463 様子見が終わり、動き出す
チリチリとした空気に浸りすぎて、段々と俺の中の感覚が戦いの場の空気が当たり前になってきたような感じてきている。
肌を刺すような殺気も、そのまま体が燃えるのではと錯覚するような闘気も、そして体を動かすことによって発せられる熱を冷ますような死の恐怖。
感覚が鋭敏になり時間間隔が引き延ばされ始めたころに、変化は訪れた。
「?」
何千、何万と振るった鉱樹を振るった回数と同じくかそれ以下かわからないほど教官や竜王に避けられ、空を切った時だ。
斬撃は空間を裂くだけではなく、そのまま空気の刃は大地に斬り跡を残したが、それで一々驚いていては戦うことなどままならない。
すでに五回ほど大地が落ちて場所を入れ替えているが、そのたびにそのエリアが更地になっている。
山もあったエリアが平地になっていたり、湖があったエリアがただの穴になったり、森林のエリアなど長髪の髪の毛にカミソリを入れたぐらいに真っさらになってしまった。
時間を忘れ長い時間を戦ってきたが、時折時間を思い出すと、体内時計ではすでに二日が過ぎていることに気づく。
不眠不休で二日も戦い続けているのに、俺の肉体はいまだ悲鳴を上げていない。
まだまだ余力を残し、全力で戦場に立っていられる。
しかし、それは目の前に立ちふさがる両名も一緒だ。
多少の汗をかいているだろうが、息を乱すことなく拳を構える教官。
そもそも体力勝負をすること自体間違っている、次元の違うタフネスを誇る竜王。
まだまだ余力を残した二人は、強者として次に俺が何をするのかと待つ余裕すら浮かべてすらいる。
だからこそこの変化にも気づけたのだろうか。
「お?やっと動いてきたか」
『ケケケ、ずいぶんと腰が重かったようだな』
戦う手をいったん止めてまで、笑いながらあからさまに周囲を見回し始めた。
それを隙だと思って斬りかかることは簡単だろうが、二人ともその態勢でも対応できるほどの実力を持っている。
俺も感じていた違和感を確認したいと思っていたところだから、これ幸いと周囲に魔力探知を飛ばす。
「あー、そう言うことね」
時間的に残り一日しかない。
それなのにもかかわらず、教官と竜王という、将軍になるためのチケットが俺に固定されていることを快く思わなかったのか。
あるいは変化を求めてか。
こっちに近づく気配を感じる。
それも一人や二人の人数ではない。
残っていた参加者のほとんどが飛び出してきたのだ。
「隠れる時間はおしまいってことか」
参加者同士で争うことなく、真っすぐに竜王と鬼王に向けて走り寄ってくる姿。
そのなりふり構わずの姿勢は表情にも現れて、皆必死の形相を携えている。
走りながら魔法を展開したり、武器を構えている姿を見る限りようやく覚悟を決めたということか。
その光景を見て、流石に前みたいに茶々を入れてきたのではなく、正面から勝とうとしている気概を見て、邪魔するなと横槍を入れるのも違うなと思い。
この機会を生かすことにした。
「ヴァルス!」
ここが勝負どころと、切り札の中でも頂点に君臨する時空の精霊を召還する。
魔力を回し、竜王と同等の大きさを誇る白亜の蛇がその姿を現し、その上に見慣れた女性が座っている。
「ようやく出番ってことね!」
「ああ、頼む」
背後に控えるように姿を現し、そしてぬっと俺の隣に蛇の頭を並べてきたヴァルスさんに俺はとあることを頼む。
空間魔法に収納していた残った数打ちを全て取り出す。
またあの爆撃が来るかと一瞬身構える参加者たちであったが、生憎とこれは攻撃用に用意したものではない。
「天と地の狭間にご招待ってね!」
空へと打ち出された刀たちは一定の間隔をもってして円を描く。
それは俺と教官を囲うように地面に突き刺さり。
「次元障壁、蜃気楼!!」
ヴァルスさんの言葉によってあっという間に壁が生み出される
竜王と他の参加者を締め出し、俺と教官が正面切って戦える環境。
『おい!ここで俺をのけ者にする気か!!』
それが気にくわないのはさっきまで楽しく戦っていた竜王本人だ。
三つ巴という環境であっても、全力でぶつかれる教官と俺という存在は竜王にとっても特別であったのだろう。
だが、申し訳ない。
「残念、この結界物理的な力にはめっぽう強い結界なの」
先約があるので、そちらを優先させてもらいます。
ヴァルスさんに目配せをして、後を頼むと彼女は頷き。
「さぁさぁ!ジロウ君!残り時間は思う存分戦って来なさい!!」
結界を破ろうとしている竜王と向き合った。
