対照的にずっしりと腰を落とした待ち構える姿勢を見せる。

 岩山がごとくの、ずっしりとした迫力を醸し出す教官に、俺は流れる冷汗をそのままにして、攻撃を仕掛ける。


 もう少し、もう少しなんだ。

 届きそうで届かない。

 もどかしい、ともいえる攻防。

 楽しい時間であるはずの、教官との戦い。


「っ!ああああ!!」


 精神と体力に余力など存在しない。

 全てを使い切る勢いで戦って、ようやく教官と戦える舞台まで上り詰めることができた。

 だけどそれは、決して俺が教官の実力を上回ったわけでも、ましてや五分五分の拮抗常態に持ち込んだわけでもない。


 特級精霊で、時と空間を司るヴァルスさんのチートスキルで相手の行動を先読みして、なおかつ防御力をあげ、竜の血という人間という枠から解き放たれることによって瞬間的に成長させ、進化してくれた鉱樹という武器で攻撃力を届かせた。


 それでも、教官という一人の鬼の壁は高い。


 一撃一撃がどれもが必殺級。

 腰を落として、待ち受けるように放たれたジャブですら生身で受けたらその受けた部位すら消し飛ぶのではと思うくらいに致命的な攻撃。


 全ての攻撃がオーバーキルなだけでも悪夢だと言うのに、その身体能力と防御力も桁違いのスペックを持っている。


 その代わりに魔法といった技能を使わないのが唯一の救い。

 だけど、その救いすら意味のない物になっている。


 圧倒的な物理アタッカーとしての脳筋ゴリ押し。

 シンプル故に、解決方法が限られ、それができなければ純粋に力量で上回らなければ負けが確定する存在。


「っあ!?」

『どうした!お前の力はそんなモノか!!』


 俺が高速で戦っているのに付き合うように、ゼロからマックススピードになるのに一瞬。

 その緩急に見失いそうになったけど、未来視と思考加速がオーバーヒートしそうになりそうなのも躊躇わずそれに追いつこうと体を酷使する。


 動けば影すら残さず消え去り、その巨体でどうやって俊敏に動いているのだと言わんばかり。

 痕跡を追うような戦い方じゃ、追いつけない。


 直感と予測。

 未来視を使いながらも、半ば反射的に動けるようにしなければこの鬼に追いつくことはできない。


 加えて、この高速戦闘下で、さらにリミッターを開放しているような状態で、それ以外の動きが雑になるのかと言えばそうではない、落ちた卵を小指と親指で割らずに挟むことも朝飯前だと言わんばかりに緻密な動作も合わせて襲い掛かってくる体捌き。


 事実、ついさっき俺の攻撃を力任せで防ぐだけではなく、完全に刀身を捉えて、刃に触れることなく刀身の腹に手を添えて魔力の波で受け流され、カウンターで一撃をもらってしまった。


 白蛇の鎧がなければそれだけで戦いの結果が出ていた。


 次に防御力。

 こっちはまだマシだと言いたかったが、むしろこっちの方が俺にとって厄介極まりない。

 発動した天照では致命傷を与えることができない。


 さらに魔力をつぎ込んで発動させた天照・日喰で防御力を削ってダメージを通すやり方に切り替えたが、肉体の再生速度による力業のゴリ押しによって無理矢理攻略される始末。

 何だそれと笑いたくなる。


 結果的に単純に切れ味に特化した建御雷・雷伝でダメージを与える方向に切り替えたが、雷伝は切れ味が良すぎる。


 それこそ腕一本単位で切り捨てるようなダメージ出ない限り、傷は瞬く間に教官の持つ再生能力によって回復されてしまう。


 そしてそんな致命傷になるような攻撃を教官が許すはずがない。


 強い、本当に強い。


 俺よりも長い時を戦いの時間に当てて、鬼の頂点に君臨し、今もなお俺にとって遠い背中を見せ続ける鬼。


 ああ、その強さに憧れた。

 ああ、その生きざまに尊敬の念を抱いた。


 この鬼との出会いに感謝した回数など忘れるほど。

 この鬼と戦えることに喜びを見出したのはいつからか。


「………カハハハハハハハハハハ!」


 思い出し笑い、こんな無駄な呼吸はこの戦いにおいて邪魔でしかないはずなのに、ここで笑いが漏れてしまうのは俺の気が狂ってしまったのか。


 心は熱く、頭は冷静に戦いにおいての鉄則は崩れていないが、この悦楽だけは隠し通すことはできない。


 笑いをかみ殺すように顎に力を込めて鉱樹を改めて握り、そして振るう。


 楽しい。

 逆境こそ笑えという教官たちの教えの意味を知ってから、強者に挑むことを嫌だと思わなくなった。


 楽しい。

 この命の価値を天秤にかけられるようになってからは、戦いに身を置くことに嫌悪感を抱くことは無くなった。


 だが、その楽しさの中でも一線を越えることはなかった。

 楽しさだけに任せて戦うことを何度か考えた。


 だが、そのたびに俺の頭にはスエラたちのことがよぎる。

 この戦いの悦楽に身を犯し、それだけに邁進する俺で良いのかと俺の理性が喰いとめる。


 それが最後の防壁なのかもしれない、もしかしたらその先に求めている存在があるかもしれない。


 けれど、俺はこの一線を越えることはない。

 俺は鬼ではない、俺は人でもなくなった。

 だが、この手に入れた幸せを手放してまで戦いに狂いたいとは思わない。


 俺の強さはきっと、この一線の中で培ったものが絶妙なバランスを保ち、そしてエンジンのように経験を燃料に爆発させ、推進力を得て、この成長を生み出している。


 いずれ限界が来ようとも、俺が俺であり続けるのなら、きっとそれが正解なのだ。


 だが、だけど、それでも。

 今この一時だけは、どうか見逃してほしい。


 一線を越えることはしない。

 戦いに狂うこともない。

 命も粗末にすることもしない。


 だが、この戦いだけは楽しませてほしい。


「まだまだ行きますよ!!教官!!」

『おう!!こいやぁ!!』


 胸を焦がすような熱き気持ちが湧き出るように体を突き動かし、疲れたと思う感覚も、もう嫌だと思う思考も、負けるかもしれないと言う不安も全て燃やし尽くし。


 その感情全てを燃料として勝ちたいと言う願望を掲げさせる。

 その未来を求めて駆ける。


 勝利、この鬼に勝ちたいと言う願望が俺の体を魂を突き動かす。

 その未来を掴むために軋み始めた四肢はまだ大丈夫だと、俺の脳に訴えかける。


 周囲の世界はもうとうの昔に見えなくなっている。


 時間制限があとどれくらいかと考えるのももったいない。

 アイテムを使う暇すらない。


 出来ることはこの身で戦えることを全てやりつくすだけ。

 それ以外の余計な情報などいらない。


 勝てと、俺の体に言い放ち、勝つと心に誓って、この戦いだけは一切妥協しない。


 この戦いで命を落としたら俺は後悔する。

 この鬼に負けてしまったら、死んでも死にきれないほど後悔する。


 だから生きて、勝ってこの鬼に堂々と言い放つ。

 俺が勝ったと。


 俺はまだ、まだ、まだ、まだ、戦える!!


 そう思いながら地面を足で踏み抜くように砕き少しでも早く動ける推進力に変え、関節の動きをミリ単位で支配し、少しでも早く攻撃力を高めるように鉱樹を振るい、舞い散った砂埃を突き破ってそのまま一直線に教官に挑む。


 俺が一歩踏み込むたびに爆音が響き、そして鉱樹を振るうたびに空間が裂ける。

 その返礼に教官が一歩踏み込むたびに爆音が響き、四肢を振るうたびに空間が破裂する。


 刹那の時間に何回の攻撃を繰り出せるか。

 相手の攻撃の嵐の中にどれだけ身を置けるか。

 あと何回教官の攻撃を受けることができるか。


 それだけをただただひたすら考えろ。

 この鬼を打倒するにはどうすればいいか考えろ。


 チャンスは来る、その刹那にすべてを賭けろ。

 その刹那を生み出すためにどうすればいいか考えろ、血を巡らせろ。

 魔力を回せ、魔力を生み出せ。


 限界なんて言葉などどぶに捨てろ。

 もう駄目だと言う弱音など燃やしてしまえ。


 唯々、正面からこの鬼に勝つ方法を模索しろ。


「教官!!」

『次郎!!』


 振るった鉱樹が教官の体を切り裂くが、それでも浅い。

 当たったからなんだ。


 教官が、鬼の王がこの程度の攻撃で怯むものか!!


 出し切れ、俺の中の力をすべて出し切れ!!


 それができなくて何が勝つだ。

 何が勝利だ!!


 全力を出し切って、勝つんだろ!!




 今日の一言

 進まなければよい結果は出てこない。


毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。

面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。


現在、もう1作品

パンドラ・パンデミック・パニック パンドラの箱は再び開かれたけど秘密基地とかでいろいろやって対抗してます!!

を連載中です!!そちらの方も是非ともよろしくお願いいたします!!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 終わって欲しくないこの戦い もうすぐ終わりがきそう 頑張れー次郎ー!! みんな帰りを待ってるぞー
[一言] もう隠し玉は無いかね……汗
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