「この私の結界、そう簡単に破れると思わないことね」
『ああ?』
結界を破ろうとした竜王の手はまるで何も触れていないかのように結界に沈み込み、消えているように見える。
『っち、次元が歪んでいるのか』
「ご名答!今のあなたの手は、結界の反対側に出てるわよ?見えないでしょうけど」
その正体を瞬く間に看破した竜王は面倒だと言わんばかりにその竜の顔をゆがめ、おもしろくないと言わんばかりに舌打ちする。
次元結界蜃気楼。
それはヴァルスさんが使える結界の中でもかなり特殊な部類に入る結界。
空間を歪め、二次元線上に空間を作り出し、疑似的な三次元を形成する。
それを拡大し範囲展開する。
その空間はここであって、ここではない。
所謂、次元の違う空間だ。
その次元の壁を超えること自体は可能であるが多大なる力がいる。
なので俺はその可能性をさらに潰すために壁の役割をする空間を反対側に繋げすべての攻撃を受け流すと言う仕様に仕立て上げ、その管理を召喚したヴァルスさんに任せた。
次元と時間を司る特級精霊であるヴァルスさんに専属でその結界を維持を任せてしまえば残りの制限時間程度持ちこたえるのは余裕だろう。
「それに、私を無視していていいのかしら?あなたの首を狙っている人たちは思ったよりも多いのよ?」
『っち、暇つぶし程度にはなってくれよ』
おまけに、この結界突破に専念することもできない。
俺が教官と竜王を結界で分けたことにより、将軍位二人を相手取る心配が解消されたのだ。
この結界が維持されている間は、竜王に専念すればいい。
それがチャンスだと思う輩は多い。
竜王と戦う相手は未知数。
そしてこちらのちょっかいを出す理由は今のところないと言っていい。
「なかなか面倒なことをしたな。大丈夫か?こんな結界張って魔力がカラカラで戦えませんなんて笑い話にもならないぞ」
「ご心配なく、最初からこうするつもりだったので」
この結界を維持するために必要な魔力はあの数打ちたちが補ってくれる。
それでも最初に予定していた範囲よりかなり狭い。
だが当初の予定通り、残り二十四時間は結界を維持してくれているだろう。
広さにして直径百メートルほどといったところか。
世間話をするように円の中央を目指す俺と教官。
鉱樹を振るえば教官に届くほど間近で隣り合いながら他愛のない会話をしながら俺たちは肩を並べて進む。
この戦いに挑むにあたっていくつか問題となることがあった。
一つ目はバトルロイヤルという形式故に教官と一対一で戦える環境ではないこと。
二つ目は竜王という存在。
三つ目は参加者の実力が未知数だということ。
教官と正面切って一対一で戦ったとしても勝てるかどうか怪しいのだ、可能な限り不確定要素は省きたい。
そのために準備はしてきた。
そして勝つための要素を探った。
一つ、教官の実力及び調子はある程度戦いの中で探る。
これは三つ巴の状態で探ることができた。
実力はまだ底を見せず、調子は絶好調だと。
一つ、参加者を竜王に押し付ける。
これも出来たと思う。
ヴァルスさんの結界で境を作り、残り時間を一日と限定することによって参加者の目を竜王に集中させることができた。
一つ、教官と一対一の状況を作り出す。
これ自体はさほど難しいことではないと思っている。
わざとらしく誘えばあの鬼は断るかもしれないが、こうもお膳立てすればその意味を理解して乗ってくる。
後顧の憂いを立つことができた。
あとは、俺が正面切ってこの鬼に勝てるかどうかだ。
「いやぁ、人生何が起きるかわからないですね」
そして最大にして最悪の問題点。
ゆっくりと鉱樹を握っていない左腕を回しながら体の調子を確かめる。
後顧の憂いを断ったのは俺だけではない。
教官の後顧の憂いも断ったのだ。
ここから先は正真正銘、邪魔も何も排除した教官の全力全開。
可能であれば三つ巴の時に何らかのダメージを与えつつ、俺自身のダメージは最小限に抑えておく。
それが最良。
最低限、俺のダメージを抑えて教官と一対一の状況を造り上げることはできたが、ここから先は実力勝負というわけか。
「ほう?その心は?」
まだ雑談に付き合ってくれる教官に心の中で感謝しながら、ゆっくりとこの二日間で荒れた魔力の流れを整えていく。
「恩師とこんなにも早く全力で戦える日が来るとは思ってませんでした。何せこっちは三十路になったおっさんですからね。肉体的限界はとっくの昔に来ている。だが、ここまで鍛え上げられた」
そして鉱樹の根を右手にさらに深く絡ませる。
冗談交じりに、俺の本音を吐き出せば、教官はそんな俺の言葉を鼻で笑って見せる。
「確かに、最初に見た時は限界を迎えた何の役に立たない人間だと俺は思った。だが、それは俺の目が節穴だったってだけだ。硬い岩の奥に輝く原石を見出せなかった俺の目がまだまだだった。だがお前はここまで這い上がった。今では俺を殺せる。ああ、断言してやる。お前の強さは俺の足を掴んで、さらに這い上がろうとしている」
「随分と嬉しい事を言ってくれますね」
「ここまで場所をお膳立てしておいて、誉め言葉の一つもかけられないほど俺は狭量じゃねぇ。強い奴は強いと言う。それが鬼ってもんよ」
ブルリと教官の誉め言葉に当てられて武者震いが走るが、喜ぶのはまだ早いと心を制する。
認められたと前にも思ったが、正面から強いと認められたと言われるのはやはり格別にうれしいと思ってしまう。
「だからよ」
しかし、喜んだままではいられないようだ。
「頼むから、死んでくれるなよ」
ニヤッと教官が笑みを一つ浮かべただけでその嬉しさが吹き飛ばされるほどゾクリと悪寒が走る。
教官が顔の前で両手を交差して、魔力の純度を高め始めた。
「この姿を見せたのは大将以外にいねぇ。ノーライフの野郎にもだ」
そして教官はさっきまでの戦いに本気は出していたが、全力ではなかった。
朱い肌に走る黒い模様。
それはまるで呪いの文字かの如く、体中に走り、瞬く間に教官の体を埋め尽くしたと思うと、ドクンと鼓動のような音が俺の耳に響く。
「ここから先が、この俺、鬼王ライドウの正真正銘の本気よ」
そして黒い模様が徐々に変色していく。
黒かったはずの模様に熱が灯されたかのように赤く、朱く、紅く染め上がっていく。
「次郎、ここから先は訓練をつけた時のような手加減を期待するな。こいつは俺の中で必ず相手を殺すための技だ。死にたくなければ俺を殺すんだな」
そして、ぬっと交差した腕に隠れた顔があらわになる。
「角が」
「ああ、そうさ。俺の角は元来もっと長かった。鬼の角は強さの象徴。だが、俺の力は強すぎた。だからこそ、その力を制御するために封印する必要があったんだよ」
真紅の宝石ともとれる赤く輝いた長く太く伸びた三本の角。
その角からかなりの量の魔力が垂れ流されているのがわかる。
そして増大した魔力により、隆起し始める筋肉。
元々体の大きい教官であったが、それが一回りも二回りも大きくなっていく。
「だがな、やっぱり普段は窮屈でなぁ。たまにはこうやって全力を出さねぇとストレスが溜まって仕方ねぇ」
本当であればその変化を見過ごすわけにはいかなかった。
全ての力を用意する前に、攻撃を仕掛けて最良の状態に持っていこうとしている教官を止めるべきなのだ。
だけど、そうする気は欠片も起きなかった。
勝てるわけないと諦めた?
否。
様式美?
否、断じて否。
思考が追い付いていない?
否、否、否。
では何か。
「ガハハハハハ、次郎、やっぱりお前は俺の期待した通りの男だ!!この姿を見ても笑うなんていい度胸だ!!」
そう教官に言われて、俺はそっと反対の手を頬に当てると確かに俺は笑っていた。
無意識に笑っていたのだ。
この笑みが諦めた時に浮かぶ笑みか?
これがただただ変身中に攻撃してはいけないとかいうふざけた常識からくる笑みか?
こんな笑みが愕然と思考を放棄した時に浮かべる笑みか?
俺は声を大にして言おう。
否であると。
「そりゃ、そうですよ」
本気を出してくれる教官に向ける感情は、恐怖でも、亡失でも、悲嘆でもない。
歓喜。
唯々その一つだけ。
応えるように俺も節約していた魔力を開放する。
ああ、ここから先は計算なんて思考は邪魔になる。
魔力が空になるまでに教官を倒せなければ俺の負け。
時間制限は頭から弾き飛ばせ。
ヴァルスさんの能力も、鉱樹の能力も、魔法も、全て解禁する。
「全力で戦ってくれるほど、うれしいものでしょ!!」
「ガハハハハハ!次郎!何でお前は鬼に生まれなかったんだ!!」
魔力を開放し、今、鬼との決戦に挑む。
今日の一言
ここから先は一直線だ!!
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現在、もう1作品
パンドラ・パンデミック・パニック パンドラの箱は再び開かれたけど秘密基地とかでいろいろやって対抗してます!!
を連載中です!!そちらの方も是非ともよろしくお願いいたします!!




